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第2章 東雲学園編 新生活とオリエンテーション
058 顔合わせ
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レイラ率いる、02小隊の面々は無事合流し、広い食堂へと集まっていた。
「小隊長、もっとしゃきっとして」
小さく背を丸めて食堂のパイプ椅子に座るレイラに、伊織が声を掛ける。
「うぅ……」
そんな伊織の言葉も届かないほど、レイラは萎縮していた。
02小隊の隊員は、Aクラスから2つ、Fクラスから2つのバディが合流したものである。
Aクラスのバディは、レイラと美咲、そして真也と伊織。
Fクラスからも、男性のペアと、女性のペアが合流した。
「ほら、レイラ。他の人もいるんだから」
真也もまた、レイラを鼓舞するように声を掛ける。
そんな様子に、Fクラスの生徒は合流してからずっと、ポカンとしていた。
そんなFクラスの面々をちらりと見たレイラは暗い顔でぼやく。
「私、小隊長、向いてない……」
「そそそ、そんなこと、ないですよぅ! レイラさんは、その、す、凄いんですから!」
こういう事が不得手であろう美咲までもがレイラの事を必死に励ます。
このままでは、せっかく江島が喝を入れてくれたにも関わらず、隊の士気が酷いものになってしまう。
そんなあたふたする3人と、呆然とするFクラス4人。そして落ち込み続けるレイラのもとに、1人の軍人が歩み寄ってきた。
「私は、小隊長向きだと思いますがね、レオノワ特練上等兵」
その丁寧な口調に、真也は歩み寄ってきた軍人の顔を確認する。
「ウッディさん!」
「お久しぶりです、間宮さん」
彼らのもとに現れたのは、真也がこの世界に来た時に会った軍人の1人、黒人のウッディ・グリーンウッド曹長だった。
「……いや、今は間宮特練三等兵、でしたか。東雲ご入学おめでとうございます
「あ、ありがとうございます」
「なので、今度からはウッディ曹長、と呼ぶようにしてくださいね」
ウッディの言葉に、真也は敬礼で応える。
「はい、ウッディ曹長」
真也の、少し様になってきた敬礼に、ウッディはにこりと微笑んで返礼した。
レイラは、このタイミングやって来たウッディに対して、言葉を投げかける。
「曹長、もしかして」
「はい、私がこの02小隊の引率役です」
ウッディの返答は、レイラにとってありがたいものだった。
レイラと以前よりの知り合いであることもそうだが、下手な上士官よりも現場で叩き上げられた下士官の方が、心強い。
「よろしく、お願いします」
レイラは少し顔色が戻り、ウッディに遅めの敬礼を行なった。
ウッディは敬礼を返し、レイラの表情が戻り始めた事を確認すると、話を続ける。
「さて、それではこの小隊に配属されるロシアの士官学校の生徒を紹介します」
ウッディの後ろに控えていた2人の生徒が、真也たちの前へと歩み出る。
それは、ブロンド髪の毛をたなびかせ、にこりと微笑むユーリイと、軍服に着替え、真也を見つめて頬を赤く染めるソフィアだった。
その姿に、レイラ、真也、伊織がそれぞれ反応を示す。
レイラが辟易し、真也は驚き、伊織は据わった目で睨みつける。
「やぁ、初めまして。ユーリイ・ユマーシェフです。ユーリイ、と呼んでください」
「私は、ソフィア・サーヴィシュナ・スミルニツカヤと申します。よろしくお願いいたしますわ。ね?」
ソフィアの、ね? という言葉は、完全に真也へと掛けられていた。
美男美女のロシア人。
Fクラスの男子ペアはソフィアの美貌に顔を赤くし、女子ペアもまた、ユーリイに向けてトロンとした瞳を向けた。
ユーリイはそんな女生徒たちにニコリと微笑むと、レイラへと口を開く。
「レーリャ。今回、君が小隊長なんだって?」
「……そう。もしかして、ユーリイか、父のせい?」
レイラは江島に否定されたものの、ユーリイに確認を取る。
ユーリイは、両手を広げて大仰に驚くと、笑顔でレイラへと祝辞を述べる。
「まさか。誓って、小隊長になったのは君の実力だよ。
小隊長、おめでとう、レーリャ。幼馴染として鼻が高いよ」
「まあ、ならいい……ありがとう」
ユーリイは腕を伴うお辞儀をすると、レイラに腕を伸ばし、握手を求める。
レイラは、渋々といった様子だが、小隊長になったことに父親の息がかかっていないという言葉を受け止め、握手を返した。
ユーリイの様子は役者がかっており、Fクラスの女子2人は美男美女のやりとりに、小声で黄色い声を上げる。
真也は、彼がレイラが船上で言っていた幼馴染だと気づき、一気に距離を取り戻すその姿に焦りを感じ、なんとか間に割り込まねばと考えた。
しかし、その一手を打つ前に、真也の目の前が、またもや銀と白と、緑に包まれる。
「シンヤ様! またお会いできました! ソーニャは嬉しゅうございます!」
真也の目の前には、ソフィアの顔。彼女は身を乗り出し、目線を合わせるように屈んで立っていた。
「あ、ああ、ソーニャさん」
「ソーニャ、ですわよ?」
「そ、ソーニャ」
「はいっ」
ソーニャの両手が自身の右手に伸びてくるのが見えた真也は、急ぎ、訂正する。
もう一度胸元に手をやられては……そしてそれを他の生徒や、特にレイラに見られては困る。
「えーっと、ソーニャ。と、とりあえず座ったら?」
「私はこのまま、ずうっとここに居てもいいですわよ? あなた様のお顔を間近で見られる、特等席ですもの!」
他の隊員たちは、ソフィアの様子に度肝を抜かれる。
銀髪の美少女が、なぜか真也とすでに知り合いだった事もそうだが、彼に対する熱烈なアプローチの理由が分からなかったからだ。
その理由が分からないのは、真也も同じだったが。
「座りなよ」
低い声で、伊織が空いた席を指差す。
「あら、ウサギさん。貴方もいらっしゃったのですね」
「あのね、ボクと間宮はバディなんだ。一緒で当たり前だろ」
「あら、東雲学園のバディは、男女混合ですの?」
その言葉に、伊織は頬をひくつかせ、耳をピンと立たせる。
「ボクは男だ!」
「……あら、そうだったんですのね。大変失礼致しました」
ソフィアは申し訳なさそうに、丁寧な言葉で謝罪をするが、その謝罪に心がこもっていないことを伊織の耳は聞き分ける。
伊織は『形は満点』な謝罪に対して「ふん」と鼻を鳴らすと、腕を組んでそっぽを向いた。
そのようなやり取りをしている間にも、真也の目の端に映るユーリイは、レイラと距離を詰めているように感じられ、ソフィアに着席を促す。
「そ、ソーニャ。伊織の言う通り、座ったらどう?」
「そうですわね!」
おずおずと提案する真也に、ソフィアは満面の笑顔を返し、真也の隣に座っていたFクラスの男子に声を掛ける。
「あの、お名前は?」
美少女に急に話しかけられた彼は、驚いて返事をする。
「え!? 俺ですか!? ま、牧田冬馬です」
先ほど、フランクに真也に話しかけていたこの美少女は、もしかしたら誰にでもこんな感じなのかもしれない。
そう期待した冬馬は、ソフィアに向けて笑顔で挨拶を続ける。
「今回の作戦、よろしく……「どいてくださらない? 牧田様」
まだ挨拶の途中だったにもかかわらず、差し込まれるソフィアの言葉に、冬馬は、ぽかんとする。驚いて反応しない冬馬に、ソフィアはさらに言葉を続けた。
「あの、牧田様?」
「は、はい」
「私、そこに、座りたいので。どいて、くださらない? 今すぐに」
ソフィアは笑顔であったが、2度目の言葉は、語気が強いものとなっていた。
「はい……」
完全に萎縮し、冬馬は自分の席をソフィアへと譲る。
「ありがとうございます。感謝いたしますわ! 牧田様!」
満面の笑みで冬馬へと礼を告げると、ソフィアは真也の横に座り、真也へとしなだれ掛かる。そのまま腕を真也の体に這わせると、「はぁ……」と悦に入った吐息をこぼした。
「ソーニャ!? ちょ、ちょっと、ちゃんと座ったほうがいいよ!」
驚き、声を上げる真也。
その声に、ユーリイと話していたレイラが反応し、真也の有様に目をやる。
「……え、何事?」
ユーリイに話しかけられていたせいで、この一連の流れに気づかなかったレイラは真也にしなだれかかるソフィアを見て驚く。
「真也、知り合い?」
「えっと、いや……朝、港に着いた時に少し話したくらい、なんだけど。……レイラはソーニャとは知り合いじゃないの?」
「……初めて。……ソーニャ?」
レイラの目には、真也がソフィアの事を愛称で呼んでいることも含め、2人が非常に仲の良い様子に見えた。
そして、それにもやもやとした感情が芽生え、レイラはソフィアに質問する。
「……ソフィア、だっけ。貴方、真也とは、どういった?」
「『モイ ザラトーイ』」
ソフィアは、ロシア語で言い放った。
その意味は、日本人たる真也や他の面々に伝わらず、レイラとユーリイだけが反応した。
『モイ ザラトーイ』、『私の恋人』。
その言葉に、レイラの思考が止まる。
「あー、レーリャ。ソフィアはね、ちょっと」
ロシア支部に変人がいると思われては困る、と弁明のためユーリイがレイラに話しかけようとするが、レイラはソフィアに短く返答する。
「そう」
レイラの短い言葉に、真也は驚き、ソフィアは笑顔で頷く。
まるでレイラが真也とソフィアの関係……このようにくっつくのが当たり前の関係を認めたような返答に、ソフィアは喜ぶように真也の体に回した腕に力を込め、反対に真也は血の気が引く。
「……でも、隊の風紀、考えて。離れて」
「ええ……この程度で、ですの?」
「どの程度か、判断は、私」
睨み合うレイラとソフィアに、真也は生きた心地がしなかった。
レイラの味方をすべきなのは明らかだったが、真也は、この様な行動を平然とするソフィアに、どこか恐怖心を感じていた。
「ねえ、シンヤ様は、どう思われます?」
こっちに振らないでくれ。
真也は心からそう思ったが、答えは一つしかなかった。これ以上、レイラに『ソフィアとの関係』を勘違いされるわけにはいかない。
「離れて、下さい」
力強く言いたかったが、すぐそばのソフィアの顔に、少しモゴモゴとした言い方になる。
真也の言葉にソフィア頬を膨らませると、可愛らしく「いけず」と呟き、真也から離れて椅子に座り直す。
ホッとする真也と、美女に言い寄られる彼を恨めしそうに見る冬馬たち、そして苛立ちを隠せないレイラと伊織。
ユーリイに心奪われっぱなしの女子生徒に、ただあわあわとする美咲。
顔合わせは、混沌とし、遅々として進まなかった。
いつぞやの研究所のように、またもや青春の一場面を見せつけられたウッディは、こほんと一つ咳をすると、口を開いた。
「そろそろ、作戦内容をお伝えしても?」
その言葉に、一同はハッとすると、居住まいを直した。
「小隊長、もっとしゃきっとして」
小さく背を丸めて食堂のパイプ椅子に座るレイラに、伊織が声を掛ける。
「うぅ……」
そんな伊織の言葉も届かないほど、レイラは萎縮していた。
02小隊の隊員は、Aクラスから2つ、Fクラスから2つのバディが合流したものである。
Aクラスのバディは、レイラと美咲、そして真也と伊織。
Fクラスからも、男性のペアと、女性のペアが合流した。
「ほら、レイラ。他の人もいるんだから」
真也もまた、レイラを鼓舞するように声を掛ける。
そんな様子に、Fクラスの生徒は合流してからずっと、ポカンとしていた。
そんなFクラスの面々をちらりと見たレイラは暗い顔でぼやく。
「私、小隊長、向いてない……」
「そそそ、そんなこと、ないですよぅ! レイラさんは、その、す、凄いんですから!」
こういう事が不得手であろう美咲までもがレイラの事を必死に励ます。
このままでは、せっかく江島が喝を入れてくれたにも関わらず、隊の士気が酷いものになってしまう。
そんなあたふたする3人と、呆然とするFクラス4人。そして落ち込み続けるレイラのもとに、1人の軍人が歩み寄ってきた。
「私は、小隊長向きだと思いますがね、レオノワ特練上等兵」
その丁寧な口調に、真也は歩み寄ってきた軍人の顔を確認する。
「ウッディさん!」
「お久しぶりです、間宮さん」
彼らのもとに現れたのは、真也がこの世界に来た時に会った軍人の1人、黒人のウッディ・グリーンウッド曹長だった。
「……いや、今は間宮特練三等兵、でしたか。東雲ご入学おめでとうございます
「あ、ありがとうございます」
「なので、今度からはウッディ曹長、と呼ぶようにしてくださいね」
ウッディの言葉に、真也は敬礼で応える。
「はい、ウッディ曹長」
真也の、少し様になってきた敬礼に、ウッディはにこりと微笑んで返礼した。
レイラは、このタイミングやって来たウッディに対して、言葉を投げかける。
「曹長、もしかして」
「はい、私がこの02小隊の引率役です」
ウッディの返答は、レイラにとってありがたいものだった。
レイラと以前よりの知り合いであることもそうだが、下手な上士官よりも現場で叩き上げられた下士官の方が、心強い。
「よろしく、お願いします」
レイラは少し顔色が戻り、ウッディに遅めの敬礼を行なった。
ウッディは敬礼を返し、レイラの表情が戻り始めた事を確認すると、話を続ける。
「さて、それではこの小隊に配属されるロシアの士官学校の生徒を紹介します」
ウッディの後ろに控えていた2人の生徒が、真也たちの前へと歩み出る。
それは、ブロンド髪の毛をたなびかせ、にこりと微笑むユーリイと、軍服に着替え、真也を見つめて頬を赤く染めるソフィアだった。
その姿に、レイラ、真也、伊織がそれぞれ反応を示す。
レイラが辟易し、真也は驚き、伊織は据わった目で睨みつける。
「やぁ、初めまして。ユーリイ・ユマーシェフです。ユーリイ、と呼んでください」
「私は、ソフィア・サーヴィシュナ・スミルニツカヤと申します。よろしくお願いいたしますわ。ね?」
ソフィアの、ね? という言葉は、完全に真也へと掛けられていた。
美男美女のロシア人。
Fクラスの男子ペアはソフィアの美貌に顔を赤くし、女子ペアもまた、ユーリイに向けてトロンとした瞳を向けた。
ユーリイはそんな女生徒たちにニコリと微笑むと、レイラへと口を開く。
「レーリャ。今回、君が小隊長なんだって?」
「……そう。もしかして、ユーリイか、父のせい?」
レイラは江島に否定されたものの、ユーリイに確認を取る。
ユーリイは、両手を広げて大仰に驚くと、笑顔でレイラへと祝辞を述べる。
「まさか。誓って、小隊長になったのは君の実力だよ。
小隊長、おめでとう、レーリャ。幼馴染として鼻が高いよ」
「まあ、ならいい……ありがとう」
ユーリイは腕を伴うお辞儀をすると、レイラに腕を伸ばし、握手を求める。
レイラは、渋々といった様子だが、小隊長になったことに父親の息がかかっていないという言葉を受け止め、握手を返した。
ユーリイの様子は役者がかっており、Fクラスの女子2人は美男美女のやりとりに、小声で黄色い声を上げる。
真也は、彼がレイラが船上で言っていた幼馴染だと気づき、一気に距離を取り戻すその姿に焦りを感じ、なんとか間に割り込まねばと考えた。
しかし、その一手を打つ前に、真也の目の前が、またもや銀と白と、緑に包まれる。
「シンヤ様! またお会いできました! ソーニャは嬉しゅうございます!」
真也の目の前には、ソフィアの顔。彼女は身を乗り出し、目線を合わせるように屈んで立っていた。
「あ、ああ、ソーニャさん」
「ソーニャ、ですわよ?」
「そ、ソーニャ」
「はいっ」
ソーニャの両手が自身の右手に伸びてくるのが見えた真也は、急ぎ、訂正する。
もう一度胸元に手をやられては……そしてそれを他の生徒や、特にレイラに見られては困る。
「えーっと、ソーニャ。と、とりあえず座ったら?」
「私はこのまま、ずうっとここに居てもいいですわよ? あなた様のお顔を間近で見られる、特等席ですもの!」
他の隊員たちは、ソフィアの様子に度肝を抜かれる。
銀髪の美少女が、なぜか真也とすでに知り合いだった事もそうだが、彼に対する熱烈なアプローチの理由が分からなかったからだ。
その理由が分からないのは、真也も同じだったが。
「座りなよ」
低い声で、伊織が空いた席を指差す。
「あら、ウサギさん。貴方もいらっしゃったのですね」
「あのね、ボクと間宮はバディなんだ。一緒で当たり前だろ」
「あら、東雲学園のバディは、男女混合ですの?」
その言葉に、伊織は頬をひくつかせ、耳をピンと立たせる。
「ボクは男だ!」
「……あら、そうだったんですのね。大変失礼致しました」
ソフィアは申し訳なさそうに、丁寧な言葉で謝罪をするが、その謝罪に心がこもっていないことを伊織の耳は聞き分ける。
伊織は『形は満点』な謝罪に対して「ふん」と鼻を鳴らすと、腕を組んでそっぽを向いた。
そのようなやり取りをしている間にも、真也の目の端に映るユーリイは、レイラと距離を詰めているように感じられ、ソフィアに着席を促す。
「そ、ソーニャ。伊織の言う通り、座ったらどう?」
「そうですわね!」
おずおずと提案する真也に、ソフィアは満面の笑顔を返し、真也の隣に座っていたFクラスの男子に声を掛ける。
「あの、お名前は?」
美少女に急に話しかけられた彼は、驚いて返事をする。
「え!? 俺ですか!? ま、牧田冬馬です」
先ほど、フランクに真也に話しかけていたこの美少女は、もしかしたら誰にでもこんな感じなのかもしれない。
そう期待した冬馬は、ソフィアに向けて笑顔で挨拶を続ける。
「今回の作戦、よろしく……「どいてくださらない? 牧田様」
まだ挨拶の途中だったにもかかわらず、差し込まれるソフィアの言葉に、冬馬は、ぽかんとする。驚いて反応しない冬馬に、ソフィアはさらに言葉を続けた。
「あの、牧田様?」
「は、はい」
「私、そこに、座りたいので。どいて、くださらない? 今すぐに」
ソフィアは笑顔であったが、2度目の言葉は、語気が強いものとなっていた。
「はい……」
完全に萎縮し、冬馬は自分の席をソフィアへと譲る。
「ありがとうございます。感謝いたしますわ! 牧田様!」
満面の笑みで冬馬へと礼を告げると、ソフィアは真也の横に座り、真也へとしなだれ掛かる。そのまま腕を真也の体に這わせると、「はぁ……」と悦に入った吐息をこぼした。
「ソーニャ!? ちょ、ちょっと、ちゃんと座ったほうがいいよ!」
驚き、声を上げる真也。
その声に、ユーリイと話していたレイラが反応し、真也の有様に目をやる。
「……え、何事?」
ユーリイに話しかけられていたせいで、この一連の流れに気づかなかったレイラは真也にしなだれかかるソフィアを見て驚く。
「真也、知り合い?」
「えっと、いや……朝、港に着いた時に少し話したくらい、なんだけど。……レイラはソーニャとは知り合いじゃないの?」
「……初めて。……ソーニャ?」
レイラの目には、真也がソフィアの事を愛称で呼んでいることも含め、2人が非常に仲の良い様子に見えた。
そして、それにもやもやとした感情が芽生え、レイラはソフィアに質問する。
「……ソフィア、だっけ。貴方、真也とは、どういった?」
「『モイ ザラトーイ』」
ソフィアは、ロシア語で言い放った。
その意味は、日本人たる真也や他の面々に伝わらず、レイラとユーリイだけが反応した。
『モイ ザラトーイ』、『私の恋人』。
その言葉に、レイラの思考が止まる。
「あー、レーリャ。ソフィアはね、ちょっと」
ロシア支部に変人がいると思われては困る、と弁明のためユーリイがレイラに話しかけようとするが、レイラはソフィアに短く返答する。
「そう」
レイラの短い言葉に、真也は驚き、ソフィアは笑顔で頷く。
まるでレイラが真也とソフィアの関係……このようにくっつくのが当たり前の関係を認めたような返答に、ソフィアは喜ぶように真也の体に回した腕に力を込め、反対に真也は血の気が引く。
「……でも、隊の風紀、考えて。離れて」
「ええ……この程度で、ですの?」
「どの程度か、判断は、私」
睨み合うレイラとソフィアに、真也は生きた心地がしなかった。
レイラの味方をすべきなのは明らかだったが、真也は、この様な行動を平然とするソフィアに、どこか恐怖心を感じていた。
「ねえ、シンヤ様は、どう思われます?」
こっちに振らないでくれ。
真也は心からそう思ったが、答えは一つしかなかった。これ以上、レイラに『ソフィアとの関係』を勘違いされるわけにはいかない。
「離れて、下さい」
力強く言いたかったが、すぐそばのソフィアの顔に、少しモゴモゴとした言い方になる。
真也の言葉にソフィア頬を膨らませると、可愛らしく「いけず」と呟き、真也から離れて椅子に座り直す。
ホッとする真也と、美女に言い寄られる彼を恨めしそうに見る冬馬たち、そして苛立ちを隠せないレイラと伊織。
ユーリイに心奪われっぱなしの女子生徒に、ただあわあわとする美咲。
顔合わせは、混沌とし、遅々として進まなかった。
いつぞやの研究所のように、またもや青春の一場面を見せつけられたウッディは、こほんと一つ咳をすると、口を開いた。
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