26 / 50
26. 私の一番大切なもの、紗恵子の場合
しおりを挟む
(私の一番大切なもの、紗恵子の場合)
新一、……。あなたがいなくなってから、もう七年になるのね。
その間、いつもあなたのことばかりを思っていたわけではないのよ。
それなりにいい男に出くわせば目を向けるし、胸もときめくわ。
でも、必ずそのあとに忘れていた、あなたの顔が出てくるのよ。
何でかなー? おかしいでしょう……
小学校の時、最初にあなたに会ったときは驚いた。
顔立ちが良一君にそっくりだったから。
でもそれだけじゃなく、良一君が妙子を見るときの目と、あなたが私を見るときの目。
優しさに包まれるような暖かさを感じた。
私には一つの憧れがあってね。
それは、妙子と良一君のような恋人同士になりたいと思っていたことなの。
同じ屋根の下で、まだ小学校にも上がらない妙子と良一君だったけれど、二人がやっていることは、まるで恋人同士、それ以上に、長年連れ添った夫婦のように仲が良く見えたわ。
もちろんいつも一緒で、遊ぶときも風呂に入るときも寝るときも、必ず妙子の側には良一君がいて、それで、きゃっあきゃっあ、わいわい取っ組み合っていても、あの暖かい眼差しで、いつも妙子のことを気遣っているのよ。良一君が頼もしく素敵に見えた。
おまけに、どこで覚えたのか熱いキスを唇に重ねていたんだから、近くで見ている私なんか当てられどうしで、うらやましくて、やきもちを妬いていたくらいなのよ。
あんなふうに、いつも側にいてくれる彼が欲しいと、ずうっと思っていた。
そんな時にあなたに逢ったの。
もちろんあなたを良一君のかわりにするつもりじゃないのよ。
七つも年下の男の子と張り合わないでね。
私の憧れていたのは良一君じゃなくて、いつも私のことを思っていてくれる、暖かい家がある彼なの。
あなたの中に、私の帰る家があれば、私は安心して帰っていけるでしょう。
自分の家の中まで気取ったり、見栄を張ったり、自分を偽ったりしないでしょう。
わがまま言ったり、裸で歩き回ったり、自分の家なら何でもできちゃうでしょう。
そんなふうに思わせてくれる彼が欲しかったのよ。
私の勝手な思い込みなんだけどね。
でも、妙子のように「おチンチン見せて!」って言うわけにはいかない年頃だったから、なかなか親しくなれなかったわね。
でも、あなたの暖かい視線が、時より私を探していることはわかっていたのよ。
中学生になって、それが思わぬところで、あなたがバレーボールのコーチをしてくれることになって、ますます良一君のような思いやりを感じたわ。
あなたが選手を蹴ってコーチに徹したことで、男子から非難されていたことも知っていた。
それでもコーチをしてくれたことが、とても嬉しかった。
最初はその時のお返しのつもりで、私の家に誘ったんだけど、一緒に勉強している間に、やっぱり私の帰る家があなたの中にあると思えてきたの。
でも、あなたは一生懸命勉強ばかりしていて、私には全然興味がないんじゃないかと思ったくらいよ。
いつも教室で見るあなたと別人だと思えるほど、物静かで誠実な人って感じだった。
誠実といえば、夏休みになって、最初にあなたが来る日、どんな服にしようかとクローゼットを見たの。普段はTシャツとショートパンツが多いんだけど。
この日も鏡を見て「色気ないな」と思ったの。
それで、前に友達からブラトップが楽でいいわよって言われて、タンクトップとキャミソールと、合わせでハーフスリーブのシャツを買ったの。
タンクトップは普段着に使っているけど、キャミソールは一度も着たことがなかったの。
お母さんにそれで街に出るのって言われて、それじゃ―下着ねって言われて、確かにキャミソールと言うくらいだからインナーなんだけど、私でもさすがに何か羽織るものがないと恥ずかしい。でも、この夏の暑さ、肌を出して、色気で迫るのも楽しいかなっと思ったのよ。
そんな時、あなたが来たのよ。
私はシャツを着るのを忘れて、キャミソル一枚とショートパンツのまま出てしまったのね。
あなたの驚いた顔が今でも目に浮かぶわ。
「シャツ忘れた……」と思ったけれど、貴方なら許せたから……
それに貴方のどきまぎしたリアクションが面白かったから、このままでもいいかなって思ったの。
でも、貴方があんなこと言うから、裸の方がいいって言うから、裾を上げて、おへそのところまで上げて、でも、やめたの。
全部見せてしまったら、あなたは私に興味をなくして離れていくような気がして……
だからあんな約束をしたの。少なくとも卒業までは一緒にいられるじゃない。
それに今なら言うけど、本当は私も卒業まで待たなくても、あなたに抱きしめて欲しかったの。
気の遠くなる思いをしたかった。
約束の後も、なんとなくそんな機会があったじゃない。
会話が途切れて、あなたはじっと私を見つめていた。
私もあなたが何をしたいのかわかっていた。
それなのにあなたは何もしなかった。
あの時「いいのよ」って言ってあげればよかった。
「約束なんかいいのよ」って……
あんなことになるんだったら……
「約束、……」
私には、あのつまらない約束が、今も心の中で生きているのよ。
だから他の男の人の前で裸になれない。
あなたとの約束があるから。
そんなことどうでもいいことなのに……
でも、脱げないの。
あなたの顔が浮かんで、悲しそうな顔が浮かんで……
新一、……。あなたがいなくなってから、もう七年になるのね。
その間、いつもあなたのことばかりを思っていたわけではないのよ。
それなりにいい男に出くわせば目を向けるし、胸もときめくわ。
でも、必ずそのあとに忘れていた、あなたの顔が出てくるのよ。
何でかなー? おかしいでしょう……
小学校の時、最初にあなたに会ったときは驚いた。
顔立ちが良一君にそっくりだったから。
でもそれだけじゃなく、良一君が妙子を見るときの目と、あなたが私を見るときの目。
優しさに包まれるような暖かさを感じた。
私には一つの憧れがあってね。
それは、妙子と良一君のような恋人同士になりたいと思っていたことなの。
同じ屋根の下で、まだ小学校にも上がらない妙子と良一君だったけれど、二人がやっていることは、まるで恋人同士、それ以上に、長年連れ添った夫婦のように仲が良く見えたわ。
もちろんいつも一緒で、遊ぶときも風呂に入るときも寝るときも、必ず妙子の側には良一君がいて、それで、きゃっあきゃっあ、わいわい取っ組み合っていても、あの暖かい眼差しで、いつも妙子のことを気遣っているのよ。良一君が頼もしく素敵に見えた。
おまけに、どこで覚えたのか熱いキスを唇に重ねていたんだから、近くで見ている私なんか当てられどうしで、うらやましくて、やきもちを妬いていたくらいなのよ。
あんなふうに、いつも側にいてくれる彼が欲しいと、ずうっと思っていた。
そんな時にあなたに逢ったの。
もちろんあなたを良一君のかわりにするつもりじゃないのよ。
七つも年下の男の子と張り合わないでね。
私の憧れていたのは良一君じゃなくて、いつも私のことを思っていてくれる、暖かい家がある彼なの。
あなたの中に、私の帰る家があれば、私は安心して帰っていけるでしょう。
自分の家の中まで気取ったり、見栄を張ったり、自分を偽ったりしないでしょう。
わがまま言ったり、裸で歩き回ったり、自分の家なら何でもできちゃうでしょう。
そんなふうに思わせてくれる彼が欲しかったのよ。
私の勝手な思い込みなんだけどね。
でも、妙子のように「おチンチン見せて!」って言うわけにはいかない年頃だったから、なかなか親しくなれなかったわね。
でも、あなたの暖かい視線が、時より私を探していることはわかっていたのよ。
中学生になって、それが思わぬところで、あなたがバレーボールのコーチをしてくれることになって、ますます良一君のような思いやりを感じたわ。
あなたが選手を蹴ってコーチに徹したことで、男子から非難されていたことも知っていた。
それでもコーチをしてくれたことが、とても嬉しかった。
最初はその時のお返しのつもりで、私の家に誘ったんだけど、一緒に勉強している間に、やっぱり私の帰る家があなたの中にあると思えてきたの。
でも、あなたは一生懸命勉強ばかりしていて、私には全然興味がないんじゃないかと思ったくらいよ。
いつも教室で見るあなたと別人だと思えるほど、物静かで誠実な人って感じだった。
誠実といえば、夏休みになって、最初にあなたが来る日、どんな服にしようかとクローゼットを見たの。普段はTシャツとショートパンツが多いんだけど。
この日も鏡を見て「色気ないな」と思ったの。
それで、前に友達からブラトップが楽でいいわよって言われて、タンクトップとキャミソールと、合わせでハーフスリーブのシャツを買ったの。
タンクトップは普段着に使っているけど、キャミソールは一度も着たことがなかったの。
お母さんにそれで街に出るのって言われて、それじゃ―下着ねって言われて、確かにキャミソールと言うくらいだからインナーなんだけど、私でもさすがに何か羽織るものがないと恥ずかしい。でも、この夏の暑さ、肌を出して、色気で迫るのも楽しいかなっと思ったのよ。
そんな時、あなたが来たのよ。
私はシャツを着るのを忘れて、キャミソル一枚とショートパンツのまま出てしまったのね。
あなたの驚いた顔が今でも目に浮かぶわ。
「シャツ忘れた……」と思ったけれど、貴方なら許せたから……
それに貴方のどきまぎしたリアクションが面白かったから、このままでもいいかなって思ったの。
でも、貴方があんなこと言うから、裸の方がいいって言うから、裾を上げて、おへそのところまで上げて、でも、やめたの。
全部見せてしまったら、あなたは私に興味をなくして離れていくような気がして……
だからあんな約束をしたの。少なくとも卒業までは一緒にいられるじゃない。
それに今なら言うけど、本当は私も卒業まで待たなくても、あなたに抱きしめて欲しかったの。
気の遠くなる思いをしたかった。
約束の後も、なんとなくそんな機会があったじゃない。
会話が途切れて、あなたはじっと私を見つめていた。
私もあなたが何をしたいのかわかっていた。
それなのにあなたは何もしなかった。
あの時「いいのよ」って言ってあげればよかった。
「約束なんかいいのよ」って……
あんなことになるんだったら……
「約束、……」
私には、あのつまらない約束が、今も心の中で生きているのよ。
だから他の男の人の前で裸になれない。
あなたとの約束があるから。
そんなことどうでもいいことなのに……
でも、脱げないの。
あなたの顔が浮かんで、悲しそうな顔が浮かんで……
1
あなたにおすすめの小説
WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!
TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。
その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。
競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。
俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。
その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。
意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。
相変わらずの豪華客船の中だった。
しかし、そこは地球では無かった。
魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。
船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。
ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ……
果たして、地球と東の運命はどうなるの?
異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――
黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。
ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。
この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。
未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。
そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる