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28. プラネタリウムと良一の涙
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(プラネタリュウムと良一の涙)
五月の連休も今日で最後という日に、良一はプラネタリウムのある科学館にいた。
二人が偶然に科学館で行き会ったと言うシナリオで良一が一足先に家を出た。
「あれ、良一君、偶然ね……」
妙子はわざとらしく良一に向かってセルフを言った。
「本当だね。湯川さん、一緒に見て回ろうか……」
そこまでしなくても言いと思いながらも、妙子が家を出る前に作ったセルフをぎこちなく言った。
その時、「良一、……」と、声が聞こえた。
良一は、はっとして辺りを見回した。
連休とあって小さな子供連れの家族が目立つ。
妙子も、その声に気づいたらしく、あたりを見回していた。
「あれ、かわいい……、良一君の知り合い?」
その子は以外にも妙子の後ろから現れた。
「え、知らない子……」
「でも、良一っていてたよ」
妙子はしゃがんで女の子に話しかけた。
「どこから来たの?」
「あっち!」
「誰ときたの?」
「新一、……」
「え、誰なの?」
「知らない人……?」
「お父さんは……?」
「お仕事……」
「お母さんは……?」
「お仕事……」
妙子は良一を見た。
「迷子かもしれないわよ。でも、何で良一を知っているのかしら?」
「僕は、全然知らないよ……」
少女は矢継ぎ早に質問する妙子を嫌って、良一の体の後ろに巻きつくように隠れて妙子を睨んだ。
しかし、良一は新一と聞いて、この少女も新一の仲間ではないかと思った。
つまり、この世の者でないもの……
「どうしようか? 迷子コーナーにでも連れて行こうか……」
妙子のその言葉が終わらないうちに少女は、小さな声で早口に喋った。
「新一から聞いたのー! 猫いらない? 子猫なの……」
「子猫、子猫ならここにもいるけどねー」
良一は妙子を見た。
「何よそれ、狼さんー!」
良一が振り返ると少女はいなかった。
「あれ、あの子どこに行ったの?」
良一は「やはり……」と思った。
妙子が不思議そうにあたりを見回していたとき、場内アナウンスがプラネタリウムの始まりを告げた。
「迷子コーナーと聞いて逃げたかな。さあ、プラネタリウム始まっちゃうよ!」
良一は、昨日の夜思わず妙子の手をつかんだせいか、今日は自然と妙子の手を取れた。
二人、手をつないで仲良く歩く姿は、友達以上の関係に見えた。
太陽が西の空を赤く染めて沈んでいった。
空には満天の星空が映し出された。
実際には周りの明るさで見えない天の川がはっきりと天上を流れている。
天の川、良一は母と高原のホスピスにいた頃のことを思い出した。
そこでは、よく澄んだ晴れた日には、満天の星と天の川が見られた。
「きれいな星空、こんな日はお部屋の中にいるのはもったいないわね」
母はそう言って、良一を連れて芝生広場のベンチで何時間も星の話を聞かせてくれた。
星の王子様の話……
「本当に大切なものは、目には見えないんだよ」と言った狐……
宮沢賢治の銀河鉄道の話……
それは、イタチに追われて井戸に落ちたサソリが、本当の幸いに気付いたとき、その体を真っ赤に焼いて天上にあがり夜空を照らす星になった話……
僕はサソリになれるだろうかと思ったこと……
いつの間にか、良一の目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。
(良一の涙)
「どうしたの……?」
妙子は、小声で話しかけた。
「なんでもない……」
突き放すように言った良一の言葉が、妙子の心を不安にさせた。
今まで、あんなに身近な存在であった良一が、一瞬全然知らない行きずりの他人のように思えた。
良一の涙……
良一の母の通夜の日、母の布団に顔を埋めて大声を出して泣いていた良一を思い出した。
妙子は久しぶりに良一に会えることが、ただ嬉しかった。
そして、会ったら元気付けてやろうと心の中で決めていた。
しかし、大声を出して泣いている良一に掛ける言葉もなく、父親の手を握ったまま一言もしゃべらずに焼香を済ませて帰った。
その帰り道、妙子もまた涙いていた。
思い通りに良一を元気付けられなかった悔しさと、良一の悲しみが妙子の心の中まで広がっていた。
プラネタリウムが終わる頃、良一はいつもの顔に戻っていた。
「何か飲まない……?」
今度は妙子が良一の手を取って会場をでた。
ロビーのざわめきの中で、良一は妙子からもらったジュースを片手に、ロビーの椅子に座った。
何口目か飲んだジュースの缶を見つめながら良一は、ぽつりと話し出した。
「お母さんと最後に過ごしたのが、高原のホスピスで、そこでは今見たプラネタリウムと同じくらい、星が綺麗に見えていたんだ……」
「そう、いいところだったのね……」
おしゃべり妙子と異名をとる彼女でさえ、良一に掛ける言葉が見つからずに、やっとでた平凡な返事だった。
プラネタリウムの次の開演が始まるのか、ロビーから人影が消えて静寂が戻ってきた。
「さあ、帰りましょう!」
妙子は静寂を嫌うように立ち上がった。
「じゃあ、僕が先に帰るね」
良一も立ち上がり、妙子を置いて先に歩き出した。
しばらく歩いていくと、妙子が後ろから来て、良一の手を取った。
「どうしたの……?」
振り返ると妙子は、そのまま良一の腕に甘えるように、からませ腕を組んだ。
そして、下を向いたまま何も言わずに歩き出した。
これが妙子のできる良一への慰めの言葉だったのかもしれない。
良一は妙子に引きずられるように歩き出した。
そのまま、ただ何も語らず、五月の風が穏やかな日和の中、急に二人に襲い掛かるように吹き抜けて行った。
二人の仲をやっかむように……
五月の連休も今日で最後という日に、良一はプラネタリウムのある科学館にいた。
二人が偶然に科学館で行き会ったと言うシナリオで良一が一足先に家を出た。
「あれ、良一君、偶然ね……」
妙子はわざとらしく良一に向かってセルフを言った。
「本当だね。湯川さん、一緒に見て回ろうか……」
そこまでしなくても言いと思いながらも、妙子が家を出る前に作ったセルフをぎこちなく言った。
その時、「良一、……」と、声が聞こえた。
良一は、はっとして辺りを見回した。
連休とあって小さな子供連れの家族が目立つ。
妙子も、その声に気づいたらしく、あたりを見回していた。
「あれ、かわいい……、良一君の知り合い?」
その子は以外にも妙子の後ろから現れた。
「え、知らない子……」
「でも、良一っていてたよ」
妙子はしゃがんで女の子に話しかけた。
「どこから来たの?」
「あっち!」
「誰ときたの?」
「新一、……」
「え、誰なの?」
「知らない人……?」
「お父さんは……?」
「お仕事……」
「お母さんは……?」
「お仕事……」
妙子は良一を見た。
「迷子かもしれないわよ。でも、何で良一を知っているのかしら?」
「僕は、全然知らないよ……」
少女は矢継ぎ早に質問する妙子を嫌って、良一の体の後ろに巻きつくように隠れて妙子を睨んだ。
しかし、良一は新一と聞いて、この少女も新一の仲間ではないかと思った。
つまり、この世の者でないもの……
「どうしようか? 迷子コーナーにでも連れて行こうか……」
妙子のその言葉が終わらないうちに少女は、小さな声で早口に喋った。
「新一から聞いたのー! 猫いらない? 子猫なの……」
「子猫、子猫ならここにもいるけどねー」
良一は妙子を見た。
「何よそれ、狼さんー!」
良一が振り返ると少女はいなかった。
「あれ、あの子どこに行ったの?」
良一は「やはり……」と思った。
妙子が不思議そうにあたりを見回していたとき、場内アナウンスがプラネタリウムの始まりを告げた。
「迷子コーナーと聞いて逃げたかな。さあ、プラネタリウム始まっちゃうよ!」
良一は、昨日の夜思わず妙子の手をつかんだせいか、今日は自然と妙子の手を取れた。
二人、手をつないで仲良く歩く姿は、友達以上の関係に見えた。
太陽が西の空を赤く染めて沈んでいった。
空には満天の星空が映し出された。
実際には周りの明るさで見えない天の川がはっきりと天上を流れている。
天の川、良一は母と高原のホスピスにいた頃のことを思い出した。
そこでは、よく澄んだ晴れた日には、満天の星と天の川が見られた。
「きれいな星空、こんな日はお部屋の中にいるのはもったいないわね」
母はそう言って、良一を連れて芝生広場のベンチで何時間も星の話を聞かせてくれた。
星の王子様の話……
「本当に大切なものは、目には見えないんだよ」と言った狐……
宮沢賢治の銀河鉄道の話……
それは、イタチに追われて井戸に落ちたサソリが、本当の幸いに気付いたとき、その体を真っ赤に焼いて天上にあがり夜空を照らす星になった話……
僕はサソリになれるだろうかと思ったこと……
いつの間にか、良一の目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。
(良一の涙)
「どうしたの……?」
妙子は、小声で話しかけた。
「なんでもない……」
突き放すように言った良一の言葉が、妙子の心を不安にさせた。
今まで、あんなに身近な存在であった良一が、一瞬全然知らない行きずりの他人のように思えた。
良一の涙……
良一の母の通夜の日、母の布団に顔を埋めて大声を出して泣いていた良一を思い出した。
妙子は久しぶりに良一に会えることが、ただ嬉しかった。
そして、会ったら元気付けてやろうと心の中で決めていた。
しかし、大声を出して泣いている良一に掛ける言葉もなく、父親の手を握ったまま一言もしゃべらずに焼香を済ませて帰った。
その帰り道、妙子もまた涙いていた。
思い通りに良一を元気付けられなかった悔しさと、良一の悲しみが妙子の心の中まで広がっていた。
プラネタリウムが終わる頃、良一はいつもの顔に戻っていた。
「何か飲まない……?」
今度は妙子が良一の手を取って会場をでた。
ロビーのざわめきの中で、良一は妙子からもらったジュースを片手に、ロビーの椅子に座った。
何口目か飲んだジュースの缶を見つめながら良一は、ぽつりと話し出した。
「お母さんと最後に過ごしたのが、高原のホスピスで、そこでは今見たプラネタリウムと同じくらい、星が綺麗に見えていたんだ……」
「そう、いいところだったのね……」
おしゃべり妙子と異名をとる彼女でさえ、良一に掛ける言葉が見つからずに、やっとでた平凡な返事だった。
プラネタリウムの次の開演が始まるのか、ロビーから人影が消えて静寂が戻ってきた。
「さあ、帰りましょう!」
妙子は静寂を嫌うように立ち上がった。
「じゃあ、僕が先に帰るね」
良一も立ち上がり、妙子を置いて先に歩き出した。
しばらく歩いていくと、妙子が後ろから来て、良一の手を取った。
「どうしたの……?」
振り返ると妙子は、そのまま良一の腕に甘えるように、からませ腕を組んだ。
そして、下を向いたまま何も言わずに歩き出した。
これが妙子のできる良一への慰めの言葉だったのかもしれない。
良一は妙子に引きずられるように歩き出した。
そのまま、ただ何も語らず、五月の風が穏やかな日和の中、急に二人に襲い掛かるように吹き抜けて行った。
二人の仲をやっかむように……
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