私の一番大切なもの

マッシ

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31. 勉強会

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(勉強会)

 良一は、湯川家で暮らすようになっても、三日に一度くらいは自宅の様子と庭の手入れをするために数時間だけ帰っていた。
 良一が家の掃除が一通り終わったころ幸恵たちがやってきた。
 花の咲き乱れる庭に一同驚きとともにため息が漏れた。
「相変わらず綺麗に手入れしているのね……」
 幸恵が言うと他の女子は、もう一度驚いて歓声をあげた。
「これみんな良一君が作っているの?」
「たいしたことはやってないけどね。それより中に入ってよ」と言いながら、良一は彼女たちを家の中に案内をした。
「どこでもいいから適当に座って勉強してよ」
 その言葉で、女子は縁側に面した十六畳の和室の部屋に座敷用のテーブルを出して座った。
 良一と達也は女子に圧倒されるようにキッチンのテーブルに陣取った。
 一同は、なれないところに来たせいか、最初はそれぞれ静かに勉強していたが……
「静かなところね……。なんだか眠くなってきそう……」
 最初に口を開いたのは聡子だった。
「天気もいいし、庭も綺麗なんだから、勉強するにはもったいない環境だねー。ねー、みんなであれしない……!」
 小夜子が我慢しきれなくなった感じで喋りだした。
 あれ、というのは、じゃんけんをして、一番勝った人が、一番負けた人に、無理難題を問いかけ実行させる、過酷なゲームだった。
「ちょっと、まだ三十分もやってないでしょう……」
 妙子が一括した。
「えー、もうそんなにやったの!」
「おいおい、何しにきたんだ……」
 妙子の呆れた顔……
「まだまだ、先は長いのよ……」
 幸恵が、慰めるように言った。
「先は長いって、いったいいつまでやるの?」
 妙子が驚くように幸恵を見た。
「一日よ……!」
「うっそ! そんなにやるの……」

「いいわよ。都合の悪い人は帰っても……。でも二年生の時は、こんなものよー!」
 幸恵が、あっけらかんと言い放った。
「それじゃー、また、あれやるんだ!」
 達也が意味ありげな発言をした。
「なになに、なにか面白いことでも始まるの?」
 聡子が勉強よりも真剣な顔で体を乗り出した。
「そんなたいしたものじゃないけど、お昼に庭で、いつものバーベキューでもやろうと思って……」
 良一が付け加えた。
「え、またバーベキューやるの!」
 思わず妙子が口走ってしまった。
「妙子、前にもここでやったことあるの?」
 小夜子が、不審に思い問い詰めた。
「いえ、その昨日、家の庭でバーベキューだったから……」
 妙子が、あわててごまかした。
「そうね。妙子の家の庭ならいつでもできるわねー」
 小夜子が思いついたように納得した。
 会話が途切れたところで、理恵子が思い出したように話し始めた。
「良一君、私、小三のとき、同じクラスだったこと覚えてないでしょう?」
 良一は遠慮がちにこくりとうなずいた。
「私は、よく覚えているのよ。良一君って小三の時、不登校だったでしょう。だから、誰かにいじめられていたの?」
「バカバカ、バカ!」
 妙子が慌てて理恵子の口を塞いで、畳の上に押し倒した。
「もう理恵子、そんなこと今言わなくてもいいでしょう!」
 小夜子も良一の心の傷に触るようなことだと思い、妙子と共に理恵子の上に折り重なるように畳に押し付けた。
 二人の下敷きになった理恵子は苦しい息使いでようやく喋った。
「ああ、ごめん……、ちょと気になって……」
「もう、何やっているのー!」
 幸恵が騒然となった女子グループに一括した。
 その声で、妙子も小夜子も理恵子も元の席に戻った。
「でも私、小三の頃気になっていて、友達と先生のところに聞きに行ったことがあるのよ。冗談じゃなくて、あの頃は教室に一つ空いている席が寂しそうだったから。心配してたのよ」
 理恵子は、ただの興味本位ではないことをみんなに訴えた。
「そんなことがあったのか。今からでも俺がぶっ飛ばしてやるから、誰にいじめられていたんだ!」
 達也が怒りあらわに良一に迫った。
「違うんだっ! いじめられていたわけではなく、家族で高原のホスピスにいたから……」
「どこか悪かったの?」
 理恵子が心配そうな顔で聞いた。
「僕じゃなく、お母さんが……」
「ホスピスって、あの終末医療とか言う……」
 珍しく達也が難しい言葉を言ったが、誰もそれを冷やかすものはいなかった。
「今は、緩和ケアーとか言って大事な医療の一つだよ。そこだと病室の中で家族が一緒に生活できるんだ。病室というよりもリゾートホテルの一室みたいな感じで。感じでというより病院自体がホテルみたいだから、やっぱりリゾートホテルかな。温泉だったしねー」
「すごいじゃない。そんなところが日本にもあるのねー」
 幸恵があいづちを入れるように言った。
「でも、テレビのドラマに出てきたけど、悲しいとこだぜー」
 達也が言いにくそうに、でも正直な観想だった。
「でも、お母さんのいたホスピスは、緩和ケアー専門病院で暗いイメージはなかったけどね」
 良一は、皆の持っているイメージと、自分が過ごしてきた母との充実した楽しい日々のイメージが、一致しないことが残念だった。
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