カタリーナのお店の人々

マッシ

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15. 勉と私となめとこ山の熊

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(勉と私となめとこ山の熊)

 土曜日の朝……
 外は、シトシトと小雨が降っていた。
 やはり、朝一番に勉が来て、いつもの席に座った。
 勉は、ハナちゃんの裸婦をじっと見ていた。
「いい絵でしょう……、これもお姉さんが描いたのよ」
「うん、奇麗な人だね……、でも寂しそうだね……」
「そうかしら、お姉さんとハナちゃんは、愛し合っていたのよ。これから起こる出来事に胸膨らませて、おどけている様に見えるけど……」
「そうなんだ……、でも温かい絵だね……」
「そうよー、女同士って凄いのよー、熱く熱く、限り無く愛し合うの、何をやっても頑張っても、赤ちゃん、できないから……」
 勉は、驚いたように私の顔を見た。私も驚いて、見ていた勉から視線を反らした。
「分かった! 貴方、今、寂しいんでしょう?」
「……、そうかな……」
「お姉さんの描く絵はね、何故か見ている人の心を映すのよ」
「ホンと、そうかもしれない……」
「私の絵を見て何か感じない?」
「えー、君の絵なの?」
「あー、言っちゃった……、でも、これは絶対秘密だからね! 誰にも言っちゃ駄目よー」
「分かった……、この絵も、やっぱり寂しそうだった。でも、今、君がモデルと訊いたら……、楽しい感じに見えてきたよ……」
「そう、楽しい気持ちになってもらえて嬉しいわ……」
 私は、注文も訊かずに動揺してカウンターに戻った。
 でも、二人の秘密を持ったお陰か、前よりも親しく心の中に彼が住み着いた気がする。
「これって、恋しているの……」
 独り言で呟いてみた。

「お母さん、ホットコーヒーとミックスサンド……」
「はいはい、……、今、キーちゃんから電話で、今日は、来られないって……、お母さん、入院したみたいよ」
「うそー、私、一人……」
「そうねー、頑張ってね……」
「もー、……」

 私はオーダーを持って、勉の席に戻った。
「いつも、いつも、何読んでいるの?」
「宮沢賢治全集、……」
「宮沢賢治が好きなの?」
「そうだねー、前に、『なめとこ山の熊』をヒントに創作したんだ」
「創作って、……」
「童話かな? 小説に発展したいとも思ったけど……」
「けっこうー、クリエイターなんだ……」
「君も美術部だったねー」
「よく知っているわねー」
「卒業アルバムに載っていた」
「なるほど……、それで、どんな話なの?」
「『なめとこ山の熊』の話は、熊を捕って生計を立てている猟師と、山の生活を守るため猟師を襲う熊が出てきて、ある時、猟師は、狙っていた熊を猟銃で撃とうとして、反対に熊に襲われて死んじゃうんだけど、その息が絶える前に、たくさんの熊を殺してしまって済まないって詫びるんだ。熊でも人間でもお互いの幸いのために生きなきゃ駄目だと言いたかったんじゃないかな……」
「それで、あなたの作品は、どんな話なの?」
「僕の作品は、子熊と少年が仲良くなって、一緒に成長するんだ。青年になった少年は、自分の背丈より大きくなった熊と、仲良く森の中で遊んでいるんだ。その時、青年の前で熊が猟師に撃たれて死ぬんだ。それで、猟師が言うんだ、危なかったな、もう少しで襲われるところだったぞって…… そんな悲劇」
「それで、何が言いたいの?」
「見えていることが、すべて真実ではない。その裏にあるもの、その心が真実なんだ。人と人との心のすれ違いかな……」
「『ごんぎつね』みたいなお話ね。私、あの話、嫌いなのよ。もう、すぐに泣けてきちゃうのよ…… ごんぎつねって訊いただけでも涙が出そうよ」
「僕もそうだよ…… だから、僕の話も最後まで書けなかったんだ。自分で書いていて、あまりにも悲しすぎて、もっと楽しくなる話にしたいと思って……」
「他のお話はないの? ……」
「あるけど、長くなるよ……」
「あー、ごめん! 邪魔しちゃったわね。コーヒー、冷めちゃったねー」
「そんなことはいいけど……」
「また今度、聞かせてねー」
 私、今日は、おかしい……
 昨日の夜、ハナちゃんと一緒に寝たせいかな……
 何でこんなにお喋りになっているのかしら……
 勉とこんなに長く話したのは初めてだ。
 彼にも私と同じようなクリエイターな趣味があるなんて知らなかった。
 もっともっと、好きになってしまいそうよ……
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