カタリーナのお店の人々

マッシ

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18. お医者様は神様じゃない

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(お医者様は神様じゃない)

 次の日……、月曜日……
 お店は、前半部分、午前九時から午後二時まで営業する。
 日曜日祝日も同じだ。
 カタリーナのお店には、二晩泊まった。
 昨日の午後も、少しだけ母の顔を見に行った。
 もう、熱は下がったことを訊いた……
 少し安心して、午後のバイトも入った。
 おばあちゃんが、母が入院している時くらい、ゆっくり遊んでおいでと言ってくれたので、もう一晩、サリーと一緒に泊まることにした。

 部屋のルール通り、また二人裸で過ごした。
 サリーは、私の下の毛が邪魔だからと言って、剃られてしまった。
 サリーのは、前にお姉さんに剃られたという。
 意味が分からないが、剃ることは、大人になった印だそうだ。

 日曜日はよく晴れていて暑かったが、今日は曇り空、……
 多分、夕方には雨が降る……
 温暖な盆地ならではの気候と言いながら、最近は当てにならない。
 でも、農家にとって雨は、恵みの雨かも知れない。

 店を出ると、反対側の道路で、おばあちゃんの車が見えた。
 おばあちゃんと言っても、まだ六十六歳で、若いおばあちゃんだ。
 今日は、病院で、主治医の先生との面談がある。
 私は、車に駆け寄ると、もうすでに準矢は乗っていた。
「……、本当に明日、退院でいいんだね……」
 私が車に乗り込むと、おばあちゃんが心配そうに訊く……
「もう、熱が下がったんなら、退院でいいわー、病院にいても良くなるはずはないから……」
 意思表示のない、ただポカーンとしている母だけに、痰が詰まり苦しく噎せるのは、せめてもの生きている証かもしれない。

 平日のせいか、道は混んでいた。
「キー子も、バイトなんかしなくてもいいんだよ……、しっかり勉強しておくれ……」
「してるわよー、バイトは、サリーがやっているから……、私もやっているだけよ、それに私、お店のバイト好きなのよー」
「それなら、いいけど……、でも、ほどほどにね、お母さんも看ないといけないし、大変だから……」
「分かっているわー」

 少し、思ったより時間が掛ったが、面談の時間には間に合いそうだ。
 病室で母を見てから、担当医のところに行った。
「明日、退院したいと聞きましたが、……」
「はい、熱が下がれば、もう、大丈夫ですから……、いつもこんな感じです」
「君たち二人で、お母さんを看ているんだって……」
「はい、この春、父とは裁判離婚して、縁を切りました。今はおばあちゃんが後見人です」
「でも、君たちだって学校があるし、いつまででも、お母さんを看ているわけにもいかないと思うけど……」
「昼間は、デーサービスを使っていますし、それほど苦になってないですよ」
「君たちのような場合は、優先的にお母さんを看てくれる病院があるけど、そちらに移った方がいいと思うけど……、君たちにも、それぞれ人生があるから……、まだ十代じゃないかね。やりたいことはいっぱいあるだろ……、どうですか?」
「私たちのことは、私たちで考えます。先生に心配されることじゃないと思いますが、ご厚意には感謝します。でも、母を姨捨山に置いていくようなことは、私にはできません」
「酷い言い方だねー、そんなところじゃないよ。医療療養型病院と言われる立派な病院だ。専門医が、しっかりケアーして見守っていてくれるよ」
「いえ、悪い所だとは言いませんが、それぞれの事情で、そうしなければならない家庭もあるから……、でも、私たちは大丈夫です。まだ母を看ていられます……」
「しかし、だんだん心肺機能も落ちてきているんじゃないかな……、そろそろデーサービスも無理が来ているのかもしれない。でも、よく受け入れてくれたねー」
「家の近くにいいデーサービスがあったんです。私たちがいなくても、迎えに来てくれて、帰りも家に置いていってくれます。その頃には私たちも帰ってきますから……」
「……、今は、そうかもしれない。でも、まだまだ続くよ。君も社会人になれば、それほど早く家に帰れないし、いずれ療養病院が必要になる……、早い方がいいと思うけど……」
「それなら、その時考えます。先生は、いつから人生相談のパーソナリティになったんですか? 先生は医者でしょう? 医師免許を持っているんでしょう? それなら、病気を治すことだけを考えてくださいよ。母が少しでも良くなるように努力してください。それだけに打ち込んでくださいよ。家族はそれを望んでいます。先生に人生相談してもらおうとは思っていません」
「これも、医者の仕事だよ……」
「大きなお世話よー、治療して欲しいのは、私たちではなく、お母さんよ!」
 私は立ち上がって叫んだ。
 おばあちゃんも、私を捕まえて立ち上がって、お辞儀をしながら……
「すみません、失礼な事ばかりで……、明日、退院しますから……」
 おばあちゃんは、私を引っ張って出口に急いだ。

 帰りの車の中……
 どんよりとした暗い雲が覆っていた。
 私の心も、暗くどんよりした雲が覆っていて不快だった。
 あの医者の顔が頭の中に浮かぶたびに腹立ちが蒸し返される。
 でも、それよりも、もっと暗い嫌な気持ちが、心の中で揺らいでいた。
「おばあちゃんが、もっとお母さんの世話ができたら良かったんだけど……、お爺さんも余り良くなくて、娘に世話を掛けているくらいだから……」
 おばあちゃんも、暗く沈んでいた。
「いいのよー、気にしないで……、こうして来てくれるだけで助かっているから……」
「お姉ちゃん、かっこよかったよ!」と隼矢が、後ろの席から乗り出して言った。
「かっこよくなんかないわよ……、前にも同じこと言われたのよ。主治医は違ったけど……」
「そうなんだー、ぜんぜん知らなかった。そんな病院があるなんて……」
「療養病院のこと……? 最初のお母さんの退院のときに主治医に言われて、お父さんと見に行ったことがあるのよ。まるで、キャベツ畑だった……、隼矢も一度見に行った方がいいわねー、見に行かないと、どちらが良いのか分からないから……、あの主治医が言ったように、入院させた方がいいのかもしれないし……」
「僕は、お姉ちゃんに従うよ!」
「……、ありがとう。でも、ただの私の我がままに、付き合わされているだけかもしれないわよ。隼矢がお母さん、看るのが嫌になったら、いつでもやめていいのよ。お母さんも、隼矢の幸せを望んでいるから……」
「嫌じゃないよ! あんな奴と一緒にするなよ!」
「……、きっと、お父さんも辛いのよ。今も両方の重い荷物をしょって喘いでいると思うわ。みんな、見た目では、楽しそうに見えても、その裏側で、どれだけ大きな荷物を背負って歩いるのか分からないから……」

 おばあちゃんを見ると、泣いていた。
「おばあちゃん、泣かないでよ。泣いてちゃー運転できないでしょう」
「大丈夫だよ……、もう、慣れているから……」と、笑って見せた。

「おばあちゃん、今日、もう一日だけ、サリーの所で泊まってもいい……」
「いいよ、私がいる間は、家のことは心配いらないから、泊まっておいで……」
「……、おばあちゃん、ありがとう……」
「カタリーナ、行くんだろー、俺、フルーツロールケーキ食べたい……」
 隼矢が言った。
「そうだねー、でも、まだ開いている時間じゃないよ」
「大丈夫、入れてもらえるから……、ケーキ、食べましょう」
 私は、フルーツロールケーキを思い浮かべると、少し気分が明るくなった。

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