カタリーナのお店の人々

マッシ

文字の大きさ
19 / 50

19. なめとこ山のキー子

しおりを挟む
(なめとこ山のキー子)

 夜、……
 今日も部屋のルールに従い、サリーも私も、それぞれ自分で服を全部、脱ぎ捨てた。
「まるで、女風呂の脱衣所だねー」と、二人で笑った。
 確かに気持ちがいいー、部屋で裸になると、服と一緒に外であった嫌なことも一緒に脱ぎ捨てられそうな気がする。
 今日は、そんな気分だ。
「お風呂、沸いているから一緒に入りましょうー」
 私たちは、裸のまま、二人でお風呂場に向かった。
 お風呂から上がると、今日はショート丈のワンピースパジャマを裸の上から着て、二人でベッドに入った。
「明日、退院ねー、こうしていられるのも最後かもねー」
「まだ、おばあちゃんいるから、また来たいなー」
「早く来てねー、お姉ちゃん帰ってくるから……、でも、お姉ちゃんと三人でも寝たいわね……、きっと凄いよー」
「……、凄いってー?」
「でも、ちょっと今日は、キー子、変よー、病院で何かあったの……?」
「……、分かる……、いやなことを思い出しちゃったのよー」
「嫌なことって……?」
「……、お父さんのこと……」
「何……?」
「もし、あの時、お母さんを療養型病院入れていれば、お父さんも離婚しなくて済んだかもしれないと思って……、あの時、私が猛反対したのよ。あんなキャベツ畑の病院なんかには入れないって、私が面倒を看るからって言って……、それから五年、お父さんもよく頑張ったのよ。他で、女の人を作ったとしても……」
「でも、それは、お母さんが元気でも、男の甲斐性で、愛人くらい作るんじゃ―ないの?」
「でも、もし、私が反対しなければ、こんな無駄な努力しなくてもいい、平和な家庭だったかもしれないと思って、私がすべて悪かったのかな……? 今は隼矢まで巻き込んで、無駄な努力をしている。今日、主治医に言われたのよ、どうせ療養病院に入ることになるのなら早い方がいいって……、それで気づいちゃった……、すべて、私の我がままだったのかなって……、五年前、お母さんを病院に入れておけばって……、みんなうまくいっていたかなって……、家族を不幸にしているのは私、私じゃないかって……」
 私は、言い終わらないうちか、声を出して泣いてしまった。

 サリーは、仰向けに寝ている私を服の上から抱きしめてくれた。
「……、ごめんね、複雑な話で、私にはどうしていいのか分からないわ。でも、多分、主治医の言うことも正しいことなんでしょうね。でも、キー子も間違っていないと思うよ。だから、結局どちらでもいいのよ。キー子の心のままに従えば……」
「……それが、分からないから悩んでいるのよー」
「でも、お母さんを療養病院に入れなかったことで、一つだけいいことがあるわ」
「……、いいことって……」
「キー子の心が、お母さんと一緒にいて、幸せに満たされているということ……、もし、キャベツ畑の病院に入れたら、罪悪感で一生後悔するんじゃないの……、そうならないだけ、今の方が、ましなのよー」
「私、このままでいいのかなー」

「キー子は、『なめとこ山の熊』ねー」
「……、『なめとこ山の熊』って、……?」
「なめとこ山には熊の親子がいてね、それを猟師が鉄砲で撃って殺して生活しているの……、猟師は熊を殺さなければ生活できないし、熊の親子も猟師に殺されまいと戦うのよ。人間も熊も、お互いの生活を守るために戦う。殺しても殺されても、お互いの生活だから、仕方ないの。きっと主治医は猟師ね。鉄砲を持って、自分の仕事をしているだけ。キー子は熊ね。家族の幸せのために一生懸命生きているだけ……、どちらが良いとも、悪いとも言えない、お互いの生活なのよ」
「……、だから、熊は殺されちゃうの?」
「いえ、この話は、猟師が熊の親子に一瞬、同情して、鉄砲を撃つのをためらうの、その隙にクマに襲われて死んでしまうのよ」
「……、食うか食われるかの世界ね……」
「だから、どちらが良いとも悪いとも言えない、みんな一生懸命生きているというお話かな……、だから、キー子はキー子で、一生懸命生きていればいいじゃないの?世間の余分なごたごたは、ほっといて、脱ぎ捨てて、裸になってね……」
 サリーは、そう言って、私のパジャマの裾を捲り上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

氷結の夜明けの果て (R16)

ウルフィー-UG6
ファンタジー
Edge of the Frozen Dawn(エッジ・オブ・ザ・フローズン・ドーン) よくある異世界転生? 使い古されたテンプレート? ――そうかもしれない。 だが、これはダークファンタジーだ。 恐怖とは、姿を見せた瞬間よりも―― まだ見えぬまま、静かに忍び寄るもの。 穏やかな始まり。ほのかな優しさ。 だが、石の下には、眠る獣がいるかもしれない。 その時が来れば、闇は牙を剥く。 あらすじ 失われた魂――影に見つめられながら。 だが、英雄とは……本当に常に“光”のために戦う者なのか? 異国の大地で、記憶のないまま、見知らぬ身体で目を覚ます。 生き延びようとする本能だけが、彼を前へと突き動かす。 ――英雄か、災厄か。それを分けるのは、ただ一つの選択。 冷たく、謎めいた女戦士アリニアと共に、 彼は武器を鍛え、輝く都市を訪れ、古の森を抜け、忘れられた遺跡へと踏み込んでいく。 だが、栄光へと近づく一歩ごとに、 痛みが、迷いが、そして見えない傷が刻まれていく。 光の道を歩んでいるかのように見えて―― その背後で、影は静かに育ち続けていた。 ――これは、力と希望、そして自ら築き上げる運命の物語。 🔹 広大で容赦のない世界が、挑む者を待ち受ける。 🔹 試練と沈黙の中で絆を深めていく、二人の仲間。 🔹 「居場所」を探す旅路の果てに待つものとは――。 ヴェイルは進む。 その選択はやがて、一つの伝説を生み出すだろう。 それが光か、闇か。――決めるのは、あなた自身だ。

異世界ランドへようこそ

来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。 中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。 26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。 勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。 同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。 ――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。 「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。 だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった! 経営者は魔族、同僚はガチの魔物。 魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活! やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。 笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。 現代×異世界×職場コメディ、開園!

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...