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29. 修復された絵と奈緒
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(修復された絵と奈緒)
その日の夜……
私は、カタリーナで、お姉さんと泊まることにしていた。
お風呂から、そのまま裸で、リビングに出た。
「お姉さん、その穴、塞ぐの……?」
「さっき、アキラから電話があったのよ……、日曜日に、奈緒ちゃんを連れてくるって……、もっと早く治しておけばよかった。明日までに乾くかなー」
お姉さんは、ショート丈のワンピースパジャマを着ていた。
私も、クローゼットからワンピースパジャマを出して裸の上から着た。
「裂け目は、ふさがるけど……、表の傷は残るわね……」
「修復するの……?」
「それは、止めておこうと思うのよ。彼が、死んじゃっているから、私が筆を入れると、彼の作品ではなくなるから……」
「……、でも、その傷、ジャンダルムに合っているわよー、ぜんぜん変に見えないわー、かえって、迫力が増した感じよー」
「そうねー、奈緒ちゃんが喜んでくれればいいけど……」
「でも、これでお化けさんたちは、出てこれなくなったわね……」
「彼が、暇な店を哀れんで、山の仲間を呼んだのよー、きっと……」
「……、じゃー、また、火曜日から暇な店に戻るかもね……」
「それも困るわね……」
「……、やっぱり、今時……、インターネットに載せないと駄目なんじゃないの……?」
「……、私、苦手なのよー」
「そうよねー、得意だったら、今頃、ネットに出てるわねー」
「そう言うこと……」
次の日、日曜日……
今日は、天気が良く太陽が眩しい……、と言うことは、暑い……
今日は夜に、夏子さんの通夜がある……
私の母は、今日も朝からキー子の家に手伝いに行っている。
私も朝方、キー子の家に行ったが、キー子も隼矢も元気だった。
落ち込んでいないようなので、少し安心した。
重い荷物を下ろした感じなのかもしれない……
お昼頃……、お姉さんと一緒にカタリーナに戻った。
アキラさんと奈緒さんが、絵を取りに来るからだ……
でも、ジャンダルムの穴を塞いでしまって、お兄さんは出てこられるのか……
私は、半信半疑で、成り行きを案じた。
午後二時ごろ、アキラさんのワンボックスの車が店の前に停まった。
車いすで、そのまま乗り降りできる車だ。
お姉さんと私は、アキラさんの車まで出迎えに出た。
「いらっしゃい……」
「やあー、久しぶり……」
「駐車場は、店の道路を挟んだ反対側にあるから……、そこよ、分かるわね……」
「うん、分かった……、奈緒を見ててくれる……? 駐車場に入れてくるから……」
「先に、お店に入っているわ……」
奈緒さんは、無口だった……
でも、可愛くて、奇麗な人……、髪は長く胸のあたりまで伸びていた。
彼女も、猫毛だ……、ハナちゃんが喜びそうだ……
お姉さんは、車いすを押して店に入った。
「お兄さんは、……?」
彼女が最初に言った言葉だった。
その返事に、私もお姉さんも戸惑った……
「多分……、お兄さんは、来られないわ……」
「うそ……、どうして……?」
「この絵を、奈緒さんに、渡してくれるように、私が頼まれたのよ……」
奈緒さんは、しばらくジャンダルムの絵を見ていた。
アキラさんが戻って来て、同じことを訊いた……
「あれ、兄は……?」
「お兄さんは、もう来られないのよ……、多分……」
「えー、この前は、いたよ……」
「……、信じないかもしれないけど……、お兄さんは、三年前に死んでいるのよ……」
「え、えー、この前、ここで逢ったよ……、純子さんが、山に行っている時に、サリーちゃんも一緒にいたよね……?」
私は、返事に困った……
「……、そうだけど、……、言い難いのですが、このお店は、幽霊のたまり場なの……」
「え、えー、そんな冗談いって……」
まったく信じていなくて、笑い飛ばされてしまった。
お姉さんは、奈緒さんの車いすの左側で立って話し始めた。
「ジャンダルムの絵、アキラが、来た時は、まだ破けていたでしょう、お兄さんは、その破けた穴から出てきていたのよ……、でも、もう奈緒ちゃんに渡せるので、穴は塞いでほしいって言われて、私が裏張りして塞いだのよ……、だから、お兄さんは出てこられないのよ……」
「もうー、そんなこと誰も信じないよー、この絵を奈緒に渡したいから、連れて来てくれって言ったのは兄だよ……」
アキラは、車いすの右側に立って、笑いながら言った。
「お兄さんは、こんな絵で、奈緒ちゃんが一生懸命リハビリするとは思えないけど、とりあえず渡してくれって言っていたわ……」
「なんの冗談なの……、私がリハビリしないから……? お兄さんが内緒で逢いたいからって言われて来たのよ……、本当は外に出たくなかったけど……、お兄さんに逢いたいから、来たのよー、幽霊だなんて、バカにしているわ!」
奈緒さんは怒って、私たちを睨みつけた。
「わたし、帰る……、お兄さんに逢えないなら帰る……」
「……、この絵、持って行って……」
「いらない……、絵だって、本当にお兄さんが描いたかどうか分からないじゃない……」
奈緒さんは更に怒って、自分で車いすを動かして帰ろうとした……
「……、待って、いいわー、お兄さんに逢わせてあげる……、サリ、キッチンからペティーナイフ、持ってきて……」
「……、どうするのよ……?」
「早く、持ってきて!」
私は、お姉さんの叫びに驚いて、キッチンに急いだ。
「お姉さん、ナイフ、持ってきたわよ……」
「いいー、見てなさいよー、もう一度、ジャンダルムの絵を裂いて、穴をあけるから、お兄さんは、ここから現れるから……」
お姉さんは、ナイフを振りかぶって、ジャンダルムの絵を切り裂こうとした、その時……
「駄目よ……、彼は、もう新しい人生を始めているのよ……、こんな生きている小娘のために、邪魔されたくないわ……」
ハナちゃんの冷たい手が、お姉さんの振りかぶったナイフを持った手を掴んだ……
その日の夜……
私は、カタリーナで、お姉さんと泊まることにしていた。
お風呂から、そのまま裸で、リビングに出た。
「お姉さん、その穴、塞ぐの……?」
「さっき、アキラから電話があったのよ……、日曜日に、奈緒ちゃんを連れてくるって……、もっと早く治しておけばよかった。明日までに乾くかなー」
お姉さんは、ショート丈のワンピースパジャマを着ていた。
私も、クローゼットからワンピースパジャマを出して裸の上から着た。
「裂け目は、ふさがるけど……、表の傷は残るわね……」
「修復するの……?」
「それは、止めておこうと思うのよ。彼が、死んじゃっているから、私が筆を入れると、彼の作品ではなくなるから……」
「……、でも、その傷、ジャンダルムに合っているわよー、ぜんぜん変に見えないわー、かえって、迫力が増した感じよー」
「そうねー、奈緒ちゃんが喜んでくれればいいけど……」
「でも、これでお化けさんたちは、出てこれなくなったわね……」
「彼が、暇な店を哀れんで、山の仲間を呼んだのよー、きっと……」
「……、じゃー、また、火曜日から暇な店に戻るかもね……」
「それも困るわね……」
「……、やっぱり、今時……、インターネットに載せないと駄目なんじゃないの……?」
「……、私、苦手なのよー」
「そうよねー、得意だったら、今頃、ネットに出てるわねー」
「そう言うこと……」
次の日、日曜日……
今日は、天気が良く太陽が眩しい……、と言うことは、暑い……
今日は夜に、夏子さんの通夜がある……
私の母は、今日も朝からキー子の家に手伝いに行っている。
私も朝方、キー子の家に行ったが、キー子も隼矢も元気だった。
落ち込んでいないようなので、少し安心した。
重い荷物を下ろした感じなのかもしれない……
お昼頃……、お姉さんと一緒にカタリーナに戻った。
アキラさんと奈緒さんが、絵を取りに来るからだ……
でも、ジャンダルムの穴を塞いでしまって、お兄さんは出てこられるのか……
私は、半信半疑で、成り行きを案じた。
午後二時ごろ、アキラさんのワンボックスの車が店の前に停まった。
車いすで、そのまま乗り降りできる車だ。
お姉さんと私は、アキラさんの車まで出迎えに出た。
「いらっしゃい……」
「やあー、久しぶり……」
「駐車場は、店の道路を挟んだ反対側にあるから……、そこよ、分かるわね……」
「うん、分かった……、奈緒を見ててくれる……? 駐車場に入れてくるから……」
「先に、お店に入っているわ……」
奈緒さんは、無口だった……
でも、可愛くて、奇麗な人……、髪は長く胸のあたりまで伸びていた。
彼女も、猫毛だ……、ハナちゃんが喜びそうだ……
お姉さんは、車いすを押して店に入った。
「お兄さんは、……?」
彼女が最初に言った言葉だった。
その返事に、私もお姉さんも戸惑った……
「多分……、お兄さんは、来られないわ……」
「うそ……、どうして……?」
「この絵を、奈緒さんに、渡してくれるように、私が頼まれたのよ……」
奈緒さんは、しばらくジャンダルムの絵を見ていた。
アキラさんが戻って来て、同じことを訊いた……
「あれ、兄は……?」
「お兄さんは、もう来られないのよ……、多分……」
「えー、この前は、いたよ……」
「……、信じないかもしれないけど……、お兄さんは、三年前に死んでいるのよ……」
「え、えー、この前、ここで逢ったよ……、純子さんが、山に行っている時に、サリーちゃんも一緒にいたよね……?」
私は、返事に困った……
「……、そうだけど、……、言い難いのですが、このお店は、幽霊のたまり場なの……」
「え、えー、そんな冗談いって……」
まったく信じていなくて、笑い飛ばされてしまった。
お姉さんは、奈緒さんの車いすの左側で立って話し始めた。
「ジャンダルムの絵、アキラが、来た時は、まだ破けていたでしょう、お兄さんは、その破けた穴から出てきていたのよ……、でも、もう奈緒ちゃんに渡せるので、穴は塞いでほしいって言われて、私が裏張りして塞いだのよ……、だから、お兄さんは出てこられないのよ……」
「もうー、そんなこと誰も信じないよー、この絵を奈緒に渡したいから、連れて来てくれって言ったのは兄だよ……」
アキラは、車いすの右側に立って、笑いながら言った。
「お兄さんは、こんな絵で、奈緒ちゃんが一生懸命リハビリするとは思えないけど、とりあえず渡してくれって言っていたわ……」
「なんの冗談なの……、私がリハビリしないから……? お兄さんが内緒で逢いたいからって言われて来たのよ……、本当は外に出たくなかったけど……、お兄さんに逢いたいから、来たのよー、幽霊だなんて、バカにしているわ!」
奈緒さんは怒って、私たちを睨みつけた。
「わたし、帰る……、お兄さんに逢えないなら帰る……」
「……、この絵、持って行って……」
「いらない……、絵だって、本当にお兄さんが描いたかどうか分からないじゃない……」
奈緒さんは更に怒って、自分で車いすを動かして帰ろうとした……
「……、待って、いいわー、お兄さんに逢わせてあげる……、サリ、キッチンからペティーナイフ、持ってきて……」
「……、どうするのよ……?」
「早く、持ってきて!」
私は、お姉さんの叫びに驚いて、キッチンに急いだ。
「お姉さん、ナイフ、持ってきたわよ……」
「いいー、見てなさいよー、もう一度、ジャンダルムの絵を裂いて、穴をあけるから、お兄さんは、ここから現れるから……」
お姉さんは、ナイフを振りかぶって、ジャンダルムの絵を切り裂こうとした、その時……
「駄目よ……、彼は、もう新しい人生を始めているのよ……、こんな生きている小娘のために、邪魔されたくないわ……」
ハナちゃんの冷たい手が、お姉さんの振りかぶったナイフを持った手を掴んだ……
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