カタリーナのお店の人々

マッシ

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44. ハナの部屋の思い出とカナ

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(ハナの部屋の思い出とカナ)

「済みません……、こんな台風のさなかに来たりして……、ちょっと、急いで確認したいことがあったので……」
「いえいえ、うちはぜんぜん、かまいませんわ……、それより、カナちゃんこそ、雨に濡れませんでした……?」
「今は、やんでいますが、風は強いですよ……」
「……、これからが、大変なんですね……」
「そうですね……、ハナの部屋を見せてもらっていいですか……?」
「どうぞ、どうぞ、あれから何も変わっていませんが、あの子が使っていた時のままなんですよ……」
 私は、事前にハナのお母さんに部屋を見せてもらえるように電話しておいた。

 部屋は二階で、何も変わっていなかった……
 部屋の隅に真新しい登山用のリュックサックと登山靴が寂しそうに置かれていた。夏休みになったら上高地に行くはずだったのに……
「確か、本棚にハナの思い出のアルバムがあったはず……」
 私は本棚から、重くて大きなアルバムを床に置いて開いた。
 その中には、中学時代のハナの写真、高校生のハナの写真……、私と逢ってからの写真……、二人で何度も見ていた……
「……、あった! やっぱり、ハナだ……」
「そう、私よ……、なかなか気づかなかったでしょう……?」
「……、ハナ……、……、ハナ……」
 ハナは、私の後で、裸で立っていた……
「日葵ちゃんは、やっぱりハナの高校生の時の姿なのね……」
「……、そうよ、可愛いでしょう……、サリーちゃんと同じ歳になりたかったのよ……、十六歳の私よ……」
「ぜんぜん、分からなかった……、日葵ちゃんが描いた絵とサリーが言った銀河鉄道とブラックホールで思い出したのよ……」
「……、やっぱり、まだ覚えていたのね……?」
「忘れないわ……、貴女のことは、一秒たりとも……、どうして、もっと出て来てくれなかったのよ……?」
「……、そんなことは、ないわよ……、よくお店には出入りしていたけど……」
「そうなのね……、やっぱり姿を変えて、現れていたのね……」
「……、だって、お化けだもの……」
「お化けが、何にでも姿を代えられるなんて、知らなかったわ……」
「……、何でもじゃーないけどね……、高校生にはなりたかったのよ……、若いときの肌っていいわね……、今のサリーちゃんなんて、最高よね……」
「私が、最高にケアーしているのよ……、オイルマッサージで……」
「……、そうね、そんなサリーちゃんを抱けて、感謝するわ……」
「じゃー、サリーちゃんじゃなくて、悪いけど、大人の私じゃーどうかしら……?」
 私は、その場で着ていた物を全部脱いだ……
「そうすると……、お店のジャンダルムの絵の前で、いつも座っていたお爺さんは、奈緒ちゃんのお兄さんなのね……」
「そうよ……、彼は、さまよえる幽霊たちを説得して、生まれ変わるための入り口のサザンクロスに送り込んでいたのよ……、でも、説得しても、まだこの世に未練がある幽霊たちが戻ってくるのを監視していていたのよ……、それで、見つけては、また送り返す……」
「……、サザンクロス……、銀河鉄道のお話ね……」
「サザンクロスは、天国の入り口なんかじゃないのよ……、生まれ変わるための入り口なの……、そして、その光は生まれ変わるための目印なのよ……」
「サリーのあの絵は、ムンクのその絵ではなく、銀河鉄道のカンパネルラなのね、そして、壁を突き抜けた暗黒の世界は、サザンクロス、生まれ変わるための入り口……」
「カナと逢っても、交わっても、また帰れるように、道しるべをあの絵に塗り込めたのよ……、サリーちゃんの思いと一緒に……」
「……、じゃー、これからは、いつも一緒ね……」
「でも、もうー、……、私、行くわ……、サザンクロスに……」
「どうして……、やっと逢えたのに……」
「台風が来ているじゃない……、私、台風の嵐の中で、裸で踊りたいの……、『台風クラブ』みたいに……」
「そんな……、台風はまた来るわ……、それからでもいいじゃない……」
「……、でも、もう思い残すことはないわ……、サリーちゃんの絵も描けたし、いい絵でしょう……、お店に飾って欲しいわ……」
「サリーが何ていうか……?」
「……、あの子、意外と露出趣味よ……、すぐに裸になりたがるから……」
「そうなのよ……、私が小さいときから裸で育ててしまったから……、あの子、未だに私のおっぱい欲しがるのよ……」
「……、そうよね……、怖い子よね……、私のときなんか、舌を出してって言うから、舌を出したら、いきなり私の舌をしゃぶるのよ……」
「凄い……、……」
「……、凄いって、カナが教えたんでしょう……」
「あら、どうだったかしら……」
 ハナは、私の前まできて、口から舌を突き出した……
 私は、ハナの肩を抱いて、その舌にしゃぶりついた……
「ハナ、私たちのベッドに行きましょう……」

 私は、ハナの腰に腕を回して、離れないように、逃げないように、ベッドの上に二人で飛び込んだ……
「ハナ、……、逢いたかった……」
「……、でも、私、死んでいるから……」
「死んでいても、ハナは、ハナよ……」
 ハナは仰向けに、私はうつ伏せに、撫でまわすように抱き合った……
「……、私、カナのお腹の中から生まれてくるから……、その時にまた、裸で逢いましょう……」
「私、結婚なんかしないわ……」
「……、駄目よ……、結婚しないと赤ちゃんできないじゃない……」
「私、男、知らないもの……?」
「……、サリーちゃんに訊きなさい、男もいいものよって、言っていたから……」
「あの子、いつの間に……」
「……、でも、サリーちゃんも、幽霊を抱いていたから、私が引き離してサザンクロスに連れて行くのよ……」
「勉君ね……、やっぱり幽霊なのね……」
「……、サリーちゃんは、女でも幽霊でも、見境ないから怖いわ……」
「誰に似たのかしら……、多分、澄子姉さんよ……、何でも利用できるものは使うから……、ペットボトルから、ラップの芯まで……」
「……、幽霊でも、捕まえる、凄い一族ね……」

「そう言えば、奈緒ちゃん、あれから、カタリーナに毎日のように来ているわよ……、貴女に逢えるかもしれないと思って……」
「……、それはもう、違うと思うわ……、カナを好きになったのよ……」
「そうかしら……、サリーちゃんかも知れないわね……」
「ハナも、一緒に来て、中に入ればいいのに……、それも夢なんでしょう……」
「……、でも、でも、そんな刺激的な事、……、したいけど、今度は本当にサザンクロスに行けなくなりそうだから……、悔しいけど、よすわ……」
「……、残念ね……、でも、奈緒ちゃんのこと、奈緒ちゃんのお兄さんに変わってお礼を言うわ……、歩けるようにしたんでしょう……」
「……、奈緒ちゃんを見ていたら、昔の自分を見ているようだったから、いつ落ちるかもしれない絶望の淵を歩いているようなものだから……、その気持ちはよく分かったわ……、それに奈緒ちゃん、家に閉じこもっていたせいか、真っ白な肌で、すべすべなのよ……、二十歳で、あの美しさは羨ましいわね……」
「私も、そう思うわ……、それで、私、今、奈緒ちゃんの裸婦を描いているのよ……」
「知っている……、私も描きたいな……、また、未練が出てきてしまう……」
「いいじゃない……、いなさいよ……」
「本当に、あなたたち一族は、幽霊を口説くのが好きなのね……」
「サリーちゃんも、そう言って勉を口説いていたわ……」
「怖いわね……」
 その時、階段を上がってくる音がして、ドアが開いた……
「あら、裸で……、……」
「……、昔、よくハナさんと裸でいたから……、この部屋のルールなんです……、ハナさんに裸でいるように言われていたから……」
「……、そうね……、昔、よく二人で、裸でいたわね……、これ、コーヒー、テーブルに置いておくわね……」
 お母さんは、部屋を出て行った……
 ハナは、布団の中から出てきた……
「また、見られちゃったわね……」
「いいじゃない、お母さんだから……、お父さんだったら、大変よ……、興奮しちゃって……」
「そうね……、……、想像したくないけど……」
「今夜、十一時五十五分、カタリーナで、お別れよ……」
「……、今日なの……?」
「……、そう、その時、台風が真上に来るから……」

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