雪ん子うさぎ

マッシ

文字の大きさ
12 / 41

12. 帰って来た誠と雪女

しおりを挟む
(帰ってきた誠と雪女)

「……、誠さん!」
 鈴子は、背の高い男性に声をかけた。
「鈴子さんですか、……?」

 今日も天気の良い午後……
 明るい病室の窓際のベッドの横に誠は立っていた。
「はい、……」
 鈴子は返事をしたが、そこから先の言葉が見つからなかった。
「……、入院することなんて、考えてもいませんでした……」
 誠は、振り返り鈴子を見た。
「いつも、無茶なことばかりしていましたから、ちょっと季節の変わり目で、悪かったんでしょうね……」
 どうして、入院することになったのか、鈴子自身、誰を責めていいのか分からなかった。
 運命のいたずらに、よろずの神々を恨んだ。
「……、まだ若いのに、こんなことってあるんですね……」
 病気などしたことのない兄将が、病院のベッドに寝ていることが、誠には信じられなかった。
「まだ、若いから頑張って生きているんだと思います……」
 あれから半年になろうとしていた。
 鈴子は、長いようで、短いようで、気持ちの複雑さを感じていた。
「……、そうですねー、まだ若いんだから、きっと元気になりますよ!」
「そう願っています……」
 その言葉を言った鈴子は、誠を見ていなかった。
「小さいときから、僕よりも何でも上手にできた兄でした。スキーでもサッカーでも……、特にサッカーは、選手で良く試合に出ていました……」
 誠は、寝ている将に話しかけるように言った。
「そうなんですね……、私たち、一人息子がいるんです。小さいころから将さんが教えて、今、サッカーに夢中です……」
 鈴子は、前に進んで、誠の横に立って、一緒に将を見つめた。
 将は、静かに二人の会話を聴くように寝ていた。
「そうですかー、それは楽しみですね……」
「小さい頃と言えば、隣の柏木さんの所の加代さん、今、実家に帰っていますよ。仲良しだったんでしょう……?」
 鈴子は、お爺さんから聞いていた話を思い出した。
「……、……、そうなんです。よっ子とマサちゃん、それにマーちゃん、マーちゃんが僕で、よっ子が、加代さんなんです。毎日、遊んでました。それだからかもしれませんが、兄のことをお兄ちゃんって呼んだことないんですよ。家の中でも、マサちゃんで通していました。親もマサちゃん、マーちゃんって呼んでいましたので……」
「何か、微笑ましいですね……」
 鈴子は、将を見ながら笑って見せた。
「いつも、長男らしく、先頭を切って、僕やよっ子と遊んでくれました……」
「そうなんですね……」
「夏は山に登ったり、川で遊んだり、秋は枯れ枝や落ち葉を拾ってきて、焚火して焼き芋作ったり、そうそう、リンゴ園では藁を使うんです。藁で家を作ったり、かまくらも良く作りました……、家の中で遊ぶよりも、外で遊んでいたことの方が多かった気がします……」
「……、そうなんですねー、私、将さんから、子供の頃の話、聞いたこと、なかったですよ……、誠さんが、いなくなったからかもしれませんが……」
 鈴子は、それとなく、一瞬だけ誠に目線を移した。
「……多分、そうでしょうー、今も怒っていると思います!」
「……、帰ってこないものだから、忘れようとしていたのかもしれません……、十五年は長かったですねー」
「……、兄にも、ちゃんと謝りたかった……」
 すまなそうに将を見る誠……、涙が出そうな顔をしていた。
 鈴子は、それを感じて話題を変えた。
「やっぱり、世界の山にいたんですか?」
「世界の山というよりも、最初はホテルの仕事をしました、カナダ、アメリカ、スイスと転々として……。もちろん、山にも行きましたけど……」
 誠は、窓の外を見ていた。
「そう言えば、お爺さんから、スイスの絵葉書、見せてもらいました……」
「里心が付いたわけではないですが、ちょうどお客さんに日本への絵葉書の出し方を教えていたときのことでした。見本に僕の日本の住所を使って書いて教えたんです……」
「でも、その葉書一枚が、お爺さんにとって生存の証ですから、嬉しかったと思います。私に見せてくれて、弟がスイスにいると教えてくれました……」
「今、思えば、ずいぶん酷いことをしていたんですね……、もっと連絡しなければいけなかったんですね……」
 誠は、将に話しかけていた。
「それはもちろんですよ。親になって初めてわかります。子供がどこかに行ってしまうと、心配で心配で、気が休まらないんですよ。それで、帰って来て初めてほっとします。もー、大変なんですよ!」
 鈴子は、親の気持ちをお爺さんに変わって語った。
「……、心が痛いです」
「でも、どうして、ここが分かったんですか?」
 恐縮している誠が可哀そうになり、もう一度話題を変えた。
「直接、家に帰ればよかったんですが、ちょっと、あまりにも敷居が高くて、駐在所で色々聞いてきました……、親切な優しい、楽しいお巡りさんでした……」
「敷居が高いなんて……、そんなことないですよ。お父さんもお母さんも待っていますよ。帰ってきてあげてください!」
「リンゴも、お父さんとお母さんだけでは、大変ですから、私も手伝っていますが、午後はこうして病院に来ています……」
「……、すみません。こんなことになっているとは知りませんでしたので、明日から山小屋で働くことになっています」
「……、いつまでですか?」
「九月までですが、その後、ホテルでコンセルジュをやることになっています。風来坊のままでは帰れなかったので、先に仕事を決めてしまいました……」
「……、そうなんですか?」
 残念そうに、鈴子も将に話しかけるように言った。
「でも、山から下りてきたら、家の方には必ず行きます。リンゴも手伝います。兄が良くなるまでは、僕が頑張ります。そのために呼ばれたと思いますから……」
 誠は、鈴子を見て言った。
「え、呼ばれたんですか? どなたかに聞かれて……」
「そうなんです。山で吹雪にあって、もう駄目かと思ったとき、雪女にたすけられたんです。それで日本に帰るようにと、必要とされていると言われたんです」
「雪女ですか……、昔話ですね……」
「笑うかもしれませんが、本当に助けられたんですよ……」
「いえ、笑いませんよ……、私が頼んだことなので……」
 鈴子は、笑わずにさらりと言った。
「頼んだのですか? 雪女に……」
 誠は、反対に意外な鈴子の答えに驚いた。
「いえ、頼んだのは、雪ん子ですけど……」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

最後の女

蒲公英
恋愛
若すぎる妻を娶ったおっさんと、おっさんに嫁いだ若すぎる妻。夫婦らしくなるまでを、あれこれと。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...