37 / 41
37. 峠道の兎
しおりを挟む
(峠道の兎)
峠道は、もうすっかり秋色で、すすきの穂が、銀色に輝いている。
遠くの尖った山々は白く、手が届きそうなくらい、まじかに見えた。
鈴子と雪子は、病院の帰り道、峠のいつものベンチで一休みしていた。
「お母ちゃん、わたし役に立った? お母ちゃんの助けに来たのに……」
雪子は、ポットに入っていた、温かなコーヒーを二つのカップに注いだ。
そして、リュックからサンドイッチを出した。
「なにいってるのよ! 大助かりよ! 雪子がいなかったら、誠さんだって、帰ってこなかったしねー」
鈴子は、カップを取って、眼下に広がる街を眺めた。
「でも、誠さんは、きっと加代さんのところよ……」
雪子も、カップを取って、一口飲んだ。
「それでいいのよ……、誠さんが傍にいるだけで、お爺さんもお婆さんも、安心するから……」
雪子は、サンドイッチを一つ、鈴子に渡した。
「あれでいて、消息不明では、毎日心配で夜も眠れなかったと思うわ。誠さんが帰ってきてから、二人とも、ずいぶん明るくなったもの……」
鈴子は笑顔で、サンドイッチを一口食べて、カップのコーヒーを一口飲んだ。
「でも、お父さん、将さんは、相変わらずだけど、雪ん子は、病気を治せないから……」
雪子もサンドイッチを一口食べた。
「でも、天候に恵まれて、台風もよけてくれたし、桃もリンゴも、苦労なく良くできたわ。雪子の力なんでしょう……、こんな年は珍しいってお爺さんが言っていたわ……」
「そのくらいのことしかできないから……」
雪子は、鈴子の肩に頭を載せて、甘えて見せた。
「それで、十分よ、……」
「雪子こそ、楽しかったかい……?」
鈴子は、持っていたカップを置いて、雪子を抱き寄せた。
「え、えー、とても……、学校に行けてよかったわ! 友達、いっぱいできたしね……」
「そうだねー、……」
鈴子は、また遠くを見て言った。
「……、真理子が、ちょっと心配だけど……」
雪子も、眼下の街に目を向け、更にその遠くを見て呟いた。
「あの子は、大丈夫よ! 加代さんが付いているから……、それに学校にも友達出来たんでしょう?」
「そう、ちょっと変わった友達だけどねー」
「もうじき、音楽会ね……、楽しんできなさい!」
「お母ちゃんも来ればよかったのに……」
「今は、とても行けないわねー、リンゴの出荷よー、病院にも行かなければならないしねー」
鈴子は、いつも子兎が出てくる林の方に目を移した。
「兎さんも、大きくなって、もう出てこなくなっちゃって、ちょっと寂しいねー」
「また、雪が積もる頃、餌が少なくなれば出てくるよー」
「生まれたばかりの子兎がね……」
「でも、でも、でも、もうこの峠道は通らなくてもよくなる、……」
雪子は、迷いながら、そこまで言って、やめた。
「そうね……、でも時々気晴らしに来るわ! 私、ここが好きだから……」
よく晴れた、温かな日だった。
近くの山は、赤や黄色に染まっていた。
「……、雪子……、ありがとうねー、……」
鈴子は、遠くの白い山々を見て囁いて、もう一度、雪子を抱き寄せた。
峠道は、もうすっかり秋色で、すすきの穂が、銀色に輝いている。
遠くの尖った山々は白く、手が届きそうなくらい、まじかに見えた。
鈴子と雪子は、病院の帰り道、峠のいつものベンチで一休みしていた。
「お母ちゃん、わたし役に立った? お母ちゃんの助けに来たのに……」
雪子は、ポットに入っていた、温かなコーヒーを二つのカップに注いだ。
そして、リュックからサンドイッチを出した。
「なにいってるのよ! 大助かりよ! 雪子がいなかったら、誠さんだって、帰ってこなかったしねー」
鈴子は、カップを取って、眼下に広がる街を眺めた。
「でも、誠さんは、きっと加代さんのところよ……」
雪子も、カップを取って、一口飲んだ。
「それでいいのよ……、誠さんが傍にいるだけで、お爺さんもお婆さんも、安心するから……」
雪子は、サンドイッチを一つ、鈴子に渡した。
「あれでいて、消息不明では、毎日心配で夜も眠れなかったと思うわ。誠さんが帰ってきてから、二人とも、ずいぶん明るくなったもの……」
鈴子は笑顔で、サンドイッチを一口食べて、カップのコーヒーを一口飲んだ。
「でも、お父さん、将さんは、相変わらずだけど、雪ん子は、病気を治せないから……」
雪子もサンドイッチを一口食べた。
「でも、天候に恵まれて、台風もよけてくれたし、桃もリンゴも、苦労なく良くできたわ。雪子の力なんでしょう……、こんな年は珍しいってお爺さんが言っていたわ……」
「そのくらいのことしかできないから……」
雪子は、鈴子の肩に頭を載せて、甘えて見せた。
「それで、十分よ、……」
「雪子こそ、楽しかったかい……?」
鈴子は、持っていたカップを置いて、雪子を抱き寄せた。
「え、えー、とても……、学校に行けてよかったわ! 友達、いっぱいできたしね……」
「そうだねー、……」
鈴子は、また遠くを見て言った。
「……、真理子が、ちょっと心配だけど……」
雪子も、眼下の街に目を向け、更にその遠くを見て呟いた。
「あの子は、大丈夫よ! 加代さんが付いているから……、それに学校にも友達出来たんでしょう?」
「そう、ちょっと変わった友達だけどねー」
「もうじき、音楽会ね……、楽しんできなさい!」
「お母ちゃんも来ればよかったのに……」
「今は、とても行けないわねー、リンゴの出荷よー、病院にも行かなければならないしねー」
鈴子は、いつも子兎が出てくる林の方に目を移した。
「兎さんも、大きくなって、もう出てこなくなっちゃって、ちょっと寂しいねー」
「また、雪が積もる頃、餌が少なくなれば出てくるよー」
「生まれたばかりの子兎がね……」
「でも、でも、でも、もうこの峠道は通らなくてもよくなる、……」
雪子は、迷いながら、そこまで言って、やめた。
「そうね……、でも時々気晴らしに来るわ! 私、ここが好きだから……」
よく晴れた、温かな日だった。
近くの山は、赤や黄色に染まっていた。
「……、雪子……、ありがとうねー、……」
鈴子は、遠くの白い山々を見て囁いて、もう一度、雪子を抱き寄せた。
1
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる