一晩だけの関係のはずが年下美青年に溺愛仕様で抱かれて完墜ちする男の話(本編完結済み)

猫と模範囚

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(2)俺のことガキだと思ってるでしょ

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 犬の話をしていたはずなのに、なぜかルカの話題は唐突に変わった。

「月島さんは恋人いないんですか」
「……ずっと遠距離だよ。海外で仕事してるんだ」

 不意の質問に面食らいつつも答える。若干の胸の痛みを伴いながら。

 大学の同級生だった。お互い、男ははじめてだった。たぶん人生で一番の恋だった。
 何も知らないルカが素直に感嘆する。

「すごい。エリートじゃないですか」
「そう、俺にはもったいないくらいの人」

 卒業後ほどなくして彼の海外赴任が決まったとき、月島君は喜んだ。その国で仕事をするのは彼の夢だったから。
 最初の一年くらいは二人とも無理をしつつも恋を繋いだ。どうしても彼に会いたくて、月島君は英語もろくに話せないのに、何十万も払って何度も飛行機に乗った。しかしやはり続かなかった。
 激務でなかなか帰国できない彼のSNSに、女と写っている写真が増えていく。いつのまにか、誕生日もクリスマスも会わなくなった。
 そして三ヶ月前、まばらになっていた連絡がついに完全に途絶えたのだ。

 月島君の恋人は、おそらく海の向こうで女と結婚する。何も言われなくてもそれがわかってしまうくらいには、月島君は彼を知りすぎていた。

 そして月島君も、たとえすべてを捨ててでも彼を奪い返す熱意とやらを、ふりかざす勇気がない。恋は終わっていた。ただ、自分は捨てられたのだと思い知るのが恐ろしい。
 今でもときどき、月島君は大学時代の夢を見る。彼がいつも隣にいて幸せだった頃の記憶。夢の中の恋人の顔が少しずつ不鮮明になっていることに気づいていた。

「最後に会ったのは去年かな……」

 もうすぐ十一月が終わる。絶望的に長くて、遠い。手元のグラスを見つていたルカが、はっとこちらを振り向いた。

「まだ付き合ってると思ってるのは俺だけかもね」

 月島君はあえて明るく言った。自虐的なジョークに聞こえるように。
 それなのにルカは、月島君が必死に隠す寂しさを敏感に感じ取って目を伏せる。長い睫毛、憂いを帯びた表情、息を呑むほど美しかった。
 ルカに惹かれるより先に、いつも別の思惑が影を落とす。俺にルカのような美貌があったら、彼を引き止めることができただろうか。

 まだ若いルカは、焼け残った恋の残骸を見慣れていないようだ。情で薄められた怒りや諦観というものを知らない。だから、クソ真面目な顔で唇を尖らせ、可愛いことを言ってくれる。

「こんな素敵な人を置いていくなんて、ひどい彼氏だと思います」
「ぜんぜん素敵じゃないから、俺なんて」

 わずかに酔いのまわった頭に何かがひっかかった。……今、ルカは彼氏と言ったか。背筋に冷たいものが走った。

「あっ……え?」

 ガタ、と椅子を鳴らし、月島君は言葉にならない声をあげる。どうしてバレた?
 ルカは目を細め、ニヤリと口の端を上げた。不思議の国のアリスに出てくるチェシャ猫をとびきり美しく擬人化したら、きっとこの顔になる。
 ルカは音もなくグラスをテーブルに置き、笑いながら言った。

「男の人でしょう?月島さんの恋人」
「なんで……」
「なんでだろう、貴方のことずっと見てたからかな。わかっちゃいました」

 カウンターテーブルの上に呆然と投げ出された月島君の手に、ルカがしどけなく指を重ねた。テーブルに飾られた白いアザレアの造花に隠れ、他の客からは見えない完璧な角度で。このきわどいやりとりに誰も気づいていない。
 ……アザレアのもうひとつの花言葉は、恋の喜び。月島君がとうの昔に忘れたものだった。
 月島君の手が震えているのを知り、ルカはうっとりと舌なめずりする。

「月島さん、俺のことガキだと思ってるでしょ。でも違うから。なんでもできる大人ですよ」

 なんでも、と妙に色気のある含みを持たせて彼は言う。
 間近で見たルカの瞳は冬空のようなグレイッシュブルーだった。ルカが長身を折り曲げ、月島君の耳元でささやく。

「そのひどい彼氏に、早く正式にフラれてください。そうしたら絶対にここに来て。俺が慰めてあげる」




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