一晩だけの関係のはずが年下美青年に溺愛仕様で抱かれて完墜ちする男の話(本編完結済み)

猫と模範囚

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※(5)俺が抱くほうでいい?

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 一人では越えることができない夜をやり過ごすため。情を交わさない雑なセックスをするのだと思っていた。

 あの後すぐ、ルカは月島君を一人暮らしのマンションに連れ帰った。
 どんなふうに彼の部屋のベッドまでたどり着いたのか思い出せない。涙で歪む視界に意識まで溺れそうだった。手を引いて導いてくれるルカの、白くしなやかな指に欲情したことだけ覚えている。

 灯りもつけずに寝室へとなだれ込み、激しく唇を交わしながら服を脱がされた。この最悪な夜から逃がしてもらえる期待と背徳に肌が粟立つ。
 スーツを脱いだルカは少年の面影が強くなる。ルカの裸体の美しさが、歳の離れた男と寝る罪悪感と混じり合い、まるで媚薬のように作用した。
 月島君は呪文のように頭の中で繰り返す。一晩だけ、一晩だけ助けてもらったら、この子の前から姿を消す。もう二度と店に行かない。だから今だけ許してほしい。

「……俺が抱くほうでいい?」

 据わった目をしたルカが尋ねる。一応質問の形はとっているが、ほとんど彼の中では決定事項のようだった。
 月島君は無言で頷く。そしてルカに気づかれないように苦笑した。そんなことを直前に確認するくらい、二人はお互いを知らないのだ。
 月島君が最後に抱かれたのはいつだったか。久々に男を受け入れるのはつらいだろう。そう思ったから、月島君はルカの誘いに乗った。心の奥にある本物の痛みに追いつかれるのが恐ろしくて、肉体の苦痛でかき消したかった。

 それなのに、ルカは異常なほど優しい。

 快感に蕩けた頭が警告している。違う、と。これは月島君が求めていた夜ではない。
 ルカに両手を拘束されながら、月島君はルカのキスの仕方を覚えさせられていた。拘束、と呼ぶには甘すぎる。月島君の腕をおさえるルカの手は、簡単に振り払うことができる柔らかな力加減でしかない。
 指と指を絡め合い、月島君が快感に指を震わせると、宥めるように手を握り返してくれる。深いくちづけの最中、ずっと彼のグレイッシュブルーの瞳を見つめていた。

「は、あっ……んあっ……」

 身体の奥、ルカと繋がっている箇所が熱くてたまらない。
 月島君はそこで快感を得る素質に乏しいほうだと思っていた。それなのに今、自分自身すら知らなかった淫らな姿を晒している。
 覚悟していたはずの痛みはいくら待っても訪れなかった。ルカは丁寧すぎるくらいじっくりと時間をかけて月島君の身体を開いた。全身を愛撫され、待ちきれなくて月島君のほうからルカをねだるはめになるほどに。

 つらくない?と何度も訊かれ、月島君はその度に首を横に振る。いつのまにかルカの問いが変わった。

「気持ちいい?」

 月島君は答えずに真横を向く。汗ばんで赤く染まった首筋があらわになった。
 ふ、とルカが吐息だけで笑う。この身体が彼との行為を悦んでいることは、隠そうとしてもバレていた。
 ルカは月島君が小さく叫んだり腰を跳ねさせたりする度に、嬉しそうに同じ言葉を繰り返す。

「可愛い」

 一晩だけの乾いた関係のはずなのに、恋人みたいなセックスをしている。こんなのはいやだった。愛されていると錯覚してしまう。

 すでに二度目の交わりの最中だった。気が狂いそうなほど執拗な丁重さで身体を暴かれぐったりする月島君を、ルカはいつまでも離してくれない。

 実は最初の一度目で、ルカは躾を終えていた。月島君が顔を隠そうとしたり、声を押し殺そうとしたり、弱みを見せまいとする悪あがきを、ルカは優しく阻み続ける。
 ルカは月島君が余裕を失い素直に鳴くようになるまで、ひたすら甘やかに責めたてた。ぐしゃぐしゃに乱れたシーツには、月島君が想定外の快感に戸惑って暴れた痕跡が残っている。

「月島さん、名前教えてください」

 月島君を揺さぶりながら、ルカは甘えた声を出す。
 彼には苗字しか教えていない。明日にはルカの前から消える予定なので、それ以上踏み込まれたくなかった。
 それなのに、ルカに腰の動きを止められ、尋問のように焦らされる。月島君は無意識に腰を揺すって続きを求めていた。ルカはそれを見下ろし、薄く笑う。

「ねぇ教えて」
「あ、葵……」

 月島君はうわごとのように白状した。
 ルカは月島君の名前を大切そうに口にする。

「葵さん。綺麗な名前、似合ってる」

 ゆるゆると動きを再開してもらえる。
 ルカは数秒焦らされただけで墜ちた月島君が可愛くてたまらないらしい。褒美を与えるつもりなのか、良いところばかり責められる。月島君ははしたなく背をのけぞらせ嬌声をあげた。
 ルカに名前を呼ばれると、少しずつ自分が弱くなっていく気がして恐ろしい。孤独な大人でいることを受け入れていた鎧を剥がされるかのような。

「ずっと教えてくれなかったけど、葵さんは何歳なんですか」
「あっ、や、あぁっ……にじゅうなな……っ」
「なぁんだ。俺と七個しか違わないじゃん」

 やはり二十歳になったばかりのルカは、二十代の七年がいかに長いかを知らぬ子供だった。それが心地良い。月島君が本気の恋を手に入れ、そして失った七年を、その可愛らしい顔で軽やかに笑い飛ばしてほしい。

 ルカには秘密にしたかったけど、月島君が後ろだけで達したのは今夜がはじめてだった。
 最初にそれが訪れたとき、月島君は未踏の衝撃に耐えきれず、いやだ、こわい、とルカに縋ってしまった。それでルカも察したらしい。おもいがけず、はじめて、を奪ってしまったと知ったルカがどんな表情だったのか、気まずくて見ることができなかった。

「こ、これ、なに……やだ、来てる、ヒッ、やだぁっ」
「葵さんはなんでそんなに可愛いの?逃げないで、お願い、気持ちよくなってるところもっと見せて」

 我を忘れて乱れる恐怖を、月島君が快感と認めるまで、ルカは可愛い可愛いと甘やかしながらも徹底的に教え込んだ。

「あぁッ、あ゛、っあ……なんで……ッ」

 月島君は絶頂に悶え、なんで、と泣いた。なんで人生で一番の恋をしていた相手との夜より、一夜かぎりの男とするセックスのほうが気持ちいいのかわからなくて、月島君は泣きながら喘いだ。
 ルカは身体だけでなく心すら彼の下から逃がしてくれない。月島君が海の向こうで自分を捨てた男の顔を思い出そうとすると、ルカはかならずこう言った。

「葵さん、俺のこと見て」

 激しく抱かれ、何も考えられなくなる。今夜は悲しいこと考えなくていいよ、と宣言した通りに月島君をねじ伏せてくれたルカの、誠実な残酷。
 感情を快感で塗りつぶされる不条理が、まるで蜜のように理性を絡めとる。月島君は自分の身体の薄情さに打ちのめされながらも確かに救われていた。




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