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※(6)本当に一晩だけで逃げられると思ってる?
しおりを挟むどのくらい時間が経っただろうか。ルカはゆっくりと腰を動かし、舐めるような執拗さで月島君を貪る。されるがままに身を委ねながら虚ろな目で喘ぐ月島君を見つめ、彼が言った。
「葵さんは本当に一晩だけで逃げられると思ってる?」
「……ルカ君?」
この夜を最後に彼のもとを去ろうとしている月島君の心を見透かした発言に、背筋が寒くなる。
困惑する月島君をよそに、ルカは愛おしげに目を細める。
「気づいてなかったの?遊んでるなんて嘘だよ。俺、ずっと葵さんのこと狙ってたのに」
指を絡め合った両手の拘束はあいかわらず柔らかい。いつでも振り払えると思っていたのに、身体の奥で与えられる愉悦の熱を手放せなかった。
自分への恋心を打ち明けられている、と気づいた途端、突き落とされるような浮遊感に見舞われる。最初、月島君はそれが性的な絶頂だということに気づかなかった。
「ひあっ、あ゛っ……ルカ君、待って……や、あぁっ」
「葵さんが好きです。俺だけのものになって」
大事な話をされているのに、ちゃんと断らなければいけないのに、ルカが動くのをやめてくれない。少しずつ激しさを増していた。
好きと言われて、それに応えるように鳴かされる。月島君がいやいやと首を横に振っても、ルカの告白は止まらなかった。
「綺麗な人だなって、ずっと思ってた。はじめて葵さんが店に来たときから。俺はずっとこのときを待ってたんですよ」
怯える仔犬をあやすような、ひどく優しい声色だった。
「……でも、こんなに可愛い人だなんて知らなかった」
月島君が乱れる姿を見下ろし、ルカが恍惚とした表情でつぶやく。
「ときどき店のお客さんから葵さんのこと訊かれるよ。恋人いるのかとか、あきらかに葵さん狙いの質問。ふふっ、ごめんね。葵さんは俺と付き合ってるって嘘ついて、全員失恋させちゃった」
「あっ、ああ゛っ……なに、それ……やぁっ」
ルカの恋人。俺はあの店の中で、そんなふうに見られていたのか。
恋人という言葉は、月島君の心の中では諦めと惰性と孤独の象徴に近かった。だけどルカの喉を通すと、痛いほど切実な甘さを伴って響く。
ルカは逃げようとする月島君の理性を肉体の愉悦でなぎ倒しながら言葉を紡いだ。
「葵さんが恋に疲れちゃったの、知ってます。でも俺は貴方に恋してるんです。だめですか」
どんな手段を使ってでも相手を自分のものにしたい。生涯で一番と思える恋愛のさなかですら、月島君がついぞ手にすることができなかった恋の狂気が、この美しい子には宿っている。闇を見せられているはずなのに眩しかった。泣きながら彼を見つめていた。
ルカの冬空の色をした瞳がふと歪む。幼くて凶暴で、灼けるような陶酔を伴う歪みだった。
「自分でもわかんないくらい好きすぎて苦しい。他の誰にも渡したくない。俺に葵さんの人生を奪わせてください」
一晩だけと騙して月島君のすべてを手に入れようとするルカの姿は、ぞっとするほど麗しかった。
何度抱かれたのかわからない。ルカの白い花のようにしなやかな指に涙を拭われながら、ルカから与えられる甘美な責め苦に泣かされ続けた。
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