底辺男が十歳下の溺愛執着系イケメンホストに買われる話(本編完結済み)

猫と模範囚

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※(12)性感帯ザコいくせに強情なの、ほんと最高




 そこ、に指を入れられるのは、自尊心を傷つけられる苦痛に満ちた行為だと思っていた。だからどうしても嫌だった。
 それなのに青山君の身体は、澪の細くしなやかな指を存外あっさりと受け入れた。

「痛かったら言ってね」

 青山君は澪のほうを見ずにうなずく。
 痛みはそれほどでもないが、行為の際の体勢が恥ずかしくていたたまれない。

「本当は横とか後ろからのほうが楽なんだけど、ごめんね。圭吾さんの顔見ながらしたいから」

 下に枕を敷いて腰を高く掲げ、仰向けで足を大きく開かされ、そこに澪の視線が注がれる。
 とっさに足を閉じようとしたけど澪の手に阻まれた。青山君の痩せた太ももに、澪の指がわずかに沈む。澪が生唾を飲みこむ気配がする。

 ベッドサイドのテーブルには、何種類かのアロマオイルの瓶の影に隠すように、それ専用のローションもまぎれていた。
 あれはいつから置いてあったのだろう。……澪はいつからこれを計画していたのだろう。

「圭吾さん、口開けて」

 耳もとに唇を寄せながら命令され、青山君は呼吸をひきつらせながら澪の指を強く締めつけてしまう。

「かわい……」

 澪が喉の奥で低く笑う。くやしさと羞恥で目の前がチカチカする。
 ためらいながら口を開けると、すぐに舌を入れられた。柔らかくぬるりとした舌の感触。背中から後頭部までぞくぞくと快感が這い上がる。

 澪の舌は少し冷たかった。というか、青山君の体温が高すぎるのだ。焦らされすぎて感じやすくなっている自分の身体を嫌悪した。
 口内を舐めまわされる刺激で中が締まる。澪の指がそれを楽しんでいるのがわかって、青山君はぐしゃりとシーツを握りしめる。

 上にも下にも澪が入っている。
 たかが指一本と舌だけ。これ以上は、最後の一線は絶対許さないから、まだ俺は大丈夫。
 むなしい意地だったけど、そう思わないと己を保っていられない。体内を犯されるだけではなく、心の境界線を侵される行為でもあった。

 二本目の指は苦しくて受け入れるのに時間がかかった。
 その間も澪はずっと髪をなでたりキスをしたり、身体が慣れるまで待っていてくれる。でも、やめてはくれない。
 体内のある一点に澪の指が触れたとき、痛みでも違和感でもない、身体の奥が疼くような奇妙な感覚があった。

「ここ、変な感じする?」

 極力反応を見せないようにしていたのに、澪は青山君の変化にすぐ気づいた。頭の中まで覗かれている気分。
 こんなことをされているのに、青山君のものはまったく萎えずに硬いままだった。

「ずっと焦らされてつらかったもんね」

 澪は刺激を欲しがっている下半身を無視して、また胸の先端を指でつまむ。
 ローションまみれの指のあいだを突起がぬるぬるとすべって、なで転がされているだけで身悶えするほど気持ちよかった。

「あっ、あっ……ッ……んっ……」

 そうしているあいだも、澪のもう片方の手はずっと青山君の中に居座っている。
 中にある、あの場所。押されると少し痛かったけど、やわやわとそこに指を置かれるだけの微弱な愛撫は気持ちよかった。

 金をもらって渋々行為に及んでいるはずなのに。
 なんで気持ちよくなってるんだよ。
 自分の身体に裏切られたような心地がした。

 澪の指の動きは繊細で優しいけど、青山君の身体の内部の感触を味わおうとする貪欲さを隠しきれていない。
 入り口の抵抗、中の熱さ、締めつけのきつさ、粘膜の手触り。知られたくなかったことをぜんぶ知られた。
 どんなに心を閉ざそうとしても、そこで得る快感をつきつけられ、無理やり応えさせられる。

「……はぁっ、んっ……んうっ」

 そこで感じていることはすでに澪にもバレていた。
 青山君の感度の良さは、澪にとっても予想外だったらしい。澪のわずかな驚きと、それを数倍上回る高揚が目つきから伝わってくる。
 この、青山君にとっては最悪な、澪にとっては最高にラッキーな偶然を、彼が見逃してくれるはずはなかった。

「……イかせられるかも」

 ひとりごとのように澪がつぶやく。
 青山君はいやいやと首を横に振った。

「今日は慣れてもらうだけのつもりだったんだけど……少しだけ頑張ってみてもいい?」

 澪が可愛らしい笑顔で小首をかしげる。
 こちらの返事も待たずに澪が指を動かしはじめた。青山君の反応が一番良かった触れ方で、一定のリズムで中を刺激してくる。

「……ッ、やっ、あっ、あっ……」
「ねぇ、圭吾さん腰揺れちゃってる。なんでそんなに可愛いの?」

 弱い快感しか受け取れなかったそこは、いつのまにかもっと強い刺激を欲して澪の指に絡みついていた。
 疼いてたまらないところを何度も柔らかく押し潰され、気が狂いそうになる。

 青山君はとうとう両手で自分の口をふさいだ。
 澪はその様子を見下ろし、ニヤリと犬歯を見せる。

 青山君が口をふさぐのは、声を我慢できないくらい感じていることを澪に知らせる合図でしかなかった。

「やっぱり前も触んないと出せないかな」

 澪の言う通り、あと一歩のところでたどり着けない。

「でもごめんねぇ。俺、腕二本しかなくってぇ」

 もう片方の手で胸の突起を弄びながら、澪がふざけた口調で言った。

「圭吾さん、自分でしごいていいよ」

 俺の目の前でそんないやらしいことができるものなら、やってみろ。澪は言外にそう告げていた。

 青山君は激しく首を横に振る。目尻から涙がこぼれた。
 澪が吐息混じりに笑う。

「性感帯ザコいくせに強情なの、ほんと最高」

 体内でコリコリと主張しはじめたその場所を、二本の指で挟むように揉みしだかれ、手でおさえていても声が漏れる。

「あ゛っ……ッ……ッは……んんっ……うぅッ……」

 青山君は背骨が軋みそうなほど激しく上体をのけぞらせた。
 快感を少しでも逃がそうとシーツを乱しながらのたうつ。どんなに暴れても、ちゅくちゅくと中を責めるいやらしい音は止まらなかった。

「ねぇ、今しごいたらめちゃくちゃ気持ちいいよ。見せてよ」

 澪は煽ったり甘やかしたり、青山君の理性を溶かそうと翻弄してくる。

 早く終われ、と祈っていた。
 自分が望んでいる、終わり、とは。行為の中断なのか。それとも絶頂に導いてもらうことなのか。
 いつしか良いところを澪の指に擦りつけるようにして揺れる自身の腰の動きが、すべてを物語っていた。

 青山君の醜態を、澪は睫毛ひとつ揺らさずじっと観察している。
 全身を澪の視線に舐められているかのようだった。

 ずっとローションまみれの指に遊ばれ快楽漬けにされていた胸の尖りは、もはやどんな雑な愛撫にも喜ぶセックスの奴隷みたいな感度に仕込まれていた。
 だけど澪の手つきは丁重すぎてもはや冷酷の域である。一番敏感な先端を円を描くようになでられ続け、青山君はすすり泣くように声を震わせる。

「んぅッ……んっ……うううぅ……ふっ……ッ」

 イきたい。出したい。

 青山君は最後の理性をふりしぼって下半身に手が伸びそうになるのをこらえていた。
 それなのに、澪は無邪気に笑いながら逃げ道をなくすようなことを言う。

「頑張って我慢してるみたいだけど、俺の指だけでイこうとしてるのもかなりエロいよ」

 羞恥と快感にいたぶられながら、この行為の意味を考えていた。
 中と胸だけを愛撫される。女みたいに可愛がられている。それを悦ぶように躾けられている。
 ……いつか澪を受け入れるための器へと、身体を作り変えられている。

 澪のものを入れられる。

 想像しただけで腹の奥がざわざわと熱く疼いた。
 服越しに何度も押し当てられたことがある澪のもの。あれで中をぎっちりと満たされながら弱いところを何度も擦りあげられる。
 絶対にいやだ。そう思おうとしても、頭の中のどこを探しても嫌悪感が見つからない。考えるだけで勝手に中が締まって小刻みに収縮をはじめようとする。なに、これ……。
 澪は、未知の感覚にパニックになる青山君を宥めるように優しく告げる。
 
「イっていいよ」

 ほとんど命令だった。
 触れられることなく欲望を吐き出した青山君を見下ろし、澪が可愛らしく舌なめずりしていた。ミルクをもらった仔猫みたいに。

 放出する絶頂感に脳を揺らされながら、茫然と天井を見つめる。
 なんで、前、触ってないのに……。指だけで、澪のを入れられる想像だけで出してしまった。

 ゆっくりと指が引き抜かれる。それだけの刺激すら青山君を鳴かせるには充分だった。
 青山君の甘ったるい声を聞いて、澪の目がいっそう暗い情欲に染まる。
 澪は今夜も欲望を遂げていない。青山君はもつれる舌で懇願する。

「澪、も、やだ……」

 数秒の沈黙。視線が絡む。泣き濡れた青山君と、獲物を見る目をした澪。

「……うん」

 ひと呼吸の後、静かにうなずく澪の声は嵐の後の凪のようだった。

 余韻がさめずけだるい身体に、澪がしなだれかかってくる。結局一枚も脱がなかった澪の服の乾いた肌触り。
 澪は青山君の額や鼻先、涙の跡がある頬に軽く唇を落とす。青山君が前回ほどひどく取り乱していないことを確認すると、澪はほっと表情を和らげた。
 最後に慈しむように唇にキスされる。そこにはもう性的なニュアンスはない。 

 いつもの可愛い澪に戻った。澪はなぜか少し不安そうに目を泳がせている。
 青山君の汗だくになった首筋に顔を埋め、澪は絞り出すような声で言った。

「すみませんでした。叱られたくないです……」

 やりすぎた自覚はあるらしい。

 一応、澪は青山君の許した範囲のことしかしていなかった。いやだと言った後はやめてくれたし。約束は守っている。
 それでもこの、このクソガキめ、と思う気持ちはなんだろう。
 だけどどう叱ったらいいのかわからなかった。

 怖いくらい気持ちよくてつらかったから反省してください、なんて言えるはずがない。

 舌打ちしようとしたが、笑みの形に歪んだ口ではうまくいかなかった。さっきまで我が物顔で蹂躙してきたくせに、急に弱気になりやがって。
 青山君は手の甲で涙をぬぐう。もう片方の手で澪の頭をなでてやった。

「お前、ほんっとえげつないよな……」

 身体がだるくてたまらなかったけど、澪の後頭部の髪をつかんでキスしてやる。

「圭吾さん大好き」

 苦しいくらい強く抱きしめられた。
 青山君の頬に唇を寄せながら澪が言う。

「お金、すぐ振り込むから」
「……うん」

 澪の背中に回そうとしていた手を静かにシーツの上に戻した。
 青山君はやんわりと澪を押しのけ、寝そべっていた体勢を仰向けから横向きに変える。足の間のローションの濡れた感触が生々しい。

「……圭吾さん?」
「スマホ向こうだから。……もう疲れたし。金振り込むの、今度会ったときでいいよ」

 澪に背を向けながら言う。自分でも驚くほど冷たい声だった。
 急に機嫌が悪くなった青山君に、澪がうろたえる。

「……それなら今、現金であるだけでも渡す」

 それが自分の唯一の存在価値だから、とでも言いたげに。卑屈な澪を見たくなかった。

 姿が見えなくても、澪が不安そうにしているのがわかる。
 青山君は目を閉じて身体を丸める。澪がそっと毛布をかけてくれた。

「ごめん、圭吾さん。やっぱ俺、今日もやりすぎた。お金、奨学金の分よりももっとたくさん払うから。なんでもするから許して」
「今日はもう金の話したくない」

 俺たちは金の話をするしかないのに。

 自分は澪に何を望んでいるのだろう。
 金のために身体を開いたはずなのに。澪に金の話をされるのが悲しかった。

「圭吾さん、お願い。話聞いて……」

 背を向けて悲痛な声を無視した。明確な拒絶の気配に澪が怯えている。
 しばらくの沈黙の後、澪は静かに話しはじめた。

「……じゃあさ、俺が本当に話したいこと、話してもいい?」

 芯のある穏やかな口調だった。澪が何を言う気なのかわかってしまう。

 言わせてはいけない。

 なのに青山君は心のどこかで、その言葉を待ちわびている。そんな自分に対して、ほとんど憎しみに近い拒否感があった。
 澪がこれから言うことに、俺は絶対にうなずいてはいけない。

「圭吾さん、好き。愛してるよ。ずっと俺のそばにいて」

 身体ではなく、心の奥底に隠していた最後の一線。
 ねぇ、圭吾さん、と。澪が震える声でラインを超えた。

「俺の恋人になってください」








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次回更新は8月25日(火)の21:00~22:00です
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