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#04
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「そういえば、今日バイトは?」
鞄に教科書を詰め込む私に向かって、真季が問う。
普段から、バイトを理由にクラスの数人で集まるカラオケや、学校行事の打ち上げをパスしてきたから気になって当然だろう。
「夜だから気にしなくて大丈夫だよ。」
「そっか。なら気にせず楽しめるね!」
「うん。」
私の返答に真季は嬉しそうに目を輝かせた。
本当はほとんど夜20時を過ぎてのバイトばかり。
なるべく人が多いのを避けたくて、人数の足りないと言われた夜にばかりシフトを詰め込んでいる。
居酒屋の裏方だ。
店内へ出ることはなく、裏でお酒の準備をするだけの仕事。
店長が親の友達ということで、高校生なのを知っていても雇ってくれた。居酒屋に夜来る友達なんて居ないから、誰にも知られることは無い。
「行こ!」
荷物を持ったのを確認し、真季に手を引かれる形で教室を出た。
嬉しそうに跳ねるツインテールを追いかける。
「いらっしゃいませ~。2名様ですか?」
わくわくした気持ちに、胸を弾ませ、なかなか声の出ない私の代わりに、真季が慣れたように「はい。」答えた。
ツインテールを追いかけていたらいつの間にかカフェに着いていた。道中、学校の先生の癖や授業への一方的な文句を言いながら、笑っていたらあっという間だった。
(友達と学校帰りに寄り道するのがこんなに楽しいだなんて…)
カフェの外観も店員さんの制服も、とても可愛い。
ブラウンベースの壁に、いちごチョコのような屋根。濃いめのチョコレートカラーのドアに、アンティークなベル。
制服は細かいところにまで使われたレースにフリル。切り返しにまで施された装飾。たっぷりのチュールとレースを使い、膨らませたスカートに、大きなバックリボン。
(ああ…真季ちゃんに着てもらいたい…)
ついつい友達相手に妄想してしまうオタクのサガ。
でもそれがどうしようもなく楽しい。頬が緩まないように気をつける。
「空いてるお席へどうぞ~。」
制服に見とれていると、店員さんはニコッと笑いながら席に案内してくれた。
初めてはいるカフェのオシャレさに圧倒されてしまう。つい、キョロキョロと店内を見渡す私に、真季は嬉しそうに ふふっ と笑った。
見渡してしまったおかげで、私の目にする空間は赤い糸で張り巡らされてしまった…。真季に変に思われないように、そっと、避けながら歩く。
入口から案内してくれた店員さんは席までくると「こちらの席へどうぞ。」といい、別のルートから入口方面へ戻る。
その後ろから、すかさず別の店員さんがやってきて、水とメニューを机へ差し出した。
「ご注文お決まりになりましたら……げ。」
メニューを差し出した店員は、私と真季の顔を見ると、動きを止め、あからさまに嫌な顔をする。
「逢田じゃん。なにやってんの。」
真季の拍子抜けしたような明るい声に、その人物が昼間、教室で会ったばかりの逢田 蒼真だということにやっと気がついた。
確かに、指に赤い糸はない。
(制服が違うだけでこんなに印象変わる?)
「…バイトだけど。高谷こそなにやってんの。」
「ちょっと、それ客に向かって言う?」
嫌そうな顔のまま、逢田は真季に向かって問う。
その言葉に真季はわざと、膨れ面になった。ムスッとした真季の顔も可愛い。真季は私と違い、表情をコロコロと変える。感情表現が豊かなのはとても羨ましかった。
2人が本気で嫌なわけじゃないのが伝わり、仲がいいのが分かり、ほのぼのとした空気を感じて、思わず笑ってしまう。
「ごめんごめん。…じゃ、水都ちゃんゆっくりしてってね。」
私が笑ったのを見て、逢田はパッと表情を変えた。
所謂、営業スマイルというやつだろうか。
真季に向けたものとはまた違う、優しい言葉にホッとする自分がいる。
「絶対逢田、水都に気あるよね。」
逢田が去ったのを確認し、真季が机を挟んで顔を近付けてきた。コソコソと内緒話をする真季の顔は何かを企んでいるように見えた。
「えー、そんなことないよ。今日初めて話したんだし。」
「いやいや!だってさっきの態度見た?私との差、ありすぎじゃない?」
ブンブンと手を振って否定する私に、真季は同じく手を横に振る。
納得していないようだ。
「それはもう関わってきた時間の差じゃん?」
「そうかなー。絶対水都のこと気になってると思うんだけど。」
口を尖らせ、ブツブツと呟きながら、真季はメニュー表に目を落とす。
(逢田くんが私に気があるなんてありえないよ…。)
私の目が、証明している。
私の手にも、逢田の手にも、赤い糸は存在しない。それはもう、今まで見てきた経験上、繋がることは無いのだ。
でもそのことを真季に話す訳にも行かず、私は真季の真似をしてメニュー表に目を落とした。
あまり馴染みのない、キラキラとした商品が広がるメニュー表。どこから見たらいいのか、迷ってしまう。数枚にわたり続くメニューに、またわくわくする。
コーヒー、紅茶、アイスにパフェ。
極当たり前のものなのはわかっている。口にしたことがないわけでもない。ただそれは、コンビニやスーパーで手に入るものであって、人と集まるカフェへ初めてまともに入った私には別世界のものに見えた。
テレビの世界じゃない。
現実に、本当に、カフェに足を踏み入れたのだ。
「あ!私これにする。水都は決まった?」
鞄に教科書を詰め込む私に向かって、真季が問う。
普段から、バイトを理由にクラスの数人で集まるカラオケや、学校行事の打ち上げをパスしてきたから気になって当然だろう。
「夜だから気にしなくて大丈夫だよ。」
「そっか。なら気にせず楽しめるね!」
「うん。」
私の返答に真季は嬉しそうに目を輝かせた。
本当はほとんど夜20時を過ぎてのバイトばかり。
なるべく人が多いのを避けたくて、人数の足りないと言われた夜にばかりシフトを詰め込んでいる。
居酒屋の裏方だ。
店内へ出ることはなく、裏でお酒の準備をするだけの仕事。
店長が親の友達ということで、高校生なのを知っていても雇ってくれた。居酒屋に夜来る友達なんて居ないから、誰にも知られることは無い。
「行こ!」
荷物を持ったのを確認し、真季に手を引かれる形で教室を出た。
嬉しそうに跳ねるツインテールを追いかける。
「いらっしゃいませ~。2名様ですか?」
わくわくした気持ちに、胸を弾ませ、なかなか声の出ない私の代わりに、真季が慣れたように「はい。」答えた。
ツインテールを追いかけていたらいつの間にかカフェに着いていた。道中、学校の先生の癖や授業への一方的な文句を言いながら、笑っていたらあっという間だった。
(友達と学校帰りに寄り道するのがこんなに楽しいだなんて…)
カフェの外観も店員さんの制服も、とても可愛い。
ブラウンベースの壁に、いちごチョコのような屋根。濃いめのチョコレートカラーのドアに、アンティークなベル。
制服は細かいところにまで使われたレースにフリル。切り返しにまで施された装飾。たっぷりのチュールとレースを使い、膨らませたスカートに、大きなバックリボン。
(ああ…真季ちゃんに着てもらいたい…)
ついつい友達相手に妄想してしまうオタクのサガ。
でもそれがどうしようもなく楽しい。頬が緩まないように気をつける。
「空いてるお席へどうぞ~。」
制服に見とれていると、店員さんはニコッと笑いながら席に案内してくれた。
初めてはいるカフェのオシャレさに圧倒されてしまう。つい、キョロキョロと店内を見渡す私に、真季は嬉しそうに ふふっ と笑った。
見渡してしまったおかげで、私の目にする空間は赤い糸で張り巡らされてしまった…。真季に変に思われないように、そっと、避けながら歩く。
入口から案内してくれた店員さんは席までくると「こちらの席へどうぞ。」といい、別のルートから入口方面へ戻る。
その後ろから、すかさず別の店員さんがやってきて、水とメニューを机へ差し出した。
「ご注文お決まりになりましたら……げ。」
メニューを差し出した店員は、私と真季の顔を見ると、動きを止め、あからさまに嫌な顔をする。
「逢田じゃん。なにやってんの。」
真季の拍子抜けしたような明るい声に、その人物が昼間、教室で会ったばかりの逢田 蒼真だということにやっと気がついた。
確かに、指に赤い糸はない。
(制服が違うだけでこんなに印象変わる?)
「…バイトだけど。高谷こそなにやってんの。」
「ちょっと、それ客に向かって言う?」
嫌そうな顔のまま、逢田は真季に向かって問う。
その言葉に真季はわざと、膨れ面になった。ムスッとした真季の顔も可愛い。真季は私と違い、表情をコロコロと変える。感情表現が豊かなのはとても羨ましかった。
2人が本気で嫌なわけじゃないのが伝わり、仲がいいのが分かり、ほのぼのとした空気を感じて、思わず笑ってしまう。
「ごめんごめん。…じゃ、水都ちゃんゆっくりしてってね。」
私が笑ったのを見て、逢田はパッと表情を変えた。
所謂、営業スマイルというやつだろうか。
真季に向けたものとはまた違う、優しい言葉にホッとする自分がいる。
「絶対逢田、水都に気あるよね。」
逢田が去ったのを確認し、真季が机を挟んで顔を近付けてきた。コソコソと内緒話をする真季の顔は何かを企んでいるように見えた。
「えー、そんなことないよ。今日初めて話したんだし。」
「いやいや!だってさっきの態度見た?私との差、ありすぎじゃない?」
ブンブンと手を振って否定する私に、真季は同じく手を横に振る。
納得していないようだ。
「それはもう関わってきた時間の差じゃん?」
「そうかなー。絶対水都のこと気になってると思うんだけど。」
口を尖らせ、ブツブツと呟きながら、真季はメニュー表に目を落とす。
(逢田くんが私に気があるなんてありえないよ…。)
私の目が、証明している。
私の手にも、逢田の手にも、赤い糸は存在しない。それはもう、今まで見てきた経験上、繋がることは無いのだ。
でもそのことを真季に話す訳にも行かず、私は真季の真似をしてメニュー表に目を落とした。
あまり馴染みのない、キラキラとした商品が広がるメニュー表。どこから見たらいいのか、迷ってしまう。数枚にわたり続くメニューに、またわくわくする。
コーヒー、紅茶、アイスにパフェ。
極当たり前のものなのはわかっている。口にしたことがないわけでもない。ただそれは、コンビニやスーパーで手に入るものであって、人と集まるカフェへ初めてまともに入った私には別世界のものに見えた。
テレビの世界じゃない。
現実に、本当に、カフェに足を踏み入れたのだ。
「あ!私これにする。水都は決まった?」
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