私は僕のメリーさん

兎都ひなた

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#01

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「ごめんね。」

そう言い、目の前の幼馴染はその細くしなやかな手で首を押さえた。幼馴染の全体重をかけて、押さえたその指は、徐々に首にめり込んでくる。

圧に負けて意識が遠のくまで、とても苦しく、とても長く感じたが、実際のところほんの数秒の出来事だっただろう。

---

「ねえねえ、メリーさんって知ってる?」

ふわふわとした髪が揺れる。
彼女の名前は池谷 茉祐子。(イケヤ・マユコ)

噂大好きなクラスメイトだ。常に新しい話題を持ってくることから、彼女の周りを人が囲むんでいることは少なくない。

「あの歌の羊?」

ぶっきらぼうな声が飛ぶ。
彼の名前は佐々本 奈和。(ササモト・ナオ)

サッカーが得意で指定校推薦を狙っていると聞いたことがある。茉祐子とは正反対に、人当たりがいい方ではなく、反応も薄く、あまり笑わないためか周りから怖がられ、遠巻きに見られることの多いクラスメイトだ。

「違うよ。羊を飼ってる方でしょ。」

濱咲 香瑠。(ハマサキ・カオル)

噂話をしているところに必ずと言っていいほど現れる、地獄耳。自分の意見よりも先に、噂を信じてしまうタイプの人間だ。

「違う違う。そのメリーさんじゃなくてさ。幸せをくれるメリーさん。」

ニマッと茉祐子は満足気に笑った。
誰も知らない情報を手にしているという優越感に浸っているのだ。ぷっくりと盛り上がる頬は可愛く、また幼さを感じさせる。

幸せをくれるメリーさん。

その噂を聞いたのは、つい昨日の事だった。

何をしてくれるかはよく知らない。ただ、メリーさんから言われたことは絶対で、それを聞きいれられない人は消されてしまうらしい。

「ねえ、そのメリーさんは何をしてくれるの?」

「んー、そこまでは知らないかな。でも、メリーさんの言うこと聞いたら、何でもしてくれるよ。きっと。」

「んな曖昧な…。」

茉祐子の返答に満足しなかったのか、奈和は吐き捨てるように言うと、そっぽを向いた。

その奈和の目の前から、ツカツカと教室に入ってくる人影。その人影は、奈和の横を通り過ぎると、茉祐子の前で立ち止まった。

「何の話?」

「駿!メリーさんの話してたの。駿は知ってる?」

森久保 駿也。(モリクボ・シュンヤ)
同じ日に、同じ病院で産まれ、そこで親同士が意気投合。なんの運命か、家まで近所だったことから、しょっちゅう家を行き来している、茉祐子の幼馴染だ。

サラサラと櫛通りの良い髪が風に靡く。

「んー、俺は知らないかな。うちの親なら何か知ってるかもよ。」

「森久保のお母さん、占い師だもんね。今日の占いも見てきたよ~!」

香瑠が目を輝かせながら言う。今日の順位が良かったのかもしれない。

駿也の母は今人気の占い師だ。
毎朝、学校を出る前に無意識に見るテレビの最後の数分、メイクをしっかりと派手目にした駿也の母を見る。

在り来りな星座占いだとは思っていても、決してマイナスなことを言わない駿也の母の占いは、多方面に人気があった。

「ありがとう。今日帰ったら聞いてみるよ。メリーさんのこと。」

にっこりと綺麗に整えられたその笑顔は、非の打ち所が無いほど爽やかな笑顔だった。

それが作り笑いと気付くのは幼馴染の茉祐子くらいだろう。

「今日、早紀さん帰り早いの?私も久しぶりに会いたい!」

茉祐子は駿也の顔の前に回り込み、その顔を隠すように近付けた。ニマッと笑うその笑顔にぷっくりとした頬。ふわふわとした駿也とは真逆の髪は、2人の対称性を強調した。

「いいよ。帰りにそのままおいで。母さんも茉祐に会いたがってるし。そのままご飯食べて帰りなよ。」

「やったー!早紀さんのご飯大好き!」

ふふっと笑いながら、言う駿也に、茉祐子はその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。

奈和はそっぽを向いたまま、持参した小説をいつの間にか読み始め、周りの話なんて耳に届いていないようだった。

「ちょっとちょっと!」と、香瑠がすぐに茉祐子の手を引く。

「ねえ、茉祐子ってほんとに森久保と付き合ってないの?」

茉祐子に顔を近付けて、香瑠のヒソヒソと極力小さな声で、囁かれる。興奮しているのか、鼻息は荒く、小さくしている声も、いつ大きくなるのかわからない。

この質問は何度目だろう。

「そんなわけないじゃん。ただの幼馴染だよ。」

極力小さな声で、ヒソヒソと返事をすると、茉祐子は香瑠の頬をつついた。

「茉祐?」

「ん?」

背後からする駿也の声に、何も知らない無垢なフリをして振り返る。駿也の前ではなるべく笑顔で、なるべく可愛くありたいと思う。

付き合っていないのは本当だが、いつも綺麗に笑う駿也のことが好きだった。

同じ日に産まれ、ほとんどの時間を一緒に過ごし、感覚的には兄弟に近いかもしれない。それでも、隠しきれないほどに好きなのだ。

「ホームルーム終わったら、いつものとこでね。」

「うん。」

ガヤガヤとした教室の中、駿也は手をヒラッとさせると「またあとで。」と一言、茉祐子の耳元で言い教室を後にした。

ふぅ、と少しだけ離れたところから、息を吐く声がして振り返る。

小説を読んでいたはずの奈和は肘をつき、顎に手を添え、こちらを見ていた。真横には目をキラキラと輝かせた香瑠が何か言いたげに、手を震わせている。

「お前ら少しは周りみなよ。」

「そうだよ~。目の前で少女漫画しないでよ。そんなんだから噂になるんだよ?」

何度、2人の関係を少女漫画と呼ばれただろう。今まで何度、それを否定しただろう。いつの間にか数えるのを辞めてしまったその言葉を、ただ笑って否定する虚しさに、何度襲われればいいのだろうか。

メリーさんなら、この関係を変えてくれるのだろうか。
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