4 / 6
#04
しおりを挟む
「願いが…叶うの?メリーさんにも会える?」
「それは茉祐子ちゃん次第。」
時計から目が話せなくなっている茉祐子に、早紀は、ふふっと口元に指を添え、微笑んだ。
駿也と同じように整えられたその顔は同じ人間とは思えないほど綺麗に笑う。
「これ、どうして針が動かないの?…貰ってもいいの?」
文字盤の青に意識まで吸い込まれそうなほど、覗いた後、茉祐子はパッと顔を上げた。早紀の隣で、駿也もなんだか嬉しそうに微笑んでいる。
「もちろん。きっと助けてくれるわ。…さあ、早く食べちゃって。遅くなったら結子ちゃんに怒られちゃう。」
早紀は「結子(ユウコ)」と茉祐子の母親の名を口にした。
本当は結子が早紀に向かって怒ることなどない。寧ろ、駿也の家に居るという確信があるからこそ、安心して預けてると言ってもいい関係だ。
早紀のおどけたその言い方に、針が動かない理由を教えてもらってないことなど、頭から抜け落ちていた。クスクスと笑みを漏らしながら、「は~い。」と2人は口を揃えて言う。
---
「じゃあ駿也、茉祐子ちゃんのことちゃんと送って来てね。」
ご飯を食べながら、他愛のない会話をした。取り留めもない、流されるような会話はただただ楽しかった。
占いのラッキーカラーことを聞き忘れていたことには、この時気づかなかった。
「うん。…行こ、茉祐。」
当然。と、言わんばかりに駿也は即答する。早紀の方を振り向くことの無い駿也は、反抗期の学生そのものだ。
学校でみんなに愛想がいいのが嘘のようで、つい笑いそうになる。そんな駿也の姿を知ってるのが自分だけというこの事実に、茉祐子は優越感を感じる。
「うん!早紀さん、ご飯ご馳走様でした。時計も、ありがとう。」
「大事にしてね。またいつでもいらっしゃい。」
「はーい!」
ぷっくりとした頬で、笑う茉祐子に、早紀は綺麗な微笑みを向けた。手を振るしなやかに伸びた指を、つい目で追いたくなる。
その衝動を我慢して、後ろ髪を引かれる思いで扉を閉めた。
「はあ、早紀さんのご飯美味しかった~。駿はいいよね。美人で料理上手なお母さん。」
「茉祐、その話何回目?」
「何回でも言いたくなっちゃうの。」
自動で開く門扉。その文明の利器にはそぐわない、古びた神社の横を抜け、足元の暗い中、石段をゆっくりと降りていく。
途中、どちらからとも無く伸びた手はしっかりと握られ、不安な気持ちをかき消した。
呆れたようにいう駿也に、茉祐子はいーっと口を横に大きく開き、意地になったように言う。美人で料理上手なお母さんだと思っているのは本当のことだ。
自分の母親がテレビに出るだなんて、考えもつかない。
「俺は茉祐のお母さんも優しくて好きだよ。」
突然の「好き」と言う単語にドキリとする。直ぐに、ただ親のことが褒められたのだと気付いたが、じわっと手に広がる汗を止めることは出来なかった。
どうか駿也に気付かれませんようにと、心の中で茉祐子は必死に願う。
「うちはただの主婦だもん。」
どうにか切替えようとして、出てきた言葉がこれだった。だもんってなんだ。だもんって。
「特別がなくても素敵だと思うよ。」
茉祐子の返答に、駿也はふふっと笑みを漏らす。相変わらずの優しさに、胸がキューっと締め付けられる思いだった。
石段を降りきり、神社の玉垣の横ギリギリを歩く。すぐ横は道路だ。街頭もほとんどない道なので、なるべく道路より離れた場所を歩かないと、車に巻き込まれかねない。
スッと、道路側に移った駿也に、茉祐子は無意識に体を寄せた。
「どうしたの?」
「なんとなく。」
不意に聞かれ、ドキドキする。自分の行動の不自然さに、気持ち悪くなかったか、嫌がられなかったかと不安が過ぎる。
茉祐子は咄嗟に駿也から離れ、誤魔化すように、そっぽを向いた。お互いそれ以上何も言うことはなく、角を曲がる。
突然のキキッと、耳を貫くような甲高い音がした。それがトラックのブレーキ音だと気付いた時には、激しい衝撃が走っていた。
腕は後方に引っ張られ、そのまま後ろに倒れ込む。駿也と繋いでいた手は衝撃に負けて離してしまった。何が起こったのかわからなかった。ジワジワと肩の辺りから先が熱く燃えるように痛くなり、痛みを実感するともう止まらなかった。
神社の玉垣に突っ込む形で止まっているトラックが目に入る。周りは夜だというのに、ザワザワとうるさい。野次馬が集まってきているのだろう。
(駿也は…?)
隣にいない駿也を探し、辺りを見渡す。
数メートル先に、横たわる見覚えのある服があった。走って駆け寄りたいが、足を捻ってしまったのか、立つのもやっとだ。
痛みを我慢して、ひょこひょこと足を運び、駿也の横にへたり込む。
「駿也?ねえ、駿也大丈夫?」
体をトントンと叩くが、駿也はピクリともしなかった。じわっと生暖かい感触が手に伝わる。それが血だと気付くのに数秒かかってしまった。
手を真っ赤に染める、それは自分の血ではない。駿也の血だった。腹の奥から叫ぶように、人目もはばからず、叫んだ。何度も名前を呼んだ。一度出てしまった涙は止めることが出来ない。
遠くの方で救急車の音がする。
私の記憶はここまでだ。
---
気付いた時には病院のベッドの中だった。白い壁に、新品と見違うほど真っ白なシーツ。独特な薬の薄くなった匂い。
傍らには、パートを休んできたらしい母親の姿。足には大袈裟だと笑いたくなるような包帯。片腕も首から吊り下げられていた。
「それは茉祐子ちゃん次第。」
時計から目が話せなくなっている茉祐子に、早紀は、ふふっと口元に指を添え、微笑んだ。
駿也と同じように整えられたその顔は同じ人間とは思えないほど綺麗に笑う。
「これ、どうして針が動かないの?…貰ってもいいの?」
文字盤の青に意識まで吸い込まれそうなほど、覗いた後、茉祐子はパッと顔を上げた。早紀の隣で、駿也もなんだか嬉しそうに微笑んでいる。
「もちろん。きっと助けてくれるわ。…さあ、早く食べちゃって。遅くなったら結子ちゃんに怒られちゃう。」
早紀は「結子(ユウコ)」と茉祐子の母親の名を口にした。
本当は結子が早紀に向かって怒ることなどない。寧ろ、駿也の家に居るという確信があるからこそ、安心して預けてると言ってもいい関係だ。
早紀のおどけたその言い方に、針が動かない理由を教えてもらってないことなど、頭から抜け落ちていた。クスクスと笑みを漏らしながら、「は~い。」と2人は口を揃えて言う。
---
「じゃあ駿也、茉祐子ちゃんのことちゃんと送って来てね。」
ご飯を食べながら、他愛のない会話をした。取り留めもない、流されるような会話はただただ楽しかった。
占いのラッキーカラーことを聞き忘れていたことには、この時気づかなかった。
「うん。…行こ、茉祐。」
当然。と、言わんばかりに駿也は即答する。早紀の方を振り向くことの無い駿也は、反抗期の学生そのものだ。
学校でみんなに愛想がいいのが嘘のようで、つい笑いそうになる。そんな駿也の姿を知ってるのが自分だけというこの事実に、茉祐子は優越感を感じる。
「うん!早紀さん、ご飯ご馳走様でした。時計も、ありがとう。」
「大事にしてね。またいつでもいらっしゃい。」
「はーい!」
ぷっくりとした頬で、笑う茉祐子に、早紀は綺麗な微笑みを向けた。手を振るしなやかに伸びた指を、つい目で追いたくなる。
その衝動を我慢して、後ろ髪を引かれる思いで扉を閉めた。
「はあ、早紀さんのご飯美味しかった~。駿はいいよね。美人で料理上手なお母さん。」
「茉祐、その話何回目?」
「何回でも言いたくなっちゃうの。」
自動で開く門扉。その文明の利器にはそぐわない、古びた神社の横を抜け、足元の暗い中、石段をゆっくりと降りていく。
途中、どちらからとも無く伸びた手はしっかりと握られ、不安な気持ちをかき消した。
呆れたようにいう駿也に、茉祐子はいーっと口を横に大きく開き、意地になったように言う。美人で料理上手なお母さんだと思っているのは本当のことだ。
自分の母親がテレビに出るだなんて、考えもつかない。
「俺は茉祐のお母さんも優しくて好きだよ。」
突然の「好き」と言う単語にドキリとする。直ぐに、ただ親のことが褒められたのだと気付いたが、じわっと手に広がる汗を止めることは出来なかった。
どうか駿也に気付かれませんようにと、心の中で茉祐子は必死に願う。
「うちはただの主婦だもん。」
どうにか切替えようとして、出てきた言葉がこれだった。だもんってなんだ。だもんって。
「特別がなくても素敵だと思うよ。」
茉祐子の返答に、駿也はふふっと笑みを漏らす。相変わらずの優しさに、胸がキューっと締め付けられる思いだった。
石段を降りきり、神社の玉垣の横ギリギリを歩く。すぐ横は道路だ。街頭もほとんどない道なので、なるべく道路より離れた場所を歩かないと、車に巻き込まれかねない。
スッと、道路側に移った駿也に、茉祐子は無意識に体を寄せた。
「どうしたの?」
「なんとなく。」
不意に聞かれ、ドキドキする。自分の行動の不自然さに、気持ち悪くなかったか、嫌がられなかったかと不安が過ぎる。
茉祐子は咄嗟に駿也から離れ、誤魔化すように、そっぽを向いた。お互いそれ以上何も言うことはなく、角を曲がる。
突然のキキッと、耳を貫くような甲高い音がした。それがトラックのブレーキ音だと気付いた時には、激しい衝撃が走っていた。
腕は後方に引っ張られ、そのまま後ろに倒れ込む。駿也と繋いでいた手は衝撃に負けて離してしまった。何が起こったのかわからなかった。ジワジワと肩の辺りから先が熱く燃えるように痛くなり、痛みを実感するともう止まらなかった。
神社の玉垣に突っ込む形で止まっているトラックが目に入る。周りは夜だというのに、ザワザワとうるさい。野次馬が集まってきているのだろう。
(駿也は…?)
隣にいない駿也を探し、辺りを見渡す。
数メートル先に、横たわる見覚えのある服があった。走って駆け寄りたいが、足を捻ってしまったのか、立つのもやっとだ。
痛みを我慢して、ひょこひょこと足を運び、駿也の横にへたり込む。
「駿也?ねえ、駿也大丈夫?」
体をトントンと叩くが、駿也はピクリともしなかった。じわっと生暖かい感触が手に伝わる。それが血だと気付くのに数秒かかってしまった。
手を真っ赤に染める、それは自分の血ではない。駿也の血だった。腹の奥から叫ぶように、人目もはばからず、叫んだ。何度も名前を呼んだ。一度出てしまった涙は止めることが出来ない。
遠くの方で救急車の音がする。
私の記憶はここまでだ。
---
気付いた時には病院のベッドの中だった。白い壁に、新品と見違うほど真っ白なシーツ。独特な薬の薄くなった匂い。
傍らには、パートを休んできたらしい母親の姿。足には大袈裟だと笑いたくなるような包帯。片腕も首から吊り下げられていた。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる