私は僕のメリーさん

兎都ひなた

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#04

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「願いが…叶うの?メリーさんにも会える?」

「それは茉祐子ちゃん次第。」

時計から目が話せなくなっている茉祐子に、早紀は、ふふっと口元に指を添え、微笑んだ。

駿也と同じように整えられたその顔は同じ人間とは思えないほど綺麗に笑う。

「これ、どうして針が動かないの?…貰ってもいいの?」

文字盤の青に意識まで吸い込まれそうなほど、覗いた後、茉祐子はパッと顔を上げた。早紀の隣で、駿也もなんだか嬉しそうに微笑んでいる。

「もちろん。きっと助けてくれるわ。…さあ、早く食べちゃって。遅くなったら結子ちゃんに怒られちゃう。」

早紀は「結子(ユウコ)」と茉祐子の母親の名を口にした。

本当は結子が早紀に向かって怒ることなどない。寧ろ、駿也の家に居るという確信があるからこそ、安心して預けてると言ってもいい関係だ。

早紀のおどけたその言い方に、針が動かない理由を教えてもらってないことなど、頭から抜け落ちていた。クスクスと笑みを漏らしながら、「は~い。」と2人は口を揃えて言う。

---

「じゃあ駿也、茉祐子ちゃんのことちゃんと送って来てね。」

ご飯を食べながら、他愛のない会話をした。取り留めもない、流されるような会話はただただ楽しかった。

占いのラッキーカラーことを聞き忘れていたことには、この時気づかなかった。

「うん。…行こ、茉祐。」

当然。と、言わんばかりに駿也は即答する。早紀の方を振り向くことの無い駿也は、反抗期の学生そのものだ。

学校でみんなに愛想がいいのが嘘のようで、つい笑いそうになる。そんな駿也の姿を知ってるのが自分だけというこの事実に、茉祐子は優越感を感じる。

「うん!早紀さん、ご飯ご馳走様でした。時計も、ありがとう。」

「大事にしてね。またいつでもいらっしゃい。」

「はーい!」

ぷっくりとした頬で、笑う茉祐子に、早紀は綺麗な微笑みを向けた。手を振るしなやかに伸びた指を、つい目で追いたくなる。

その衝動を我慢して、後ろ髪を引かれる思いで扉を閉めた。

「はあ、早紀さんのご飯美味しかった~。駿はいいよね。美人で料理上手なお母さん。」

「茉祐、その話何回目?」

「何回でも言いたくなっちゃうの。」

自動で開く門扉。その文明の利器にはそぐわない、古びた神社の横を抜け、足元の暗い中、石段をゆっくりと降りていく。

途中、どちらからとも無く伸びた手はしっかりと握られ、不安な気持ちをかき消した。

呆れたようにいう駿也に、茉祐子はいーっと口を横に大きく開き、意地になったように言う。美人で料理上手なお母さんだと思っているのは本当のことだ。

自分の母親がテレビに出るだなんて、考えもつかない。

「俺は茉祐のお母さんも優しくて好きだよ。」

突然の「好き」と言う単語にドキリとする。直ぐに、ただ親のことが褒められたのだと気付いたが、じわっと手に広がる汗を止めることは出来なかった。

どうか駿也に気付かれませんようにと、心の中で茉祐子は必死に願う。

「うちはただの主婦だもん。」

どうにか切替えようとして、出てきた言葉がこれだった。だもんってなんだ。だもんって。

「特別がなくても素敵だと思うよ。」

茉祐子の返答に、駿也はふふっと笑みを漏らす。相変わらずの優しさに、胸がキューっと締め付けられる思いだった。

石段を降りきり、神社の玉垣の横ギリギリを歩く。すぐ横は道路だ。街頭もほとんどない道なので、なるべく道路より離れた場所を歩かないと、車に巻き込まれかねない。

スッと、道路側に移った駿也に、茉祐子は無意識に体を寄せた。

「どうしたの?」

「なんとなく。」

不意に聞かれ、ドキドキする。自分の行動の不自然さに、気持ち悪くなかったか、嫌がられなかったかと不安が過ぎる。

茉祐子は咄嗟に駿也から離れ、誤魔化すように、そっぽを向いた。お互いそれ以上何も言うことはなく、角を曲がる。

突然のキキッと、耳を貫くような甲高い音がした。それがトラックのブレーキ音だと気付いた時には、激しい衝撃が走っていた。

腕は後方に引っ張られ、そのまま後ろに倒れ込む。駿也と繋いでいた手は衝撃に負けて離してしまった。何が起こったのかわからなかった。ジワジワと肩の辺りから先が熱く燃えるように痛くなり、痛みを実感するともう止まらなかった。

神社の玉垣に突っ込む形で止まっているトラックが目に入る。周りは夜だというのに、ザワザワとうるさい。野次馬が集まってきているのだろう。

(駿也は…?)

隣にいない駿也を探し、辺りを見渡す。

数メートル先に、横たわる見覚えのある服があった。走って駆け寄りたいが、足を捻ってしまったのか、立つのもやっとだ。

痛みを我慢して、ひょこひょこと足を運び、駿也の横にへたり込む。

「駿也?ねえ、駿也大丈夫?」

体をトントンと叩くが、駿也はピクリともしなかった。じわっと生暖かい感触が手に伝わる。それが血だと気付くのに数秒かかってしまった。

手を真っ赤に染める、それは自分の血ではない。駿也の血だった。腹の奥から叫ぶように、人目もはばからず、叫んだ。何度も名前を呼んだ。一度出てしまった涙は止めることが出来ない。

遠くの方で救急車の音がする。

私の記憶はここまでだ。

---

気付いた時には病院のベッドの中だった。白い壁に、新品と見違うほど真っ白なシーツ。独特な薬の薄くなった匂い。

傍らには、パートを休んできたらしい母親の姿。足には大袈裟だと笑いたくなるような包帯。片腕も首から吊り下げられていた。
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