私は僕のメリーさん

兎都ひなた

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#05

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「あら、茉祐ちゃん。起きたの?どこも痛くない?看護師さん、呼んじゃうね。」

ベッドにうつ伏せていた母、結子はゆっくりと起きると、笑顔を向けた。

ふわふわとして、どこか抜けてそうな雰囲気は、茉祐子に差程似ていない。茉祐子は父親似だった。

「え…うん。」

ナースコールに手を伸ばし、押すと看護師さんの優しい声が聞こえてくる。

「駿也くんのこと、残念だったね…。」

ポツリ、と結子が言った言葉に、青ざめた。血の気が引いていくのがわかる。手足が嫌という程、急速に冷たくなった。

やっぱり、という冷静な脳内と、信じたくない、感情的な心がぐちゃぐちゃになっていた。

「どういうこと!? 駿、あれからどうしちゃったの。」

母を責めても仕方がないとわかっていながら、つい口調を強めてしまう。

駿也はあの事故で亡くなったのだと、茉祐子より泣きながら、母はゆっくりと話した。相手のトラックの飲酒運転による事故だったらしい。

「そんな…」

結子の言葉に、気が遠くなりそうだった。

駿也がもう居ない…。ずっと一緒に育ってきて、好きだった駿也が居なくなってしまったことが、信じられなかった。どこからともなく、ひょっこり現れて、またあの綺麗な笑顔で笑いかけて欲しかった。

(駿の家に行ったから…)

あの時、駿也の家に行かなければ、あの時間に茉祐子を送ることもなかったし、2人で並ばなければ、駿也が壁沿いを歩けていれば…。

次々と自分を責めてしまうタラレバが浮かんでくる。

(私のせいだ…)

茉祐子は空いている手で、病院のシーツをグシャッと握った。

自分で自分が許せなかった。

ベッド横の小さな棚には、早紀からもらった懐中時計。キラキラと星を鏤められたような数字と装飾。吸い込まれそうな文字盤の青は、こんなにも気持ちが落ち込んでいるときでさえも、変わらず健在だ。

茉祐子はその時計を手に取ると、病院服に忍び込ませた。

「どこに行くの?」

点滴を支えにして立とうとする茉祐子に、結子は少し慌てた様子で、駆け寄ろうとしていた。

「ちょっとトイレ行ってくるね。」

ひょこひょこと足を引きずりながら、点滴頼りで歩き、病室内の備え付けられていたトイレは無視して、そのまま病室を出た。

廊下は嫌な空気と感じるほど、どんよりと静まり返り、誰ともすれ違わなかった。

エレベーターのボタンを押し、ようやくここが3階だったことを知った。

到着したエレベーターに乗り込み、なるべく上の階へと上がった。懐中時計を無意識に握り締め、その力が強かったのか、時計は「カチッ」と音を立てた。

だがしかし、茉祐子のぼーっと黒い霧が立ちこめる脳内には、その音の正体を考える余裕もない。

上階につき、まっすぐに窓に向かって歩く。点滴のガシャガシャとうるさい小さな車輪の音が廊下に響く。1人の看護師がこちらの存在に気付いていたが、それは無視した。

まっすぐに向かった窓に着くと、窓を開け放ち、なんの躊躇もなく飛び降りた。

ナースステーションと書かれた文字が、落ちる瞬間に見え、甲高い悲鳴とガタガタと椅子から立ち上がる音が聞こえた。

(駿のいない世界なんて考えられない。メリーさん。メリーさん、本当にいるんだったら、駿を返して。)

今まで一緒に育ってきた。何をするにも一緒だった。ただ1人、駿也のことが大好きだった。駿也と一緒に居たから、幸せだった。

地面に着いた瞬間、茉祐子の意識は消えていた。落ちた音も、悲鳴も何もかも、茉祐子には届かない。

---

気がついた時にはよく見覚えのある天井が目に飛び込んだ。ここはどこだと、咄嗟に飛び起きる。

(確か…私……どうしたんだっけ。)

頭をぐるぐると回転させるが、なに1つ思い出せない。うっすら靄のかかった頭がもどかしい。

頭を抑えて考えていると、2度のノック音がし、返事をする間もなく1人の人影が入ってきた。サラサラとした髪に、きちんと身なりを整えた彼の顔。何年も見てきた彼に、どうしてか涙が出そうな気持ちになる。

「あれ?茉祐、今日起きるの早いね?」

彼はそう言いながら、茉祐子の鞄を手に取ると、机の上に用意されていた教科書を詰め始めた。制服をクローゼットから取り出し、綺麗にシワの伸びたシャツを選んだ。

「駿…?」

「どうしたの、茉祐。怖い夢でも見た?」

顔を近づけてくる駿也に、反射的にドキドキする。熱くなった顔を、茉祐子はブンブンと振り回した。

そんな茉祐子が面白かったのか、駿也は綺麗な笑顔で笑った。

また、泣きそうな気持ちになり、止めることが出来ず涙が次々と溢れ出てきた。泣き顔を見られたくなくて、咄嗟に両手で顔を覆う。

「ほんとに今日はどうしたの。…茉祐?」

駿也の優しい手が、頭をゆっくりと撫でた。茉祐子は自分がどうして泣いてしまっているかもわからず、でも止めることも出来ずに、泣き続けた。
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