暗闇の灯

兎都ひなた

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#09

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ガンッという音と共に、勢いよく教室の扉が開く。入ってきた人物は...咲夜だった。怒りを顕にしたその表情は、いつもにこやかで人を集める咲夜とは別人のようだ。
咲夜は一直線に瀬津の元へ行き、後ろから瀬津の首元に手を回す。口角をニッあげた表情はいたずらっ子のようだった。
「なら、俺がもらってもいいよな?どう考えても、お前らの行動も言動も仲間って感じじゃねぇもんな?」
「おい咲夜、本気か?」
「そいつの虐めを庇うと俺たち……」
咲夜の周りによく居る男子が口々に言い出す。このクラスで虐めに逆らえば、その逆らった人も一緒に虐められる。いつしか、そんなくだらないルールのようなものが存在していた。
それもそのはず。瀬津を虐めていた主犯格は、学校上層部の親戚だ。その人物に逆らえば、進路に影響が出るかもしれない不安があるのも無理ないだろう。その不安を逆手にとって行われているのが、主犯格の退屈しのぎで始まった虐め。
「それがどうした。そんなことよりクラスで女子が1人で虐められてんの黙ってみてる方が俺は嫌だね。俺を虐めたいなら、虐めればいいじゃねぇか。」
人を虐めて楽しんだり面白がったりするやつらは、どんな立場であろうとも惨めだと感じる。憐れみさえ覚える。そんな環境、わざわざ自分のクラスに作らなくてもいいじゃないか。
「咲夜、やっぱお前すげぇよ。惚れ直した。よくそんなん言えるよな。今まで黙って見てたけど、俺も反逆者になろっかな。」
「反逆者は違うだろ、亮。」
咲夜にツカツカと近付き、ニヤッと笑うのは君谷 亮(きみたに・りょう)だ。咲夜とは幼馴染で、クラスの中でも目立つ存在。
亮が立ち上がったことにより、クラスは一層ざわめく。瀬津を虐めていた取り巻きたちは、居心地が悪そうに、唇を噛んだ。
「ありがとう。…本当にありがとう。君谷くん。竜木くん。」
「あ、俺のことは亮でいいよ。苗字で呼ばれんの慣れねぇから。」
「ずりぃぞ亮!!じゃあ俺、咲夜って呼んで。あと、神無月のことは瀬津って呼んでもいい?」
瀬津の顔を覗き込みながら、2人は徐々に近づいてくる。顔面偏差値の高さったら無い。いきなり言われた、2人の提案に正直、戸惑ってしまう。名前を男の子から呼ばれるなんて...初めてのことだ。
いい事が続くと怖くなる。このあとに、何か悪いことが起きそうな予感が、ヒシヒシとする。関係ないと思いつつも、周りのざわめきが、不安を掻き立ててしまう。
「瀬津でいいよ。…あの、咲夜......そろそろ離してもらっても...」
「あぁ、悪い。」
首元に回った咲夜の手にドキドキする。背中に当たる体温が気になって仕方がない。咲夜が瀬津の言葉に、咄嗟に手を離すが、まだほんのりと残る体温に動悸が治まらない。
ヒューッと、亮が口笛を鳴らし、一人で冷やかす。もう、周りの目を気にしていないようだ。
「やめろって。そんなガキみたいなことして、ちゃんと守れんのかよ。」
教室の中は、咲夜の言葉で静まり返った。周りの生徒からの冷たい視線に、さっきまで高鳴っていた鼓動は、恐怖の鼓動に変わる。背筋を冷たい汗が流れる。
放課後、校舎の隙間の薄暗い、湿ったところへ呼び出され、荷物をまとめた瀬津は向かった。
「ねぇ、瀬津。竜木くんに近づくなって、昨日言ったばっかりだよね?」
取り巻きの女子2人が、詰め寄ってくる。自分から近付いてないのに...何故自分が責められてしまうのか。本当にわからない。
「すみません。」
咄嗟に言葉が出た。もう癖ついてるんだな、と少しだけ悲しくなる。言い返せれば、どんなに楽か...。
「そんなんじゃすまねぇんだよ!!」
「おまけに、君谷くんまで味方につけやがって!!」
咲夜は成績、性格、ルックスと申し分なく、クラスで1番の人気を誇る人物だ。亮はそのルックスと性格から、咲夜の次に人気があると言っても過言ではないだろう。
女子人気はもちろん、男子からの人望も厚い。ほんとなんで、私なんかに構うんだろうと、不思議に思うくらいだ。
ガッと、突然胸ぐらを掴まれた。拳を握ったのが目に入る。殴られる、そう覚悟し、諦め、瀬津は目を閉じた。
何回、痛みに耐えただろう...。地面に横たわる瀬津は、嫌な重みを感じた。脇腹を踏まれ、徐々に体重をかけられている。
その重みが急に、軽くなり、浴びせ続けられていた罵詈雑言は消え、辺りは静まりかえる。
違和感に気付き、瀬津はゆっくりと目を開ける。目の前の光景に、正直びっくりした。
「あのさぁ、やめろって。」
「瀬津、傷つけんなって何度言ってもわかんねぇの?」
仁王立ちして、腕組みをした2人の姿。
なんでそんなに私に構うの...。私なんて放っておいてもいいのに。今までみたいに、見て見ぬふりして過ごせば、巻き込まれることもないのに。死んだってもう、悲しむ人はいない。家族もいないも同然だ。忌み嫌う親戚の叔母からは寧ろ喜ばれるかもしれない。
「なんで...なんで、こんなとこに来たの?」
つい、声が出た。助けてくれたのに。お礼が先に言えなかった自分に対して、激しく嫌悪する。
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