9 / 29
#09
しおりを挟む
ガンッという音と共に、勢いよく教室の扉が開く。入ってきた人物は...咲夜だった。怒りを顕にしたその表情は、いつもにこやかで人を集める咲夜とは別人のようだ。
咲夜は一直線に瀬津の元へ行き、後ろから瀬津の首元に手を回す。口角をニッあげた表情はいたずらっ子のようだった。
「なら、俺がもらってもいいよな?どう考えても、お前らの行動も言動も仲間って感じじゃねぇもんな?」
「おい咲夜、本気か?」
「そいつの虐めを庇うと俺たち……」
咲夜の周りによく居る男子が口々に言い出す。このクラスで虐めに逆らえば、その逆らった人も一緒に虐められる。いつしか、そんなくだらないルールのようなものが存在していた。
それもそのはず。瀬津を虐めていた主犯格は、学校上層部の親戚だ。その人物に逆らえば、進路に影響が出るかもしれない不安があるのも無理ないだろう。その不安を逆手にとって行われているのが、主犯格の退屈しのぎで始まった虐め。
「それがどうした。そんなことよりクラスで女子が1人で虐められてんの黙ってみてる方が俺は嫌だね。俺を虐めたいなら、虐めればいいじゃねぇか。」
人を虐めて楽しんだり面白がったりするやつらは、どんな立場であろうとも惨めだと感じる。憐れみさえ覚える。そんな環境、わざわざ自分のクラスに作らなくてもいいじゃないか。
「咲夜、やっぱお前すげぇよ。惚れ直した。よくそんなん言えるよな。今まで黙って見てたけど、俺も反逆者になろっかな。」
「反逆者は違うだろ、亮。」
咲夜にツカツカと近付き、ニヤッと笑うのは君谷 亮(きみたに・りょう)だ。咲夜とは幼馴染で、クラスの中でも目立つ存在。
亮が立ち上がったことにより、クラスは一層ざわめく。瀬津を虐めていた取り巻きたちは、居心地が悪そうに、唇を噛んだ。
「ありがとう。…本当にありがとう。君谷くん。竜木くん。」
「あ、俺のことは亮でいいよ。苗字で呼ばれんの慣れねぇから。」
「ずりぃぞ亮!!じゃあ俺、咲夜って呼んで。あと、神無月のことは瀬津って呼んでもいい?」
瀬津の顔を覗き込みながら、2人は徐々に近づいてくる。顔面偏差値の高さったら無い。いきなり言われた、2人の提案に正直、戸惑ってしまう。名前を男の子から呼ばれるなんて...初めてのことだ。
いい事が続くと怖くなる。このあとに、何か悪いことが起きそうな予感が、ヒシヒシとする。関係ないと思いつつも、周りのざわめきが、不安を掻き立ててしまう。
「瀬津でいいよ。…あの、咲夜......そろそろ離してもらっても...」
「あぁ、悪い。」
首元に回った咲夜の手にドキドキする。背中に当たる体温が気になって仕方がない。咲夜が瀬津の言葉に、咄嗟に手を離すが、まだほんのりと残る体温に動悸が治まらない。
ヒューッと、亮が口笛を鳴らし、一人で冷やかす。もう、周りの目を気にしていないようだ。
「やめろって。そんなガキみたいなことして、ちゃんと守れんのかよ。」
教室の中は、咲夜の言葉で静まり返った。周りの生徒からの冷たい視線に、さっきまで高鳴っていた鼓動は、恐怖の鼓動に変わる。背筋を冷たい汗が流れる。
放課後、校舎の隙間の薄暗い、湿ったところへ呼び出され、荷物をまとめた瀬津は向かった。
「ねぇ、瀬津。竜木くんに近づくなって、昨日言ったばっかりだよね?」
取り巻きの女子2人が、詰め寄ってくる。自分から近付いてないのに...何故自分が責められてしまうのか。本当にわからない。
「すみません。」
咄嗟に言葉が出た。もう癖ついてるんだな、と少しだけ悲しくなる。言い返せれば、どんなに楽か...。
「そんなんじゃすまねぇんだよ!!」
「おまけに、君谷くんまで味方につけやがって!!」
咲夜は成績、性格、ルックスと申し分なく、クラスで1番の人気を誇る人物だ。亮はそのルックスと性格から、咲夜の次に人気があると言っても過言ではないだろう。
女子人気はもちろん、男子からの人望も厚い。ほんとなんで、私なんかに構うんだろうと、不思議に思うくらいだ。
ガッと、突然胸ぐらを掴まれた。拳を握ったのが目に入る。殴られる、そう覚悟し、諦め、瀬津は目を閉じた。
何回、痛みに耐えただろう...。地面に横たわる瀬津は、嫌な重みを感じた。脇腹を踏まれ、徐々に体重をかけられている。
その重みが急に、軽くなり、浴びせ続けられていた罵詈雑言は消え、辺りは静まりかえる。
違和感に気付き、瀬津はゆっくりと目を開ける。目の前の光景に、正直びっくりした。
「あのさぁ、やめろって。」
「瀬津、傷つけんなって何度言ってもわかんねぇの?」
仁王立ちして、腕組みをした2人の姿。
なんでそんなに私に構うの...。私なんて放っておいてもいいのに。今までみたいに、見て見ぬふりして過ごせば、巻き込まれることもないのに。死んだってもう、悲しむ人はいない。家族もいないも同然だ。忌み嫌う親戚の叔母からは寧ろ喜ばれるかもしれない。
「なんで...なんで、こんなとこに来たの?」
つい、声が出た。助けてくれたのに。お礼が先に言えなかった自分に対して、激しく嫌悪する。
咲夜は一直線に瀬津の元へ行き、後ろから瀬津の首元に手を回す。口角をニッあげた表情はいたずらっ子のようだった。
「なら、俺がもらってもいいよな?どう考えても、お前らの行動も言動も仲間って感じじゃねぇもんな?」
「おい咲夜、本気か?」
「そいつの虐めを庇うと俺たち……」
咲夜の周りによく居る男子が口々に言い出す。このクラスで虐めに逆らえば、その逆らった人も一緒に虐められる。いつしか、そんなくだらないルールのようなものが存在していた。
それもそのはず。瀬津を虐めていた主犯格は、学校上層部の親戚だ。その人物に逆らえば、進路に影響が出るかもしれない不安があるのも無理ないだろう。その不安を逆手にとって行われているのが、主犯格の退屈しのぎで始まった虐め。
「それがどうした。そんなことよりクラスで女子が1人で虐められてんの黙ってみてる方が俺は嫌だね。俺を虐めたいなら、虐めればいいじゃねぇか。」
人を虐めて楽しんだり面白がったりするやつらは、どんな立場であろうとも惨めだと感じる。憐れみさえ覚える。そんな環境、わざわざ自分のクラスに作らなくてもいいじゃないか。
「咲夜、やっぱお前すげぇよ。惚れ直した。よくそんなん言えるよな。今まで黙って見てたけど、俺も反逆者になろっかな。」
「反逆者は違うだろ、亮。」
咲夜にツカツカと近付き、ニヤッと笑うのは君谷 亮(きみたに・りょう)だ。咲夜とは幼馴染で、クラスの中でも目立つ存在。
亮が立ち上がったことにより、クラスは一層ざわめく。瀬津を虐めていた取り巻きたちは、居心地が悪そうに、唇を噛んだ。
「ありがとう。…本当にありがとう。君谷くん。竜木くん。」
「あ、俺のことは亮でいいよ。苗字で呼ばれんの慣れねぇから。」
「ずりぃぞ亮!!じゃあ俺、咲夜って呼んで。あと、神無月のことは瀬津って呼んでもいい?」
瀬津の顔を覗き込みながら、2人は徐々に近づいてくる。顔面偏差値の高さったら無い。いきなり言われた、2人の提案に正直、戸惑ってしまう。名前を男の子から呼ばれるなんて...初めてのことだ。
いい事が続くと怖くなる。このあとに、何か悪いことが起きそうな予感が、ヒシヒシとする。関係ないと思いつつも、周りのざわめきが、不安を掻き立ててしまう。
「瀬津でいいよ。…あの、咲夜......そろそろ離してもらっても...」
「あぁ、悪い。」
首元に回った咲夜の手にドキドキする。背中に当たる体温が気になって仕方がない。咲夜が瀬津の言葉に、咄嗟に手を離すが、まだほんのりと残る体温に動悸が治まらない。
ヒューッと、亮が口笛を鳴らし、一人で冷やかす。もう、周りの目を気にしていないようだ。
「やめろって。そんなガキみたいなことして、ちゃんと守れんのかよ。」
教室の中は、咲夜の言葉で静まり返った。周りの生徒からの冷たい視線に、さっきまで高鳴っていた鼓動は、恐怖の鼓動に変わる。背筋を冷たい汗が流れる。
放課後、校舎の隙間の薄暗い、湿ったところへ呼び出され、荷物をまとめた瀬津は向かった。
「ねぇ、瀬津。竜木くんに近づくなって、昨日言ったばっかりだよね?」
取り巻きの女子2人が、詰め寄ってくる。自分から近付いてないのに...何故自分が責められてしまうのか。本当にわからない。
「すみません。」
咄嗟に言葉が出た。もう癖ついてるんだな、と少しだけ悲しくなる。言い返せれば、どんなに楽か...。
「そんなんじゃすまねぇんだよ!!」
「おまけに、君谷くんまで味方につけやがって!!」
咲夜は成績、性格、ルックスと申し分なく、クラスで1番の人気を誇る人物だ。亮はそのルックスと性格から、咲夜の次に人気があると言っても過言ではないだろう。
女子人気はもちろん、男子からの人望も厚い。ほんとなんで、私なんかに構うんだろうと、不思議に思うくらいだ。
ガッと、突然胸ぐらを掴まれた。拳を握ったのが目に入る。殴られる、そう覚悟し、諦め、瀬津は目を閉じた。
何回、痛みに耐えただろう...。地面に横たわる瀬津は、嫌な重みを感じた。脇腹を踏まれ、徐々に体重をかけられている。
その重みが急に、軽くなり、浴びせ続けられていた罵詈雑言は消え、辺りは静まりかえる。
違和感に気付き、瀬津はゆっくりと目を開ける。目の前の光景に、正直びっくりした。
「あのさぁ、やめろって。」
「瀬津、傷つけんなって何度言ってもわかんねぇの?」
仁王立ちして、腕組みをした2人の姿。
なんでそんなに私に構うの...。私なんて放っておいてもいいのに。今までみたいに、見て見ぬふりして過ごせば、巻き込まれることもないのに。死んだってもう、悲しむ人はいない。家族もいないも同然だ。忌み嫌う親戚の叔母からは寧ろ喜ばれるかもしれない。
「なんで...なんで、こんなとこに来たの?」
つい、声が出た。助けてくれたのに。お礼が先に言えなかった自分に対して、激しく嫌悪する。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】
積み上がった伏線の回収目前!!
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
いつか優しく終わらせてあげるために。
イチイ アキラ
恋愛
初夜の最中。王子は死んだ。
犯人は誰なのか。
妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。
12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
側妃の愛
まるねこ
恋愛
ここは女神を信仰する国。極まれに女神が祝福を与え、癒しの力が使える者が現れるからだ。
王太子妃となる予定の令嬢は力が弱いが癒しの力が使えた。突然強い癒しの力を持つ女性が異世界より現れた。
力が強い女性は聖女と呼ばれ、王太子妃になり、彼女を支えるために令嬢は側妃となった。
Copyright©︎2025-まるねこ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる