暗闇の灯

兎都ひなた

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#13

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「さて、荷物どうしよっか。」
由比が瀬津に問いかける。
私の荷物はほとんどない。両親が死んだときにほとんど捨ててしまった。服も...制服や体操着、ジャージ以外は春夏で1着、秋冬で1着のみ。出掛ける予定なんてほとんどないし、特に困ることもなかった。
家具という家具はないし...自炊はするから、少し台所にあるかな、くらい。リビングはちゃぶ台代わりの机が1つ。
「後部屋も。」
何から言えばいいのか悩んでいると、由比がポンッと付け加える。
「えっと......私の荷物はほとんどないので、少しの服と親の写真だけ持ってきます。部屋はないのなら無くて構いません。そもそも居させていただけるだけで有難いので。私は廊下でも.........」
「咲!! あんた、瀬津ちゃんと相部屋でいい?」
瀬津の言葉を最後まで聞かず、由比は咲夜を指さし、言う。本当に自由な人だと、改めて感じる。
「そんな...私なんかと相部屋だなんて......」
「うん。俺は大丈夫。瀬津は、俺と一緒じゃ嫌かな...?」
詰め寄るように近づいてくるのに、小首を傾げ、不安そうに瀬津の顔を覗き込んでくる咲夜。その表情に、惑わされそうになる。
迷惑じゃないのかな?だって今まで自分が使ってた部屋が急に狭くなっちゃうんだよ?しかもクラスで虐めの対象の私と、周りの人が途切れることの無い人気者の咲夜...まるで釣り合わない。きっと、誰が相手でも分け隔てなく接する咲夜の優しさも人気の1つなんだろうな、と妙に感心する。
「そんな...嫌だなんて......有り得ない。寧ろ、誰もが羨む贅沢だよ...。」
「よかったぁ...。」
激しく、必死に首を振る瀬津に安堵の表情を浮かべる咲夜。胸を撫で下ろし、瀬津の頭に手を乗せポンポンッと優しく撫でる。
「じゃあ決まりね。...咲は瀬津ちゃんの家に一緒に行って要るもの持って来て。」
「了解。...行こう、瀬津。」
「うん。」
瀬津の手を強く握り締め、立ち上がり、部屋から急いで出る。階段を駆け下り、玄関から飛び出す。いつも通学で使っている咲夜の自転車は、自転車置き場に置いていなかった。...そうか、私を連れて来てくれたから......置いてきたんだ。
「ごめん。学校からここまで、いつも自転車なのに...遠かったよね。」
その事実に気が付き、今更ながら落ち込んでしまう。手を離そうと、力を緩める。しかしその手を咲夜は逆に自分の体に引き寄せた。
「大丈夫、気にすることなんてないよ。とりあえず学校に自転車取りに行こ。」
周りの目なんか気にする様子もなく、手を繋いだまま咲夜は歩き始める。手を引かれるようにして、瀬津は咲夜の後ろを付いて歩いた。学校までの距離。知らない道。緊張で胸がドキドキしている。
私、男の子と一緒に外歩いてるよ...。まだ信じられない。ボロボロの制服に、整えられていない髪で、ただ下を向き歩いていたのが嘘みたいだ。
バイト...休んじゃったな、と不意に思い出した。後で公衆電話探そう。バイトを始めてから、初めて無断欠勤をしてしまった。携帯を持っていないため、すぐに連絡することが出来ない。無言のまま、ただ一緒に歩いた道は思っていたよりずっと早く、学校に着いてしまった。
河川敷沿いの道を自転車に2人乗りで走る。ドキドキと高鳴った胸、高揚する頬に風が気持ちがいい。
「ねぇ、何で私なの?何で私なんかに構うの...?私なんて相手にしたって何の得もないのに。」
寧ろ、私を助けたことによって、虐められてしまうかもしれないのに。せっかく人気がある人物を、暗闇に引きずり込みたくない。
咲夜は暗闇にいた私に灯火を燈してくれた。明るいところに連れ出してくれた。それが、ただ嬉しいと同時に、怖くて苦しくなる。
「今は秘密。また...機会があれば教えてやるよ。」
自転車の後ろで自分に抱きつく形の瀬津に、少しだけ目線をやりながら、会話をする咲夜。キュッと、タイヤの擦れる音がし、角をスピードを緩めずに曲がる。
「その先、2件目のアパートで止まって!」
咲夜の返答は気になるし、教えてもらえなかったことにモヤモヤするが、全てグッと飲み込んで、瀬津が自分の家まで案内する。
キィッと、一段と大きな音をたてて、自転車は急停止する。...咲夜の背中に顔をぶつけてしまった。
「はい。到着!!...あのさ、瀬津。姉貴に敬語使わなくていいからな?これから一緒に住むんだし。」
「分かった。気をつけるね。」
自転車から降り、アパートの部屋の鍵を差し込む瀬津の後ろ姿に、咲夜は声をかける。瀬津は振り向き、少しだけ笑顔を作ると、中へ入っていった。
数分後、小さなエコバッグくらいの鞄を持ち、瀬津は出てくる。
「それだけでいいの?」
「うん。このアルバムはお父さんとお母さんと私の3人の思い出。服は元々ほとんど持ってなかったし...これだけで十分。教科書もノートも全部、学校のカバンとロッカーに入ってるから、家には置いてないの。」
通りで重かったわけだと、妙に納得する咲夜。瀬津は、そんな咲夜の気なんか知らず、自転車の後ろへ乗り、持ってきた鞄を咲夜と自分の間へ挟みつつ、落ちないように抱き締める。
「そっか。じゃあ行くぞ!!」
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