暗闇の灯

兎都ひなた

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#14

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咲夜は自転車のペダルを勢いよく踏み込み、発進させる。離れていく自分の住んでいたアパートに、少しだけ、寂しさを感じた。
初めて自分で探し、契約を進めたアパートだ。...不動産屋さんの方にも行かなきゃな、と思い出す。やることは山積みだ。
咲夜の家の前に着き、自転車を降りる。「先に玄関行ってて。」と言い、咲夜は瀬津へ家の鍵を渡す。咲夜は自転車置き場のある、車庫の奥へ入っていった。
預かった鍵を使い、咲夜の家の扉を開ける。
「おかえり。瀬津ちゃん、ようこそ竜木家へ。これからよろしくね。」
扉を開けると、目の前に由比が立っていた。ニッコリと笑うその顔は咲夜とよく似ている。
「よろしく、瀬津。」
「お世話になります。」
自転車を置いてきた咲夜が瀬津の後ろから、ひょっこりと顔を覗かせて、言う。深々と頭を下げる瀬津に、咲夜と由比は優しく笑っていた。
「よし、じゃあ部屋は2階。さっきいた部屋ね。服は、とりあえず私の着ないやつあげる。それだけじゃ心許ないでしょ?制服は咲の部屋に掛けてあるから。何か足りなかったら言ってね。」
テキパキと指示を出す由比。ポンポンと瀬津の腕の中に服が積まれた。制服のサイズから合うのを選んでくれたらしい。
こんなに良くして貰っていいんだろうか。こんな...いきなり他人なんかを。何でここの家の人は私を受け入れてくれるんだろう...。嬉しさと疑問で心の中がぐちゃぐちゃする。
「本当に何もかもありがとう。」
「おう。」
嬉しさが勝ち、泣きそうになる。顔を由比の渡してくれた服に填め、小さな震える声でお礼を言った。くしゃくしゃと、由比が瀬津の頭を撫でる。髪がボサボサになるまで、勢いよく撫でてくるその手つきは、咲夜とよく似ている。
そして、男子と育ったからなのか。両親の海外出張のせいで親代わりで生活しているからなのか。由比はおしとやかと言うよりは格好良い系の女の子のように感じる。
「よし、オレの部屋。早くいこう。瀬津、来て!」
咲夜が瀬津の手を、強く握り、引く。階段を駆け上がり、先程までいた部屋にも関わらず“ジャジャーン!”とお披露目のポーズをとった。思わず、クスッと笑みが零れる。
「ここが、今日から俺と瀬津の部屋!!」
私と...咲夜の部屋......。改めて考えると、初めての男の子の部屋。今更ながら緊張してくる。
ドキドキとする瀬津の横で、咲夜は何も変わることなく平然としている。自分ばかり緊張しているのが恥ずかしくて、瀬津は必死に咲夜に知られないように振舞った。
「よろしく、咲夜。えっと、荷物ってどこに置けばいいかな...?」
「好きにしていいぜ?さすがに直ぐには揃えらんないし、しばらくは机とかベッドまで一緒だから、ちょっと大変だけど、自由だよ。俺に気負いすることないから、好きにやって。」
自由...かぁ。突然言われても慣れないな、と複雑な心境になる。1人で自由だったけど、人といると言いなりになるしかない生活を送って、数年で人はこうも変わるのか。
これから...慣れていけばいい、よね。
「おっはよ!!瀬津。」
元気な声が廊下に響く。学校で、朝から声をかけられたのは初めてだ。肩をポンッと叩かれる。周りはザワザワし、あちこちでコソコソと話している声が漏れ聞こえてくる。
「ねぇねぇ大丈夫だった?あれからどうなった?なんか2人とも眠そうな顔してるけど...。あっ!! 何かあったな!? おい、咲夜!教えろよ!?」
返事をする隙も与えず、亮が興奮気味に話し始める。しかも瀬津と話していたはずなのに、途中から咲夜の方に飛び火している。笑って誤魔化す咲夜に、亮は後ろから飛びかかっている。
超マイペース!!...まぁそこが亮の人気な点なんだけど...。クラスの中心に立てるムードメーカー。テンション高くマイペースに話しているようで、相手のことちゃんと見てるのが凄いところ。
「ぜってぇ教えねぇし!! 内緒、内緒!な、瀬津。」
瀬津に向かって咲夜がウインクする。どうやら、瀬津に返事をするようにという、咲夜の合図のようだ。
「うん。」
瀬津がにこやかにうなづく。
「うっわ、ひっどーい!!」
大袈裟に嘆く亮。しかし、顔は笑っている。いつも楽しそうだ。
「ねえ、そういえば髪!可愛くなったな。」
髪先を弄りながら、亮がニコニコして言う。可愛いと言われ、照れてしまう。「ありがとう。」と小さくお礼を言い、恥ずかしさに俯く瀬津。
ボサボサに切られてしまった髪は、由比が整えてくれた。由比の通う大学は美容学校らしい。通りでお下がりの服をたくさんくれたり、服装や髪にいち早く反応したんだろうな、と今になって納得する。
周りからは冷ややかな目と、文句の数々...。はっきりとした言葉では聞こえない。コソコソと、途切れ途切れに漏れ聞こえるが、何を言っているのかはわからない。
「またやっちゃおうよ...。」
「今度はうちらってわかんないように。」
角の女子がニヤッと企みの表情を浮かべる。ゾクッと背筋に何か嫌な予感がした。
帰りの挨拶が終わり、昇降口へ急ぐ。昨日行けなかったバイト先へ謝りに行ってから...今日は別のバイトのシフトが入っている。
虐めが始まってから、初めて呼び出されなかった。今日は机もロッカーも、何の被害も合わなかった。亮と咲夜のおかげかな...。久しぶりに平和に過ごせた学校に心が踊る。
靴箱の扉を開けた瞬間「きゃっ...。」と小さな悲鳴をあげ、すぐに勢いよく、叩きつけるようにして閉める。
「どうした?瀬津。」
その瀬津の悲鳴を聞き、咲夜と亮が駆け寄ってくる。それを無視して、無言で走り出す瀬津。向かう先は女子トイレ。この前、制服と髪を切られた誰も近づかない女子トイレ。
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