暗闇の灯

兎都ひなた

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#15

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勢いよく飛び込んだ。中には、いつもされていた机の落書きと同じような落書きが赤スプレーで殴り書きされている。しかも、特定の名前を入れて...。その名前が『神無月 瀬津』だった。私を狙っての、落書き。
あぁ...。やっぱり神様なんて私にはいないんだ...。あまりにもいい事がありすぎてうぬぼれてたのかもしれない。もう...無理かなぁ。お父さんとお母さんが死ぬ前のように戻る事なんて考えない方がいいのかな...。
思わず女子トイレの床に泣き崩れた。誰も見ていない、誰もいない女子トイレ。床に大きな水玉模様が出来る。
一頻り泣いた後、ドアの向こう側から、かなり慌てた足音がバタバタと聞こえてきた。鍵をかけていた扉が、勢いよく蹴破られる。
慌てて振り返ると、そこには同じポーズをとった咲夜と亮がいた。
「どうして、咲夜と亮がここに...?女子トイレだよ?」
普通、来ないでしょ...と言いかけて、口を噤んだ。
「瀬津の行くとこなら、女子トイレだろうが何だろうが関係ねぇよ。泣かされてるかもしれないなら尚更な。それにここ、人来ないから女子トイレとしての機能は、果たしてないし。問題なし!!」
亮が元気に言うが、ツッコミたくてしょうが無くなる。それにそれは問題なしと言えるのだろうか...。
また泣き顔を人に見られてしまった。誰も来ないと思ったから。ここに来るなんて気付かれないと思ってしまったから。
靴箱の中に、ここで制服を切られた時の写真が入っていた。ここに来れば、何かわかるのかと思って、何も考えずに飛び出した。でも...現実は思っていたよりもずっと残酷だった。誰がこんなことをしたかなんて、そんなことはもう気にならない。ただ、何のためにするのか、それがずっとわからない。ただの憂さ晴らしなのか...嫉妬なのか...。私に嫉妬する要素があれば、の話だけど。
それにしても、今日の亮、やけにテンション高いなー...。どうしたんだろう?
昨日は、取り巻きたちからの暴行を受けてから、咲夜の部屋で目が覚めるまでの記憶が一切ない。倒れたと聞いたから、もしかしたら途中で気絶したのかな...。それを亮は見てた...?そう言えば、私は亮がどこまで知っているのかを知らない。...わからない以上、心配をかけるのは申し訳ない。なるべく普通に振舞おう。
涙を拭い、心配をかけたくない思いから、無理に笑顔を作る瀬津。
「大丈夫。これくらいなら慣れてるから...。心配しないで。」
スッと咲夜の手が伸びる。瀬津の目の下に残っていた涙を拭き取る。
「無理すんなよ、瀬津。お前が無理に笑っても喜ぶやつはいねぇよ。俺らが望むのは瀬津
の本当に笑えた時の笑顔だけだから。...じゃ、俺は先に帰るから。後よろしくな、亮。」
それだけ言うと、咲夜は振り返ることなく、帰っていった。止める言葉なんか思いつかない。ただその後ろ姿を見送ることしか出来ない...。
「えっと...とりあえずここ出ようか。俺、この落書きどうにかしとくから、今日は帰ろ。」
「う...ん。」
珍しくたどたどしく話す亮に違和感を覚える。そりゃ...こんな落書き、びっくりさせちゃうよね。気まずく思い、返事をしたはいいものの、つい俯いてしまう。
一方、先に帰ると言って女子トイレを後にした咲夜は、昇降口の瀬津の下駄箱の前にいた。深くため息をつき、中に入っていたものを片付ける。
あーぁ。こんな虐めなんてくだらねぇことに巻き込まれて。命なんだと思ってんだ。1つの命が無くなった。小鳥の小さな命。無惨に殺されてしまった、その行為に憎悪をかきたてられた。苛立ちをどこにぶつけることも出来ない。
被害にあった小鳥を、校舎横の柔らかい土に埋める咲夜。きっと、あの女たちの仕業だろう。なんでここまで...。小鳥と一緒に、瀬津の虐めている時の写真も入っていた。丁寧に顔は塗りつぶされていたが、制服を切り刻まれていたその姿は、あの日、助けた瀬津だった。
足音に気付き、咄嗟に後者の影に隠れる。もう校舎内には俺ら3人以外いないと思うから...亮と瀬津が降りてきたのか。
思ったより早い、その足音に焦る。先に帰ると言った手前、出ていくことも出来ない。
「なぁ、今日送るよ。俺ん家そこまで遠くねぇし。」
「いや、悪いよそんなこと。」
それに今は、私の家じゃないし...。咲夜と住んでいることは内緒だと、朝約束してしまった。簡単に言うわけにもいかない。
亮は徒歩通学らしいから、遠くないというのは本当なんだろうけど。...上手く断ることが出来ずに、思わずたじろんでしまう。
「いいって、気にしなくても。女子1人で帰らせるのも怖いし。送るから...な?」
瀬津の考えを他所に、念を押す亮。
咲夜は校舎の影から、2人を見るが、なんと言っているか聞き取れずにモヤモヤしていた。何を止まって話してるんだ...?
「なら、途中まで...。」
その一言で、ゆっくりと、再び瀬津と亮が並んで歩き出す。2人の後ろ姿をどこか複雑な気持ちで見送った。...何してんだろ、俺。
亮が瀬津のことを好きだと言うのは、最近聞いた。亮から直接聞いた確かな情報だ。瀬津と並んで歩いている亮の頬が緩んでいるんだろうな、と想像する。
しかし、それを考えれば考えるほど咲夜の胸は痛んだ。幼馴染が好きなやつなんだから、と自分自身に何度も言い聞かせる。瀬津は、自分が好きになってはいけない相手だ。
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