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午前中の授業は滞りなく終わり、あっという間に昼休み。授業の合間に、亮の机へ待ち合わせ場所を書いたメモを忍び込ませた。そのメモを読んでいると信じ、指定した場所へ、瀬津は向かう。
昇降口から入ってすぐの階段の影。昼休みの人通りは少なく、少し薄暗いその場所は、パッと見、誰かが立っていても判別が難しい。亮が階段を下りてくるのを待ち、思い切って声をかける。
「亮。気持は嬉しい。すごく、嬉しかった。......でも、私...」
「わりぃ、瀬津。それ以上言わないでくれ。これ以上傷つきたくないんだ。ちゃんと、受け止めるから...。わりぃな。弱くて......」
言いかけた瀬津の言葉を遮って、亮は廊下の角を曲がっていった。早足で去っていく後ろ姿を、追いかけることは出来なかった。ただ、佇んで見つめることしか出来なかった。
亮のことを、弱いだなんて思ったことがない。どうしよう...傷付けた......。どんな言葉で伝えたら、相手を傷つけないか、すごくすごく考えた。...でも、結局はどんな言い方をしても、断る行為に変わりはない。傷つけてしまうのなら、せめて素直な気持ちを伝えようと思った。でも...最後まで伝えることは出来なかった。亮が話の途中で立ち去るなんて、考えもしなかった。それ程までに追い詰めてしまっていたのかと、何故それに気付けなかったのかと、自分を責める。
亮の姿が見えなくなり、すぐに瀬津はその場に蹲り、膝を抱えた。人が通らないのをいいことに、油断した。無意識に涙がこぼれ落ちる。久しぶりの“ひとりぼっち”という感覚が、怖かった。咲夜と亮の存在に甘えていた。
人を傷つけてしまった。これ以上傷つく人を見たくなかったのに...。そのことだけが、後悔してもしきれない。どうしたらよかったの...。何が正解なの......。自分を責めることしか出来ない自分の浅はかさに、無性に腹が立った。分からないことが悲しくて、悔しくて仕方がなかった。
亮に嫌われてしまったかもしれない...。せっかく...せっかく話せてたのに。仲良くしてくれてたのに。そりゃ...亮は誰とでも仲良くなるだろうけど。仲良くするくらい、特別じゃないのかもしれないけど...。考えていると無意識のうちにどんどん暗くなるようだった。
遠くから聞こえてくる足音はどんどん近づき、キュッと上履きのゴムの擦れる音がする。
その音に驚き、顔を上げると、目の前には息を切らせて肩で息をする咲夜がいた。
「どう...したの?そんなに慌てて......」
瀬津は戸惑い、言葉を詰まらせる。そんな瀬津を無視し、咲夜は瀬津にツカツカと詰め寄ると、頬を両手で抱え、目元に口付けをした。
「なにっやってんの......。」
「瀬津、また泣いてただろ。もう、お前のこと何があっても泣かせたくない。また泣いたら何度でもやるから、覚えとけよ。」
コツンッと、額を合わせ咲夜が言う。
瀬津は真っ赤になった顔を隠すことも出来ず、ただ、下に目を逸らした。目元とはいえ、キスされたことに驚く。
「なら、何度でも泣いちゃおっかな...。」
呟くように、周りの雑音にかき消されそうな声で瀬津は言った。
モヤモヤと、わからなかった答えが、今やっとわかった。霧がかかりモヤにまみれた心が晴れていくようだった。咲夜に対する、ドキドキの理由。胸の痛みの理由。そして、亮には感じなかった“好き”の意味。
「何…言ってんの?俺、本当にするよ?嫌じゃないの?!」
自分で言っておきながら咲夜の方が慌てる。その姿が、とても愛おしかった。顔がどんどん赤くなっているのがわかる。
「うん。嫌じゃない。...私が好きなのは咲夜だから。」
今度は瀬津が咲夜の頬を両手で抱え、ほっぺたに軽く、キスをした。咲夜が瀬津から距離を置くように飛び退き、後退りする。「なっ...なっ......」と言葉にならない声を発しながら、自分の頬を抑え、呆然とし、瀬津を見つめる。顔は茹でダコのように真っ赤になっていた。
「咲夜は、私のこと嫌い...?」
これが瀬津の元の...本当の性格。中学生の、あの時のまま。虐めが起こらない、平和な空間が続き、少しずつ思い出すことが出来た。誰かを好きになるのは初めてで、少しだけくすぐったい。
瀬津をよく知っている人なら、口を揃えて瀬津はこういう人だと、言うだろう。「ちょっと幼くて、積極的で善し悪しのはっきりとした明るい子。可愛くって無邪気で憎めない。」世渡り上手だといえば聞こえがいいが、その性格のせいで、妬まれることも少なくなかった。それは、覚えている。
「嫌い...じゃない。むしろ、お前のこと好きだよ。じゃなきゃここまで構ったりしねぇよ。今まで告白も断って、女子たちと一定の距離以上近付かないように、近付いてくるやつはあしらってたくらいなのに。」
口元に手の甲を当て、もごもごと自信なさげに話す、咲夜。こんな姿を見るのは初めてだ。
その姿が新鮮で、愛おしく、手の中に収めてしまいたいと思った。誰にも見られたくない。自分はこんなにも独占欲が強かったのかと、驚く。
「...ねぇ、もう1回キスしていい?」
瀬津が、上目遣いで咲夜に近付く。咲夜の了解を得ずに、首筋に顔を埋めると、キスをした。強く、抱きしめる。
今更になって、好きだと言ってくれたことが、嬉しくてたまらなかった。どうにか、抑えないと爆発してしまいそうだ。
「ちょっ...瀬津!お前、やりすぎ...。しかもここ学校!! もうとっくにチャイム鳴ったし...。授業始まってるし...行こうぜ、瀬津。」
抱きしめ返し、背中をポンポン、と優しく叩く咲夜に、我に返った。恥ずかしさで顔が更に赤くなる。ドキドキと鳴り続ける心臓は、今にでも飛び出していきそうだ。
顔を上げた瀬津に、咲夜は手を繋ぐように、手を差し伸べながら立ち上がる。迷いなく、その手を取り、瀬津は歩き始めた。
昇降口から入ってすぐの階段の影。昼休みの人通りは少なく、少し薄暗いその場所は、パッと見、誰かが立っていても判別が難しい。亮が階段を下りてくるのを待ち、思い切って声をかける。
「亮。気持は嬉しい。すごく、嬉しかった。......でも、私...」
「わりぃ、瀬津。それ以上言わないでくれ。これ以上傷つきたくないんだ。ちゃんと、受け止めるから...。わりぃな。弱くて......」
言いかけた瀬津の言葉を遮って、亮は廊下の角を曲がっていった。早足で去っていく後ろ姿を、追いかけることは出来なかった。ただ、佇んで見つめることしか出来なかった。
亮のことを、弱いだなんて思ったことがない。どうしよう...傷付けた......。どんな言葉で伝えたら、相手を傷つけないか、すごくすごく考えた。...でも、結局はどんな言い方をしても、断る行為に変わりはない。傷つけてしまうのなら、せめて素直な気持ちを伝えようと思った。でも...最後まで伝えることは出来なかった。亮が話の途中で立ち去るなんて、考えもしなかった。それ程までに追い詰めてしまっていたのかと、何故それに気付けなかったのかと、自分を責める。
亮の姿が見えなくなり、すぐに瀬津はその場に蹲り、膝を抱えた。人が通らないのをいいことに、油断した。無意識に涙がこぼれ落ちる。久しぶりの“ひとりぼっち”という感覚が、怖かった。咲夜と亮の存在に甘えていた。
人を傷つけてしまった。これ以上傷つく人を見たくなかったのに...。そのことだけが、後悔してもしきれない。どうしたらよかったの...。何が正解なの......。自分を責めることしか出来ない自分の浅はかさに、無性に腹が立った。分からないことが悲しくて、悔しくて仕方がなかった。
亮に嫌われてしまったかもしれない...。せっかく...せっかく話せてたのに。仲良くしてくれてたのに。そりゃ...亮は誰とでも仲良くなるだろうけど。仲良くするくらい、特別じゃないのかもしれないけど...。考えていると無意識のうちにどんどん暗くなるようだった。
遠くから聞こえてくる足音はどんどん近づき、キュッと上履きのゴムの擦れる音がする。
その音に驚き、顔を上げると、目の前には息を切らせて肩で息をする咲夜がいた。
「どう...したの?そんなに慌てて......」
瀬津は戸惑い、言葉を詰まらせる。そんな瀬津を無視し、咲夜は瀬津にツカツカと詰め寄ると、頬を両手で抱え、目元に口付けをした。
「なにっやってんの......。」
「瀬津、また泣いてただろ。もう、お前のこと何があっても泣かせたくない。また泣いたら何度でもやるから、覚えとけよ。」
コツンッと、額を合わせ咲夜が言う。
瀬津は真っ赤になった顔を隠すことも出来ず、ただ、下に目を逸らした。目元とはいえ、キスされたことに驚く。
「なら、何度でも泣いちゃおっかな...。」
呟くように、周りの雑音にかき消されそうな声で瀬津は言った。
モヤモヤと、わからなかった答えが、今やっとわかった。霧がかかりモヤにまみれた心が晴れていくようだった。咲夜に対する、ドキドキの理由。胸の痛みの理由。そして、亮には感じなかった“好き”の意味。
「何…言ってんの?俺、本当にするよ?嫌じゃないの?!」
自分で言っておきながら咲夜の方が慌てる。その姿が、とても愛おしかった。顔がどんどん赤くなっているのがわかる。
「うん。嫌じゃない。...私が好きなのは咲夜だから。」
今度は瀬津が咲夜の頬を両手で抱え、ほっぺたに軽く、キスをした。咲夜が瀬津から距離を置くように飛び退き、後退りする。「なっ...なっ......」と言葉にならない声を発しながら、自分の頬を抑え、呆然とし、瀬津を見つめる。顔は茹でダコのように真っ赤になっていた。
「咲夜は、私のこと嫌い...?」
これが瀬津の元の...本当の性格。中学生の、あの時のまま。虐めが起こらない、平和な空間が続き、少しずつ思い出すことが出来た。誰かを好きになるのは初めてで、少しだけくすぐったい。
瀬津をよく知っている人なら、口を揃えて瀬津はこういう人だと、言うだろう。「ちょっと幼くて、積極的で善し悪しのはっきりとした明るい子。可愛くって無邪気で憎めない。」世渡り上手だといえば聞こえがいいが、その性格のせいで、妬まれることも少なくなかった。それは、覚えている。
「嫌い...じゃない。むしろ、お前のこと好きだよ。じゃなきゃここまで構ったりしねぇよ。今まで告白も断って、女子たちと一定の距離以上近付かないように、近付いてくるやつはあしらってたくらいなのに。」
口元に手の甲を当て、もごもごと自信なさげに話す、咲夜。こんな姿を見るのは初めてだ。
その姿が新鮮で、愛おしく、手の中に収めてしまいたいと思った。誰にも見られたくない。自分はこんなにも独占欲が強かったのかと、驚く。
「...ねぇ、もう1回キスしていい?」
瀬津が、上目遣いで咲夜に近付く。咲夜の了解を得ずに、首筋に顔を埋めると、キスをした。強く、抱きしめる。
今更になって、好きだと言ってくれたことが、嬉しくてたまらなかった。どうにか、抑えないと爆発してしまいそうだ。
「ちょっ...瀬津!お前、やりすぎ...。しかもここ学校!! もうとっくにチャイム鳴ったし...。授業始まってるし...行こうぜ、瀬津。」
抱きしめ返し、背中をポンポン、と優しく叩く咲夜に、我に返った。恥ずかしさで顔が更に赤くなる。ドキドキと鳴り続ける心臓は、今にでも飛び出していきそうだ。
顔を上げた瀬津に、咲夜は手を繋ぐように、手を差し伸べながら立ち上がる。迷いなく、その手を取り、瀬津は歩き始めた。
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