暗闇の灯

兎都ひなた

文字の大きさ
上 下
19 / 29

#19

しおりを挟む
咲夜は部屋を出て、そのまま階段を無気力に降り、外に出た。深いため息が出る。どうするのが正解だったのか、わからない。俺、どうしたら良いんだよ。
"わかんない。"...か。亮の事は恋愛感情ではないけど、それでも好きだって...言ったのに。俺は、苦しいと、分からないと...言われてしまった。近くにいることで苦しめるのか?マジでわけわかんねぇ。あぁ、くそっ!!
電柱の影で座り込み、髪をかき乱す。項垂れていると、次第に雲行きは怪しくなり、雨が降り始めてしまった。雨足がどんどん強くなっていく。
このままこのわけわかんない気持ちを全部流しちまいたい...。誰にも迷惑をかけないように。瀬津に、嫌われてしまわないうちに。
座っててもしょうがないと思い、家へ戻る。十分に雨に打たれた。頭は...物理的には冷えたと思う。
家の玄関に入ると、瀬津がタオルを持って走りよってきた。
「咲夜!!...大丈夫?急に雨降り始めたから、心配した。こんなに濡れちゃって......。もっと早く気づけばよかった...。早く拭いて?風邪ひいちゃうよ!?」
玄関に滴り落ちる水滴が、どんどん広がり、玄関のタイルを湿らせた。心配そうに顔を覗き込んでくる瀬津に、申し訳なさで心苦しくなる。結局、迷惑をかけてしまった。
タオルを差し出していても、動かない咲夜に痺れを切らせ、瀬津が咲夜の頭にタオルをかぶせ、上から拭いていく。何度も心の中で「ごめんね」と呟いた。私なんかが世話を焼いてごめんなさい。私の答えがいけなかったから咲夜は出ていったんだよね...ごめんなさい。
咲夜の体が、夜の風で冷えていた。それに加えての雨。心配と申し訳なさで心がいっぱいだ。夢中になって咲夜の体を拭いていると、ふと、俯いていた咲夜と目が合う。ドキリと心臓が跳ね上がり、思わず手を止める。
瀬津がタオルを持って駆け出してくる。玄関も瀬津も水で濡れていく。
そのまま動けなくなった瀬津と咲夜を見越してか、勢いよく、突然扉が開く。
「あ―――ッ!!もう、濡れちゃったぁ!!雨、いきなり降ってくるんだもん。最悪だよ!あれ?咲、何でそんなにびしょ濡れなの?まさかこの雨の中、傘も持たずに出て行ったなんてことないよね?」
由比の突然の帰宅に、驚き、思わず咲夜を拭いていたタオルから手を離した。
「さあな......。」
それだけ言うと、咲夜は瀬津の持っていたタオルを受け取り、階段を力なく、ゆっくりとあがり自分の部屋へ入っていった。
その後ろ姿を見届け、由比は口を開く。
「瀬津ちゃん、咲と何があったのかは聞かないけど、これだけは覚えといて?男の子の心はガラス玉だよ。少しの言葉ですぐにひびが入って割れそうになる、危険なものなの。...よし、タオル持ってきてくれる?」
「はい。」
由比の言葉に、力なく返事をし、洗面台へ走る。由比の言葉が頭の中を何度も何度も、反芻していた。
ガラス玉、か...。だから咲夜は部屋を出て、雨の中、外にまで行ってしまったの...?私なんかの言葉に振り回されるなんて、考えられなかった。考えたこともなかった。
「持ってきました。」
「ありがとー!やっぱりいいね、女の子!! 可愛いねぇ瀬津ちゃんは。バカ男と大違い。両親もずっと帰ってこないし!!」
最初のお礼以外の言葉が上手く耳に届かない。上の空で聞き流してしまった。咲夜...大丈夫かな......どうしてるかな...。なんて、偉そうに考えてしまっている自分に気付き、恥じた。
でも、どうしても気になってしまう。1人で部屋に上がって行って...。ちゃんと着替えてれば良いんだけど...濡れた服のままだったら大変だ。まだちゃんと拭けてなかった。
次の日、朝は一緒に行こうと咲夜と亮と登校することになった。学校に行く途中の川の前で待ち合わせをする。...だが、宿題のノートを1つ、机の上に忘れていたことに気付き、亮と合流する前に「先いって待ってて!」とだけ伝え、瀬津は1人、家に戻った。急いで合流しないと、みんな一緒に遅刻してしまう。
バタバタと、慌てて川の方に向かうと、亮と咲夜が足音に気付いたのか、一緒に振り向いた。
「お待たせ!ごめんね、行こう。遅刻する!!」
その姿を見つけ、2人に駆け寄る瀬津。
去年と比べると随分明るくなり、元気になったと思う。虐めもさすがにある程度は、消滅しただろう。未だにほとんどのクラスメイトが、本当に瀬津と喋っても大丈夫なのか様子を見ているように避けているけど。
しおりを挟む

処理中です...