暗闇の灯

兎都ひなた

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#25

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静寂の中、”手術室”の赤ランプが消える。手術終了の合図。暗い廊下に光る赤い光が消えたことで、バッと顔を上げて由比と瀬津は同時に立ち上がった。
ガラガラと、ストレッチャーに乗せられた咲夜が出てくる。包帯をまかれ、毛布をかけられ、包帯をまかれた逆の腕には点滴が刺さっていた。目は覚ましていない...。
「咲はっ…弟は大丈夫ですか?!」
由比が医師を詰め寄る。
「命に別状はありません。まだどうなるかは分かりませんが、今は安静にしていてください。」
命に別状はない…。その言葉に、ホッとする。安堵で崩れ落ちそうになる足を、どうにか踏ん張った。安心はしたが、「どうなるかは分からない」という言葉に引っかかった。
他にも、腕が折れてしまったこと、強烈な打撲でヒビが入ってしまっている所があるということ。内蔵へのダメージを受け、内出血が酷いところは手術しているということを、順に聞かされた。
そのまま咲夜はストレッチャーに乗せられたまま、病室の方へと連れて行かれた。咲夜の病室は301号室だ。
部屋に着き、病床に寝かせられてから、どのくらいたっただろう。その日は、そのまま病院に泊まった。咲夜は目を覚まさない。
あれから3日が過ぎた。由比の携帯を借り、それぞれのバイト先へ電話をかけた。バイト先の情報をノートにメモをしておいてよかった。事情を聞き、落ち着くまで休んでいいと言ってくれた、バイト先に感謝する。毎日学校と病院の往復だ。由比は、大学とバイト、家のことを全てやってくれている。バイトのない日は病院に来ているから、休めていないんじゃないかと心配になる。家事を代わると言ったが、咲夜の傍に居てくれと言われてしまった。やれる事は、咲夜がいつ目を覚ましてもいいように、傍にいること。
咲夜の手を握りしめる。
「咲夜...早く起きてよ......。」
早く目、覚ましてよ。もう3日も咲夜の声を聞いていない。咲夜の瞳を見ていない。寂しい…。一緒にいてくれないと...寂しいよ。亮が学校では傍に居てくれ、安心させようとたくさんたくさん話しかけてくれる。それが逆に寂しさを増幅させるが、気付かれないように毎日振舞っている。
涙が握っている咲夜の手に零れた瞬間、咲夜がピクッ...とかすかに動いた気がした。勢いよく顔を上げる。咲夜の顔を覗き込む。
「...瀬......津?何で...泣いてんの?」
大粒の涙が瀬津の瞳から溢れ、ポタポタと落ちる。咲夜はそんな瀬津を不思議そうに眺めていた。なかなか言葉を出すことが出来ない。
しばらくして、ゆっくりと呟くように、言葉を零した。
「よかった...。咲夜が目を覚ましてくれて...本当によかった......。」
お父さんやお母さんの様にならなくて、ちゃんと生きてくれてて...よかった。まだ、話すことが出来る。それが何よりも嬉しかった。咲夜の声が耳に届くことが、嬉しかった。
「...俺、どのくらい寝てたの?」
「3日間だよ。由比ちゃん、ずっとは来れないから私が代わりに居たの。」
毎日毎日、学校が終わったら走ってここに来ていた。通うことに苦はなかった。もし、目を覚ましたときにその場で1人じゃないようにするために。1人ぼっちの寂しさは私が1番知っているから。
「悪いな。...あの時、ぶつかっちまって。こんな...動けない状態で......。助けるつもりだったのに、自分が...こんな...。あっ!!瀬津、バイトは!?」
「大丈夫だよ、バイトは休んでる。咲夜がこんな状況なのに、離れたくないよ。」
咲夜の手を、もう一度握り直す。
軽快な足音が廊下から近づいてくる。周りを囲っていたカーテンが開き、窓から外の光が漏れ入る。
「あら、竜木くん。起きたの?ほら、瀬津ちゃんも泣かないのよ!!じゃあ私、ご飯持ってくるね。何か食べなくちゃ。」
そう言うと、入ってきた看護婦さんは、手に持っていたタオルや水を入れるための手桶を、近くの机に置くと、すぐに身を翻した。咲夜の担当の看護婦さんだ。学校の時間や、閉館後の時間に瀬津の代わりに傍に居てくれている看護婦さん。とても話しやすく明るい看護婦さんは、瀬津の暗くなった気持ちも落ち過ぎないように、よく話しかけてくれた。
入って直ぐに出ていった看護婦さんの後ろ姿を見送り、瀬津と咲夜は顔を見合わせてクスッと笑った。「賑やかな人だね。」と咲夜は嬉しそうに呟く。咲夜の笑顔をまた、見ることが出来て、嬉しくて、また涙ぐんでしまう。しかし、咲夜に心配をかけたくなくて、ゴシゴシと、涙を拭い、笑ってみせた。
そんなやり取りをしていると、お盆を持って、看護婦さんは、戻ってきた。
「はい、これね。瀬津ちゃん、後よろしくね。」
「はい。」
ご飯のたくさん乗ったお盆を机に置くと、看護婦さんはまた、どこかへと消えていった。やっぱり大変な仕事なんだな、と思う。
しかし...よろしくと言われたが、一体何をしたらいいのだろう。戸惑い、ご飯と咲夜を交互に見ることしか出来ない。
静まり返る病室。今。この部屋にいるのは瀬津と咲夜だけ。何を言っても迷惑かける人は傍にいない。
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