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「あの...食べられる?......無理にとは言わないけど...冷めちゃうよ?」
「え、あぁ...。でもこの手じゃ無理だし...。俺、左手使えないんだよな。不器用だからさ。」
ヒラヒラ、と点滴の刺さる左手を動かしてみせる。右腕はギプスで固定されていた。でも...3日も眠り続けていた咲夜だ。何か食べておかないと、倒れてしまう。栄養の取れるゼリーでも買ってくるか...。でもそしたら、この料理が勿体ない。せっかく病院で用意してくれたご飯だ。粗末には出来ない。
よし。と覚悟を決め、スプーンを取る。食べ始めだからと、簡易的な卵粥だった。スプーンで掬い、息を吹きかけて冷ます。
「ほら、食べなよ...。」
そういった瀬津は咲夜から顔を背ける。人に食べさせるのは恥ずかしかった。咲夜の顔が近くて、照れくさい。スプーンを咲夜の口元へと近づける。
どんどんと早く鳴り響く鼓動がうるさい。手を伝い、スプーンを伝い、咲夜にバレてしまうのではないかと、余計にドキドキする。
咲夜は躊躇なくスプーンに食いついた。耳まで赤くなった顔が、視線を戻そうとした瀬津の目の端にチラつく。
「サンキュ...瀬津。治るまで、待っててくれな。そしたらまた守ってやれるから。」
左手を瀬津の頭に乗せる。ポンポンと、咲夜がよくやってくれる撫で方だ。優しく、弾むような手の動きに、心まで軽くなる。
「守ってくれなくてもいい。一緒にいてくれるだけでいい。私のせいで誰かが傷つくのはもう、嫌なの。」
実を言うと、また虐めが始まった。亮がそばにいる時は何も起こらない。まだ、諦めていなかったらしい。すごい執着だと、他人事のように思う。多分そのうち消える。我慢していれば、そのうち満足するだろうと、また前と同じように耐えている。由比にも、咲夜にも、心配はかけられない。影で落書きしたり、ロッカーや下駄箱に何か入れられたりするだけの、今までに比べればとても小さなものだから。
だから、咲夜には秘密にする。聞くときっとまた、助けに走ってくれるから。
「じゃあ、死なない程度にってことで...な。」
嬉しそうに笑い、また瀬津の差し出したスプーンに食いつく咲夜。誰かにご飯を食べさせるのはこれが初めてだ。なんだか心がくすぐったい。
学校の様子や、亮の様子、由比のことを話していると、時間はあっという間に過ぎた。今日は由比の来れない日だ。
看護婦さんが面会終了を知らせに、病室に入ってくる。
「じゃあ、また来るね。」
「あぁ...なるべく早く退院するから。」
ニコッと笑いかけ、手を振り、病室を出ていく瀬津。その後ろ姿を咲夜は1人、ベッドの上から見つめていた。
病院から出て、家に帰るまでの途中にある本屋さんの店頭で、くるみの出ている雑誌を見つけた。つい、立ち止まり見つめてしまう。
やっぱり人気あるなー...。周りはもう少し年下の子達だろうか。その中でも格段に可愛く見える。童顔で笑顔の可愛い女の子だ。
ただ、その笑顔の裏がわからず、何を考えているかいまいちよく知らない。先のことや、何を思っているかなどを、今までに話したことがないのだ。
顔を上げると、本屋さんのガラス窓にもくるみの写ったポスターが貼られていた。住む世界が違うのだと、思い知らされる。
「あっ瀬津だぁ!!」
聞き覚えのある声に、振り返る。
「ねえねえ!あの男の子は!? 今日は一緒に居ないの!?」
目の前にいる人物に驚いた。今、まさに雑誌やポスターで見ていたくるみが、自分へ向かって走ってきた。バイト先以外で会うのは初めてだ。黒い帽子に黒いマスク。喋るために顎の方へ下げたマスクの下には、綺麗にリップを塗った唇が見えた。
あの男の子って...咲夜のこと......かな?何で一緒にいるってことになってるんだろう...。あの日の帰り道を見られてた...?今、1番思い出したくない、あの日の夜を。
「居ないよ...。」
くるみの元気さに付いていけない。急になんの順序もなく人のテリトリーに入ってくる感じはどうも苦手だ。
「どこにいるか分かる?」
思わず急いで首を横に振る。
「知ら...ない...。」
途切れ途切れに言う瀬津に、くるみは少しだけ嫌な顔をしたように見えた。
教えたくない。教えたら...咲夜を連れて行かれてしまいそうで......怖い。友達だと思っていたくるみを怖く感じる自分が嫌になる。でも、その友情よりも、咲夜を自分の元から遠ざけたくないと、我儘な気持ちが芽生えていた。咲夜が居なくなったら、私はまた下を向いたまま、何もわからずただ命令を聞くだけの人形になってしまう。もうあの頃へは戻りたくないと、願ってしまった。
「そっか。じゃ、お仕事あるからまたね。今度はバイトで!」
「うん、またね。...多分、そろそろいけると思うから。」
休んでいる申し訳なさを感じ、語尾にいくにつれて声が小さくなってしまう。
「え、あぁ...。でもこの手じゃ無理だし...。俺、左手使えないんだよな。不器用だからさ。」
ヒラヒラ、と点滴の刺さる左手を動かしてみせる。右腕はギプスで固定されていた。でも...3日も眠り続けていた咲夜だ。何か食べておかないと、倒れてしまう。栄養の取れるゼリーでも買ってくるか...。でもそしたら、この料理が勿体ない。せっかく病院で用意してくれたご飯だ。粗末には出来ない。
よし。と覚悟を決め、スプーンを取る。食べ始めだからと、簡易的な卵粥だった。スプーンで掬い、息を吹きかけて冷ます。
「ほら、食べなよ...。」
そういった瀬津は咲夜から顔を背ける。人に食べさせるのは恥ずかしかった。咲夜の顔が近くて、照れくさい。スプーンを咲夜の口元へと近づける。
どんどんと早く鳴り響く鼓動がうるさい。手を伝い、スプーンを伝い、咲夜にバレてしまうのではないかと、余計にドキドキする。
咲夜は躊躇なくスプーンに食いついた。耳まで赤くなった顔が、視線を戻そうとした瀬津の目の端にチラつく。
「サンキュ...瀬津。治るまで、待っててくれな。そしたらまた守ってやれるから。」
左手を瀬津の頭に乗せる。ポンポンと、咲夜がよくやってくれる撫で方だ。優しく、弾むような手の動きに、心まで軽くなる。
「守ってくれなくてもいい。一緒にいてくれるだけでいい。私のせいで誰かが傷つくのはもう、嫌なの。」
実を言うと、また虐めが始まった。亮がそばにいる時は何も起こらない。まだ、諦めていなかったらしい。すごい執着だと、他人事のように思う。多分そのうち消える。我慢していれば、そのうち満足するだろうと、また前と同じように耐えている。由比にも、咲夜にも、心配はかけられない。影で落書きしたり、ロッカーや下駄箱に何か入れられたりするだけの、今までに比べればとても小さなものだから。
だから、咲夜には秘密にする。聞くときっとまた、助けに走ってくれるから。
「じゃあ、死なない程度にってことで...な。」
嬉しそうに笑い、また瀬津の差し出したスプーンに食いつく咲夜。誰かにご飯を食べさせるのはこれが初めてだ。なんだか心がくすぐったい。
学校の様子や、亮の様子、由比のことを話していると、時間はあっという間に過ぎた。今日は由比の来れない日だ。
看護婦さんが面会終了を知らせに、病室に入ってくる。
「じゃあ、また来るね。」
「あぁ...なるべく早く退院するから。」
ニコッと笑いかけ、手を振り、病室を出ていく瀬津。その後ろ姿を咲夜は1人、ベッドの上から見つめていた。
病院から出て、家に帰るまでの途中にある本屋さんの店頭で、くるみの出ている雑誌を見つけた。つい、立ち止まり見つめてしまう。
やっぱり人気あるなー...。周りはもう少し年下の子達だろうか。その中でも格段に可愛く見える。童顔で笑顔の可愛い女の子だ。
ただ、その笑顔の裏がわからず、何を考えているかいまいちよく知らない。先のことや、何を思っているかなどを、今までに話したことがないのだ。
顔を上げると、本屋さんのガラス窓にもくるみの写ったポスターが貼られていた。住む世界が違うのだと、思い知らされる。
「あっ瀬津だぁ!!」
聞き覚えのある声に、振り返る。
「ねえねえ!あの男の子は!? 今日は一緒に居ないの!?」
目の前にいる人物に驚いた。今、まさに雑誌やポスターで見ていたくるみが、自分へ向かって走ってきた。バイト先以外で会うのは初めてだ。黒い帽子に黒いマスク。喋るために顎の方へ下げたマスクの下には、綺麗にリップを塗った唇が見えた。
あの男の子って...咲夜のこと......かな?何で一緒にいるってことになってるんだろう...。あの日の帰り道を見られてた...?今、1番思い出したくない、あの日の夜を。
「居ないよ...。」
くるみの元気さに付いていけない。急になんの順序もなく人のテリトリーに入ってくる感じはどうも苦手だ。
「どこにいるか分かる?」
思わず急いで首を横に振る。
「知ら...ない...。」
途切れ途切れに言う瀬津に、くるみは少しだけ嫌な顔をしたように見えた。
教えたくない。教えたら...咲夜を連れて行かれてしまいそうで......怖い。友達だと思っていたくるみを怖く感じる自分が嫌になる。でも、その友情よりも、咲夜を自分の元から遠ざけたくないと、我儘な気持ちが芽生えていた。咲夜が居なくなったら、私はまた下を向いたまま、何もわからずただ命令を聞くだけの人形になってしまう。もうあの頃へは戻りたくないと、願ってしまった。
「そっか。じゃ、お仕事あるからまたね。今度はバイトで!」
「うん、またね。...多分、そろそろいけると思うから。」
休んでいる申し訳なさを感じ、語尾にいくにつれて声が小さくなってしまう。
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