お前の不敬には愛想が尽きた!と婚約破棄されましたが、これ幸い!

ちゃっぴー

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アスタール公爵邸の重厚な扉を、私はこれ以上ないほど景気よく蹴破らん勢いで開いた。

「ただいま戻りましたわ、お父様! 朗報です、今日から私は自由の身です!」

深夜にもかかわらず、書斎で書類仕事に追われていた父、ガンドルフ・フォン・アスタール公爵が飛び上がった。

「ノノカ!? なんだその、戦勝報告でもしに来たような顔は。パーティーはどうした、エドワード殿下は?」

「あぁ、あの顔だけの……いえ、最近は顔すら微妙になってきた殿下でしたら、会場で新しい女の方と仲良くやっておられましたわ。ついでに婚約破棄も承ってきました」

「……は?」

父の手から高級万年筆が滑り落ち、高価な絨毯にインクの染みを作った。

私はそんな些細なことは気にせず、父のデスクの前に堂々と座り込む。

「殿下がおっしゃるには、私がマリア様という男爵令嬢をいじめたそうですの。全く、濡れ衣もいいところですけれど、おかげで円満に(?)婚約解消となりましたわ」

「え、円満……? いや、ノノカ、これは国家間の問題になりかねんぞ。アスタール家が王家に不敬を働いたと見なされたら……」

「ご心配なく。あちらが公衆の面前で根拠のない罵倒を始めたのを、大勢の貴族が見ていましたから。むしろ、アスタール家の名誉を傷つけられたとして、こちらが被害者ですわ」

私は懐から、パーティーの最中に素早く書き留めておいた「請求予定リスト」を取り出した。

「ご覧ください。精神的苦痛、名誉毀損、そして今まで私が殿下の面白くない話に付き合ってあげた時間のコンサルティング料。これらを合算して、王家に叩きつけます」

「ノノカ、お前……いつの間にそんなものを。コンサルティング料とはなんだ」

「殿下の、一分で済む話を一時間に引き延ばす特殊能力に付き合うのは、並大抵の忍耐では不可能ですもの。労働基準法……いえ、この国の常識に照らし合わせても、高額な報酬を得る権利がありますわ」

父は呆然としてリストを眺めていたが、やがて「ふっ」と短く息を吐いた。

「……まぁ、いい。実を言うと、私もあの王子には手を焼いていたのだ。お前を道具のように扱う割に、政治の相談に来ては的外れなことばかり言っていくからな」

「あら、お父様もそう思っていらしたのね。やはり親子ですわ」

「だが、これからどうする? 婚約を破棄された令嬢というレッテルは、この社交界では重いぞ」

私は待ってましたとばかりに、扇をパンと叩いた。

「レッテルなんて、美味しいお肉のラベルくらいに思っておけばよろしいのです。お父様、私は決めました。これからは自分の審美眼だけを信じて生きていきます!」

「審美眼……?」

「はい。まずは、枯渇した私の『美形エネルギー』を補充するために、王都中のイケメンを片っ端から鑑定しに行きますわ。お父様、軍資金をいただけます?」

「お前というやつは……。まぁ、慰謝料が取れるまでの繋ぎだ。好きにするがいい。だが、変な男に捕まるんじゃないぞ」

「失礼ね。私は『顔が良いだけの男』は好きですが、『顔だけは良いけれど中身が腐っている男』にはもう飽き飽きなんです。次は、顔面が国宝級で、かつ私の毒舌……いえ、教育に耐えられる逸材を探しますわ」

翌朝、私は早速行動を開始した。

まずは情報を集めるべく、王都で最も流行に敏感な高級サロンへと向かう。

「あら、ノノカ様! 昨夜の話、もう街中に広まっていますわよ」

サロンに入るなり、友人(兼・情報屋)の令嬢たちが群がってきた。

「皆様、お耳が早くて助かりますわ。えぇ、自由の身になりましたの。これからは、殿下の三頭身に見える悪い姿勢を矯正する日々ともおさらばです」

「三頭身って……。でも、ノノカ様、これからの婚活は大変ですわよ? エドワード殿下を振った(ことになっている)女なんて、怖がって誰も寄り付きませんわ」

「あら、それは好都合。臆病な男に用はありませんもの。それより、今この国で一番『顔が良い』と噂されている方はどなた? 年齢、職種、既婚未婚は問いませんわ。とりあえず拝みたいんです」

令嬢たちは顔を見合わせ、ヒソヒソと話し始めた。

「……それなら、最近隣国から戻られた『氷の伯爵』こと、セシル・ド・バレンシア様ではないかしら?」

「セシル様? 聞いたことがありませんわね」

「あまり社交界に出られない方ですから。でも、一度お顔を拝見した方は皆様、あまりの美しさに三日間は食事が喉を通らなくなるとか」

「三日間も!? それは経済的に不健康ですが、観賞用としては最高の設定ですわね……。その方、どこにいらっしゃいますの?」

「現在は、王都の外れにある別邸に滞在されているそうですが……。何せ無口で無愛想、近づく者すべてを凍りつかせるような方だとか」

「面白いですわ。氷なら、私のマシンガントークで溶かして差し上げます」

私は手帳に『セシル・ド・バレンシア:要注意・至宝級の可能性あり』と書き込んだ。

「まずは、その『氷の顔面』が本物かどうか、この目で確かめに行かなくてはなりませんわね」

私の新しい狩り……ではなく、運命の出会い探しが、ここから本格的に幕を開けたのである。
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