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「……はふっ、はふっ……! あ、熱い……! 喉の奥が、火山の噴火口になったようですわ!」
公爵邸のテラス。
シャルロット様は、真っ赤な『デス・マウンテン・チャーハン』を口に詰め込み、涙を流しながら叫んでいました。
その顔は、聖女の面影など微塵もないほど紅潮し、額からは滝のような汗が流れています。
「あら、シャルロット様。無理はなさらないで? ギブアップなら、今すぐそのお皿を下げて、お湯に浸したパンでも差し上げますわよ?」
私が意地悪く微笑むと、彼女は血走った目で私を睨みつけました。
「い、嫌ですわ! この……この、舌を突き刺すような痛み! そしてその後にやってくる、脳が溶けるような快感……! これこそが、私が求めていた『生きている実感』ですもの!」
「……驚きましたわ。まさか、完食するなんて」
最後の一粒を飲み込んだ彼女は、空になった皿をテーブルに叩きつけました。
そして、空に向かって「おかわりー!」と絶叫したのです。
それを見ていたアリスティア様が、私の肩を抱き寄せ、耳元で低く囁きました。
「……テリーヌ。あの女、本当にここに置くのか? 私の分の唐辛子が減るのは、耐えがたいのだが」
「公爵様、嫉妬ですの? 大丈夫ですわ、貴方にはさらに強力な『特別メニュー』を用意してありますから」
「……特別、か。その言葉は、スパイスよりも私の心を熱くさせるな」
アリスティア様の視線が、少しだけ熱を帯びて私を見つめます。
ですが、私の意識はすでに「次なるスパイスの配合」へと向かっていました。
「ところでシャルロット様。王宮の方はどうなっていますの? 私が去った後、少しは静かになったかしら」
私の問いに、シャルロット様は思い出したように、けらけらと笑い出しました。
「静かどころか、お通夜状態ですわよ! ジュリアン殿下ったら、テリーヌ様が残した書類の山を見て、『これは何語だ!』って叫んでましたわ。……あれ、テリーヌ様がわざと唐辛子の汁で書いた暗号だったのでしょう?」
「あら、失礼な。あれはただの、私の食欲の備忘録を兼ねた速記ですわ」
「誰も解読できなくて、今頃は王宮の機能が止まっているはずですわ。あ、そうそう。殿下は『テリーヌを奪還する!』なんて息巻いていましたけれど……」
シャルロット様は、そこで言葉を切って私の格好を眺めました。
「……追いかけてくる気配、全くありませんわね」
「ええ、本当に。国境を越える時も、衛兵の方に『あ、グラタン公爵令嬢だ。お疲れ様でーす!』って笑顔で見送られましたもの」
かつての婚約者が、血眼になって追ってくる。
そんなドラマチックな展開を期待していなかったわけではありませんが、現実は非情です。
私の存在は、この国にとって「いなくなって初めて困る、面倒な爆弾」でしかなかったようですわね。
「寂しいですわね、テリーヌ嬢。……だが、安心していい」
アリスティア様が、私の手をそっと握りしめました。
「あの愚かな王子が追ってこないのなら、それは幸いだ。君を、一生この国……いや、私の厨房に閉じ込めておける口実ができるからな」
「閉じ込める? それは困りますわ。私、世界中の唐辛子をこの手で収穫しに行くのが夢なんですの」
「ならば、私がそのための軍隊を出そう。君が望むなら、世界中の唐辛子畑を我が国の領土にしてもいい」
「……公爵様。それ、プロポーズより重い言葉ですわよ?」
私が冗談めかして言うと、アリスティア様は真顔で頷きました。
「君の激辛料理より重いものなど、この世には存在しない。……そうだ、テリーヌ。明日は隣町の『激辛コンテスト』に二人で出場しないか?」
「あら、素敵! 荒らしに行きましょう、公爵様!」
私たちは、置いてけぼりの聖女を無視して、明日の戦略……すなわち「いかにして対戦相手の味覚を破壊するか」について熱く語り合い始めました。
一方、その頃。
国境を挟んだ向こう側では、ジュリアン殿下が。
「……誰も……誰も、この『スパイシー暗号』を解けないのか……! 予算会議まで、あと三時間なんだぞぉぉ!!」
深夜の王宮に、悲痛な叫びが空虚に響き渡っていました。
彼が追いかけてこないのは、追う時間すら作れないほど、事務作業の地獄に叩き落とされていたからなのでした。
公爵邸のテラス。
シャルロット様は、真っ赤な『デス・マウンテン・チャーハン』を口に詰め込み、涙を流しながら叫んでいました。
その顔は、聖女の面影など微塵もないほど紅潮し、額からは滝のような汗が流れています。
「あら、シャルロット様。無理はなさらないで? ギブアップなら、今すぐそのお皿を下げて、お湯に浸したパンでも差し上げますわよ?」
私が意地悪く微笑むと、彼女は血走った目で私を睨みつけました。
「い、嫌ですわ! この……この、舌を突き刺すような痛み! そしてその後にやってくる、脳が溶けるような快感……! これこそが、私が求めていた『生きている実感』ですもの!」
「……驚きましたわ。まさか、完食するなんて」
最後の一粒を飲み込んだ彼女は、空になった皿をテーブルに叩きつけました。
そして、空に向かって「おかわりー!」と絶叫したのです。
それを見ていたアリスティア様が、私の肩を抱き寄せ、耳元で低く囁きました。
「……テリーヌ。あの女、本当にここに置くのか? 私の分の唐辛子が減るのは、耐えがたいのだが」
「公爵様、嫉妬ですの? 大丈夫ですわ、貴方にはさらに強力な『特別メニュー』を用意してありますから」
「……特別、か。その言葉は、スパイスよりも私の心を熱くさせるな」
アリスティア様の視線が、少しだけ熱を帯びて私を見つめます。
ですが、私の意識はすでに「次なるスパイスの配合」へと向かっていました。
「ところでシャルロット様。王宮の方はどうなっていますの? 私が去った後、少しは静かになったかしら」
私の問いに、シャルロット様は思い出したように、けらけらと笑い出しました。
「静かどころか、お通夜状態ですわよ! ジュリアン殿下ったら、テリーヌ様が残した書類の山を見て、『これは何語だ!』って叫んでましたわ。……あれ、テリーヌ様がわざと唐辛子の汁で書いた暗号だったのでしょう?」
「あら、失礼な。あれはただの、私の食欲の備忘録を兼ねた速記ですわ」
「誰も解読できなくて、今頃は王宮の機能が止まっているはずですわ。あ、そうそう。殿下は『テリーヌを奪還する!』なんて息巻いていましたけれど……」
シャルロット様は、そこで言葉を切って私の格好を眺めました。
「……追いかけてくる気配、全くありませんわね」
「ええ、本当に。国境を越える時も、衛兵の方に『あ、グラタン公爵令嬢だ。お疲れ様でーす!』って笑顔で見送られましたもの」
かつての婚約者が、血眼になって追ってくる。
そんなドラマチックな展開を期待していなかったわけではありませんが、現実は非情です。
私の存在は、この国にとって「いなくなって初めて困る、面倒な爆弾」でしかなかったようですわね。
「寂しいですわね、テリーヌ嬢。……だが、安心していい」
アリスティア様が、私の手をそっと握りしめました。
「あの愚かな王子が追ってこないのなら、それは幸いだ。君を、一生この国……いや、私の厨房に閉じ込めておける口実ができるからな」
「閉じ込める? それは困りますわ。私、世界中の唐辛子をこの手で収穫しに行くのが夢なんですの」
「ならば、私がそのための軍隊を出そう。君が望むなら、世界中の唐辛子畑を我が国の領土にしてもいい」
「……公爵様。それ、プロポーズより重い言葉ですわよ?」
私が冗談めかして言うと、アリスティア様は真顔で頷きました。
「君の激辛料理より重いものなど、この世には存在しない。……そうだ、テリーヌ。明日は隣町の『激辛コンテスト』に二人で出場しないか?」
「あら、素敵! 荒らしに行きましょう、公爵様!」
私たちは、置いてけぼりの聖女を無視して、明日の戦略……すなわち「いかにして対戦相手の味覚を破壊するか」について熱く語り合い始めました。
一方、その頃。
国境を挟んだ向こう側では、ジュリアン殿下が。
「……誰も……誰も、この『スパイシー暗号』を解けないのか……! 予算会議まで、あと三時間なんだぞぉぉ!!」
深夜の王宮に、悲痛な叫びが空虚に響き渡っていました。
彼が追いかけてこないのは、追う時間すら作れないほど、事務作業の地獄に叩き落とされていたからなのでした。
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