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「……な、なんなんだ、この湯気は! 目が開けられないぞ!」
会場である広場は、調理が始まった瞬間に阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わりました。
他の参加者たちがチリソースやペッパーで堅実に「辛口料理」を作る中、私のコンロからは紫色の雷光を帯びた真っ赤な煙が立ち上っています。
「おほほほ! これこそが私の新作、『デス・ボルケーノ・スープ』ですわ! 公爵様、灰汁(あく)取りをお願いしますわね」
「……承知した。だがテリーヌ、このスープから発せられる蒸気で、観客席の第一列が全滅しているようだが」
アリスティア様は、防護ゴーグル越しに戦場のような光景を眺めました。
確かに、最前列で期待に胸を膨らませていた観客たちが、今はハンカチで目を押さえながら「逃げろ!」「これは化学兵器だ!」と叫んで逃げ惑っています。
「気になさらないで。これは新陳代謝を促すデトックス効果の一部に過ぎませんわ」
「……君のポジティブさには、かつての部下たちも見習うべき点があるな」
アリスティア様は、煮えたぎるマグマのようなスープを冷静にかき混ぜました。
彼はすでに、私の作る「殺人的な刺激」に脳が適応し始めているようです。
「さあ、審査員の方々! 準備はよろしいかしら? 一生忘れられない体験をさせて差し上げますわ!」
審査員席に並ぶのは、この国の美食家や辛党で知られる重鎮たち。
ですが、私のスープが運ばれてくると、彼らの顔色は一瞬で土気色に変わりました。
「……こ、これがお嬢さんの作ったスープかね? 皿が……皿が溶け始めているように見えるのだが……」
「気のせいですわ、審査員長。それはスープの情熱に、器が耐えきれなくなっただけのこと。さあ、冷めないうちにどうぞ!」
私は、一人一人に「毒々しく輝く真っ赤な液体」を注いで回りました。
審査員長が震える手でスプーンを持ち、一口、それを口に含んだ瞬間。
「…………ッッ!!!」
声になりませんでした。
審査員長の目は見開かれ、顔面は瞬時に林檎のように赤くなり、ついには耳からヒューッ!という蒸気が噴き出したのです。
「し、審査員長ーッ!?」
「心臓を叩け! 誰か、牛乳を! 大量の牛乳を運んでこい!」
会場は大パニックです。
審査員たちが次々と白目を剥いて倒れ伏す中、唯一、平然と自分の分のスープを飲み干した男がいました。
「……ああ、美味いな」
アリスティア様です。
彼は、周囲の惨状など目に入っていないかのように、優雅に口元を拭いました。
「テリーヌ。このスープ、火山の中心部を飲み込んだような荒々しさがある。だが、その奥にある唐辛子の甘みが、私の死んだはずの味覚を優しく愛撫してくれるようだ」
「お分かりいただけましたか、公爵様! 流石は私の生涯の試食係ですわ!」
「……試食係、か。少し物足りないが、今はその言葉に甘んじておこう」
アリスティア様は立ち上がり、倒れ伏した審査員たちの代わりに高らかに宣言しました。
「判定を待つまでもない。この『激辛コンテスト』、優勝者はテリーヌ・フォン・グラタンだ!」
ブーイングすら起きません。
なぜなら、反対意見を述べる元気のある観客は、すでに一人も残っていなかったからです。
「やりましたわ、公爵様! これで隣国への第一歩は完璧ですわね!」
「ああ。だがテリーヌ、一つ問題がある」
「何かしら?」
「優勝賞品の『幻の激辛唐辛子・苗木』……これ、私が手に入れたかったものなのだが、君が手に入れたということは……」
「もちろん、私と一緒に育てて、私と一緒に食べるのですわよ?」
私が当たり前のように言うと、アリスティア様は一瞬驚いたように目を見開き……やがて、今日一番の穏やかな笑顔を見せました。
「……そうか。二人で、か。それは悪くない」
優勝カップを掲げる私の横で、軍神と呼ばれた男が、初めて恋を知った少年のように微笑んでいました。
その頃。
会場の隅で、その光景を歯噛みしながら見ている影が一つ。
「……テリーヌ様。公爵様とそんなに仲良くして……。許せませんわ、私の『刺激的なご飯』を独り占めするなんて!」
聖女シャルロットが、よだれを垂らしながら嫉妬の炎を燃やしていました。
彼女の狙いは、もはや王太子の寵愛ではなく、テリーヌが作る「極上の毒物」へと完全にシフトしていたのです。
そして。
「……いたぞ。テリーヌを見つけたぞ……!」
さらに遠く、王国の密偵がその様子をじっと観察していました。
無能な王太子ジュリアンによる「テリーヌ奪還作戦」の魔の手が、すぐそこまで迫っていたのでした。
会場である広場は、調理が始まった瞬間に阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わりました。
他の参加者たちがチリソースやペッパーで堅実に「辛口料理」を作る中、私のコンロからは紫色の雷光を帯びた真っ赤な煙が立ち上っています。
「おほほほ! これこそが私の新作、『デス・ボルケーノ・スープ』ですわ! 公爵様、灰汁(あく)取りをお願いしますわね」
「……承知した。だがテリーヌ、このスープから発せられる蒸気で、観客席の第一列が全滅しているようだが」
アリスティア様は、防護ゴーグル越しに戦場のような光景を眺めました。
確かに、最前列で期待に胸を膨らませていた観客たちが、今はハンカチで目を押さえながら「逃げろ!」「これは化学兵器だ!」と叫んで逃げ惑っています。
「気になさらないで。これは新陳代謝を促すデトックス効果の一部に過ぎませんわ」
「……君のポジティブさには、かつての部下たちも見習うべき点があるな」
アリスティア様は、煮えたぎるマグマのようなスープを冷静にかき混ぜました。
彼はすでに、私の作る「殺人的な刺激」に脳が適応し始めているようです。
「さあ、審査員の方々! 準備はよろしいかしら? 一生忘れられない体験をさせて差し上げますわ!」
審査員席に並ぶのは、この国の美食家や辛党で知られる重鎮たち。
ですが、私のスープが運ばれてくると、彼らの顔色は一瞬で土気色に変わりました。
「……こ、これがお嬢さんの作ったスープかね? 皿が……皿が溶け始めているように見えるのだが……」
「気のせいですわ、審査員長。それはスープの情熱に、器が耐えきれなくなっただけのこと。さあ、冷めないうちにどうぞ!」
私は、一人一人に「毒々しく輝く真っ赤な液体」を注いで回りました。
審査員長が震える手でスプーンを持ち、一口、それを口に含んだ瞬間。
「…………ッッ!!!」
声になりませんでした。
審査員長の目は見開かれ、顔面は瞬時に林檎のように赤くなり、ついには耳からヒューッ!という蒸気が噴き出したのです。
「し、審査員長ーッ!?」
「心臓を叩け! 誰か、牛乳を! 大量の牛乳を運んでこい!」
会場は大パニックです。
審査員たちが次々と白目を剥いて倒れ伏す中、唯一、平然と自分の分のスープを飲み干した男がいました。
「……ああ、美味いな」
アリスティア様です。
彼は、周囲の惨状など目に入っていないかのように、優雅に口元を拭いました。
「テリーヌ。このスープ、火山の中心部を飲み込んだような荒々しさがある。だが、その奥にある唐辛子の甘みが、私の死んだはずの味覚を優しく愛撫してくれるようだ」
「お分かりいただけましたか、公爵様! 流石は私の生涯の試食係ですわ!」
「……試食係、か。少し物足りないが、今はその言葉に甘んじておこう」
アリスティア様は立ち上がり、倒れ伏した審査員たちの代わりに高らかに宣言しました。
「判定を待つまでもない。この『激辛コンテスト』、優勝者はテリーヌ・フォン・グラタンだ!」
ブーイングすら起きません。
なぜなら、反対意見を述べる元気のある観客は、すでに一人も残っていなかったからです。
「やりましたわ、公爵様! これで隣国への第一歩は完璧ですわね!」
「ああ。だがテリーヌ、一つ問題がある」
「何かしら?」
「優勝賞品の『幻の激辛唐辛子・苗木』……これ、私が手に入れたかったものなのだが、君が手に入れたということは……」
「もちろん、私と一緒に育てて、私と一緒に食べるのですわよ?」
私が当たり前のように言うと、アリスティア様は一瞬驚いたように目を見開き……やがて、今日一番の穏やかな笑顔を見せました。
「……そうか。二人で、か。それは悪くない」
優勝カップを掲げる私の横で、軍神と呼ばれた男が、初めて恋を知った少年のように微笑んでいました。
その頃。
会場の隅で、その光景を歯噛みしながら見ている影が一つ。
「……テリーヌ様。公爵様とそんなに仲良くして……。許せませんわ、私の『刺激的なご飯』を独り占めするなんて!」
聖女シャルロットが、よだれを垂らしながら嫉妬の炎を燃やしていました。
彼女の狙いは、もはや王太子の寵愛ではなく、テリーヌが作る「極上の毒物」へと完全にシフトしていたのです。
そして。
「……いたぞ。テリーヌを見つけたぞ……!」
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