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「アリスティア・フォン・スパイス! 往生際が悪いぞ、今日こそ決着をつけに来た!」
数日後。公爵邸の正面広場に、またしてもあの男が現れました。
ですが、今日のジュリアン殿下は一味違います。
泥まみれの格好はどこへやら、白銀の鎧を身に纏い、腰には王家に伝わる宝剣。
背後には、死んだ魚のような目をした文官たちが、大量の書類を抱えて控えています。
「……また君か。不法侵入で捕らえてもいいのだが」
アリスティア様が、心底面倒くさそうにバルコニーから見下ろしました。
「黙れ! 私は正々堂々と、騎士の作法に則って『決闘』を申し込みに来たのだ! この決闘に私が勝てば、テリーヌを……我が国の『筆頭事務官』として連れ戻す!」
「……騎士の作法を、事務処理能力の奪還に使うな。歴史が泣くぞ」
「うるさい! こちらは国家存亡の危機なのだ! テリーヌがいないせいで、昨日の夕食は『味のしない温野菜』、今朝は『白湯』だったのだぞ! こんな生活が続けば、私の胃袋が餓死してしまう!」
殿下が叫ぶと、背後の文官たちも「そうだ、そうだ!」「テリーヌ様を返せ!」と、シュプレヒコールを上げました。
……どうやら、向こうの王宮は、すでに文明崩壊の一歩手前まで来ているようですわね。
私は、手に持っていた新作スパイス『魔王の吐息』をひと舐めし、唇を赤く染めて身を乗り出しました。
「いいでしょう、殿下。その決闘、お受けいたしますわ」
「テ、テリーヌ嬢!? 本気か?」
アリスティア様が驚いて私を見ましたが、私は不敵に微笑みました。
「ただし、ルールはこちらで決めさせていただきます。剣や魔法なんて、古臭くて刺激がありませんもの。もっとこう……内臓を揺さぶるような、真剣勝負がよろしいでしょう?」
「……何をする気だ?」
「『激辛カレー・大食い決闘』ですわ!」
私の宣言に、広場が静まり返りました。
殿下が、ごくりと唾を飲み込みます。
「激辛カレー……大食いだと?」
「ええ。私がこれから作る、三日三晩煮込んだ特製『アルティメット・デス・カレー』。これを、どちらが先に、より多く完食できるかを競うのです」
「……っ。テリーヌ、忘れたか。私はかつて、辛いものを一口食べて気絶した男だぞ!」
「あら、そんな弱気で私の『事務処理能力』が手に入ると思って? 愛が……いえ、食欲があるなら、その程度の熱さ、乗り越えてみせなさいな!」
私は、アリスティア様の隣に立ち、彼の腕に自分の腕を絡めました。
「公爵様も、よろしいわね? 私の『婚約者』としての資質を、ここで証明していただきますわよ」
「……ふ。面白い。君の作った料理なら、毒であろうと溶岩であろうと、私は完食してみせよう」
アリスティア様の瞳に、本物の「軍神」の火が灯りました。
彼はジュリアン殿下を真っ向から見据え、冷たく言い放ちました。
「ルールは、テリーヌの言う通りだ。敗者は、二度とこの国の土を踏まず、一生『薄味の地獄』で書類に埋もれて暮らすがいい」
「……の、望むところだ! 私だって、テリーヌの投げた梅干しで少しは鍛えられたんだ! 見ていろ、私の真実の愛(と、贅沢な食生活への執着)を!」
こうして、前代未聞の「激辛決闘」のルールが確定しました。
場所は、公爵邸の中庭。
観客は、隣国の物見高い市民たちと、泣きながらジュリアン殿下の勝利を祈るショコラ王国の文官たち。
私はさっそく、厨房へと爆走しました。
「おーっほっほ! 腕が鳴りますわね! コンロの火力を最大に! 地下倉庫にある『門外不出の黒唐辛子』を全部持ってきなさい!」
厨房から上がる真っ黒な煙と、鼻を突くような破壊的な刺激臭。
それは、これから始まる惨劇……いえ、世紀の決戦の狼煙(のろし)でした。
「テリーヌ様、準備が整いましたわ!」
いつの間にか私の助手に収まっていた聖女シャルロットが、防護服に身を包んで報告してきました。
「よろしい。シャルロット様、貴女は審判をお願いしますわね」
「ええ! どちらが先に『昇天』するか、しっかり見極めて差し上げますわ!」
二人の男の意地と、一人の悪役令嬢のスパイス愛が、ついに大鍋の中で一つに溶け合おうとしていました。
数日後。公爵邸の正面広場に、またしてもあの男が現れました。
ですが、今日のジュリアン殿下は一味違います。
泥まみれの格好はどこへやら、白銀の鎧を身に纏い、腰には王家に伝わる宝剣。
背後には、死んだ魚のような目をした文官たちが、大量の書類を抱えて控えています。
「……また君か。不法侵入で捕らえてもいいのだが」
アリスティア様が、心底面倒くさそうにバルコニーから見下ろしました。
「黙れ! 私は正々堂々と、騎士の作法に則って『決闘』を申し込みに来たのだ! この決闘に私が勝てば、テリーヌを……我が国の『筆頭事務官』として連れ戻す!」
「……騎士の作法を、事務処理能力の奪還に使うな。歴史が泣くぞ」
「うるさい! こちらは国家存亡の危機なのだ! テリーヌがいないせいで、昨日の夕食は『味のしない温野菜』、今朝は『白湯』だったのだぞ! こんな生活が続けば、私の胃袋が餓死してしまう!」
殿下が叫ぶと、背後の文官たちも「そうだ、そうだ!」「テリーヌ様を返せ!」と、シュプレヒコールを上げました。
……どうやら、向こうの王宮は、すでに文明崩壊の一歩手前まで来ているようですわね。
私は、手に持っていた新作スパイス『魔王の吐息』をひと舐めし、唇を赤く染めて身を乗り出しました。
「いいでしょう、殿下。その決闘、お受けいたしますわ」
「テ、テリーヌ嬢!? 本気か?」
アリスティア様が驚いて私を見ましたが、私は不敵に微笑みました。
「ただし、ルールはこちらで決めさせていただきます。剣や魔法なんて、古臭くて刺激がありませんもの。もっとこう……内臓を揺さぶるような、真剣勝負がよろしいでしょう?」
「……何をする気だ?」
「『激辛カレー・大食い決闘』ですわ!」
私の宣言に、広場が静まり返りました。
殿下が、ごくりと唾を飲み込みます。
「激辛カレー……大食いだと?」
「ええ。私がこれから作る、三日三晩煮込んだ特製『アルティメット・デス・カレー』。これを、どちらが先に、より多く完食できるかを競うのです」
「……っ。テリーヌ、忘れたか。私はかつて、辛いものを一口食べて気絶した男だぞ!」
「あら、そんな弱気で私の『事務処理能力』が手に入ると思って? 愛が……いえ、食欲があるなら、その程度の熱さ、乗り越えてみせなさいな!」
私は、アリスティア様の隣に立ち、彼の腕に自分の腕を絡めました。
「公爵様も、よろしいわね? 私の『婚約者』としての資質を、ここで証明していただきますわよ」
「……ふ。面白い。君の作った料理なら、毒であろうと溶岩であろうと、私は完食してみせよう」
アリスティア様の瞳に、本物の「軍神」の火が灯りました。
彼はジュリアン殿下を真っ向から見据え、冷たく言い放ちました。
「ルールは、テリーヌの言う通りだ。敗者は、二度とこの国の土を踏まず、一生『薄味の地獄』で書類に埋もれて暮らすがいい」
「……の、望むところだ! 私だって、テリーヌの投げた梅干しで少しは鍛えられたんだ! 見ていろ、私の真実の愛(と、贅沢な食生活への執着)を!」
こうして、前代未聞の「激辛決闘」のルールが確定しました。
場所は、公爵邸の中庭。
観客は、隣国の物見高い市民たちと、泣きながらジュリアン殿下の勝利を祈るショコラ王国の文官たち。
私はさっそく、厨房へと爆走しました。
「おーっほっほ! 腕が鳴りますわね! コンロの火力を最大に! 地下倉庫にある『門外不出の黒唐辛子』を全部持ってきなさい!」
厨房から上がる真っ黒な煙と、鼻を突くような破壊的な刺激臭。
それは、これから始まる惨劇……いえ、世紀の決戦の狼煙(のろし)でした。
「テリーヌ様、準備が整いましたわ!」
いつの間にか私の助手に収まっていた聖女シャルロットが、防護服に身を包んで報告してきました。
「よろしい。シャルロット様、貴女は審判をお願いしますわね」
「ええ! どちらが先に『昇天』するか、しっかり見極めて差し上げますわ!」
二人の男の意地と、一人の悪役令嬢のスパイス愛が、ついに大鍋の中で一つに溶け合おうとしていました。
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