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数年後。
スパイス連邦、グラタン公爵邸……いえ、今や「スパイス大公邸」へと昇格したその広大な領地には、かつてない光景が広がっていました。
視界の端から端まで、すべてが燃えるような「赤」。
庭園にあったバラや百合はすべて引き抜かれ、今やそこには世界各地から集められた数千種類の唐辛子が、たわわに実っています。
風が吹くたびに空気がピリピリと震え、通りかかる渡り鳥さえもクシャミをして進路を変えるという、まさに「聖域」です。
「……ふぅ。今日もいい色に育っていますわね。私の可愛いハバネロちゃんたち」
私は、真っ赤なつなぎ(最新の防護魔導具入り)に身を包み、腰にプロ仕様の剪定ばさみを差し、畑の真ん中で満足げに微笑みました。
背後から、がっしりとした逞しい腕が私の腰を引き寄せます。
「テリーヌ。またこんな時間まで畑にいたのか。朝食の『激辛麻婆豆腐・アルティメット』が冷めてしまうぞ」
「あら、アリスティア様。おはようございますわ。冷めても大丈夫ですわよ。私の情熱(ラー油)を足せば、一瞬で沸騰しますから」
振り返ると、そこには以前よりもさらに精悍さを増したアリスティア様の姿がありました。
彼は私の頬に優しく口づけを落とします。
かつて「味気なき軍神」と恐れられた男は、今や「世界一の辛党大公」として、私の隣で最高に幸せそうな笑みを浮かべていました。
「……そうだな。君のラー油があれば、氷河期ですら乗り越えられそうだ」
「おほほほ! 頼もしいお言葉ですわ!」
私たちが仲睦まじく邸内へと戻ると、食堂からは異様な怒鳴り声……いえ、活気ある声が聞こえてきました。
「師匠! 遅いですわ! この『灼熱のフレンチトースト』、シナモンの代わりに粉末ジョロキアをかけすぎて、お皿が溶け始めていますわよ!」
テーブルに陣取っていたのは、今や我が国の「スパイス研究室・室長」となったシャルロット様です。
彼女はショコラ王国での聖女の地位を完全に捨て、今では「赤い魔女」として、国民に激辛料理を普及させる伝道師となっていました。
「いいではありませんか、シャルロット。溶けたお皿も一緒に煮込めば、鉄分が補給できて健康にいいですわよ」
「流石は師匠! 発想が劇物ですわ!」
私たちは、テーブルを囲んで真っ赤な朝食を楽しみました。
周囲の侍女たちは皆、防護マスクを二重に装着していますが、その目はどこか誇らしげです。
何せ、我が国はこの数年で「世界最大のスパイス輸出国」となり、近隣諸国の経済を『胃袋』から支配してしまったのですから。
「ところでテリーヌ。例の『ショコラ王国』から、また親書が届いているぞ」
アリスティア様が、テーブルの端にある、少し煤けた手紙を指差しました。
「あら。まだ生きていらしたのね、ジュリアン殿下は」
「ああ。……なんでも、事務処理ができなすぎて国力が低下し、今では『隣国のスパイスを輸入する代わりに、我が国の領土を一部割譲する』とまで言ってきたそうだ」
「……お可哀想に。愛も刺激も、そして計算能力もない国は、最後にはそうなるのですわね」
私は、手紙を見ることなく、真っ赤なスープを一気に飲み干しました。
喉が、胃が、そして魂が、心地よい痛みと共に歓喜の声を上げます。
ジュリアン殿下は今、毎日「味のしない白粥」を食べながら、終わることのない書類の山に埋もれて暮らしているそうです。
シャルロット様に逃げられ、ヴィクター側近に実権を握られ、今や彼はただの「判子を押すだけのマシーン」になり下がったとか。
……まあ、私には一切関係のないことですわね!
「……テリーヌ。私は今、本当に幸せだ」
アリスティア様が、私の手をそっと握りました。
「味覚を失い、死んだように生きていた私に、君が『痛み』という名の光をくれた。……君の隣にいれば、私は永遠に冷めることはないだろう」
「あら、公爵様。私の火力は、これからさらに上がりますわよ? ついてこられるかしら?」
「もちろんだ。……地の果てまで、君の毒味を勤め上げよう」
私たちは、真っ赤な空の下で、再び熱い誓いを交わしました。
かつて「悪役令嬢」と呼ばれ、婚約破棄された私。
でも、あの瞬間にガッツポーズをした私の選択は、間違いではありませんでした。
人生に必要なのは、上品なマナーでも、退屈な王子様でもありません。
それは、自分の魂を焦がすほどの「情熱」と、それを分かち合える「最高のパートナー」、そして……。
「……さあ! 今日も世界を、真っ赤に染めて差し上げますわよ! おーっほっほっほ!!」
一国の後宮(というか農園)に響き渡る、悪役令嬢の高笑い。
彼女の伝説は、今日も誰かの喉を焼き、誰かの涙を誘い、そして誰かの人生を劇的に変え続けているのでした。
スパイス連邦、グラタン公爵邸……いえ、今や「スパイス大公邸」へと昇格したその広大な領地には、かつてない光景が広がっていました。
視界の端から端まで、すべてが燃えるような「赤」。
庭園にあったバラや百合はすべて引き抜かれ、今やそこには世界各地から集められた数千種類の唐辛子が、たわわに実っています。
風が吹くたびに空気がピリピリと震え、通りかかる渡り鳥さえもクシャミをして進路を変えるという、まさに「聖域」です。
「……ふぅ。今日もいい色に育っていますわね。私の可愛いハバネロちゃんたち」
私は、真っ赤なつなぎ(最新の防護魔導具入り)に身を包み、腰にプロ仕様の剪定ばさみを差し、畑の真ん中で満足げに微笑みました。
背後から、がっしりとした逞しい腕が私の腰を引き寄せます。
「テリーヌ。またこんな時間まで畑にいたのか。朝食の『激辛麻婆豆腐・アルティメット』が冷めてしまうぞ」
「あら、アリスティア様。おはようございますわ。冷めても大丈夫ですわよ。私の情熱(ラー油)を足せば、一瞬で沸騰しますから」
振り返ると、そこには以前よりもさらに精悍さを増したアリスティア様の姿がありました。
彼は私の頬に優しく口づけを落とします。
かつて「味気なき軍神」と恐れられた男は、今や「世界一の辛党大公」として、私の隣で最高に幸せそうな笑みを浮かべていました。
「……そうだな。君のラー油があれば、氷河期ですら乗り越えられそうだ」
「おほほほ! 頼もしいお言葉ですわ!」
私たちが仲睦まじく邸内へと戻ると、食堂からは異様な怒鳴り声……いえ、活気ある声が聞こえてきました。
「師匠! 遅いですわ! この『灼熱のフレンチトースト』、シナモンの代わりに粉末ジョロキアをかけすぎて、お皿が溶け始めていますわよ!」
テーブルに陣取っていたのは、今や我が国の「スパイス研究室・室長」となったシャルロット様です。
彼女はショコラ王国での聖女の地位を完全に捨て、今では「赤い魔女」として、国民に激辛料理を普及させる伝道師となっていました。
「いいではありませんか、シャルロット。溶けたお皿も一緒に煮込めば、鉄分が補給できて健康にいいですわよ」
「流石は師匠! 発想が劇物ですわ!」
私たちは、テーブルを囲んで真っ赤な朝食を楽しみました。
周囲の侍女たちは皆、防護マスクを二重に装着していますが、その目はどこか誇らしげです。
何せ、我が国はこの数年で「世界最大のスパイス輸出国」となり、近隣諸国の経済を『胃袋』から支配してしまったのですから。
「ところでテリーヌ。例の『ショコラ王国』から、また親書が届いているぞ」
アリスティア様が、テーブルの端にある、少し煤けた手紙を指差しました。
「あら。まだ生きていらしたのね、ジュリアン殿下は」
「ああ。……なんでも、事務処理ができなすぎて国力が低下し、今では『隣国のスパイスを輸入する代わりに、我が国の領土を一部割譲する』とまで言ってきたそうだ」
「……お可哀想に。愛も刺激も、そして計算能力もない国は、最後にはそうなるのですわね」
私は、手紙を見ることなく、真っ赤なスープを一気に飲み干しました。
喉が、胃が、そして魂が、心地よい痛みと共に歓喜の声を上げます。
ジュリアン殿下は今、毎日「味のしない白粥」を食べながら、終わることのない書類の山に埋もれて暮らしているそうです。
シャルロット様に逃げられ、ヴィクター側近に実権を握られ、今や彼はただの「判子を押すだけのマシーン」になり下がったとか。
……まあ、私には一切関係のないことですわね!
「……テリーヌ。私は今、本当に幸せだ」
アリスティア様が、私の手をそっと握りました。
「味覚を失い、死んだように生きていた私に、君が『痛み』という名の光をくれた。……君の隣にいれば、私は永遠に冷めることはないだろう」
「あら、公爵様。私の火力は、これからさらに上がりますわよ? ついてこられるかしら?」
「もちろんだ。……地の果てまで、君の毒味を勤め上げよう」
私たちは、真っ赤な空の下で、再び熱い誓いを交わしました。
かつて「悪役令嬢」と呼ばれ、婚約破棄された私。
でも、あの瞬間にガッツポーズをした私の選択は、間違いではありませんでした。
人生に必要なのは、上品なマナーでも、退屈な王子様でもありません。
それは、自分の魂を焦がすほどの「情熱」と、それを分かち合える「最高のパートナー」、そして……。
「……さあ! 今日も世界を、真っ赤に染めて差し上げますわよ! おーっほっほっほ!!」
一国の後宮(というか農園)に響き渡る、悪役令嬢の高笑い。
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