悪役令嬢として婚約破棄され、地獄の追放先へ。

ちゃっぴー

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「……却下ですわ! こんな薄布一枚のドレス、式が始まる前に私が氷像になってしまいますわよ!」

公爵家の広間に、ネイビーの悲痛な叫びが響き渡りました。
目の前には、王都最高のデザイナーたちが作り上げた、純白のウェディングドレスが飾られています。
最高級のシルクと、繊細なレースをふんだんに使ったその一着は、確かに芸術品と呼ぶにふさわしい美しさでした。

しかし、ネイビーにとっては、それはただの「白い布」でしかありません。

「お嬢様、落ち着いてください。これは王家御用達の職人が、三日三晩不眠不休で作り上げた傑作なのです」

セバスがなだめますが、ネイビーはドレスに触れることすら拒否しました。

「セバス、あなたも職人も、私の『熱』に対するこだわりを忘れたのかしら? この生地の薄さを見てちょうだい。風が吹けば一瞬で体温を奪われ、私の花嫁姿は『白骨化死体』として歴史に刻まれることになりますわ!」

「……白骨化は言い過ぎかと思いますが。……では、どうされるおつもりで?」

ネイビーは不敵な笑みを浮かべ、あらかじめ用意させていた「特注の設計図」を床に広げました。
そこには、ウェディングドレスの形をした「重機」のような何かが描かれていました。

「見なさい。これこそが私の理想、究極の発熱ウェディングドレス『ヒート・オブ・ブライド一号』ですわ!」

セバスが眼鏡をかけ直し、図面を凝視します。

「……お嬢様。この、裏地にびっしりと縫い付けられた数百個の魔石は、一体?」

「全て最高出力の発熱魔石ですわ! ドレスの各部位にサーモスタットを内蔵し、常に三十五度をキープ。さらに、裾の部分には小型の魔石エンジンを搭載し、この重さを分散させるために『自走機能』を付けてありますの!」

「……自走。つまり、ドレスが自分で歩くのですか?」

「ええ! 私が歩くのではなく、ドレスが私を運ぶのです! これなら、氷点下の屋外でのパレードも、常夏の温室にいる気分でこなせますわ!」

そんなネイビーの暴走を止めるべく、一人の男が部屋に飛び込んできました。

「おい、ネイビー! いい加減にしろ!」

イグニスです。彼は今日もその肉体から心地よい熱気を放っていましたが、その表情は呆れ果てていました。

「イグニス様! 見てください、私の最高の戦闘服……いえ、婚礼衣装を!」

「戦闘服って言っちまってるじゃないか。……いいか、ネイビー。結婚式は俺とお前が愛を誓う場だ。ドレスにエンジンを積んでどうする。それに、その魔石の量……お前が近づくだけで、俺が蒸し焼きになるぞ」

「あら、イグニス様なら耐えられますわ! だってあなたは私の『人間暖房』なんですもの!」

「そういう問題じゃない。……俺は、お前のきれいな姿が見たいんだ。エンジン音を響かせながら煙を吐く雪だるまが見たいわけじゃない」

イグニスの真剣な眼差しに、ネイビーは少しだけ頬を赤くしました。
彼女にとって、イグニスの言葉はどんな暖房器具よりも心を温める力があります。

「……でも、イグニス様。王都の冬の教会は、本当に冷えるのですわ。私、あなたの隣で震えながら誓いの言葉を言うなんて、そんな無様な真似はしたくありませんの」

「……分かった。なら、こうしよう。ドレスの裏地には俺が直接魔力を込めた『特製マント』を仕込んでやる。魔石なんて使わなくても、俺の魔力でお前をずっと温めてやるから」

イグニスがネイビーの肩に手を置き、優しく、しかし力強く宣言しました。
その手の熱がドレス越しに伝わり、ネイビーの不安を一瞬で溶かしていきました。

「……イグニス様の魔力で、直接?」

「ああ。誓いのキスの瞬間まで、いや、その後の人生もずっとだ。……だから、そんな不格好な機械は捨てろ。俺が、お前の最強の防寒具になってやる」

「……イグニス様……! ああ、なんて熱い口説き文句かしら! 私、今なら火山の火口に飛び込んでも平気な気がしますわ!」

「それはやめろ。……セバス、設計図を燃やせ。普通のドレスに、俺の魔力媒体を組み込む形に修正だ」

セバスは深く頷き、ネイビーの「自走式ドレス計画」は幕を閉じました。

しかし、ネイビーは諦めていませんでした。
(ふふふ……ドレスがダメなら、せめてブーケの中に『超小型・高圧蒸気噴出装置』を仕込むくらいは許されるはずですわ!)

ネイビーの「温かさへの飽くなき探求」は、結婚式当日まで続くことになったのです。
王都の民はまだ知りませんでした。
数日後に開催される結婚式が、文字通り「この国で最も熱い一日」になることを。
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