悪役令嬢として婚約破棄され、地獄の追放先へ。

ちゃっぴー

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「……ついに、ついに戻ってまいりましたわ。かつて私を凍えさせた、この冷酷な石造りの都へ!」

王都の正門を潜り抜けた瞬間、ネイビーは馬車の窓から身を乗り出して叫びました。
沿道を埋め尽くした市民たちからは、割れんばかりの歓声が上がります。
彼らの首には、ネイビーが北国から送り続けた「ポカポカ・マフラー」が誇らしげに巻かれていました。

「ネイビー様! 温泉をありがとう!」
「もう冬の夜に震えなくて済むよ!」

熱狂的な歓迎を受けながら、ネイビーが向かったのは公爵家ではなく、王都の中心にそびえ立つ王宮でした。
そこには、彼女を追放した張本人である国王と、苦虫を噛み潰したような顔のアレン王子が待っています。

「……ネイビー・アルスター。よくぞ戻った。……まずは、北国での数々の功績、大儀であった」

玉座の間。国王は重々しく口を開きましたが、その体は微かに震えていました。
王宮は風通しが良すぎて、冬は底冷えがするのです。

ネイビーは優雅にカーテシーを披露しましたが、その瞳は鋭く光っていました。

「陛下、お久しぶりでございます。……ですが、お話し中失礼いたしますわ。このお部屋、室温が十六度しかありませんわね? これでは私の思考回路が凍結してしまいますわ」

「な……。ここは由緒ある玉座の間だぞ。温度など気にする場所では――」

「セバス! 例のブツを運び込みなさい!」

ネイビーが合図を送ると、屈強な男たちが巨大な、しかし平たい木製の箱を次々と運び込んできました。
それは、北国から引いてきたパイプラインの終着点と直結した、最新式の「可動式・温泉足湯ユニット」でした。

「陛下、そして殿下。私を追い出したことへの謝罪は、言葉ではなく『態度』で示していただきますわ。……さあ、靴と靴下をお脱ぎになって、ここへ足を突っ込みなさいな!」

「な、何を不敬な! 余に、公衆の面前で素足を晒せと言うのか!」

「お黙りなさい! 冷えは万病の元……そして、判断力を狂わせる元凶ですわ。あなたが私を追放したのも、足元が冷えて頭に血が上っていなかったからに違いありませんもの!」

ネイビーの勢いに気圧され、国王は渋々、そしてアレン王子は屈辱に震えながら、温かなお湯が満たされた箱の中に足を浸しました。

「……っ!? こ、これは……」

次の瞬間、国王の顔から険しさが消え失せました。
じんわりと、しかし確実に足の裏から全身へと染み渡る、氷竜の魔力が混じった奇跡の温もり。
それは、長年王室を支えてきた国王の重圧すらも、一瞬で溶かしていくような心地よさでした。

「……おお……。あああ……。なんと、なんと温かいのだ……。余は、今まで何を争っていたのだ……。温もりこそが、正義ではないか……」

「父上!? しっかりしてください! こんな女の策略に――……あ、ああああ……。温かい……。もう、何も考えたくない……」

アレン王子までもが、その場にヘナヘナと座り込み、うっとりとした表情で天を仰ぎました。
王宮の重鎮たちも、次々と足湯の魔力に屈し、玉座の間は一瞬にして「高級スパの休憩室」のような、緩みきった空気に包まれました。

「ふふふ、ちょろいですわね。……イグニス様、見てくださいな。この国で一番偉い方々が、私のお湯に骨抜きにされていますわよ」

ネイビーは隣で呆れているイグニスに、勝ち誇ったような笑みを向けました。

「……お前、本当にタチが悪いな。物理的な攻撃じゃなく、快楽で国を乗っ取るとは」

「失礼ね。私はただ、皆様に『正しい温度』を教えて差し上げただけですわ。……さあ、陛下。この心地よさを王都全土に広げるため、私の『全王都・床暖房化計画』に今すぐサインしていただきますわよ?」

「……うむ。……よかろう……。余はもう、この湯から出たくないのだ……。好きにするがよい……」

国王は、蕩けたような声で快諾しました。
こうして、ネイビーは剣一本振るうことなく、王宮を完全に支配下に置いたのです。

しかし、彼女の野望はこれだけでは終わりません。
「完璧な温もり」を手に入れた彼女が次に見据えるのは、自分を温め続けてくれたイグニスとの、最高に熱い「結婚式」でした。
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