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「おお……! これが、噂の『光る石』ですか……!」
辺境伯邸の応接室。
小太りの男が、テーブルの上に置かれた小石を前に、祈るように手を組んで震えていた。
男の名はベルンハルト。
大陸全土に支店を持つ大手、「銀の天秤商会」の支店長だ。
彼が見つめているのは、私が昨日ゴミ捨て場に放り投げた、親指大のクリスタルだ。
それは薄暗い室内で、真昼の太陽のような強烈な白色光を放ち続けている。
「ええ、そうですけど。まだゴミ漁りをするなんて、商会の人も物好きですね」
私は出されたクッキーを齧りながら、不思議そうに首を傾げた。
「ゴ、ゴミ!? これがですか!?」
ベルンハルト支店長が裏返った声を出した。
「ええ。だってそれ、失敗作ですよ?」
「失敗……?」
「はい。魔力充填式のエンドレスライトを目指したんですが、回路の設計ミスで『一度点灯したら魔力が尽きるまで(約百年)消灯できない』という欠陥品になっちゃって。スイッチ切れないなんて不便でしょ? 枕元に置いたら眩しくて眠れませんよ」
私が淡々と説明すると、ベルンハルト氏は口をパクパクと開閉させた。
まるで水面に打ち上げられた魚のようだ。
「ひゃ、百年……? 燃料の補給なしで、百年光り続ける……?」
「ええ。だから廃棄したんです。オンオフ機能のない照明なんて、制御できない暴走機関車と同じですから」
「素晴らしい!!!」
ドンッ!!
ベルンハルト氏がテーブルを叩いて立ち上がった。
その勢いに、クッキーが皿から飛び跳ねる。
「ユーミア様! あなたは天才ですか!? いや、女神だ!」
「はい?」
「消えない? それがどうしたと言うんです! 街路灯に使えば夜道は安全! 鉱山の坑道に使えば松明いらず! しかも百年交換不要!? これは革命ですよ! エネルギー革命だ!」
彼は鼻息も荒く、私に詰め寄ってきた。
「契約を! ぜひ我が商会と独占契約を! この石を商品化させてください! 言い値で買います! 金貨? いや、白金貨でも構わない!」
「はあ……まあ、ゴミ処理の手間が省けるなら……」
私が適当に頷きかけた、その時だった。
「――待て」
ドサッ。
重たい音がして、私の目の前に分厚い書類の束が置かれた。
隣に座っていたアレクセイ様だ。
彼は腕を組み、氷のような冷ややかな視線でベルンハルト氏を射抜いていた。
「商談を急ぐな、ベルンハルト。相手は世間知らずの元・深窓の令嬢だぞ。その場の勢いで不当な契約を結ばせるつもりか?」
「ギクッ! い、いえ、滅相もございません辺境伯閣下! 私はただ、この素晴らしい技術を世に広めたい一心で……」
「ならば、まずはこの私が契約書を精査する」
アレクセイ様は、私と商人の間に割って入るように体を滑り込ませた。
まるで、私を隠すような動きだ。
(おぉ、さすが騎士団長。セキュリティ意識が高いわ)
私は感心した。
私の作った魔導具が悪用されないよう、軍事的な観点からチェックしてくれるのだろう。
「アレクセイ様、助かります。変な条項がないか見てください。例えば『魂を代価にする』とか」
「……悪魔の契約書かそれは。普通はない」
アレクセイ様は呆れたように私を一瞥すると、商人に厳しい目を向けた。
「まず、利益配分だ。ユーミアの取り分は売り上げの八割とする」
「は、八割!? し、しかしそれでは商会の利益が……!」
「嫌なら他を当たるまでだ。王都の商会なら、彼女の名前を聞いただけで飛んでくるだろうな」
「うぐっ……! わ、わかりました! 八割で!」
「次に、技術の流出防止だ。製造工程はブラックボックス化し、分解しようとすれば自壊する術式を組み込む。その費用は商会持ちだ」
「そ、そこまで……!? は、はい、飲みましょう!」
アレクセイ様は容赦がない。
次々と商人に不利(というか私に有利すぎる)条件を突きつけ、ベルンハルト氏を追い込んでいく。
その横顔は真剣そのものだ。
(すごい……。私のゴミをここまで高く売りつけるなんて、アレクセイ様、もしや騎士を辞めても詐欺師として大成するのでは?)
失礼なことを考えていると、不意にアレクセイ様が私の方を向いた。
「ユーミア」
「はい?」
「……お前は、少し脇が甘すぎる」
「へ?」
彼は少し不機嫌そうに眉を寄せた。
「こんな男と二人きりで会うな。あやうく騙されるところだっただろう」
「え、でもベルンハルトさん、いい人そうでしたよ? お土産に高級カステラもくれましたし」
「カステラ一つで信用するな。……いいか、今後の商談は全て俺を通せ。お前の研究室に直接男を入れるな。わかったか」
ズイッと顔を近づけてくる。
綺麗な青い瞳が、真剣な光を帯びて私を見つめている。
ドキン、と心臓が跳ねた。
(な、なんだこの圧は……? これが噂の『圧迫面接』というやつか……?)
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
「は、はい。わかりました。セキュリティ管理はお任せします」
「……セキュリティ、か。まあいい」
アレクセイ様は溜息をつき、再び商人に向き直った。
「聞いたな。彼女は私の……その、管理下にある。今後、彼女への接触は全て私を通してもらう」
「は、ははーっ! 承知いたしました!」
ベルンハルト氏は滝のような汗を流しながら平伏した。
***
数時間後。
商談が終わり、ベルンハルト氏はホクホク顔で(半分魂が抜けていたが)帰っていった。
手付金として置いていった金貨の袋は、テーブルの上に山積みになっている。
「すごい……。ゴミがお金に変わった……」
私は金貨の山を呆然と見つめた。
これだけあれば、欲しかった『最高級ミスリル合金の鍋』も『竜の髭(触媒用)』も買い放題だ。
「ゴミではないと言っただろう。……全く、お前は自分の価値をわかってなさすぎる」
アレクセイ様が、疲れたようにお茶を啜っている。
「ありがとうございます、アレクセイ様! おかげで研究費が潤いました! これでお礼に、砦の暖房設備をアップデートしてあげますね!」
「……嫌な予感がするが、何をする気だ」
「『マグマ動力式・床暖房』です! 地下深くまで杭を打ち込んで、地熱を直接引っ張ってくるんです。冬でも常夏ですよ!」
「却下だ! 床が溶ける!」
即答で断られた。ちぇっ。
「しかし、これで噂は広まるだろうな」
アレクセイ様は窓の外、王都の方角を見やった。
「『銀の天秤商会』が動き出せば、お前の発明品は国中に流通する。……そうなれば、王都の連中も黙っていないぞ」
「王都? ああ、ギルバート殿下たちのことですか?」
私は金貨を数える手を止めた。
「大丈夫ですよ。勘当状ももらったし、あちらにはもう関わりありませんから」
「そう簡単に行くものか。……金のなる木を手放したと知れば、どんな手を使ってでも取り戻そうとするのが権力者だ」
アレクセイ様の声には、苦々しい響きがあった。
彼は王都のドロドロした権力争いを嫌というほど見てきたのだろう。
「ふふん、平気ですよ」
私はニヤリと笑った。
「そのために、今『迎撃システム』を開発中ですから」
「……は?」
「名付けて『自動追尾型・お説教ドローン』! 敷地内に侵入した不審者を感知して、拡声器でひたすら『お母さんの口癖』を大音量で流し続ける精神攻撃兵器です!」
「……地味に嫌だな、それ」
「精神的ダメージは計り知れませんよ。『部屋を片付けなさい』『いつまで寝てるの』『あんた将来どうするの』って延々と言われるんですから」
「やめろ、俺まで胃が痛くなってきた」
アレクセイ様は腹を押さえた。
「ま、とにかく。私はここで研究ができればそれでいいんです。邪魔する奴は、王太子だろうが魔王だろうが、実験台にするだけです」
私は握り拳を作って宣言した。
アレクセイ様は、そんな私を見て、ふっと小さく笑った。
「……そうだな。お前なら、王太子くらい撃退しそうだ」
彼は立ち上がり、ポンと私の頭に手を置いた。
「だが、無理はするな。……何かあったら、俺の後ろに隠れていろ」
その手は大きく、温かかった。
「……はい」
私は少しだけ素直に頷いた。
(……アレクセイ様って、たまにすごく保護者っぽい顔するわよね。やっぱり私が問題児だから、監督責任を感じてるのかしら)
恋愛偏差値がミジンコ以下の私は、その眼差しの意味に気づく由もなかった。
***
その頃、王都。
王太子の執務室は、パニック状態に陥っていた。
「殿下! ま、またトイレが逆流しました!」
「今度は東の塔の結界が消滅! 鳥のフン害が深刻です!」
「書類! 書類の山が崩れました! 誰かユーミア嬢の整理術を知る者はいないのか!?」
ギルバート王太子は、髪を振り乱して叫んだ。
「ええい、うるさい! ユーミアはどうした! まだ戻ってこないのか!?」
「それが……ベルンシュタイン公爵家が勘当してしまったため、行方が……」
「馬鹿者! あいつがいなければ、この城は機能しないんだぞ!」
そこへ、一人の側近が駆け込んできた。
「殿下! 報告します! 北の辺境で、『消えない光の石』なるものが発見されたとの噂が!」
「光の石だと……?」
「はい。なんでも、夜でも昼のように明るく、百年消えないとか……。開発者は、『美しき天才魔導師』との噂です!」
ギルバートは目を見開いた。
「天才魔導師……? まさか、ユーミアか?」
彼はガタッと椅子を蹴倒した。
「辺境……アレクセイのところか! おのれ、あいつ、私という婚約者がいながら、他の男の元へ逃げるとは!」
「殿下、どうされますか?」
「決まっている! 連れ戻すんだ! あの便利な女を、他国や商会に渡してたまるか!」
ギルバートの目には、復縁の愛など微塵もなく、ただ「便利な道具」を取り戻そうとする欲望の火が燃えていた。
「直ちに死者を……いや、迎えを派遣せよ! 最優先事項だ!」
ユーミアの平穏な(?)引きこもり生活に、王都からの魔の手が迫ろうとしていた。
辺境伯邸の応接室。
小太りの男が、テーブルの上に置かれた小石を前に、祈るように手を組んで震えていた。
男の名はベルンハルト。
大陸全土に支店を持つ大手、「銀の天秤商会」の支店長だ。
彼が見つめているのは、私が昨日ゴミ捨て場に放り投げた、親指大のクリスタルだ。
それは薄暗い室内で、真昼の太陽のような強烈な白色光を放ち続けている。
「ええ、そうですけど。まだゴミ漁りをするなんて、商会の人も物好きですね」
私は出されたクッキーを齧りながら、不思議そうに首を傾げた。
「ゴ、ゴミ!? これがですか!?」
ベルンハルト支店長が裏返った声を出した。
「ええ。だってそれ、失敗作ですよ?」
「失敗……?」
「はい。魔力充填式のエンドレスライトを目指したんですが、回路の設計ミスで『一度点灯したら魔力が尽きるまで(約百年)消灯できない』という欠陥品になっちゃって。スイッチ切れないなんて不便でしょ? 枕元に置いたら眩しくて眠れませんよ」
私が淡々と説明すると、ベルンハルト氏は口をパクパクと開閉させた。
まるで水面に打ち上げられた魚のようだ。
「ひゃ、百年……? 燃料の補給なしで、百年光り続ける……?」
「ええ。だから廃棄したんです。オンオフ機能のない照明なんて、制御できない暴走機関車と同じですから」
「素晴らしい!!!」
ドンッ!!
ベルンハルト氏がテーブルを叩いて立ち上がった。
その勢いに、クッキーが皿から飛び跳ねる。
「ユーミア様! あなたは天才ですか!? いや、女神だ!」
「はい?」
「消えない? それがどうしたと言うんです! 街路灯に使えば夜道は安全! 鉱山の坑道に使えば松明いらず! しかも百年交換不要!? これは革命ですよ! エネルギー革命だ!」
彼は鼻息も荒く、私に詰め寄ってきた。
「契約を! ぜひ我が商会と独占契約を! この石を商品化させてください! 言い値で買います! 金貨? いや、白金貨でも構わない!」
「はあ……まあ、ゴミ処理の手間が省けるなら……」
私が適当に頷きかけた、その時だった。
「――待て」
ドサッ。
重たい音がして、私の目の前に分厚い書類の束が置かれた。
隣に座っていたアレクセイ様だ。
彼は腕を組み、氷のような冷ややかな視線でベルンハルト氏を射抜いていた。
「商談を急ぐな、ベルンハルト。相手は世間知らずの元・深窓の令嬢だぞ。その場の勢いで不当な契約を結ばせるつもりか?」
「ギクッ! い、いえ、滅相もございません辺境伯閣下! 私はただ、この素晴らしい技術を世に広めたい一心で……」
「ならば、まずはこの私が契約書を精査する」
アレクセイ様は、私と商人の間に割って入るように体を滑り込ませた。
まるで、私を隠すような動きだ。
(おぉ、さすが騎士団長。セキュリティ意識が高いわ)
私は感心した。
私の作った魔導具が悪用されないよう、軍事的な観点からチェックしてくれるのだろう。
「アレクセイ様、助かります。変な条項がないか見てください。例えば『魂を代価にする』とか」
「……悪魔の契約書かそれは。普通はない」
アレクセイ様は呆れたように私を一瞥すると、商人に厳しい目を向けた。
「まず、利益配分だ。ユーミアの取り分は売り上げの八割とする」
「は、八割!? し、しかしそれでは商会の利益が……!」
「嫌なら他を当たるまでだ。王都の商会なら、彼女の名前を聞いただけで飛んでくるだろうな」
「うぐっ……! わ、わかりました! 八割で!」
「次に、技術の流出防止だ。製造工程はブラックボックス化し、分解しようとすれば自壊する術式を組み込む。その費用は商会持ちだ」
「そ、そこまで……!? は、はい、飲みましょう!」
アレクセイ様は容赦がない。
次々と商人に不利(というか私に有利すぎる)条件を突きつけ、ベルンハルト氏を追い込んでいく。
その横顔は真剣そのものだ。
(すごい……。私のゴミをここまで高く売りつけるなんて、アレクセイ様、もしや騎士を辞めても詐欺師として大成するのでは?)
失礼なことを考えていると、不意にアレクセイ様が私の方を向いた。
「ユーミア」
「はい?」
「……お前は、少し脇が甘すぎる」
「へ?」
彼は少し不機嫌そうに眉を寄せた。
「こんな男と二人きりで会うな。あやうく騙されるところだっただろう」
「え、でもベルンハルトさん、いい人そうでしたよ? お土産に高級カステラもくれましたし」
「カステラ一つで信用するな。……いいか、今後の商談は全て俺を通せ。お前の研究室に直接男を入れるな。わかったか」
ズイッと顔を近づけてくる。
綺麗な青い瞳が、真剣な光を帯びて私を見つめている。
ドキン、と心臓が跳ねた。
(な、なんだこの圧は……? これが噂の『圧迫面接』というやつか……?)
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
「は、はい。わかりました。セキュリティ管理はお任せします」
「……セキュリティ、か。まあいい」
アレクセイ様は溜息をつき、再び商人に向き直った。
「聞いたな。彼女は私の……その、管理下にある。今後、彼女への接触は全て私を通してもらう」
「は、ははーっ! 承知いたしました!」
ベルンハルト氏は滝のような汗を流しながら平伏した。
***
数時間後。
商談が終わり、ベルンハルト氏はホクホク顔で(半分魂が抜けていたが)帰っていった。
手付金として置いていった金貨の袋は、テーブルの上に山積みになっている。
「すごい……。ゴミがお金に変わった……」
私は金貨の山を呆然と見つめた。
これだけあれば、欲しかった『最高級ミスリル合金の鍋』も『竜の髭(触媒用)』も買い放題だ。
「ゴミではないと言っただろう。……全く、お前は自分の価値をわかってなさすぎる」
アレクセイ様が、疲れたようにお茶を啜っている。
「ありがとうございます、アレクセイ様! おかげで研究費が潤いました! これでお礼に、砦の暖房設備をアップデートしてあげますね!」
「……嫌な予感がするが、何をする気だ」
「『マグマ動力式・床暖房』です! 地下深くまで杭を打ち込んで、地熱を直接引っ張ってくるんです。冬でも常夏ですよ!」
「却下だ! 床が溶ける!」
即答で断られた。ちぇっ。
「しかし、これで噂は広まるだろうな」
アレクセイ様は窓の外、王都の方角を見やった。
「『銀の天秤商会』が動き出せば、お前の発明品は国中に流通する。……そうなれば、王都の連中も黙っていないぞ」
「王都? ああ、ギルバート殿下たちのことですか?」
私は金貨を数える手を止めた。
「大丈夫ですよ。勘当状ももらったし、あちらにはもう関わりありませんから」
「そう簡単に行くものか。……金のなる木を手放したと知れば、どんな手を使ってでも取り戻そうとするのが権力者だ」
アレクセイ様の声には、苦々しい響きがあった。
彼は王都のドロドロした権力争いを嫌というほど見てきたのだろう。
「ふふん、平気ですよ」
私はニヤリと笑った。
「そのために、今『迎撃システム』を開発中ですから」
「……は?」
「名付けて『自動追尾型・お説教ドローン』! 敷地内に侵入した不審者を感知して、拡声器でひたすら『お母さんの口癖』を大音量で流し続ける精神攻撃兵器です!」
「……地味に嫌だな、それ」
「精神的ダメージは計り知れませんよ。『部屋を片付けなさい』『いつまで寝てるの』『あんた将来どうするの』って延々と言われるんですから」
「やめろ、俺まで胃が痛くなってきた」
アレクセイ様は腹を押さえた。
「ま、とにかく。私はここで研究ができればそれでいいんです。邪魔する奴は、王太子だろうが魔王だろうが、実験台にするだけです」
私は握り拳を作って宣言した。
アレクセイ様は、そんな私を見て、ふっと小さく笑った。
「……そうだな。お前なら、王太子くらい撃退しそうだ」
彼は立ち上がり、ポンと私の頭に手を置いた。
「だが、無理はするな。……何かあったら、俺の後ろに隠れていろ」
その手は大きく、温かかった。
「……はい」
私は少しだけ素直に頷いた。
(……アレクセイ様って、たまにすごく保護者っぽい顔するわよね。やっぱり私が問題児だから、監督責任を感じてるのかしら)
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「ええい、うるさい! ユーミアはどうした! まだ戻ってこないのか!?」
「それが……ベルンシュタイン公爵家が勘当してしまったため、行方が……」
「馬鹿者! あいつがいなければ、この城は機能しないんだぞ!」
そこへ、一人の側近が駆け込んできた。
「殿下! 報告します! 北の辺境で、『消えない光の石』なるものが発見されたとの噂が!」
「光の石だと……?」
「はい。なんでも、夜でも昼のように明るく、百年消えないとか……。開発者は、『美しき天才魔導師』との噂です!」
ギルバートは目を見開いた。
「天才魔導師……? まさか、ユーミアか?」
彼はガタッと椅子を蹴倒した。
「辺境……アレクセイのところか! おのれ、あいつ、私という婚約者がいながら、他の男の元へ逃げるとは!」
「殿下、どうされますか?」
「決まっている! 連れ戻すんだ! あの便利な女を、他国や商会に渡してたまるか!」
ギルバートの目には、復縁の愛など微塵もなく、ただ「便利な道具」を取り戻そうとする欲望の火が燃えていた。
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