18 / 26
18
しおりを挟む
「グ……グググ……許さん……許さんぞユーミアァァァ……!!」
ローションの海に沈んだはずのギルバート殿下が、不気味な呻き声を上げながらゆらりと立ち上がった。
その手には、先ほどこぼれ落ちた「黒い魔石」が握られている。
魔石はドクンドクンと脈動し、戦場に漂う兵士たちの絶望(主に「ベタベタして気持ち悪い」という負の感情)を急速に吸収していた。
「殿下、様子が変です」
私は双眼鏡の倍率を上げた。
殿下の瞳から理性の光が消え、代わりに赤黒い狂気が宿っている。
『力が……力が溢れてくる……! これなら勝てる! あの生意気な女も、邪魔なアレクセイも、すべて消し去れる!!』
バキンッ!
殿下が魔石を握りつぶした。
その瞬間、黒い霧が噴き出し、殿下の黄金の鎧を侵食していく。
「ウオオオオオオ!!」
黒い霧は鎧の形状を変え、禍々しい棘のある『暗黒魔導鎧(ダーク・アーマー)』へと変貌させた。
背中からは蝙蝠のような黒い翼が生え、手には漆黒の剣が出現する。
「うわぁ、中二病全開のフォルムですね。デザインセンスが小学生です」
私が冷静に評価していると、隣でアレクセイ様が静かに剣を抜いた。
「……魔人化か。禁忌の魔石に手を出したな、ギルバート」
「アレクセイ様?」
「下がるな、ユーミア」
アレクセイ様は城壁の縁に立った。
風が彼の銀髪を揺らす。
「あいつの相手は俺がする。……元婚約者としてのケジメも、男としての決着も、ここでつけさせる」
「でも、今の殿下はドーピング状態ですよ? それに下はローション地獄です」
「関係ない」
彼はニヤリと不敵に笑った。
「俺が負けると思うか?」
その笑顔は、痺れるほど格好よかった。
悔しいけれど、私の心拍数がまた上がってしまうくらいに。
「……わかりました。援護はしません。行ってらっしゃいませ、私の騎士様(ヒーロー)」
「ああ、行ってくる」
ヒュンッ!
アレクセイ様は城壁を蹴り、十メートル下の戦場へと飛び降りた。
着地と同時に、足元のローションを凍らせて足場を作る。
さすが「氷の魔術師」、摩擦係数ゼロの地面も彼には関係ないようだ。
『アァァレェェクゥゥセェェイイイ!!』
闇落ちした殿下が、野太い声で咆哮した。
『貴様だ……貴様さえいなければ、ユーミアは私のものだった! 国一番の騎士という名声も、その美貌も、すべてが目障りなんだよぉぉぉ!!』
「嫉妬か。見苦しいな、殿下」
アレクセイ様は剣を構え、冷ややかに言い放った。
「彼女がお前を選ばなかったのは、俺のせいじゃない。……お前自身の器の小ささが原因だ」
『黙れぇぇぇ!!』
ドォォォン!!
殿下が地面を蹴る。
黒い翼で加速し、音速の突きを繰り出す。
「速い!」
私は思わず声を上げた。
魔石の力で身体能力が数倍に跳ね上がっている。
だが。
カィンッ!!
アレクセイ様は、その一撃を紙一重で受け流した。
「力任せな剣だ。……品がない」
『死ね! 死ね! 死ねぇぇぇ!』
殿下は獣のように剣を振り回す。
黒い衝撃波が飛び散り、周りで固まっていた重装兵(鉄団子状態)が吹き飛ばされる。
アレクセイ様はそれを、氷の盾で防ぎ、あるいは華麗なステップで躱していく。
しかし。
ここは「ローションの海」だ。
ザシュッ!
殿下が大きく踏み込んだ瞬間。
ツルッ!
『あべしっ!?』
殿下の足が滑った。
勢い余って、彼はトリプルアクセルのように空中で回転し、顔面から地面に激突した。
ベチャッ!
「……ぷっ」
城壁の上で、私は吹き出した。
魔王のような姿になっても、物理法則からは逃れられないらしい。
『お、おのれぇぇ! なぜ滑る! 私は魔王だぞ!?』
「魔王でも摩擦には勝てん」
アレクセイ様は冷徹に言い放ち、追撃の氷魔法を放つ。
「『氷槍(アイス・ランス)』!」
ドカカカカッ!
『ぐわぁぁぁ!?』
起き上がろうとした殿下に、無数の氷の槍が突き刺さる……ことはなく、ツルツル滑る地面のせいで殿下がスライド移動し、槍はすべて外れた。
「……チッ。滑りすぎて狙いが定まらん」
アレクセイ様も舌打ちをした。
どうやらこの戦場、真面目に戦うには不向きすぎるようだ。
『フフフ……見たか! このローションは私の味方だ!』
殿下はスライディングしながら起き上がり、そのままの勢いで滑走してアレクセイ様に突っ込んできた。
まるで人間カーリングだ。
『ダークネス・スライディング・スラッシュ!!』
「名前がダサい!」
アレクセイ様はジャンプして回避。
殿下はそのまま後方の壁に激突……した反動で、ピンボールのように跳ね返ってきた。
『まだだぁぁぁ!』
「しつこい!」
カキン! ガガガガッ! キィィィン!
二人は高速で滑り回りながら、剣を交え始めた。
傍目には、フィギュアスケートのペアダンスが殺し合いをしているようにしか見えない。
「高度な戦いですね……。バランス感覚と体幹の強さが勝敗を分けます」
私は冷静に分析しながら、ポップコーンを食べ始めた。
これは録画して後で売り出せば、いい資金源になるかもしれない。
『ハァ……ハァ……! なぜだ! なぜ当たらない!』
数分後。
殿下は息を切らしていた。
無駄な動き(スピンや転倒)が多すぎて、スタミナを消耗しているのだ。
対するアレクセイ様は、呼吸一つ乱していない。
彼は常に足元を瞬間的に凍らせ、スパイクのようにしてグリップを確保していたのだ。
技術の差は歴然だった。
「終わりだ、ギルバート」
アレクセイ様が剣を上段に構える。
その刀身に、凄まじい冷気が収束していく。
「お前のその歪んだ心ごと、凍らせてやる」
『ふざけるな! 私は負けん! この魔石の全ての力を使ってでもぉぉぉ!』
殿下の鎧が、ドクンと大きく脈動した。
最後の悪あがきだ。
彼は全身の魔力を剣に注ぎ込み、特大の闇の波動を放とうとした。
『消えろォォォ! 究極暗黒剣(アルティメット・ダーク・ソード)……!!』
その時だった。
「――お待ちなさい!!」
戦場に、凛とした女性の声が響き渡った。
「え?」
私も、アレクセイ様も、そして殿下も動きを止めた。
空から、一台の白い飛竜(ワイバーン)が舞い降りてくる。
その背に乗っているのは、豪奢なドレスを纏った、初老だが威厳のある女性。
「あ、あれは……!」
私が目を見開く。
見間違えるはずがない。
「お母様!?」
『ゲェーッ!? 王妃陛下!?』
殿下が素っ頓狂な声を上げた。
現れたのは、この国の王妃であり、ギルバート殿下の実母である、エレオノーラ王妃陛下だった。
王妃様は、着地した飛竜から優雅に降り立つと、扇子を開いて殿下を一喝した。
「ギルバート! お前は何をしているのですか!」
『ひっ、は、母上……!? なぜここに!?』
「王城のトイレが爆発したと聞いて戻ってみれば……城は汚水まみれ、お前は軍を率いて失踪。呆れてものが言えません!」
王妃様は、ツルツル滑る地面を、魔法で浮遊しながら進んでいく。
そして、闇の鎧を纏った殿下の前で仁王立ちした。
「しかも、その姿は何ですか! 禁忌の魔石に手を染め、あまつさえ国一番の功労者であるアレクセイとユーミア嬢に刃を向けるなど……!」
『う、うるさい! 私は王太子だ! 私のやることはすべて正義……』
「お黙りなさい!!」
バチィィィン!!
乾いた音が響いた。
王妃様の強烈な平手打ちが、殿下の(鎧で覆われた)頬に炸裂したのだ。
「ぐべっ!?」
物理防御が高いはずの闇の鎧が、母の愛の鞭の前には無力だったらしい。
殿下はきりもみ回転して吹き飛んだ。
「王太子の前に、人として恥を知りなさい!」
王妃様の怒号。
戦場が静まり返る。
あの凶暴な傭兵たちすら、王妃様の迫力に縮み上がっていた。
「……アレクセイ」
王妃様が、今度はアレクセイ様に向いた。
表情がふっと和らぐ。
「迷惑をかけましたね。この馬鹿息子が」
「いえ、陛下。……教育的指導をしていたところです」
アレクセイ様は剣を収め、恭しく礼をした。
足元は凍らせたままで。
「ユーミア嬢も、降りてらっしゃい」
「は、はい!」
私は慌てて城壁を駆け下りた。
「お久しぶりです、王妃陛下」
「ええ、久しぶりね。……随分と活発になったようで」
王妃様は、私の白衣と、背後にそびえ立つ巨大クマ型ゴーレムを見て、苦笑した。
「手紙は読みましたよ。『紙飛行機』で届いたやつをね」
「あ、届いてましたか。よかったです」
「ええ。窓ガラスを突き破って、私の部屋の壁に刺さっていましたけどね」
「……あはは」
王妃様はため息をつき、そして倒れている殿下を見下ろした。
「さて、この馬鹿息子の処分ですが……」
その時。
殿下の体から、黒い霧がプシューと音を立てて抜けていった。
魔石の力が切れ、元の情けない姿に戻る。
『う……うう……』
殿下は力なく涙を流していた。
『母上……私は……ただ……ユーミアに……認められたくて……』
「認められたいなら、仕事をなさい。トイレ掃除からね」
王妃様は冷たく切り捨てた。
「ギルバート。お前を廃嫡とし、王位継承権を剥奪します」
『な、なんだってーーー!?』
「そして、ユーミア嬢への謝罪と賠償として、ベルンシュタイン家とヴォルフ辺境伯家には、今後百年の免税特権を与えます」
「えっ、やった! 研究費浮いた!」
私がガッツポーズをすると、アレクセイ様が呆れたように頭を小突いた。
「お前な……」
こうして。
泥沼……もといローション沼の決戦は、最強のオカン(王妃様)の乱入により、あっけなく幕を閉じたのだった。
だが、物語はまだ終わらない。
王都へ凱旋することになった私には、まだ最後の仕事が残っていた。
そう、壊れた王城の修理と……アレクセイ様との「本物の結婚式」である。
ローションの海に沈んだはずのギルバート殿下が、不気味な呻き声を上げながらゆらりと立ち上がった。
その手には、先ほどこぼれ落ちた「黒い魔石」が握られている。
魔石はドクンドクンと脈動し、戦場に漂う兵士たちの絶望(主に「ベタベタして気持ち悪い」という負の感情)を急速に吸収していた。
「殿下、様子が変です」
私は双眼鏡の倍率を上げた。
殿下の瞳から理性の光が消え、代わりに赤黒い狂気が宿っている。
『力が……力が溢れてくる……! これなら勝てる! あの生意気な女も、邪魔なアレクセイも、すべて消し去れる!!』
バキンッ!
殿下が魔石を握りつぶした。
その瞬間、黒い霧が噴き出し、殿下の黄金の鎧を侵食していく。
「ウオオオオオオ!!」
黒い霧は鎧の形状を変え、禍々しい棘のある『暗黒魔導鎧(ダーク・アーマー)』へと変貌させた。
背中からは蝙蝠のような黒い翼が生え、手には漆黒の剣が出現する。
「うわぁ、中二病全開のフォルムですね。デザインセンスが小学生です」
私が冷静に評価していると、隣でアレクセイ様が静かに剣を抜いた。
「……魔人化か。禁忌の魔石に手を出したな、ギルバート」
「アレクセイ様?」
「下がるな、ユーミア」
アレクセイ様は城壁の縁に立った。
風が彼の銀髪を揺らす。
「あいつの相手は俺がする。……元婚約者としてのケジメも、男としての決着も、ここでつけさせる」
「でも、今の殿下はドーピング状態ですよ? それに下はローション地獄です」
「関係ない」
彼はニヤリと不敵に笑った。
「俺が負けると思うか?」
その笑顔は、痺れるほど格好よかった。
悔しいけれど、私の心拍数がまた上がってしまうくらいに。
「……わかりました。援護はしません。行ってらっしゃいませ、私の騎士様(ヒーロー)」
「ああ、行ってくる」
ヒュンッ!
アレクセイ様は城壁を蹴り、十メートル下の戦場へと飛び降りた。
着地と同時に、足元のローションを凍らせて足場を作る。
さすが「氷の魔術師」、摩擦係数ゼロの地面も彼には関係ないようだ。
『アァァレェェクゥゥセェェイイイ!!』
闇落ちした殿下が、野太い声で咆哮した。
『貴様だ……貴様さえいなければ、ユーミアは私のものだった! 国一番の騎士という名声も、その美貌も、すべてが目障りなんだよぉぉぉ!!』
「嫉妬か。見苦しいな、殿下」
アレクセイ様は剣を構え、冷ややかに言い放った。
「彼女がお前を選ばなかったのは、俺のせいじゃない。……お前自身の器の小ささが原因だ」
『黙れぇぇぇ!!』
ドォォォン!!
殿下が地面を蹴る。
黒い翼で加速し、音速の突きを繰り出す。
「速い!」
私は思わず声を上げた。
魔石の力で身体能力が数倍に跳ね上がっている。
だが。
カィンッ!!
アレクセイ様は、その一撃を紙一重で受け流した。
「力任せな剣だ。……品がない」
『死ね! 死ね! 死ねぇぇぇ!』
殿下は獣のように剣を振り回す。
黒い衝撃波が飛び散り、周りで固まっていた重装兵(鉄団子状態)が吹き飛ばされる。
アレクセイ様はそれを、氷の盾で防ぎ、あるいは華麗なステップで躱していく。
しかし。
ここは「ローションの海」だ。
ザシュッ!
殿下が大きく踏み込んだ瞬間。
ツルッ!
『あべしっ!?』
殿下の足が滑った。
勢い余って、彼はトリプルアクセルのように空中で回転し、顔面から地面に激突した。
ベチャッ!
「……ぷっ」
城壁の上で、私は吹き出した。
魔王のような姿になっても、物理法則からは逃れられないらしい。
『お、おのれぇぇ! なぜ滑る! 私は魔王だぞ!?』
「魔王でも摩擦には勝てん」
アレクセイ様は冷徹に言い放ち、追撃の氷魔法を放つ。
「『氷槍(アイス・ランス)』!」
ドカカカカッ!
『ぐわぁぁぁ!?』
起き上がろうとした殿下に、無数の氷の槍が突き刺さる……ことはなく、ツルツル滑る地面のせいで殿下がスライド移動し、槍はすべて外れた。
「……チッ。滑りすぎて狙いが定まらん」
アレクセイ様も舌打ちをした。
どうやらこの戦場、真面目に戦うには不向きすぎるようだ。
『フフフ……見たか! このローションは私の味方だ!』
殿下はスライディングしながら起き上がり、そのままの勢いで滑走してアレクセイ様に突っ込んできた。
まるで人間カーリングだ。
『ダークネス・スライディング・スラッシュ!!』
「名前がダサい!」
アレクセイ様はジャンプして回避。
殿下はそのまま後方の壁に激突……した反動で、ピンボールのように跳ね返ってきた。
『まだだぁぁぁ!』
「しつこい!」
カキン! ガガガガッ! キィィィン!
二人は高速で滑り回りながら、剣を交え始めた。
傍目には、フィギュアスケートのペアダンスが殺し合いをしているようにしか見えない。
「高度な戦いですね……。バランス感覚と体幹の強さが勝敗を分けます」
私は冷静に分析しながら、ポップコーンを食べ始めた。
これは録画して後で売り出せば、いい資金源になるかもしれない。
『ハァ……ハァ……! なぜだ! なぜ当たらない!』
数分後。
殿下は息を切らしていた。
無駄な動き(スピンや転倒)が多すぎて、スタミナを消耗しているのだ。
対するアレクセイ様は、呼吸一つ乱していない。
彼は常に足元を瞬間的に凍らせ、スパイクのようにしてグリップを確保していたのだ。
技術の差は歴然だった。
「終わりだ、ギルバート」
アレクセイ様が剣を上段に構える。
その刀身に、凄まじい冷気が収束していく。
「お前のその歪んだ心ごと、凍らせてやる」
『ふざけるな! 私は負けん! この魔石の全ての力を使ってでもぉぉぉ!』
殿下の鎧が、ドクンと大きく脈動した。
最後の悪あがきだ。
彼は全身の魔力を剣に注ぎ込み、特大の闇の波動を放とうとした。
『消えろォォォ! 究極暗黒剣(アルティメット・ダーク・ソード)……!!』
その時だった。
「――お待ちなさい!!」
戦場に、凛とした女性の声が響き渡った。
「え?」
私も、アレクセイ様も、そして殿下も動きを止めた。
空から、一台の白い飛竜(ワイバーン)が舞い降りてくる。
その背に乗っているのは、豪奢なドレスを纏った、初老だが威厳のある女性。
「あ、あれは……!」
私が目を見開く。
見間違えるはずがない。
「お母様!?」
『ゲェーッ!? 王妃陛下!?』
殿下が素っ頓狂な声を上げた。
現れたのは、この国の王妃であり、ギルバート殿下の実母である、エレオノーラ王妃陛下だった。
王妃様は、着地した飛竜から優雅に降り立つと、扇子を開いて殿下を一喝した。
「ギルバート! お前は何をしているのですか!」
『ひっ、は、母上……!? なぜここに!?』
「王城のトイレが爆発したと聞いて戻ってみれば……城は汚水まみれ、お前は軍を率いて失踪。呆れてものが言えません!」
王妃様は、ツルツル滑る地面を、魔法で浮遊しながら進んでいく。
そして、闇の鎧を纏った殿下の前で仁王立ちした。
「しかも、その姿は何ですか! 禁忌の魔石に手を染め、あまつさえ国一番の功労者であるアレクセイとユーミア嬢に刃を向けるなど……!」
『う、うるさい! 私は王太子だ! 私のやることはすべて正義……』
「お黙りなさい!!」
バチィィィン!!
乾いた音が響いた。
王妃様の強烈な平手打ちが、殿下の(鎧で覆われた)頬に炸裂したのだ。
「ぐべっ!?」
物理防御が高いはずの闇の鎧が、母の愛の鞭の前には無力だったらしい。
殿下はきりもみ回転して吹き飛んだ。
「王太子の前に、人として恥を知りなさい!」
王妃様の怒号。
戦場が静まり返る。
あの凶暴な傭兵たちすら、王妃様の迫力に縮み上がっていた。
「……アレクセイ」
王妃様が、今度はアレクセイ様に向いた。
表情がふっと和らぐ。
「迷惑をかけましたね。この馬鹿息子が」
「いえ、陛下。……教育的指導をしていたところです」
アレクセイ様は剣を収め、恭しく礼をした。
足元は凍らせたままで。
「ユーミア嬢も、降りてらっしゃい」
「は、はい!」
私は慌てて城壁を駆け下りた。
「お久しぶりです、王妃陛下」
「ええ、久しぶりね。……随分と活発になったようで」
王妃様は、私の白衣と、背後にそびえ立つ巨大クマ型ゴーレムを見て、苦笑した。
「手紙は読みましたよ。『紙飛行機』で届いたやつをね」
「あ、届いてましたか。よかったです」
「ええ。窓ガラスを突き破って、私の部屋の壁に刺さっていましたけどね」
「……あはは」
王妃様はため息をつき、そして倒れている殿下を見下ろした。
「さて、この馬鹿息子の処分ですが……」
その時。
殿下の体から、黒い霧がプシューと音を立てて抜けていった。
魔石の力が切れ、元の情けない姿に戻る。
『う……うう……』
殿下は力なく涙を流していた。
『母上……私は……ただ……ユーミアに……認められたくて……』
「認められたいなら、仕事をなさい。トイレ掃除からね」
王妃様は冷たく切り捨てた。
「ギルバート。お前を廃嫡とし、王位継承権を剥奪します」
『な、なんだってーーー!?』
「そして、ユーミア嬢への謝罪と賠償として、ベルンシュタイン家とヴォルフ辺境伯家には、今後百年の免税特権を与えます」
「えっ、やった! 研究費浮いた!」
私がガッツポーズをすると、アレクセイ様が呆れたように頭を小突いた。
「お前な……」
こうして。
泥沼……もといローション沼の決戦は、最強のオカン(王妃様)の乱入により、あっけなく幕を閉じたのだった。
だが、物語はまだ終わらない。
王都へ凱旋することになった私には、まだ最後の仕事が残っていた。
そう、壊れた王城の修理と……アレクセイ様との「本物の結婚式」である。
0
あなたにおすすめの小説
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
悪役令嬢は高らかに笑う。
アズやっこ
恋愛
エドワード第一王子の婚約者に選ばれたのは公爵令嬢の私、シャーロット。
エドワード王子を慕う公爵令嬢からは靴を隠されたり色々地味な嫌がらせをされ、エドワード王子からは男爵令嬢に、なぜ嫌がらせをした!と言われる。
たまたま決まっただけで望んで婚約者になったわけでもないのに。
男爵令嬢に教えてもらった。
この世界は乙女ゲームの世界みたい。
なら、私が乙女ゲームの世界を作ってあげるわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。(話し方など)
あなたにわたくしは相応しくないようです
らがまふぃん
恋愛
物語の中だけの話だと思っていました。
現実に起こることでしたのね。
※本編六話+幕間一話と後日談一話の全八話、ゆるゆる話。何も考えずにお読みください。
HOTランキング入りをしまして、たくさんの方の目に触れる機会を得られました。たくさんのお気に入り登録など、本当にありがとうございました。
完結表示をしようとして、タグが入っていなかったことに気付きました。何となく今更な感じがありますが、タグ入れました。
10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる