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その頃、王都。
パールの追放から数週間が経過し、エドワード王子は至福の時を過ごしている……はずだった。
「……ルル。今日のメインディッシュは、何かな?」
「ええ、エドワード様。今日はとってもヘルシーで、美容に良いと評判の『厳選豆苗(とうみょう)の朝露仕立て』ですわ!」
ルルが、可憐な笑顔で差し出した皿。
そこには、まるで草原からそのまま切り取ってきたかのような、青々とした……というより、ただの「草」が並んでいた。
エドワードは、震える手でフォークを握り、豆苗の一本を口に運ぶ。
「……シャキシャキしているね。うん、素材の味がダイレクトに伝わってくる」
「そうですわね! エドワード様、最近なんだか体が軽くなったような気がしませんこと?」
「ああ。……軽いというか、力が入らないというか。時々、視界が白くなるんだ」
エドワードの顔は、かつての傲慢な血色はどこへやら、今や透き通るような青白さになっていた。
王太子の食事制限は、パールがいなくなってからさらに過激化していた。
「おい、料理長! ここへ来い!」
エドワードが弱々しい声で叫ぶと、厨房からげっそりとやつれた料理長が現れた。
「……お呼びでしょうか、殿下」
「なんだ、今日のこの食事は! 私は王太子だぞ。もっとこう、脂の乗った、噛むと肉汁が溢れ出すような……そう、パールの時に食べていたような肉はないのか!」
料理長は、深い、深いため息をついた。
「……殿下。申し上げにくいのですが。あの日以来、王宮にはまともな肉が一切届いておりません」
「なんだと? 予算ならいくらでもあるはずだ!」
「予算の問題ではございません。……パール様は、ご自分の財力と知識を使って、王都に入荷する最高級の肉を『直接』買い占めていらっしゃったのです。彼女が追放された今、その独自の供給ルートはすべて消滅いたしました」
「独自の、ルート……?」
エドワードは耳を疑った。
「はい。パール様は、美味しい肉を食べるためだけに、辺境の牧場と直接契約を結び、輸送中の鮮度を保つための氷魔法の魔石を自費で用意し、さらには『肉専用の運搬路』まで私設していらっしゃいました」
「あいつ、そこまでして……」
「そのおこぼれを頂戴していたのが、我々王宮の厨房だったのです。今、王都の市場に残っているのは、パール様が『これは家畜の餌にもならない』と切り捨てた、パサパサの赤身肉と、安売りのもやしだけです」
ガシャン、とエドワードのフォークが床に落ちた。
「じゃあ、私がパールの『悪行』だと思っていた『肉の買い占め』は……」
「ええ。ただの、最高級の仕入れ活動でございます。おかげで我々は、黙っていても極上のステーキが食べられたのですが……」
料理長は遠い目をして、かつての輝かしい厨房を思い出した。
「エドワード様! そんな、パールのことなんてどうでもいいではありませんか!」
ルルが慌てて声を上げるが、その声もどことなく力がない。
彼女は今、テーブルの下で自分の腹の虫を必死に抑えていた。
(……お腹空いた。お腹空いたお腹空いた! もう、豆苗なんて見たくないわ! 私も、あのお姉様が食べていた分厚いカツレツが食べたい!)
ルルの内面は、今やパールのそれと大差ない「肉への渇望」に支配されていた。
しかし、彼女にはパールのような行動力も、財力も、肉に関する知識もない。
「……ルル。明日の食事は、何だい?」
「……明日は、『しらたきのコンソメスープ・空気添え』ですわ……」
「そうか。……楽しみだね。はは、ははは……」
エドワードの乾いた笑い声が、豪華なダイニングに虚しく響く。
王都の頂点に君臨する二人が、今や一束数十円のもやしに追い詰められようとしていた。
その頃、パールは辺境で、ガイと共に「特大バラ肉の三段重ねバーガー」に豪快にかぶりついていたのだが。
王都の悲劇がパールの耳に届く日は、まだ当分先になりそうであった。
パールの追放から数週間が経過し、エドワード王子は至福の時を過ごしている……はずだった。
「……ルル。今日のメインディッシュは、何かな?」
「ええ、エドワード様。今日はとってもヘルシーで、美容に良いと評判の『厳選豆苗(とうみょう)の朝露仕立て』ですわ!」
ルルが、可憐な笑顔で差し出した皿。
そこには、まるで草原からそのまま切り取ってきたかのような、青々とした……というより、ただの「草」が並んでいた。
エドワードは、震える手でフォークを握り、豆苗の一本を口に運ぶ。
「……シャキシャキしているね。うん、素材の味がダイレクトに伝わってくる」
「そうですわね! エドワード様、最近なんだか体が軽くなったような気がしませんこと?」
「ああ。……軽いというか、力が入らないというか。時々、視界が白くなるんだ」
エドワードの顔は、かつての傲慢な血色はどこへやら、今や透き通るような青白さになっていた。
王太子の食事制限は、パールがいなくなってからさらに過激化していた。
「おい、料理長! ここへ来い!」
エドワードが弱々しい声で叫ぶと、厨房からげっそりとやつれた料理長が現れた。
「……お呼びでしょうか、殿下」
「なんだ、今日のこの食事は! 私は王太子だぞ。もっとこう、脂の乗った、噛むと肉汁が溢れ出すような……そう、パールの時に食べていたような肉はないのか!」
料理長は、深い、深いため息をついた。
「……殿下。申し上げにくいのですが。あの日以来、王宮にはまともな肉が一切届いておりません」
「なんだと? 予算ならいくらでもあるはずだ!」
「予算の問題ではございません。……パール様は、ご自分の財力と知識を使って、王都に入荷する最高級の肉を『直接』買い占めていらっしゃったのです。彼女が追放された今、その独自の供給ルートはすべて消滅いたしました」
「独自の、ルート……?」
エドワードは耳を疑った。
「はい。パール様は、美味しい肉を食べるためだけに、辺境の牧場と直接契約を結び、輸送中の鮮度を保つための氷魔法の魔石を自費で用意し、さらには『肉専用の運搬路』まで私設していらっしゃいました」
「あいつ、そこまでして……」
「そのおこぼれを頂戴していたのが、我々王宮の厨房だったのです。今、王都の市場に残っているのは、パール様が『これは家畜の餌にもならない』と切り捨てた、パサパサの赤身肉と、安売りのもやしだけです」
ガシャン、とエドワードのフォークが床に落ちた。
「じゃあ、私がパールの『悪行』だと思っていた『肉の買い占め』は……」
「ええ。ただの、最高級の仕入れ活動でございます。おかげで我々は、黙っていても極上のステーキが食べられたのですが……」
料理長は遠い目をして、かつての輝かしい厨房を思い出した。
「エドワード様! そんな、パールのことなんてどうでもいいではありませんか!」
ルルが慌てて声を上げるが、その声もどことなく力がない。
彼女は今、テーブルの下で自分の腹の虫を必死に抑えていた。
(……お腹空いた。お腹空いたお腹空いた! もう、豆苗なんて見たくないわ! 私も、あのお姉様が食べていた分厚いカツレツが食べたい!)
ルルの内面は、今やパールのそれと大差ない「肉への渇望」に支配されていた。
しかし、彼女にはパールのような行動力も、財力も、肉に関する知識もない。
「……ルル。明日の食事は、何だい?」
「……明日は、『しらたきのコンソメスープ・空気添え』ですわ……」
「そうか。……楽しみだね。はは、ははは……」
エドワードの乾いた笑い声が、豪華なダイニングに虚しく響く。
王都の頂点に君臨する二人が、今や一束数十円のもやしに追い詰められようとしていた。
その頃、パールは辺境で、ガイと共に「特大バラ肉の三段重ねバーガー」に豪快にかぶりついていたのだが。
王都の悲劇がパールの耳に届く日は、まだ当分先になりそうであった。
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