断罪!婚約破棄され、念願の「肉食生活」を求めて辺境へ

ちゃっぴー

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「肉を……肉を食わせろぉ!!」

「パール様を呼び戻せ! 我々の肌に潤いと脂質を!」

王宮のバルコニーの下には、見慣れた貴族たちが大挙して押し寄せていた。
普段は優雅に扇を動かし、小指を立てて紅茶を啜っているはずの伯爵や侯爵たちが、今や血走った目で門を揺らしている。

その光景を見下ろしながら、エドワード王子は手すりにつかまって辛うじて立っていた。

「……うう、うるさい。静かにしたまえ、諸君。今は、国家的なダイエット推奨期間なのだ……」

「殿下! もう一週間も、夕食に『茹でもやし』しか出てこないのはどういうことですか!」

最前列で叫んでいるのは、王都でも有数の美食家として知られるデブリス伯爵だった。
かつては立派な太鼓腹を誇っていた彼も、今や見る影もなく、ぶかぶかになった服の中で骸骨のように震えている。

「伯爵、落ち着きなさい。ルルが言っていたよ。もやしには、カリウムが豊富に含まれていると……」

「カリウムで腹が膨れるか! 私は、あのパール様が『脂身が多すぎて胃もたれしそうね』と投げ捨てた、あの五センチ厚のサーロインが食べたいんだ!」

「そうだ! パール様がいた頃は、市場に『おこぼれ』の特上カルビが溢れていた!」

「あの方は買い占めていたのではない! 流通を支配し、我々に最高級の残飯……もとい、余り物を提供してくださっていたのだ!」

エドワードは、めまいに襲われて視界を白く染めた。
パールの追放。
それは、彼にとって「目障りな悪女の排除」だったはずだ。
まさか、それが「王国の食肉供給網の完全停止」を意味していたとは、夢にも思わなかった。

「……ルル。どうにかしてくれ。彼らの怒りを鎮めるんだ」

エドワードが隣を振り返ると、そこには以前にも増して「守ってあげたくなる(というか、今にも倒れそうな)」ルルの姿があった。

「……エドワード様……。ルル、もう……お花が、お肉に見えます……」

「ルル!?」

「あそこの門の飾りが……手羽先に見えて……うふふ、美味しそう……」

ルルの瞳からは理性の光が消え、飢えた獣の眼差しが宿り始めていた。
彼女もまた、極限の空腹により、その可憐な仮面が剥がれ落ちようとしていたのである。

「殿下! 今すぐパール公爵令嬢に謝罪し、王都へ呼び戻してください!」

「さもなくば、我ら貴族連合は、王宮への『野菜の納品』も停止いたしますわよ!」

「なっ……! 野菜まで止められたら、私は何を食えばいいんだ!」

「光合成でもしてろ!!」

痛烈なヤジが飛び、エドワードはショックのあまりその場に膝をついた。

(パール……。あいつ、ただの肉好きの変態だと思っていたが、これほどまでに王国の中心を握っていたのか……)

エドワードは、かつてパールが自分に差し出してきた「手作りレバーパテ」の味を思い出した。
当時は「品がない」と突き返したが、今思えばあれは鉄分不足の自分を気遣った、彼女なりの(肉的な)愛だったのではないか。

「……分かった。分かったから、一旦解散してくれ!」

エドワードは、震える声で文句を垂れる群衆に向けて叫んだ。

「パールに手紙を書く! 『君の悪行は、肉を焼くことで償わせることにした。だから戻ってこい』と、慈悲深い内容で送ってやるから!」

「『悪行』って書く時点でアウトだろ!!」

民衆のツッコミを背に、エドワードは逃げるように執務室へと駆け込んだ。
彼はすぐさま、最高級の羊皮紙を取り出し、ペンを走らせた。

『親愛なるパールへ。君がいなくなってから、王宮のシェフがもやし料理のレパートリーを使い果たしてしまった。君の肉に対する執着は、ある意味で芸術的だったと認めよう。……戻ってきて私にステーキを焼くなら、婚約破棄を撤回してやってもいいぞ』

「……完璧だ。これなら、あいつも泣いて喜んで戻ってくるだろう」

エドワードは、空腹による全能感に包まれながら、手紙に封をした。
彼にはまだ、分かっていなかった。
今のパールにとって、王子の座よりも、辺境でガイが焼く「猪の丸焼き」の方が、一億倍の価値があるということを。

「急げ! この手紙を北の辺境へ届けろ! 馬を潰しても構わん、肉を連れてくるんだ!」

エドワードの悲痛な叫びと共に、一人の伝令が北へと馬を走らせた。
王都の運命は、一通の(勘違いに満ちた)手紙に託されたのである。
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