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「……ルル様。いつまでそこに座り込んでいるおつもり?」
祭りの喧騒が少し落ち着いた広場の隅。
私は、泥だらけのドレスで地面にへたり込んでいるルル・パフェ嬢に声をかけた。
エドワード殿下は、さっさと兵士たちに担がれて領地外へ運ばれていったというのに。
彼女だけは、魂が抜けたような顔で一点を見つめていた。
「…………肉。肉……。ルル……もう、豆苗の繊維が歯に挟まるのは嫌……」
「……相当、追い詰められていたのですわね」
私は溜息をつくと、手元に残っていた特製の「厚切りローストビーフのサンドイッチ」を差し出した。
ソースは、玉ねぎと醤油をベースにした濃厚な特製ダレ。
肉の余熱でパンに脂が染み込み、抗いがたい魅力を放っている。
「……っ。な、なにこれ。罠? ルルを太らせて、食用にするつもりなの!?」
「失礼ね。私は共食いなんて趣味はありませんわ。……いいから食べなさい。冷めたら肉の融点が下がって、口当たりが悪くなりますわよ」
ルル嬢は、私の手からひったくるようにサンドイッチを奪った。
そして、人目も憚らずに大口を開けてかぶりついた。
「――っっっ!!! …………う、ううう、うわあああああああん!!」
突然、彼女が声を上げて泣き出した。
口いっぱいに肉を頬張り、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、彼女は必死に咀嚼を続けている。
「おいしい……! おいしいわよ、これ! パンにまで脂が染みてて……、噛むたびに命が溢れてくるわ……!」
「……落ち着きなさいな。喉に詰まらせますわよ」
「……パール様。私……私、本当は殿下なんてどうでもよかったの!」
爆弾発言が飛び出した。
ルル嬢は、最後の一切れを飲み込むと、憑き物が落ちたような顔で私を睨んだ。
「王太子の婚約者になれば、毎日最高級のカツレツやシチューが食べられると思ってただけなのよ! それなのに、あの方が言い出したのは『清らかな愛には、清らかなもやしが必要だ』なんて寝言……! 私の胃袋は、一ヶ月以上も砂漠状態だったのよ!」
「……まあ。あなたも、私と同じ『同志』だったということですの?」
「そうよ! 本当は、淑女の教育なんてクソ食らえだと思ってたわ! 私は、骨付きのスペアリブを両手で持って、野生の狼みたいに食らいつきたいのよ!」
ルル嬢が、ドレスのレースをむしり取って叫んだ。
その瞳には、先ほどまでの「守ってあげたい系女子」の面影は微塵もない。
そこにあるのは、獲物を求める肉食獣の輝きだ。
「……ふふ。あはははは!」
私は思わず、高らかに笑い声を上げた。
「な、何がおかしいのよ!」
「いいえ。……あなた、最高ですわ。エドワード殿下の隣にいる時より、今の脂ぎった顔の方が、ずっと魅力的に見えますわよ」
私は彼女に手を差し出した。
「ルル様。……いいえ、ルル。王都へ帰るのが嫌なら、ここで私の『肉研究部』の助手にならないかしら?」
「助手? お肉、食べさせてくれるの?」
「ええ。ベルフェゴール領の肉は、研究材料が豊富すぎて、私一人では食べきるのが大変なんですの。……どうかしら?」
ルルは、私の手を力強く握り返した。
「……やるわ。私、もやし王子とは縁を切る! 今日から私は、パール様と一緒に『肉の道』を極めるわ!」
そこに、ガイ様がひょいと顔を出した。
「おい、パール。また変なのを拾ってきたのか」
「あら、ガイ様。見てください、彼女、とっても良い『食べっぷり』をしていますのよ」
「……まあ、食わねえ奴よりはマシだがな。おい、新人。うちの牛を食うなら、まずは糞掃除から手伝ってもらうぞ」
「望むところよ! 牛さんの健康が、私の胃袋の健康に直結するんですもの!」
かつての敵が、最強の「肉友」へと変わった瞬間だった。
王都での泥沼の愛憎劇は、一片のローストビーフによって、スパイシーに解決されたのである。
祭りの喧騒が少し落ち着いた広場の隅。
私は、泥だらけのドレスで地面にへたり込んでいるルル・パフェ嬢に声をかけた。
エドワード殿下は、さっさと兵士たちに担がれて領地外へ運ばれていったというのに。
彼女だけは、魂が抜けたような顔で一点を見つめていた。
「…………肉。肉……。ルル……もう、豆苗の繊維が歯に挟まるのは嫌……」
「……相当、追い詰められていたのですわね」
私は溜息をつくと、手元に残っていた特製の「厚切りローストビーフのサンドイッチ」を差し出した。
ソースは、玉ねぎと醤油をベースにした濃厚な特製ダレ。
肉の余熱でパンに脂が染み込み、抗いがたい魅力を放っている。
「……っ。な、なにこれ。罠? ルルを太らせて、食用にするつもりなの!?」
「失礼ね。私は共食いなんて趣味はありませんわ。……いいから食べなさい。冷めたら肉の融点が下がって、口当たりが悪くなりますわよ」
ルル嬢は、私の手からひったくるようにサンドイッチを奪った。
そして、人目も憚らずに大口を開けてかぶりついた。
「――っっっ!!! …………う、ううう、うわあああああああん!!」
突然、彼女が声を上げて泣き出した。
口いっぱいに肉を頬張り、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、彼女は必死に咀嚼を続けている。
「おいしい……! おいしいわよ、これ! パンにまで脂が染みてて……、噛むたびに命が溢れてくるわ……!」
「……落ち着きなさいな。喉に詰まらせますわよ」
「……パール様。私……私、本当は殿下なんてどうでもよかったの!」
爆弾発言が飛び出した。
ルル嬢は、最後の一切れを飲み込むと、憑き物が落ちたような顔で私を睨んだ。
「王太子の婚約者になれば、毎日最高級のカツレツやシチューが食べられると思ってただけなのよ! それなのに、あの方が言い出したのは『清らかな愛には、清らかなもやしが必要だ』なんて寝言……! 私の胃袋は、一ヶ月以上も砂漠状態だったのよ!」
「……まあ。あなたも、私と同じ『同志』だったということですの?」
「そうよ! 本当は、淑女の教育なんてクソ食らえだと思ってたわ! 私は、骨付きのスペアリブを両手で持って、野生の狼みたいに食らいつきたいのよ!」
ルル嬢が、ドレスのレースをむしり取って叫んだ。
その瞳には、先ほどまでの「守ってあげたい系女子」の面影は微塵もない。
そこにあるのは、獲物を求める肉食獣の輝きだ。
「……ふふ。あはははは!」
私は思わず、高らかに笑い声を上げた。
「な、何がおかしいのよ!」
「いいえ。……あなた、最高ですわ。エドワード殿下の隣にいる時より、今の脂ぎった顔の方が、ずっと魅力的に見えますわよ」
私は彼女に手を差し出した。
「ルル様。……いいえ、ルル。王都へ帰るのが嫌なら、ここで私の『肉研究部』の助手にならないかしら?」
「助手? お肉、食べさせてくれるの?」
「ええ。ベルフェゴール領の肉は、研究材料が豊富すぎて、私一人では食べきるのが大変なんですの。……どうかしら?」
ルルは、私の手を力強く握り返した。
「……やるわ。私、もやし王子とは縁を切る! 今日から私は、パール様と一緒に『肉の道』を極めるわ!」
そこに、ガイ様がひょいと顔を出した。
「おい、パール。また変なのを拾ってきたのか」
「あら、ガイ様。見てください、彼女、とっても良い『食べっぷり』をしていますのよ」
「……まあ、食わねえ奴よりはマシだがな。おい、新人。うちの牛を食うなら、まずは糞掃除から手伝ってもらうぞ」
「望むところよ! 牛さんの健康が、私の胃袋の健康に直結するんですもの!」
かつての敵が、最強の「肉友」へと変わった瞬間だった。
王都での泥沼の愛憎劇は、一片のローストビーフによって、スパイシーに解決されたのである。
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