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「ココア・ガナッシュ嬢。……この度は、誠に申し訳なかった」
王宮の大会議室。
釈放された私は、ふかふかの椅子に深々と座り、目の前で頭を下げる国王陛下を見下ろしていた。
普通なら、国王に頭を下げられたら恐縮して平伏す場面だ。
しかし、私は優雅に紅茶(最高級茶葉、おかわり三杯目)を啜り、にっこりと微笑んだ。
「頭をお上げください、陛下。謝罪の言葉よりも、もっと誠意ある『数字』を見せていただきたいのです」
私の隣には、敏腕弁護士団を引き連れたルーカスが、冷徹な表情で控えている。
対面には、やつれ切った国王と、青ざめた宰相。
これは謝罪会見ではない。ビジネスにおける「損害賠償請求交渉」だ。
「……うむ。ジェラルドの不始末、そしてマシュマロによる横領を見抜けなかった責任は余にある。約束通り、賠償金は支払おう」
国王が重々しく頷く。
「ただし……現在、国庫は空に近い。金貨一万枚を一括というのは、どうしても厳しいのだ」
「あら、そうですか」
私はカップを置き、事前に用意した分厚い請求書をテーブルに滑らせた。
「では、内訳を確認しながら、支払い方法をご相談しましょうか」
宰相が震える手で書類を手に取る。
「えー、まずは『不当拘束による逸失利益』……金貨三千枚」
「高すぎる! たかが一晩拘束しただけで!」
宰相が叫ぶが、私は即座に電卓を叩いて反論する。
「私の時給をご存知ですか? 『ウィックド・カフェ』の分単位の売上、および公爵家のコンサルティング料、さらに私が動くことで生まれる経済効果……これらを合算すれば、一晩の拘束は国家的損失です。むしろ安いくらいですよ」
「ぐぬぬ……」
「次に、『精神的苦痛に対する慰謝料』……金貨五千枚」
「ご、五千枚!? 貴女、牢屋でカジノを開いて楽しんでいたという報告が来ておるぞ!」
国王が指摘する。
「楽しんでなどいません。あれは、恐怖と絶望に打ちひしがれた心を紛らわせるための、必死の防衛本能(ギャンブル)でした。ああ、思い出しただけで手が震えますわ(嘘)」
私がわざとらしく手を震わせてみせると、ルーカスがすかさず私の肩を抱いた。
「見ろ。彼女はまだトラウマを抱えている。……可哀想に。今すぐ最高級のセラピーを受けさせる必要があるな。もちろん、その費用も請求させてもらう」
「お、鬼かお主らは……!」
国王が涙目になる。
「そして最後に、『名誉毀損によるブランドイメージ回復費用』……金貨二千枚。締めて一万枚です」
私はニッコリと笑った。
「さて、現金がないとおっしゃるなら、代替案(オプション)をご用意しました」
「だ、代替案?」
「はい。金貨の代わりに、『権利』をいただきます」
私は別の書類を取り出した。
「一つ目。王都中央広場における『独占出店権』。今後十年間、あの一等地で商売ができるのは私の店だけとします」
「なっ……あそこは王家の直轄地だぞ!?」
「二つ目。王宮への『納入業者指定権』。今後、王宮で使用する食材、日用品、消耗品の全ては、私が指定した業者(ガナッシュ商会およびウィックド・カンパニー)から仕入れること」
「そ、そんなことをすれば、価格操作し放題ではないか!」
「三つ目。……ジェラルド殿下が保有していた『王族専用リゾート地』の譲渡」
「余の別荘まで奪う気か!」
国王と宰相が絶句する。
「嫌なら、今すぐ金貨一万枚をご用意ください。……あ、ルーカス様。物流停止の解除、まだ待ってもらえます?」
「ああ。港に停泊している穀物船、あと一週間は動かせないな」
ルーカスが涼しい顔で腕時計を見る。
「ま、待て! 待ってくれ!」
国王が悲鳴を上げた。
「わかった! 呑もう! 全ての条件を呑む!」
「言質(げんち)とりました」
私は素早く契約書を差し出し、ペンを持たせた。
「ここにサインと、玉璽(ぎょくじ)をお願いします。……あ、印影が薄いのでもう一回しっかりと」
「ううう……先祖代々の土地が……」
国王は泣きながらサインをした。
契約成立。
私はインクが乾くのを確認し、契約書を大切に鞄にしまった。
「毎度ありがとうございます! これにて一件落着ですね!」
私は晴れやかな笑顔で立ち上がった。
現金は手に入らなかったが、それ以上に価値のある「将来の莫大な利益」を手に入れたのだ。
これで私のビジネスは、一介のカフェ経営から、国家規模のコングロマリットへと進化する。
「……恐ろしい娘だ」
宰相が力なく呟く。
「国を救った英雄なのか、国を食い物にする魔王なのか……」
「両方ですわ。国が豊かになれば、私も儲かる。私が儲かれば、税収も増える。Win-Winの関係でしょう?」
私はウィンクをして、会議室を後にした。
廊下に出ると、ルーカスが満足げに頷いた。
「見事な交渉術だった、ココア。……特に、リゾート地の譲渡はナイスだ」
「あら、欲しかったんですか?」
「ああ。あそこは温泉が出る。君とゆっくり浸かって、今後の事業計画を練るのに最適だと思ってね」
「……温泉で事業計画ですか。色気があるのかないのか」
「混浴なら、色気もあるだろう?」
「っ……!」
ルーカスがサラリと爆弾発言を落とす。
「な、何を言ってるんですか! まだ結婚もしてないのに!」
「契約上の妻だと言ったのは君だぞ? ……それに」
ルーカスは立ち止まり、私の顔を覗き込んだ。
「今回の件で、痛感したんだ。……君がいないと、私の人生は退屈で、味気ない赤字続きの日々になってしまうと」
真剣な眼差し。
冗談めかしているけれど、その瞳の奥には確かな熱がある。
私は顔が熱くなるのを誤魔化すように、早足で歩き出した。
「……調子のいいことばかり言って。そんな口説き文句じゃ、割引しませんからね!」
「割引はいらない。定価で、君の人生を一生分予約したいんだが?」
「……検討しておきます!」
私は背中で答え、心の中で小さくガッツポーズをした。
(やった! 賠償金もゲット、公爵様の心もゲット……これぞ完全勝利(パーフェクト・ゲーム)!)
王宮の外に出ると、眩しい太陽が私たちを照らしていた。
自由の風が吹いている。
「さあ、帰りましょうオーナー! 留守にしている間に、店長がサボっていないかチェックしなきゃ!」
「ああ。……その前に、腹ごしらえをしよう。君が食べたがっていた『最高級ステーキ』、経費で落としていいぞ」
「本当ですか!? じゃあ一番高いやつを!」
私たちは笑い合いながら、新しい日常へと歩き出した。
冤罪、投獄、そして国家への恐喝(交渉)。
波乱万丈の一週間が終わった。
だが、私の「悪役令嬢」としての伝説は、ここからが本番だ。
なんといっても、手に入れた『王都の独占権』を使って、これからもっともっと稼がなければならないのだから!
(待ってなさい、王都の民よ。私の作った美味しいもので、骨の髄まで幸せにしてあげるわ!)
王宮の大会議室。
釈放された私は、ふかふかの椅子に深々と座り、目の前で頭を下げる国王陛下を見下ろしていた。
普通なら、国王に頭を下げられたら恐縮して平伏す場面だ。
しかし、私は優雅に紅茶(最高級茶葉、おかわり三杯目)を啜り、にっこりと微笑んだ。
「頭をお上げください、陛下。謝罪の言葉よりも、もっと誠意ある『数字』を見せていただきたいのです」
私の隣には、敏腕弁護士団を引き連れたルーカスが、冷徹な表情で控えている。
対面には、やつれ切った国王と、青ざめた宰相。
これは謝罪会見ではない。ビジネスにおける「損害賠償請求交渉」だ。
「……うむ。ジェラルドの不始末、そしてマシュマロによる横領を見抜けなかった責任は余にある。約束通り、賠償金は支払おう」
国王が重々しく頷く。
「ただし……現在、国庫は空に近い。金貨一万枚を一括というのは、どうしても厳しいのだ」
「あら、そうですか」
私はカップを置き、事前に用意した分厚い請求書をテーブルに滑らせた。
「では、内訳を確認しながら、支払い方法をご相談しましょうか」
宰相が震える手で書類を手に取る。
「えー、まずは『不当拘束による逸失利益』……金貨三千枚」
「高すぎる! たかが一晩拘束しただけで!」
宰相が叫ぶが、私は即座に電卓を叩いて反論する。
「私の時給をご存知ですか? 『ウィックド・カフェ』の分単位の売上、および公爵家のコンサルティング料、さらに私が動くことで生まれる経済効果……これらを合算すれば、一晩の拘束は国家的損失です。むしろ安いくらいですよ」
「ぐぬぬ……」
「次に、『精神的苦痛に対する慰謝料』……金貨五千枚」
「ご、五千枚!? 貴女、牢屋でカジノを開いて楽しんでいたという報告が来ておるぞ!」
国王が指摘する。
「楽しんでなどいません。あれは、恐怖と絶望に打ちひしがれた心を紛らわせるための、必死の防衛本能(ギャンブル)でした。ああ、思い出しただけで手が震えますわ(嘘)」
私がわざとらしく手を震わせてみせると、ルーカスがすかさず私の肩を抱いた。
「見ろ。彼女はまだトラウマを抱えている。……可哀想に。今すぐ最高級のセラピーを受けさせる必要があるな。もちろん、その費用も請求させてもらう」
「お、鬼かお主らは……!」
国王が涙目になる。
「そして最後に、『名誉毀損によるブランドイメージ回復費用』……金貨二千枚。締めて一万枚です」
私はニッコリと笑った。
「さて、現金がないとおっしゃるなら、代替案(オプション)をご用意しました」
「だ、代替案?」
「はい。金貨の代わりに、『権利』をいただきます」
私は別の書類を取り出した。
「一つ目。王都中央広場における『独占出店権』。今後十年間、あの一等地で商売ができるのは私の店だけとします」
「なっ……あそこは王家の直轄地だぞ!?」
「二つ目。王宮への『納入業者指定権』。今後、王宮で使用する食材、日用品、消耗品の全ては、私が指定した業者(ガナッシュ商会およびウィックド・カンパニー)から仕入れること」
「そ、そんなことをすれば、価格操作し放題ではないか!」
「三つ目。……ジェラルド殿下が保有していた『王族専用リゾート地』の譲渡」
「余の別荘まで奪う気か!」
国王と宰相が絶句する。
「嫌なら、今すぐ金貨一万枚をご用意ください。……あ、ルーカス様。物流停止の解除、まだ待ってもらえます?」
「ああ。港に停泊している穀物船、あと一週間は動かせないな」
ルーカスが涼しい顔で腕時計を見る。
「ま、待て! 待ってくれ!」
国王が悲鳴を上げた。
「わかった! 呑もう! 全ての条件を呑む!」
「言質(げんち)とりました」
私は素早く契約書を差し出し、ペンを持たせた。
「ここにサインと、玉璽(ぎょくじ)をお願いします。……あ、印影が薄いのでもう一回しっかりと」
「ううう……先祖代々の土地が……」
国王は泣きながらサインをした。
契約成立。
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「毎度ありがとうございます! これにて一件落着ですね!」
私は晴れやかな笑顔で立ち上がった。
現金は手に入らなかったが、それ以上に価値のある「将来の莫大な利益」を手に入れたのだ。
これで私のビジネスは、一介のカフェ経営から、国家規模のコングロマリットへと進化する。
「……恐ろしい娘だ」
宰相が力なく呟く。
「国を救った英雄なのか、国を食い物にする魔王なのか……」
「両方ですわ。国が豊かになれば、私も儲かる。私が儲かれば、税収も増える。Win-Winの関係でしょう?」
私はウィンクをして、会議室を後にした。
廊下に出ると、ルーカスが満足げに頷いた。
「見事な交渉術だった、ココア。……特に、リゾート地の譲渡はナイスだ」
「あら、欲しかったんですか?」
「ああ。あそこは温泉が出る。君とゆっくり浸かって、今後の事業計画を練るのに最適だと思ってね」
「……温泉で事業計画ですか。色気があるのかないのか」
「混浴なら、色気もあるだろう?」
「っ……!」
ルーカスがサラリと爆弾発言を落とす。
「な、何を言ってるんですか! まだ結婚もしてないのに!」
「契約上の妻だと言ったのは君だぞ? ……それに」
ルーカスは立ち止まり、私の顔を覗き込んだ。
「今回の件で、痛感したんだ。……君がいないと、私の人生は退屈で、味気ない赤字続きの日々になってしまうと」
真剣な眼差し。
冗談めかしているけれど、その瞳の奥には確かな熱がある。
私は顔が熱くなるのを誤魔化すように、早足で歩き出した。
「……調子のいいことばかり言って。そんな口説き文句じゃ、割引しませんからね!」
「割引はいらない。定価で、君の人生を一生分予約したいんだが?」
「……検討しておきます!」
私は背中で答え、心の中で小さくガッツポーズをした。
(やった! 賠償金もゲット、公爵様の心もゲット……これぞ完全勝利(パーフェクト・ゲーム)!)
王宮の外に出ると、眩しい太陽が私たちを照らしていた。
自由の風が吹いている。
「さあ、帰りましょうオーナー! 留守にしている間に、店長がサボっていないかチェックしなきゃ!」
「ああ。……その前に、腹ごしらえをしよう。君が食べたがっていた『最高級ステーキ』、経費で落としていいぞ」
「本当ですか!? じゃあ一番高いやつを!」
私たちは笑い合いながら、新しい日常へと歩き出した。
冤罪、投獄、そして国家への恐喝(交渉)。
波乱万丈の一週間が終わった。
だが、私の「悪役令嬢」としての伝説は、ここからが本番だ。
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