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「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 本日は『国の恥さらしカップル、涙のドナドナ・パレード』の開催日ですよー!」
王都の北門前広場。
そこは今、お祭り騒ぎのような熱気に包まれていた。
集まった群衆の中心には、粗末な囚人服を着せられ、手枷足枷を嵌められた二人の男女――元王太子ジェラルドと、元聖女マシュマロが引き立てられている。
そして、そのパレードの最前列で、私が拡声器(魔道具)片手に声を張り上げていた。
「手ぶらで見送りなんてもったいない! こちらの『お見送りセット』はいかがですか? 完熟を通り越して液状化したトマト、三つで銀貨一枚! 投げやすさ抜群の石ころ、五つで銀貨一枚です!」
「俺、トマト買う!」
「私は石をくれ! 俺の税金を返せって思いを込めて投げるんだ!」
「マシュマロの生写真(踏み絵用)も売ってるぞ!」
飛ぶように売れる『投擲(とうてき)アイテム』。
私はチャリンチャリンと小銭を稼ぎながら、囚人馬車に乗せられる元婚約者たちを見上げた。
「コ、ココア……! 貴様、どこまで私を愚弄すれば気が済むのだ!」
ジェラルドが涙目で叫ぶ。
かつての煌びやかな燕尾服は見る影もなく、薄汚れた麻の服からは寒々しい肌が覗いている。
「愚弄? 人聞きが悪い。これは『エンターテイメント』です。国民の鬱憤を晴らし、治安を維持するためのガス抜き事業ですよ」
「俺にトマトをぶつけるのがガス抜きか!?」
ビチャッ!
その言葉が終わる前に、客が投げたトマトが見事にジェラルドの顔面にヒットした。
「ぶべらっ!」
「ナイスコントロール! お客様、筋がいいですね! 追加のトマト、半額にしておきますわ!」
「おのれぇぇ……! 覚えていろ……!」
ジェラルドが悔し涙を流す横で、マシュマロも必死に抵抗していた。
「嫌ぁぁぁ! 離して! 私の爪が割れちゃう! こんな服、肌が荒れちゃうわ!」
彼女は衛兵に引きずられながら、私の前にずずいっと顔を近づけてきた。
「ココア様! お願いします、助けてくださいまし! 私、改心しました! もう贅沢言いませんから、貴女のお店で雇ってください!」
「雇う?」
私は首を傾げた。
「ええ! 看板娘になります! 私、可愛いから客寄せになるでしょ!?」
「あいにくですが、うちの店は『衛生管理』に厳しいんです。横領菌に感染している人材は、食品衛生法上、雇用できません」
「菌扱い!? ひどい!」
「それに、貴女にはもっと向いている仕事があります」
私はニッコリと笑い、一枚の契約書を取り出した。
「これ、北の鉱山の『独占採掘権』と『販売代理店契約書』です」
「は?」
二人が動きを止める。
「国王陛下から賠償金の一部として譲り受けました。つまり、今日からあの鉱山のオーナーは私です」
「な……なんだって……!?」
「つまり、貴方たちが朝から晩まで泥まみれになって掘り出した魔石は、全て私の商品になるということです。……わかりますか? 貴方たちが働けば働くほど、私が儲かるシステムになったんですよ」
「そ、そんな……」
ジェラルドとマシュマロが絶望の表情を浮かべる。
「嫌だ……俺たちがどれだけ苦労しても、全部ココアの利益になるのか……」
「地獄だわ……死んでも死にきれない……」
「ご名答。死なれては困ります。借金完済まで、きっちり馬車馬のように働いてくださいね。ノルマを達成できなかったら、夕食は『雑草サラダ』になりますから」
「ひぃぃぃっ!」
「出発進行ー!」
私の合図とともに、御者が鞭を振るう。
ガラガラと車輪が回り出し、囚人馬車が北へと進み始めた。
「待ってくれぇぇ! パンの耳でもいいから食わせてくれぇぇ!」
「私の青春を返してぇぇぇ!」
遠ざかる二人の絶叫。
それを見送る群衆からは、「ざまぁみろ!」「二度と帰ってくるな!」という歓声と、惜しみない拍手が送られた。
「……ふぅ。在庫のトマトも完売しましたし、良い朝ですね」
私は空になった木箱に腰掛け、汗を拭った。
隣に立っていたルーカスが、冷やしたタオルを差し出してくれる。
「お疲れ様。……彼らにとって、君のために働くことが一番の罰になるだろうな」
「ええ。精神的な苦痛を与えつつ、労働生産性も確保する。完璧なスキームです」
「君は本当に、無駄なことを一切しないな」
ルーカスは感心したように、北の空を見上げた。
「さて、彼らの初仕事の成果が出るのは一ヶ月後か。……どんな石が掘れるか楽しみだ」
***
一ヶ月後。
『ウィックド・カフェ』の事務室に、北の鉱山から最初の出荷物が届いた。
重たい木箱を開けると、中にはギラギラと不気味な光を放つ魔石がぎっしりと詰まっていた。
「……こ、これはすごい」
鑑定ルーペを覗き込んだルーカスが、息を呑んだ。
「純度が異常に高い。それに、この禍々しいまでの魔力光……通常の魔石とは別物だ」
「ほう?」
私は同封されていた鉱山長からの手紙を読み上げた。
『報告書。囚人番号001(ジェラルド)と002(マシュマロ)ですが、労働態度は最悪です。しかし、彼らが「ココア許すまじ」「絶対に見返してやる」と叫びながらツルハシを振るうと、なぜか採掘される魔石の質が劇的に向上します』
「……なるほど」
私は魔石を一つ手に取った。
冷たく、それでいて火傷しそうなほどの熱を感じる。
「彼らの私に対する『怨念』や『執着』が、魔力として石に宿ったということですね」
「負の感情エネルギーを資源化するとは……。新種のエネルギー革命かもしれない」
ルーカスが真顔で分析する。
「商品名はどうする?」
「そうですね……」
私は魔石の輝きを見つめ、意地悪く口角を上げた。
「『元婚約者の呪い石 ~あいつを見返したい貴方に~』でいきましょう。強力な魔力が必要な魔導士や、研究者たちに高値で売れそうです」
「……そのネーミングセンス、嫌いじゃない」
早速、店頭に並べたところ、『呪い石』は即日完売した。
「この石を使うと、魔法の威力が倍になる!」
「受験勉強の徹夜のお供に最適だ! 怒りがパワーに変わる!」
市場での評価も上々だ。
遠く離れた北の地で、極寒の中、鼻水を垂らしながらツルハシを振るう元王子と元聖女。
「くそー! ココアめー! いつか見てろー!」
「寒いわ! お腹空いたわ! 絶対に出世してやるんだから!」
彼らが叫べば叫ぶほど、私の懐が潤う。
これぞ究極のリサイクル事業。
「ありがとうございます、ジェラルド殿下、マシュマロ様。貴方たちの恨み節、金貨に変えて大切に使わせていただきますわ」
私は北の空に向かって投げキッスを送り、分厚くなった帳簿をパタンと閉じた。
これで、過去の清算は完全に終了した。
物語の「起承転結」で言えば、ここまでが「転」。
ここからは、私とルーカスの、そしてこの国の新たな「結」へと向かうビジネスが始まるのだ。
「さて、オーナー。邪魔者はいなくなりました。……そろそろ『次のステージ』へ行きましょうか?」
私が振り返ると、ルーカスは真剣な眼差しで、一枚の招待状を手に持っていた。
「ああ。……実は、隣国の皇帝陛下から『建国記念パーティー』への招待状が届いている」
「皇帝陛下? また大きな商談の予感ですね」
「それもあるが……招待状の宛名が、『ルーカス・ヴァレンタイン公爵、およびその婚約者』となっているんだ」
「婚約者?」
「ココア。……そろそろ、契約上の妻ではなく、正式なパートナーとして紹介したいのだが」
ルーカスの耳が少し赤い。
私は目を丸くし、そしてふわりと笑った。
「……出張手当が出るなら、考えてあげてもよろしくてよ?」
「交渉成立だ。特別ボーナスもつけよう」
私たちは見つめ合い、未来への投資(デート)の約束を交わした。
王都の北門前広場。
そこは今、お祭り騒ぎのような熱気に包まれていた。
集まった群衆の中心には、粗末な囚人服を着せられ、手枷足枷を嵌められた二人の男女――元王太子ジェラルドと、元聖女マシュマロが引き立てられている。
そして、そのパレードの最前列で、私が拡声器(魔道具)片手に声を張り上げていた。
「手ぶらで見送りなんてもったいない! こちらの『お見送りセット』はいかがですか? 完熟を通り越して液状化したトマト、三つで銀貨一枚! 投げやすさ抜群の石ころ、五つで銀貨一枚です!」
「俺、トマト買う!」
「私は石をくれ! 俺の税金を返せって思いを込めて投げるんだ!」
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飛ぶように売れる『投擲(とうてき)アイテム』。
私はチャリンチャリンと小銭を稼ぎながら、囚人馬車に乗せられる元婚約者たちを見上げた。
「コ、ココア……! 貴様、どこまで私を愚弄すれば気が済むのだ!」
ジェラルドが涙目で叫ぶ。
かつての煌びやかな燕尾服は見る影もなく、薄汚れた麻の服からは寒々しい肌が覗いている。
「愚弄? 人聞きが悪い。これは『エンターテイメント』です。国民の鬱憤を晴らし、治安を維持するためのガス抜き事業ですよ」
「俺にトマトをぶつけるのがガス抜きか!?」
ビチャッ!
その言葉が終わる前に、客が投げたトマトが見事にジェラルドの顔面にヒットした。
「ぶべらっ!」
「ナイスコントロール! お客様、筋がいいですね! 追加のトマト、半額にしておきますわ!」
「おのれぇぇ……! 覚えていろ……!」
ジェラルドが悔し涙を流す横で、マシュマロも必死に抵抗していた。
「嫌ぁぁぁ! 離して! 私の爪が割れちゃう! こんな服、肌が荒れちゃうわ!」
彼女は衛兵に引きずられながら、私の前にずずいっと顔を近づけてきた。
「ココア様! お願いします、助けてくださいまし! 私、改心しました! もう贅沢言いませんから、貴女のお店で雇ってください!」
「雇う?」
私は首を傾げた。
「ええ! 看板娘になります! 私、可愛いから客寄せになるでしょ!?」
「あいにくですが、うちの店は『衛生管理』に厳しいんです。横領菌に感染している人材は、食品衛生法上、雇用できません」
「菌扱い!? ひどい!」
「それに、貴女にはもっと向いている仕事があります」
私はニッコリと笑い、一枚の契約書を取り出した。
「これ、北の鉱山の『独占採掘権』と『販売代理店契約書』です」
「は?」
二人が動きを止める。
「国王陛下から賠償金の一部として譲り受けました。つまり、今日からあの鉱山のオーナーは私です」
「な……なんだって……!?」
「つまり、貴方たちが朝から晩まで泥まみれになって掘り出した魔石は、全て私の商品になるということです。……わかりますか? 貴方たちが働けば働くほど、私が儲かるシステムになったんですよ」
「そ、そんな……」
ジェラルドとマシュマロが絶望の表情を浮かべる。
「嫌だ……俺たちがどれだけ苦労しても、全部ココアの利益になるのか……」
「地獄だわ……死んでも死にきれない……」
「ご名答。死なれては困ります。借金完済まで、きっちり馬車馬のように働いてくださいね。ノルマを達成できなかったら、夕食は『雑草サラダ』になりますから」
「ひぃぃぃっ!」
「出発進行ー!」
私の合図とともに、御者が鞭を振るう。
ガラガラと車輪が回り出し、囚人馬車が北へと進み始めた。
「待ってくれぇぇ! パンの耳でもいいから食わせてくれぇぇ!」
「私の青春を返してぇぇぇ!」
遠ざかる二人の絶叫。
それを見送る群衆からは、「ざまぁみろ!」「二度と帰ってくるな!」という歓声と、惜しみない拍手が送られた。
「……ふぅ。在庫のトマトも完売しましたし、良い朝ですね」
私は空になった木箱に腰掛け、汗を拭った。
隣に立っていたルーカスが、冷やしたタオルを差し出してくれる。
「お疲れ様。……彼らにとって、君のために働くことが一番の罰になるだろうな」
「ええ。精神的な苦痛を与えつつ、労働生産性も確保する。完璧なスキームです」
「君は本当に、無駄なことを一切しないな」
ルーカスは感心したように、北の空を見上げた。
「さて、彼らの初仕事の成果が出るのは一ヶ月後か。……どんな石が掘れるか楽しみだ」
***
一ヶ月後。
『ウィックド・カフェ』の事務室に、北の鉱山から最初の出荷物が届いた。
重たい木箱を開けると、中にはギラギラと不気味な光を放つ魔石がぎっしりと詰まっていた。
「……こ、これはすごい」
鑑定ルーペを覗き込んだルーカスが、息を呑んだ。
「純度が異常に高い。それに、この禍々しいまでの魔力光……通常の魔石とは別物だ」
「ほう?」
私は同封されていた鉱山長からの手紙を読み上げた。
『報告書。囚人番号001(ジェラルド)と002(マシュマロ)ですが、労働態度は最悪です。しかし、彼らが「ココア許すまじ」「絶対に見返してやる」と叫びながらツルハシを振るうと、なぜか採掘される魔石の質が劇的に向上します』
「……なるほど」
私は魔石を一つ手に取った。
冷たく、それでいて火傷しそうなほどの熱を感じる。
「彼らの私に対する『怨念』や『執着』が、魔力として石に宿ったということですね」
「負の感情エネルギーを資源化するとは……。新種のエネルギー革命かもしれない」
ルーカスが真顔で分析する。
「商品名はどうする?」
「そうですね……」
私は魔石の輝きを見つめ、意地悪く口角を上げた。
「『元婚約者の呪い石 ~あいつを見返したい貴方に~』でいきましょう。強力な魔力が必要な魔導士や、研究者たちに高値で売れそうです」
「……そのネーミングセンス、嫌いじゃない」
早速、店頭に並べたところ、『呪い石』は即日完売した。
「この石を使うと、魔法の威力が倍になる!」
「受験勉強の徹夜のお供に最適だ! 怒りがパワーに変わる!」
市場での評価も上々だ。
遠く離れた北の地で、極寒の中、鼻水を垂らしながらツルハシを振るう元王子と元聖女。
「くそー! ココアめー! いつか見てろー!」
「寒いわ! お腹空いたわ! 絶対に出世してやるんだから!」
彼らが叫べば叫ぶほど、私の懐が潤う。
これぞ究極のリサイクル事業。
「ありがとうございます、ジェラルド殿下、マシュマロ様。貴方たちの恨み節、金貨に変えて大切に使わせていただきますわ」
私は北の空に向かって投げキッスを送り、分厚くなった帳簿をパタンと閉じた。
これで、過去の清算は完全に終了した。
物語の「起承転結」で言えば、ここまでが「転」。
ここからは、私とルーカスの、そしてこの国の新たな「結」へと向かうビジネスが始まるのだ。
「さて、オーナー。邪魔者はいなくなりました。……そろそろ『次のステージ』へ行きましょうか?」
私が振り返ると、ルーカスは真剣な眼差しで、一枚の招待状を手に持っていた。
「ああ。……実は、隣国の皇帝陛下から『建国記念パーティー』への招待状が届いている」
「皇帝陛下? また大きな商談の予感ですね」
「それもあるが……招待状の宛名が、『ルーカス・ヴァレンタイン公爵、およびその婚約者』となっているんだ」
「婚約者?」
「ココア。……そろそろ、契約上の妻ではなく、正式なパートナーとして紹介したいのだが」
ルーカスの耳が少し赤い。
私は目を丸くし、そしてふわりと笑った。
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