宝石狂いの悪役令嬢、婚約破棄で鉱山を贈られて溺愛される

ちゃっぴー

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「……お嬢様。その、本当にその格好で行くんですかい?」


ガストンが、馬車の横で頭を抱えていた。


目の前に立つエミリーは、泥こそ落としたものの、自らハサミを入れた「膝丈の乗馬服」に、頑丈な革のブーツ、そして腰にはピッケルをぶら下げている。


公爵令嬢としての気品はどこへやら、完全に「気合の入った採掘師」の風貌だった。


「何を仰るの。宝石の取引は戦いですわ。動きやすさは何よりも優先されるべき項目です」


「いや、せめてその腰の武器は置いていけ。衛兵に捕まるぞ」


「武器ではありませんわ、相棒です。……まあいいでしょう。さあ、出発ですわよ。この町一番の宝石商へ、わたくしたちの至宝を拝ませに行きましょう!」


ガタゴトと揺れる馬車に揺られること数時間。二人は近隣で最も栄えている商業都市、オーカーの街へと到着した。


エミリーが向かったのは、街で最も豪華な店構えの『黄金の天秤商会』。


店内に足を踏み入れると、煌びやかなシャンデリアと、磨かれたショーケースが並んでいた。


「いらっしゃいませ……って、おやおや。当店は作業員の方が来るような場所ではありませんよ?」


カウンターの奥から現れたのは、脂ぎった顔をした恰幅の良い男。この店の店主、バルトロだった。


彼はエミリーの服装を見るなり、露骨に鼻で笑い、追い出そうと手を振る。


「ご安心なさいな。わたくし、買いに来たのではありません。売りに来たのですわ」


「売る? あんたのような小娘が? どうせそこらで拾った水晶の欠片か、色付きのガラス玉でしょう。時間の無駄だ、帰りなさい」


「あら。わたくしの目が、ガラスと本物を見間違えるとお思いかしら?」


エミリーは不敵な笑みを浮かべると、懐から小さな革袋を取り出し、カウンターの上にコト……と置いた。


バルトロは鼻を鳴らしながら、投げやりに袋の中身を机にぶちまける。


その瞬間。


「…………っ!?」


店内の空気が凍りついた。


窓から差し込む午後の光を浴びて、カウンターの上に「太陽の欠片」が現れたのだ。


鮮烈なグリーン。そして、ダイヤモンドを凌駕するほどの虹色の輝きが、バルトロの顔を派手に照らし出す。


「こ、これは……デマントイド……? いや、しかし、このサイズはあり得ん……」


バルトロの目が、一瞬にしてプロの強欲な光に変わった。彼は震える手でルーペを手に取ろうとしたが、エミリーがそれを鋭い手つきで遮った。


「触らないでくださる? その指紋が、この子の完璧な表面(面)を汚すのが我慢なりませんわ」


「……くっ。……ほう、まあ、悪くない石だ。だが、カットが甘いな。それに色が少し濃すぎる。デマントイドにしては二級品だ」


バルトロは冷や汗をかきながら、精一杯の「値叩き」を始めた。宝石商がよく使う、相手が素人だと思って安く買い叩くための常套手段だ。


エミリーはその言葉を聞いた瞬間、クスクスと低く笑い出した。


「……おかしいですわね。あなたの目は節穴かしら? それとも、この店のシャンデリアの光が弱すぎて、脳まで暗くなってしまったのかしら?」


「なんだと!? この私に意見する気か!」


「いいですか、バルトロ様。この石の彩度(サチュレーション)は完璧です。これ以上薄ければ価値が下がり、これ以上濃ければ黒ずんでしまう……その絶妙な境界線を見事に捉えているのが分かりませんか?」


エミリーは一歩踏み出し、バルトロを射抜くような視線を向けた。


「さらにこのカット。わたくし自らが、この子の内部に眠るホーステイル(馬の尻尾)状のインクルージョンが最も美しく見える角度を計算して施したものです。二級品? 笑わせないで。この石は、あなたの店にある在庫を全て売っても買えないほどの国宝級ですわよ」


「な、ななな……何者だ、あんたは!」


「ただの宝石愛好家ですわ。……さて、値踏みは終わりですわね。わたくし、嘘をつく商人は嫌いですの。ガストン様、行きましょう。この街にはもっと誠実な、石の声を聞ける商人がいるはずですわ」


エミリーが石を袋に戻そうとしたその時。


「……待ちなさい、その石。私に見せてもらえないだろうか」


店の奥から、低く、落ち着いた声が響いた。


現れたのは、質の良い漆黒の外套に身を包んだ、銀髪の青年だった。


その立ち振る舞いからは、隠しきれない高貴なオーラが漂っている。


エミリーは彼を一瞥し、その胸元に飾られたタイピンの「真珠」を見た瞬間、目を見開いた。


(……なんて完璧なテリ(光沢)! そしてこの形……奇跡的な真円(ラウンド)ですわ……!)


青年がエミリーの前に立ち、優雅に頭を下げた。


「私はカイル。……君がその石を自ら磨いたというのは、本当かい?」


物語の鍵を握る「宝石公」カイルとの、最悪で最高の出会いだった。
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