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「……はぁ、はぁ、……見てください、ガストン様! この、力強い振動! 鋼鉄の先端が岩盤を穿つ、この官能的な響き(ノイズ)を!」
旧オルド鉱山の入り口には、昨日までとは打って変わって、銀色に輝く巨大な魔導掘削機が鎮座していた。
カイルが約束通り送り込んできた、隣国の最新技術の粋を集めた代物だ。
エミリーはその巨大な機械に抱きつくようにして、頬を真っ赤に染めている。
「お、おいお嬢様。機械にスリスリするのはやめろ。油でその汚ねえ作業着がもっと汚れるぞ」
「何を仰るの! この油の匂い……これこそが、大地の奥底に眠る乙女たちを呼び覚ます聖油ですわ! さあ、回して! もっと激しく回してちょうだい!」
「……近所の奴らが聞いたら、間違いなく別の事態を想像するからその言い方はやめろ」
ガストンが溜息をつきながらレバーを引くと、重低音とともにドリルが回転を始めた。
凄まじい勢いで岩肌が削られ、昨日までエミリーがピッケルで数時間かけていた作業が、ものの数分で完了していく。
「ああ……っ、凄いですわ! 掘削速度が従来の五倍、いえ八倍! これなら、わたくしの愛する石たちが窒息する前に助け出してあげられますわ!」
「石が窒息するかよ。……ん? おい、今、何か光ったぞ」
ドリルの先から、火花とは違う「黄金色」の破片が飛び散った。
エミリーは回転が止まるのも待てずに、その破片を素手でキャッチした。
「熱っ……! ……でも、そんなの関係ありませんわ! 見て、これ……!」
泥と油にまみれたその手の中で、夕陽のような温かいオレンジ色の輝きが放たれていた。
「……インペリアル・トパーズ。しかも、このシェリー酒のような深い色合い……。ガストン様、今日はお祝いですわよ! この山、やっぱり『お宝の宝石箱』でしたわ!」
「……マジかよ。あんた、実は運だけはとてつもないんじゃないか?」
「運ではありませんわ、執念ですの! さあ、どんどん掘りますわよ! カイル様に約束した以上の成果を上げなくては、わたくしの鑑定眼が廃りますわ!」
エミリーの歓喜の叫びが、北の空に響き渡る。
その頃、王都の王宮では――。
「……おい、リリアーヌ。そのネックレス、もう一度よく見せてくれないか?」
第一王子ヴィルフリートは、愛する(はずの)リリアーヌの首元を怪訝そうに見つめていた。
「あら、ヴィル様。急にどうされましたの? やっぱり、わたくしの肌の白さにこのルビーが映えるから、見惚れてしまいましたのね?」
リリアーヌは得意げに微笑むが、ヴィルフリートの顔は引きつっている。
「いや……その、だな。昨日から、その『ルビー』の表面が妙に曇っている気がしてな。……それに、心なしか角が丸くなっていないか?」
「そんなはずありませんわ! これはヴィル様がくださった、世界に一つだけの愛の……あ、あれ?」
リリアーヌが指先でネックレスに触れた瞬間、パキッという乾いた音がした。
見ると、真っ赤に輝いていたはずの石の一部が欠け、中から「無色透明なガラス」が顔を覗かせているではないか。
「な、ななな……なんですのこれ! わたくしのルビーが、脱皮しましたわ!?」
「脱皮!? 宝石が脱皮してたまるか! ……くっ、まさか本当にエミリーの言った通り、ただのガラスに赤い塗料を塗った偽物だったのか……?」
ヴィルフリートの背中に、冷たい汗が流れた。
周囲の家臣たちの視線が痛い。「王子ともあろう方が、偽物を贈ったのか」という無言の蔑みが刺さる。
「ヴィル様! どうにかしてくださいませ! わたくし、こんな恥ずかしいものをつけて社交界には出られませんわ! 今すぐ、あのエミリーが持っていった『星空の涙』を取り返して、わたくしにくださいませ!」
「馬鹿を言うな! あれは正式な慰謝料として渡してしまったんだ、今さら返せなどと……」
「嫌ですわ! わたくしは本物の輝きが欲しいのです! そうだわ、エミリーがいる鉱山は不毛の地なのでしょう? 飢え死に寸前の彼女に、パン一斤でも恵んでやれば、喜んでダイヤを差し出すはずですわ!」
リリアーヌの浅ましい提案に、ヴィルフリートは一瞬だけ、希望の光を見たような気がした。
「……そうか。あそこは何もない岩山だ。エミリーも今頃、泥にまみれて泣きながら私を求めているに違いない。……よし、視察という名目で、あの山へ向かうぞ!」
王子はまだ知らなかった。
かつての婚約者が今、泥にまみれてはいるが、それは絶望のためではなく、狂喜乱舞して地球を掘り返しているためだということを。
そして彼女の隣には、自分よりも遥かに地位も財力も「鑑定眼」も優れた男が、すでに執事のように寄り添っているということを。
旧オルド鉱山の入り口には、昨日までとは打って変わって、銀色に輝く巨大な魔導掘削機が鎮座していた。
カイルが約束通り送り込んできた、隣国の最新技術の粋を集めた代物だ。
エミリーはその巨大な機械に抱きつくようにして、頬を真っ赤に染めている。
「お、おいお嬢様。機械にスリスリするのはやめろ。油でその汚ねえ作業着がもっと汚れるぞ」
「何を仰るの! この油の匂い……これこそが、大地の奥底に眠る乙女たちを呼び覚ます聖油ですわ! さあ、回して! もっと激しく回してちょうだい!」
「……近所の奴らが聞いたら、間違いなく別の事態を想像するからその言い方はやめろ」
ガストンが溜息をつきながらレバーを引くと、重低音とともにドリルが回転を始めた。
凄まじい勢いで岩肌が削られ、昨日までエミリーがピッケルで数時間かけていた作業が、ものの数分で完了していく。
「ああ……っ、凄いですわ! 掘削速度が従来の五倍、いえ八倍! これなら、わたくしの愛する石たちが窒息する前に助け出してあげられますわ!」
「石が窒息するかよ。……ん? おい、今、何か光ったぞ」
ドリルの先から、火花とは違う「黄金色」の破片が飛び散った。
エミリーは回転が止まるのも待てずに、その破片を素手でキャッチした。
「熱っ……! ……でも、そんなの関係ありませんわ! 見て、これ……!」
泥と油にまみれたその手の中で、夕陽のような温かいオレンジ色の輝きが放たれていた。
「……インペリアル・トパーズ。しかも、このシェリー酒のような深い色合い……。ガストン様、今日はお祝いですわよ! この山、やっぱり『お宝の宝石箱』でしたわ!」
「……マジかよ。あんた、実は運だけはとてつもないんじゃないか?」
「運ではありませんわ、執念ですの! さあ、どんどん掘りますわよ! カイル様に約束した以上の成果を上げなくては、わたくしの鑑定眼が廃りますわ!」
エミリーの歓喜の叫びが、北の空に響き渡る。
その頃、王都の王宮では――。
「……おい、リリアーヌ。そのネックレス、もう一度よく見せてくれないか?」
第一王子ヴィルフリートは、愛する(はずの)リリアーヌの首元を怪訝そうに見つめていた。
「あら、ヴィル様。急にどうされましたの? やっぱり、わたくしの肌の白さにこのルビーが映えるから、見惚れてしまいましたのね?」
リリアーヌは得意げに微笑むが、ヴィルフリートの顔は引きつっている。
「いや……その、だな。昨日から、その『ルビー』の表面が妙に曇っている気がしてな。……それに、心なしか角が丸くなっていないか?」
「そんなはずありませんわ! これはヴィル様がくださった、世界に一つだけの愛の……あ、あれ?」
リリアーヌが指先でネックレスに触れた瞬間、パキッという乾いた音がした。
見ると、真っ赤に輝いていたはずの石の一部が欠け、中から「無色透明なガラス」が顔を覗かせているではないか。
「な、ななな……なんですのこれ! わたくしのルビーが、脱皮しましたわ!?」
「脱皮!? 宝石が脱皮してたまるか! ……くっ、まさか本当にエミリーの言った通り、ただのガラスに赤い塗料を塗った偽物だったのか……?」
ヴィルフリートの背中に、冷たい汗が流れた。
周囲の家臣たちの視線が痛い。「王子ともあろう方が、偽物を贈ったのか」という無言の蔑みが刺さる。
「ヴィル様! どうにかしてくださいませ! わたくし、こんな恥ずかしいものをつけて社交界には出られませんわ! 今すぐ、あのエミリーが持っていった『星空の涙』を取り返して、わたくしにくださいませ!」
「馬鹿を言うな! あれは正式な慰謝料として渡してしまったんだ、今さら返せなどと……」
「嫌ですわ! わたくしは本物の輝きが欲しいのです! そうだわ、エミリーがいる鉱山は不毛の地なのでしょう? 飢え死に寸前の彼女に、パン一斤でも恵んでやれば、喜んでダイヤを差し出すはずですわ!」
リリアーヌの浅ましい提案に、ヴィルフリートは一瞬だけ、希望の光を見たような気がした。
「……そうか。あそこは何もない岩山だ。エミリーも今頃、泥にまみれて泣きながら私を求めているに違いない。……よし、視察という名目で、あの山へ向かうぞ!」
王子はまだ知らなかった。
かつての婚約者が今、泥にまみれてはいるが、それは絶望のためではなく、狂喜乱舞して地球を掘り返しているためだということを。
そして彼女の隣には、自分よりも遥かに地位も財力も「鑑定眼」も優れた男が、すでに執事のように寄り添っているということを。
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