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「……何だ、これは。私の聞き間違いか? ここは掘り尽くされた死の山ではなかったのか!?」
旧オルド鉱山の入り口で、第一王子ヴィルフリートは絶叫した。
彼の目の前には、不毛の地という言葉からは程遠い光景が広がっていた。
巨大な魔導掘削機が轟音を立てて岩壁を削り、整えられた搬送路には、活気に満ちた作業員たちが忙しなく行き交っている。
「ヴィル様、あ、あのおぞましい機械は何かしら!? わたくしのドレスに埃が飛んできそうですわ!」
隣でリリアーヌが顔を顰めているが、王子はそれどころではなかった。
あちこちに積み上げられたズリ(採掘カス)の中に、明らかに「ただの石ではないもの」が混ざって輝いているのが、遠目からでも分かったからだ。
「おい! エミリーはどこだ! エミリー・フォン・アステリアを呼べ!」
王子の怒鳴り声に、一人の作業員が指を差した。
「お嬢様なら、あそこの『特等席』でベイビーたちの出産立ち会い中ですよ」
「……出産の立ち会いだと?」
王子が困惑しながら指された方へ向かうと、そこには泥にまみれ、ヘルメットを被り、一心不乱に地面に這いつくばっている令嬢の姿があった。
「ああ……っ、出てきましたわ! なんて官能的な多色性! 見る角度によってグリーンからイエロー、そしてブラウンへと移ろうこの色彩の魔術……。スフェーン、あなたはどうしてこんなに罪作りなの……!」
エミリーは、掘り出したばかりの結晶をルーペで覗き込み、うっとりと身悶えしていた。
「……エミリー。貴様、何をしている」
背後からの冷ややかな声に、エミリーはピクリと肩を揺らした。
しかし、彼女は振り返らない。ルーペを瞳に固定したまま、背中で答える。
「ちょっと、どいてくださいませ。影になって光の分散が見えませんわ」
「貴様……! この私を誰だと思っている! 婚約者だったヴィルフリートだぞ!」
「ヴィル……? ああ、あの加熱処理サファイア王子様ですわね。今、非常に大切な『スフェーンの虹』を観察しているところなんですの。用件は三秒以内で手短にどうぞ」
「三秒だと!? ……いいか、エミリー。貴様の惨めな暮らしを不憫に思って、わざわざ視察に来てやったのだ。今すぐ膝を突き、その『星空の涙』を返上して許しを請うのであれば、王都の隅にある修道院くらいは手配してやっても……」
「……三秒、経過ですわ。ガストン様、この背景(モブ)の方々を外へつまみ出してくださいませ」
エミリーは一度も王子を見ることなく、再びスフェーンの観察に没頭した。
「なっ……も、モブだと!? この私を背景扱いにするのか!」
「当然ですわ。宝石の輝きに比べれば、人間の顔などただの肉の塊に過ぎませんもの。ましてや、偽物のルビーを贈るような方の顔など、わたくしの網膜を汚すだけですわ」
「なんですってぇ!? この泥ネズミのような格好をした女が、よくもそんな口を!」
リリアーヌがヒステリックに叫び、エミリーの肩を掴もうとした。
その時。
「……そこまでにしてもらおうか。私の『ビジネスパートナー』に、汚い手で触れないでいただきたいな」
低く、だが背筋が凍るような威圧感を孕んだ声。
坑道の奥から、磨き上げられた革靴の音を響かせて、カイル・オルブライトが現れた。
「……カ、カイル・オルブライト公爵!? なぜ、隣国の貴様がこんな辺境にいる!」
ヴィルフリートが顔を引きつらせる。カイルは冷笑を浮かべ、エミリーの隣に膝をついた。
「彼女に機材を提供し、独占販売権を契約したのは私だ。ヴィルフリート殿下、ここはすでにアステリア公爵家とオルブライト商会が共同管理する『聖域』。許可なく立ち入ることは、外交問題に発展しかねないが?」
「な……っ……!」
「それから、リリアーヌ嬢。君が欲しがっている『星空の涙』だが、あれは今、エミリー嬢の作業部屋で『漬物石』代わりに使われているよ。彼女にとっては、自分で掘り出した石の方が価値があるらしい」
「つ、漬物石ぃぃ!?」
リリアーヌが絶叫した。王家の秘宝が、まさかそんな扱いを受けているとは。
エミリーはようやくルーペを離すと、カイルにだけ花が咲くような笑顔を向けた。
「カイル様、見てくださいませ! このスフェーン、ファイアの出方がダイヤモンド以上ですわ! これをあなたのコレクションに加えれば、間違いなく国宝級の展示になりますわよ!」
「ああ、素晴らしいね。君が磨いた姿を見るのが楽しみだ」
二人の間には、王子たちが入り込む隙など微塵もなかった。
「……っ、エミリー! 後悔しても知らんぞ! こんな泥だらけの山で、一生石ころと踊っているがいい!」
ヴィルフリートは捨て台詞を残し、逃げるようにその場を去っていった。
それを見送ることもせず、エミリーは再びピッケルを手に取った。
「ガストン様、次の脈を叩きますわよ! わたくしの直感が、この下に『情熱的な赤い子』が眠っていると告げていますの!」
「へいへい、お嬢様。……王子様、本当に顔も見てもらえなかったな」
ガストンが苦笑いしながら、ドリルのスイッチを入れる。
エミリーにとって、元婚約者の再来は、掘り出した石に付いた「ちょっと頑固な泥」を落とす程度の出来事でしかなかったのである。
旧オルド鉱山の入り口で、第一王子ヴィルフリートは絶叫した。
彼の目の前には、不毛の地という言葉からは程遠い光景が広がっていた。
巨大な魔導掘削機が轟音を立てて岩壁を削り、整えられた搬送路には、活気に満ちた作業員たちが忙しなく行き交っている。
「ヴィル様、あ、あのおぞましい機械は何かしら!? わたくしのドレスに埃が飛んできそうですわ!」
隣でリリアーヌが顔を顰めているが、王子はそれどころではなかった。
あちこちに積み上げられたズリ(採掘カス)の中に、明らかに「ただの石ではないもの」が混ざって輝いているのが、遠目からでも分かったからだ。
「おい! エミリーはどこだ! エミリー・フォン・アステリアを呼べ!」
王子の怒鳴り声に、一人の作業員が指を差した。
「お嬢様なら、あそこの『特等席』でベイビーたちの出産立ち会い中ですよ」
「……出産の立ち会いだと?」
王子が困惑しながら指された方へ向かうと、そこには泥にまみれ、ヘルメットを被り、一心不乱に地面に這いつくばっている令嬢の姿があった。
「ああ……っ、出てきましたわ! なんて官能的な多色性! 見る角度によってグリーンからイエロー、そしてブラウンへと移ろうこの色彩の魔術……。スフェーン、あなたはどうしてこんなに罪作りなの……!」
エミリーは、掘り出したばかりの結晶をルーペで覗き込み、うっとりと身悶えしていた。
「……エミリー。貴様、何をしている」
背後からの冷ややかな声に、エミリーはピクリと肩を揺らした。
しかし、彼女は振り返らない。ルーペを瞳に固定したまま、背中で答える。
「ちょっと、どいてくださいませ。影になって光の分散が見えませんわ」
「貴様……! この私を誰だと思っている! 婚約者だったヴィルフリートだぞ!」
「ヴィル……? ああ、あの加熱処理サファイア王子様ですわね。今、非常に大切な『スフェーンの虹』を観察しているところなんですの。用件は三秒以内で手短にどうぞ」
「三秒だと!? ……いいか、エミリー。貴様の惨めな暮らしを不憫に思って、わざわざ視察に来てやったのだ。今すぐ膝を突き、その『星空の涙』を返上して許しを請うのであれば、王都の隅にある修道院くらいは手配してやっても……」
「……三秒、経過ですわ。ガストン様、この背景(モブ)の方々を外へつまみ出してくださいませ」
エミリーは一度も王子を見ることなく、再びスフェーンの観察に没頭した。
「なっ……も、モブだと!? この私を背景扱いにするのか!」
「当然ですわ。宝石の輝きに比べれば、人間の顔などただの肉の塊に過ぎませんもの。ましてや、偽物のルビーを贈るような方の顔など、わたくしの網膜を汚すだけですわ」
「なんですってぇ!? この泥ネズミのような格好をした女が、よくもそんな口を!」
リリアーヌがヒステリックに叫び、エミリーの肩を掴もうとした。
その時。
「……そこまでにしてもらおうか。私の『ビジネスパートナー』に、汚い手で触れないでいただきたいな」
低く、だが背筋が凍るような威圧感を孕んだ声。
坑道の奥から、磨き上げられた革靴の音を響かせて、カイル・オルブライトが現れた。
「……カ、カイル・オルブライト公爵!? なぜ、隣国の貴様がこんな辺境にいる!」
ヴィルフリートが顔を引きつらせる。カイルは冷笑を浮かべ、エミリーの隣に膝をついた。
「彼女に機材を提供し、独占販売権を契約したのは私だ。ヴィルフリート殿下、ここはすでにアステリア公爵家とオルブライト商会が共同管理する『聖域』。許可なく立ち入ることは、外交問題に発展しかねないが?」
「な……っ……!」
「それから、リリアーヌ嬢。君が欲しがっている『星空の涙』だが、あれは今、エミリー嬢の作業部屋で『漬物石』代わりに使われているよ。彼女にとっては、自分で掘り出した石の方が価値があるらしい」
「つ、漬物石ぃぃ!?」
リリアーヌが絶叫した。王家の秘宝が、まさかそんな扱いを受けているとは。
エミリーはようやくルーペを離すと、カイルにだけ花が咲くような笑顔を向けた。
「カイル様、見てくださいませ! このスフェーン、ファイアの出方がダイヤモンド以上ですわ! これをあなたのコレクションに加えれば、間違いなく国宝級の展示になりますわよ!」
「ああ、素晴らしいね。君が磨いた姿を見るのが楽しみだ」
二人の間には、王子たちが入り込む隙など微塵もなかった。
「……っ、エミリー! 後悔しても知らんぞ! こんな泥だらけの山で、一生石ころと踊っているがいい!」
ヴィルフリートは捨て台詞を残し、逃げるようにその場を去っていった。
それを見送ることもせず、エミリーは再びピッケルを手に取った。
「ガストン様、次の脈を叩きますわよ! わたくしの直感が、この下に『情熱的な赤い子』が眠っていると告げていますの!」
「へいへい、お嬢様。……王子様、本当に顔も見てもらえなかったな」
ガストンが苦笑いしながら、ドリルのスイッチを入れる。
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