宝石狂いの悪役令嬢、婚約破棄で鉱山を贈られて溺愛される

ちゃっぴー

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「……嫌ですわ。絶対に嫌ですわ、カイル様! こんな重くてひらひらした布の塊、わたくしの採掘活動の邪魔になるだけですわよ!」


王都にあるオルブライト公爵邸の一室。エミリーの拒絶が、豪華な壁紙を震わせていた。


彼女の目の前には、カイルが用意させた最高級のドレスが数着、並べられている。


「エミリー嬢、落ち着いてくれ。今日は私の主催するオークションパーティーだ。君は私のパートナーとして、そして伝説のルビーの『発見者』として出席するんだよ?」


「発見者としての誇りなら、このピッケルが証明しておりますわ! ドレスを着たところで、石の屈折率が変わるわけでもありませんのに!」


エミリーは、泥だらけの作業着(今や彼女の正装だ)を抱きしめて、ドレスから距離を取った。


カイルは溜息をつき、一着の深い紅色のドレスを指差した。


「いいかい、エミリー。このドレスの生地は、君が見つけたあのルビーの輝きを引き立てるために特注したシルクなんだ。……君がこれを着ることで、ルビーは完成する。石のために、一肌脱いでくれないか?」


「……石のために? ルビーが、わたくしを必要としていると?」


エミリーの瞳が、宝石というワードに反応してピクリと動く。


「そうだ。あのルビーは今、完璧な台座を求めている。……君以上の台座が、この世にあると思うかい?」


「……っ! カイル様、それを早く仰って。……分かりましたわ。最高級のルビーをより完璧に見せるためですもの、わたくしという台座、美しく磨き上げさせて差し上げますわ!」


「(……やっぱり石が絡まないと動かないんだな、この子は)」


カイルは苦笑しながら、侍女たちに合図を送った。


数時間後――。


王都の社交場『クリスタル・パレス』は、異常な熱気に包まれていた。


「聞いたか? あの『宝石狂い』のエミリーが、隣国の公爵と帰ってきたらしいぞ」


「どうせ泥まみれの格好で現れて、恥を晒すに決まっているわ。ヴィル様も、リリアーヌ様という真実の愛を選ばれて正解だったわね」


会場の隅では、第一王子ヴィルフリートとリリアーヌが、周囲の顔色を伺いながら立っていた。


ヴィルフリートの表情は暗い。エミリーに渡した『星空の涙』の慰謝料問題が王室内で問題視され、さらにはリリアーヌに贈った偽物ルビーの噂が広まり、王室の威信はガタ落ちだった。


「ヴィル様、そんなに顔を顰めないで。……あんな女、カイル公爵に利用されているだけですわ。今日、わたくしが本物の気品を見せつけて差し上げますわ」


リリアーヌが精一杯の虚勢を張った、その時。


会場の扉が、ゆっくりと開かれた。


「……っ!?」


一瞬で、全ての会話が止まった。


そこに現れたのは、深紅のドレスを纏った、この世のものとは思えないほど美しい令嬢だった。


彼女の胸元には、カンテラの光を吸い込んで自ら燃えているかのように輝く、巨大なルビーが鎮座している。


その令嬢――エミリーは、以前の刺々しい雰囲気はどこへやら、神秘的なまでの静謐さを漂わせて……。


「(……ああ、このホールのシャンデリア、光源が多すぎてルビーの内部反射が干渉し合っていますわ。もう少し右へ歩けば、一三五度の角度で最高の煌めきが放たれるはずですわね。一、二、三……)」


……脳内では、相変わらず一ミリ単位の光学的計算を繰り広げていた。


「カ、カイル公爵……。それに、エミリー……なのか!?」


ヴィルフリートが、吸い寄せられるように歩み寄る。


かつての婚約者は、自分の隣にいた頃よりも、何万倍も輝いて見えた。


「……お久しぶりですわね、ヴィルフリート殿下。相変わらず、その首元のタイピンは『合成スピネル』ですのね。遠目からでもそのチープな分散光が分かりますわ」


「ぐっ……! き、貴様、そんなことはどうでもいい! その胸元の石はなんだ! そしてなぜ、カイル公爵の隣にいる!」


「この子は、わたくしが旧オルド鉱山で掘り出し、自ら磨き上げた『魂』ですわ。カイル様は、この子の価値を正当に評価してくださる最高のパトロンですの」


エミリーは、カイルの腕にそっと手を添えた。


「パトロン……だと? エミリー、私は……私は、お前がそこまで美しい石を見つけ出す才能があるとは知らなかったんだ。どうだ、今からでも……」


「ヴィル様!? 何を仰るんですの!」


リリアーヌが割り込もうとするが、カイルが冷たい視線で彼女を射抜いた。


「殿下、遅すぎたようですね。エミリー嬢は今、私の商会の『最高顧問』であり、私の人生において欠かせない宝石そのものだ。……偽物を掴むような御仁に、彼女を語る資格はない」


カイルはエミリーを引き寄せ、会場の視線を独占するように微笑んだ。


「さあ、エミリー。君の磨いた奇跡を、世界に披露しよう」


「ええ。皆様、心してご覧なさいな。これが『真実の輝き』ですわ!」


エミリーがルビーを光に掲げた瞬間、会場全体が真っ赤な閃光に包まれた。


それは、エミリーを捨てた王室への、最も残酷で美しい復讐の始まりだった。
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