宝石狂いの悪役令嬢、婚約破棄で鉱山を贈られて溺愛される

ちゃっぴー

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「……皆様、静粛に! いよいよ本日、歴史が動く瞬間がやってまいりました!」


オークション会場『クリスタル・パレス』の熱気は、最高潮に達していた。


壇上のオークショニアが、震える手で赤い布を取り払う。


そこに現れたのは、エミリーが磨き上げた伝説のルビー『深紅の太陽』。


照明の光を浴びたその石は、まるで会場中の酸素を吸い込んで燃えているかのような、暴力的なまでの輝きを放っていた。


「……っ、ああ、なんてこと。このホールの照明係を呼んでくださる? 光の当て方が三度ズレていますわ。これではルビーの奥底に眠る『深紅の火花』が、百分の一も表現できていませんわ!」


観客席の最前列で、エミリーは扇子を握りしめて憤慨していた。


周囲の貴族たちが溜息を吐き、涙を流してその美しさに酔いしれている中で、彼女だけが「光学的欠陥」に怒っていたのである。


「落ち着いて、エミリー。君がそんなに怖い顔をしていたら、ルビーの価値が下がってしまうよ」


カイルが苦笑しながら、彼女の肩を優しく叩いた。


「カイル様、わたくしは真剣ですわ! 宝石にとって光は命。その命を粗末にするなんて、万死に値しますわよ!」


「はは、分かったよ。後で照明係に特別講義をしてやってくれ。……さあ、始まったぞ」


オークショニアが木槌(ガベル)を叩いた。


「伝説のルビー『深紅の太陽』、開始価格は金貨五百枚から!」


「金貨六百枚!」
「七百枚だ!」
「八百枚!」


会場のあちこちから、怒号のような入札の声が上がる。


金貨一〇〇枚で家が建つと言われるこの世界で、その数字はすでに異常な領域に突入していた。


「……一千枚! 金貨一千枚だ!」


その声を上げたのは、顔を真っ赤にした第一王子、ヴィルフリートだった。


隣に座るリリアーヌが、必死に彼の腕にしがみついている。


「ヴィル様! 素敵ですわ! あのルビーさえあれば、わたくしを馬鹿にした連中を見返せますわ!」


「ああ、分かっている。エミリー、見ていろ……。お前が掘り出したその石を、結局は私が買い取るのだ。それが王家の、そして私の威光というものだ!」


ヴィルフリートは勝ち誇ったようにエミリーを睨みつけた。


しかし、エミリーはルーペを片手に、舞台上の石を凝視したまま動かない。


「……一千枚? ふふ、おかしいですわね。あのルビーの価値を、そんな端金(はしたがね)で測ろうなんて」


「何だと!? 一千枚が端金だと!? 貴様、金銭感覚まで狂ったか!」


「狂っているのは、そのお財布の中身ではなく、あなたの鑑定眼ですわ。……カイル様、そろそろ『本物』の重さを教えてあげてくださる?」


カイルは優雅に足を組み替え、指を一本立てた。


「――金貨三千枚」


会場が、一瞬で墓場のような静寂に包まれた。


「さ、三千枚……!? 隣国の公爵、正気か!」


「我がオルブライト商会は、美しいものには対価を惜しまない。……それとも、ヴィルフリート殿下。王家の予算は、三千枚以下で底を突くのですか?」


カイルの挑発的な微笑みに、ヴィルフリートは理性を失った。


「……四千枚! 金貨四千枚だ! 王家の蔵を空にしてでも、その石を落札してみせる!」


「ヴィル様! 凄いですわ、四千枚だなんて!」


リリアーヌは狂喜乱舞しているが、周囲の家臣たちは真っ青な顔で王子を止めようとしていた。


「で、殿下! 四千枚など、今の国庫には……! これ以上の入札は国家の破綻を招きます!」


「うるさい! エミリーの前で、私が負けるわけにはいかないんだ!」


狂気に取り憑かれた王子の叫び。


オークショニアが、震える声で確認する。


「き、金貨四千枚……! 他に入札はございませんか!?」


カイルはエミリーに視線を送った。


エミリーは、ふっと妖艶な笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。


「……おめでとうございます、ヴィルフリート殿下。その石は、あなたのものですわ」


「ははは! 見たか! 最後には、私が勝ったのだ!」


「ええ。ですが、一つだけ忠告させていただきますわ。そのルビー、維持費だけで年間金貨百枚はかかりますのよ? 温度管理、湿度管理、そして何より、あの石の機嫌を損ねないための特殊なオイル……。四千枚を支払った後のスカスカな国庫で、果たして守りきれるかしら?」


エミリーの言葉に、ヴィルフリートの顔がみるみるうちに土気色に変わっていく。


「い、維持費……? 石にそんなものがかかるのか?」


「当然ですわ。宝石は生きているのですもの。……ああ、それから。わたくしが慰謝料としていただいた『星空の涙』ですが、先ほどカイル様の商会に金貨五千枚で売却いたしましたわ」


「ご、五千枚……!?」


「ええ。それを元手に、わたくしはさらに新しい鉱山を買い取りますの。あなたはたった一つの石のために国を傾け、わたくしは一つの石を売って帝国を築く。……どちらが『賢いコレクター』か、これではっきりいたしましたわね」


エミリーは優雅にカーテシーを披露すると、唖然とする王子を置き去りにして、カイルの差し出した手を取った。


「行きましょう、カイル様。四千枚もの大金を、あんな『石の墓場』に捨ててしまう方の側にいると、わたくしの金銭感覚まで鈍ってしまいますわ」


「ああ、そうだね。エミリー。次は君の望む、エメラルドの海を見に行こうか」


会場中に、エミリーの高笑いと、王子の絶望的な叫びがこだました。
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