宝石狂いの悪役令嬢、婚約破棄で鉱山を贈られて溺愛される

ちゃっぴー

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「……皆様、刮目なさいな! 本日の主役はわたくしでもカイル様でもなく、この高貴なる『緑の女王』ですわ!」


王都の中央広場に特設された大舞台。建国記念祭のハイライトである宝飾品コンテストの会場は、空前絶後の熱気に包まれていた。


並み居る貴族たちが自慢の家宝を持ち寄る中、最後に登場したエミリーは、漆黒のベルベットの上に鎮座する『呼吸するエメラルド』を掲げた。


「……っ!? な、なんだあの輝きは……! エメラルドにあんな『火花(ファイア)』が出るはずがない!」


観客席からどよめきが上がる。それもそのはず、エミリーが磨き上げたその石は、従来の「落ち着いた緑」という常識を覆し、内側から激しい翠色の光を噴出させていた。


「ふふ、驚くのも無理はありませんわ。この子は入江の潮騒と陽光を吸い込んで育った、文字通りの『生きた宝石』。わたくしがその多色性を極限まで引き出すために、裏面のファセットを〇・一ミリ単位で調整いたしましたの!」


エミリーの解説は止まらない。もはやドレス姿の令嬢ではなく、熱弁を振るう狂気の科学者のようである。


そこへ、青白い顔をしたヴィルフリートが、リリアーヌを伴って現れた。


「……待て、エミリー! 王家の威信をかけたこの『深紅の太陽』こそが、真の優勝者にふさわしい!」


彼が差し出したのは、かつてオークションで四千枚もの金貨を投じて落札したルビーだった。


しかし、その石を見た瞬間、エミリーは悲鳴を上げた。


「――ああっ! なんてこと! わたくしの可愛いルビーちゃんが、なんて無惨な姿に……っ!」


「な、何だと!? 無惨だと!?」


「見てくださいませ、この表面の油膜! 温度管理を怠ったせいで、石が熱を持って内部にストレスがかかっていますわ! これでは深紅の輝きが『怒りの赤』に変色してしまっているではありませんか!」


エミリーは舞台を飛び降りる勢いでヴィルフリートに詰め寄り、ルーペを突きつけた。


「あなた、この子に安物の植物油を塗りましたわね!? この子の繊細な肌には、極北の地に咲く青い花の雫から精製したオイル以外は毒だと教えたはずですわ!」


「そ、そんな高価なオイル、もう買えるわけがないだろう! この石を維持するために、王宮の食費を削っているんだぞ!」


「石の健康よりも食欲を優先するなんて、コレクター失格ですわ! 今すぐその石をわたくしに返しなさい! このままでは、あと三日で輝きが死んでしまいますわよ!」


エミリーの迫力に、ヴィルフリートは思わず後ずさった。隣にいたリリアーヌも、エミリーから放たれる「宝石愛(狂気)」に圧倒されて声も出ない。


そこへ、カイルが優雅に歩み寄り、エミリーの肩に手を置いた。


「落ち着いて、エミリー。……殿下、残念ですが審判は下りました。民衆の瞳を見てください。どちらが真に『国を照らす光』か、もはや語るまでもないでしょう」


カイルが指差す先では、何千人もの市民がエメラルドの放つ幻想的な緑の光に、うっとりと見惚れていた。


「……あ、ああ……。私の、私の四千枚が……」


ヴィルフリートはその場に膝をついた。ルビーは確かに高価だが、今のそれは「維持に苦しむ王家の象徴」でしかなく、対するエミリーのエメラルドは「未来を切り拓く希望の光」として輝いていた。


「優勝は、エミリー・フォン・アステリア嬢とカイル・オルブライト公爵! そして――呼吸するエメラルドだ!」


司会者の宣言とともに、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。


エミリーは歓声など耳に入らない様子で、再びエメラルドに頬ずりをしていた。


「ああ、ベイビー。聞こえますか? みんながあなたの美しさにひれ伏していますわ。……カイル様、わたくし、決めましたわ」


「……何をだい? また別の山を買い取るのかい?」


「いいえ。この輝きを、世界中の人々に届けるための『移動式鑑定・研磨工房』を作るのです! 宝石に泣かされる石愛好家を一人でも減らすために、わたくし、ピッケルを持って国境を越えますわ!」


「はは……。どうやら私の婚約者は、一箇所に留まってくれる宝石ではないらしいね」


カイルは困ったように笑いながらも、その瞳にはエミリーへの尽きることのない愛着が宿っていた。


「よろしい。ならばその工房、私の商会の総力を挙げてプロデュースしよう。世界で一番美しく、そして一番騒がしい宝石の旅の始まりだ」


「話が早くて助かりますわ、カイル様! さあ、まずはあそこの王子の手に握られた『瀕死のルビー』の救出作戦からスタートですわよ!」


エミリーは勝ち誇った笑みを浮かべ、再びピッケル(ドレスの影に隠していた)を力強く握りしめた。


こうして、悪役令嬢による「宝石救済」という名の、新たな伝説が幕を開けたのである。
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