宝石狂いの悪役令嬢、婚約破棄で鉱山を贈られて溺愛される

ちゃっぴー

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「……見てくださいませ、カイル様! この、鋼鉄の鱗を纏った勇壮な姿を! これこそわたくしが夢にまで見た、地上の宝石救急車ですわ!」


オルブライト公爵邸の広場に、一台の巨大な馬車――というよりは、もはや「走る城」のような乗り物が鎮座していた。


カイルが私財と技術を惜しみなく投じて完成させた、世界初の移動式宝石工房。


外装には魔導防護壁が施され、内部にはエミリーこだわりの超高精度研磨機と、宝石の『健康状態』をチェックするための魔導分析器が完備されている。


「喜んでもらえて何よりだ。……だがエミリー、屋根の上に巨大なルーペのオブジェを飾る必要はあったのかい?」


カイルが、太陽光を反射してキラキラと輝く屋根の装飾を見上げて苦笑する。


「何を仰るの! 看板は分かりやすさが命ですわ! 悩める宝石(ベイビー)たちに、『ここに救世主がいますわよ』と知らせてあげなくては!」


エミリーは真新しい作業着の襟を正し、力強くピッケルを天に掲げた。


「さあ、出発ですわ! 最初の目的地は、王都から南へ三日。低品質な石しか出ないと嘆いている『石ころの町・グラベル』ですわよ!」


「……あの町かい? あそこは確かに石材の産地だが、宝石と呼べるものは百年出ていないはずだよ」


「ふふふ。宝石は待つものではなく、見つけるものですわ。わたくしの鼻が、あそこから『泣いている原石』の匂いを嗅ぎつけましたの!」


馬車が轟音を立てて走り出す。御者台には、すっかりエミリーの世話役に定着したガストンが、諦めたような顔で手綱を握っていた。


数日後。一行はグラベルの町に到着した。


町の人々は、屋根に巨大なルーペを載せた怪しい馬車を見て、一様に首を傾げていた。


「……おい、なんだあの馬車は。宝石診療所? 石の医者だってのか?」


「馬鹿馬鹿しい。うちはただの石切り場の町だぜ。宝石なんて高級なもんは、ネズミの額ほども落ちてねえよ」


そんな町人の声を無視して、エミリーは馬車の側面をガバッと開き、特設のカウンターを設置した。


「皆様、お聞きなさいな! わたくしはエミリー・フォン・アステリア! あなた方の家で、漬物石にされている石! ドアストッパーにされている石! あるいは、ただの石ころだと思って投げ捨てようとしている石! それら全てを、わたくしが無償で鑑定して差し上げますわ!」


エミリーの演説に、暇を持て余した老人や子供たちが、半信半疑で身の回りの石を持ち寄り始めた。


「へっ、これを見てくれよ。うちの庭に転がってた変な模様の石だ。どうせただの泥岩だろう?」


一人の男が、煤けた茶色の石を差し出した。


エミリーはそれを手にとった瞬間、瞳をカッと見開いた。


「……っ! あなた、なんて恐ろしいことを! この子の悲鳴が聞こえませんの!?」


「ひ、悲鳴ぇ!?」


「この表面の酸化した層の下を見てごらんなさい! ガストン様、高圧魔導洗浄機を最大出力で!」


「へいへい、お嬢様」


ガストンが機械を作動させ、石に激しい水流を叩きつける。表面の泥と酸化皮膜が剥がれ落ちたその時。


「……なっ、なんだありゃあ!?」


町中から悲鳴のような驚嘆が上がった。


泥を被っていた石の中から、まるで南国の海を閉じ込めたような、鮮やかな『遊色効果(プレイ・オブ・カラー)』が溢れ出したのだ。


「ブラック……オパール。それも、この赤とオレンジが混ざり合う『カレイドスコープ(万華鏡)』のパターン……。国宝級とは言いませんが、家が三軒は建つレベルの逸品ですわよ!」


エミリーはルーペを構えたまま、男に詰め寄った。


「あなた! この子を庭の隅で雨晒しにするなんて、宝石虐待ですわ! 今すぐわたくしが特製の保湿オイルでマッサージして、最高の枠を設えて差し上げますから、反省なさい!」


「い、家が三軒……!? これ、本当に俺の庭にあった石かよ!?」


男はその場にへたり込んだ。それを皮切りに、町中の人々が「俺の家の石も見てくれ!」「この壁の石はどうだ!?」と、雪崩を打って押し寄せてきた。


「落ち着いてください、皆様! 宝石は逃げませんわ! 順に並んで! さあ、次のベイビー、いらっしゃいませ!」


エミリーは狂乱の渦の中で、水を得た魚のようにルーペを振り回し始めた。


そんな彼女の背中を、カイルは壁に背を預けて見守っていた。


「……エミリー。君は本当に、人ではなく石を救うことで英雄になっていくんだね」


カイルが独り言のように呟くと、エミリーが忙しなく手を動かしながら振り返った。


「何か仰いました、カイル様!? 今、あちらの老婆が持っている『古びたボタン』が、伝説のコンクパールである可能性を計算するのに忙しいんですの!」


「……いや、何でもない。……君が楽しそうなら、それで十分だよ」


カイルは優しく微笑んだが、その視線の先では、町の人々が「宝石様だ!」「石の女神様だ!」とエミリーを崇め始めていた。


不毛の町と言われたグラベルは、一夜にして『奇跡の宝石郷』へと変貌しようとしていた。


エミリーの暴走する宝石愛は、ついに国家規模の経済をも動かし始めていたのである。
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