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「……ちょっと、そこの小太りなネクタイさん。今、その少年に提示した金額、もう一度おっしゃってくださる?」
宝石バブルに沸くグラベルの町。その一角で、エミリーの冷ややかな声が響いた。
少年の手には、泥を落としたばかりの小さな「原石」が握られている。そしてその前には、いかにも羽振りの良さそうな、しかし眼光の鋭い商人が立っていた。
「おや、お嬢さん。商売の邪魔をしないでいただきたい。この石はただの『色付き水晶』だ。銀貨三枚でも破格の買い取りなんだよ」
「銀貨三枚? ふふ、ふふふ……。カイル様、聞きました? この方の耳は、おそらくモース硬度一以下の粘土でできているようですわ」
エミリーは少年の横に跪くと、その石を指先で弾いた。
「坊や、その石を売ってはいけませんわ。それは水晶ではなく、極めて希少な『ベニトアイト』。このサイズでこの透明度なら、金貨五十枚は下りませんわよ」
「き、金貨五十枚ぃ!?」
少年と商人の叫びが重なった。商人は顔を真っ赤にしてエミリーを指差す。
「貴様、適当なことを言うな! こんな田舎にそんな高価な石があるはずが……」
「黙りなさいな、この不純物(インクルージョン)まみれの守銭奴! わたくしの鑑定眼を疑うのは、太陽の輝きを疑うのと同じことですわ! カイル様、この方の商売道具、全て没収して鑑定して差し上げて!」
「ああ、いいよ。……衛兵、この男の帳簿と在庫を全て調べろ。偽物を掴ませている形跡があれば、即座に市場から追放だ」
カイルの冷徹な一言で、強欲商人は腰を抜かして引きずられていった。
「……ふぅ。宝石を愛さない者に、宝石を扱う資格はありませんわ。……さて、次はどの子かしら?」
エミリーが再びルーペを構えたその時、町の入り口から派手なファンファーレが鳴り響いた。
現れたのは、王家の紋章が入った豪華な馬車。そこから、金縁の眼鏡をかけた神経質そうな役人が降りてくる。
「エミリー・フォン・アステリア嬢! 国王陛下よりの親書を預かって参った! 至急、王都へ帰還し、王立宝石研究所の所長に就任せよとのことだ!」
町の人々がざわめく。王都への復帰、それも研究所のトップという異例の出世だ。
しかし、エミリーは役人の顔すら見ず、彼の胸元に輝く「勲章」を凝視していた。
「……お断りしますわ」
「な、何だと!? 陛下からの直々の命令なのだぞ!」
「それよりあなた、その勲章に使われている金メッキ、剥がれかかっていますわよ。ベースの金属は真鍮(しんちゅう)かしら? ……そんな安物を平気で身につけている方の下で働くなんて、わたくしの網膜に対する冒涜ですわ」
「め、メッキだと!? これは由緒正しき……」
「由緒など石の結晶構造には関係ありませんわ! いいですか、わたくしは今、この町で眠っている『ダイヤの卵』たちを孵(かえ)すのに忙しいのです。王都なんて、あのサファイア王子(偽物)と一緒に、埃でも被っていればよろしいのに」
エミリーは鼻で笑うと、役人を「背景の石ころ」として処理し、次の鑑定希望者の元へ向かった。
「カイル様、王都の方は相変わらず退屈な話ばかり持ってきますわね。それより、あちらの少女が持っている『漬物石』……。わたくしの直感が、あれは巨大なアクアマリンだと告げていますわ!」
「はは……。陛下も形無しだね。分かったよ、エミリー。君がその石を磨き終わるまで、王都からの使者は私が全て追い返しておこう」
カイルは、役人が差し出した親書をゴミ箱に捨てるような手つきで受け取ると、愛おしそうにエミリーの背中を追った。
王都の権力すら、エミリーにとっては「屈折率の低い不純物」でしかなかったのである。
宝石バブルに沸くグラベルの町。その一角で、エミリーの冷ややかな声が響いた。
少年の手には、泥を落としたばかりの小さな「原石」が握られている。そしてその前には、いかにも羽振りの良さそうな、しかし眼光の鋭い商人が立っていた。
「おや、お嬢さん。商売の邪魔をしないでいただきたい。この石はただの『色付き水晶』だ。銀貨三枚でも破格の買い取りなんだよ」
「銀貨三枚? ふふ、ふふふ……。カイル様、聞きました? この方の耳は、おそらくモース硬度一以下の粘土でできているようですわ」
エミリーは少年の横に跪くと、その石を指先で弾いた。
「坊や、その石を売ってはいけませんわ。それは水晶ではなく、極めて希少な『ベニトアイト』。このサイズでこの透明度なら、金貨五十枚は下りませんわよ」
「き、金貨五十枚ぃ!?」
少年と商人の叫びが重なった。商人は顔を真っ赤にしてエミリーを指差す。
「貴様、適当なことを言うな! こんな田舎にそんな高価な石があるはずが……」
「黙りなさいな、この不純物(インクルージョン)まみれの守銭奴! わたくしの鑑定眼を疑うのは、太陽の輝きを疑うのと同じことですわ! カイル様、この方の商売道具、全て没収して鑑定して差し上げて!」
「ああ、いいよ。……衛兵、この男の帳簿と在庫を全て調べろ。偽物を掴ませている形跡があれば、即座に市場から追放だ」
カイルの冷徹な一言で、強欲商人は腰を抜かして引きずられていった。
「……ふぅ。宝石を愛さない者に、宝石を扱う資格はありませんわ。……さて、次はどの子かしら?」
エミリーが再びルーペを構えたその時、町の入り口から派手なファンファーレが鳴り響いた。
現れたのは、王家の紋章が入った豪華な馬車。そこから、金縁の眼鏡をかけた神経質そうな役人が降りてくる。
「エミリー・フォン・アステリア嬢! 国王陛下よりの親書を預かって参った! 至急、王都へ帰還し、王立宝石研究所の所長に就任せよとのことだ!」
町の人々がざわめく。王都への復帰、それも研究所のトップという異例の出世だ。
しかし、エミリーは役人の顔すら見ず、彼の胸元に輝く「勲章」を凝視していた。
「……お断りしますわ」
「な、何だと!? 陛下からの直々の命令なのだぞ!」
「それよりあなた、その勲章に使われている金メッキ、剥がれかかっていますわよ。ベースの金属は真鍮(しんちゅう)かしら? ……そんな安物を平気で身につけている方の下で働くなんて、わたくしの網膜に対する冒涜ですわ」
「め、メッキだと!? これは由緒正しき……」
「由緒など石の結晶構造には関係ありませんわ! いいですか、わたくしは今、この町で眠っている『ダイヤの卵』たちを孵(かえ)すのに忙しいのです。王都なんて、あのサファイア王子(偽物)と一緒に、埃でも被っていればよろしいのに」
エミリーは鼻で笑うと、役人を「背景の石ころ」として処理し、次の鑑定希望者の元へ向かった。
「カイル様、王都の方は相変わらず退屈な話ばかり持ってきますわね。それより、あちらの少女が持っている『漬物石』……。わたくしの直感が、あれは巨大なアクアマリンだと告げていますわ!」
「はは……。陛下も形無しだね。分かったよ、エミリー。君がその石を磨き終わるまで、王都からの使者は私が全て追い返しておこう」
カイルは、役人が差し出した親書をゴミ箱に捨てるような手つきで受け取ると、愛おしそうにエミリーの背中を追った。
王都の権力すら、エミリーにとっては「屈折率の低い不純物」でしかなかったのである。
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