宝石狂いの悪役令嬢、婚約破棄で鉱山を贈られて溺愛される

ちゃっぴー

文字の大きさ
21 / 25

21

しおりを挟む
「……あ、あつい。あつすぎますわ、カイル様。これはもはや、地球がわたくしたちをオーブンで焼こうとしているのではないかしら?」


隣国の火山地帯、ヴォルカニス。地面からは硫黄の煙が立ち上り、空気は肺を焼くほどに熱い。


エミリーは額の汗を拭いながらも、その瞳には一点の曇りもなかった。むしろ、溶岩のように真っ赤な情熱が渦巻いている。


「……ふふ、ですが見てくださいませ。この熱、この圧力! ここなら、わたくしの愛する『ファイアオパール』たちが、今も地底で情熱的なダンスを踊っているに違いありませんわ!」


「……エミリー、君の元気には恐れ入るよ。私はもう、自分の肌がウェルダンに焼き上がる未来しか見えないのだが」


カイルは上等なハンカチを台無しにしながら、エミリーの背中を追っていた。


二人が巨大な溶岩石の影を通り抜けた、その時だった。


「……ひぃっ、ひぃっ……っ。だ、誰か、誰か助けてくれ……」


岩の隙間から、掠れた、それでいて聞き覚えのある情けない声が響いた。


エミリーが足を止め、ルーペを構えてその方向を覗き込む。


「あら? 石の精霊の嘆きかしら? ……いいえ、この屈折率の低い声の響き、どこかで……」


岩陰にうずくまっていたのは、泥と煤にまみれ、ボロボロの服を纏った一人の男だった。かつての煌びやかな面影は微塵もなく、その手には折れ曲がったスプーンが握られている。


「……ヴィル様? いえ、サファイア(二級品)王子様ではありませんこと?」


「……っ、え、エミリー!? あ、ああ……助けてくれ! 私は、私はリリアーヌにそそのかされて、この山に眠る『伝説の火竜の眼』を探しに来たんだが……っ」


ヴィルフリートはエミリーの足元に縋り付いた。


話を聞けば、王都での借金から逃れるため、リリアーヌに「一発逆転の宝石」を探そうと持ちかけられ、挙句の果てに彼女には路銀を持ち逃げされたのだという。


「……まあ、なんて見事な『不純物』の入り方。リリアーヌ様も、最後には自分の身を飾るための石(路銀)を選んだということですわね」


「頼む、エミリー! お前ならこの山にある宝石の場所が分かるだろう!? 一つ、一つでいいんだ。それを私にくれれば、私はまた王子として……」


ヴィルフリートが必死に差し出したのは、彼が「伝説の宝石」だと信じて掘り出した、赤黒い石の塊だった。


エミリーは一瞥し、溜息を吐いた。


「……ヴィル様。あなた、本当に進歩がありませんわね。これ、ただの『黒曜石』ですわよ。しかも、内部にひび割れだらけの三級品。宝石のフリをした、ただのガラスの親戚ですわ」


「な……っ、そんなはずはない! これは火山の熱を宿した、伝説の……!」


「伝説なのはあなたの勘違いの深さだけですわ。……カイル様、見てください。この方の目、宝石を見すぎて、もはやただの『濁った水晶』になっていますわ」


カイルは冷ややかにヴィルフリートを見下ろし、エミリーの肩を抱いた。


「……殿下。いや、もはや貴族の籍すら怪しいようだが。エミリーが磨くのは、可能性のある原石だけだ。君のような、芯まで腐り落ちた石(いし)に興味はない」


「そ、そんな……! エミリー、待ってくれ! 私はお前を愛していたんだ! あの婚約破棄は間違いだったんだ!」


エミリーは立ち止まり、ゆっくりと振り返った。その顔には、かつてないほどの満面の笑みが浮かんでいた。


「愛? ……ふふ、ヴィル様。わたくし、愛という言葉の意味を、最近やっと知ったところですの」


エミリーは、隣に立つカイルを見上げた。


「愛とは……お互いの屈折率を認め合い、共に最高のカット(人生)を目指すことですわ。あなたのように、自分を飾るための『台座』としてわたくしを求めていた方の言葉など、石炭よりも価値がありませんわ!」


「せ、石炭だと……!?」


「ええ。石炭はいつかダイヤモンドになる可能性を秘めていますが、あなたはただの煤として風に舞うのがお似合いですわ。……さあ、カイル様! 煤に構っている暇はありませんわ。あそこの火口付近に、最高に『ホット』な子がわたくしを呼んでいますの!」


「……ああ、行こう。ガストン、彼には非常食のパンを一斤置いていってやれ。……宝石を掘る前に、自分の空腹を埋める知恵を学ぶんだな」


ヴィルフリートの絶望的な叫びを背に、エミリーは軽やかな足取りで溶岩の道を登っていく。


彼女の瞳に映っているのは、もはや過去の遺物などではない。


これから出会う、まだ見ぬ輝きと、それを共に分かち合う最愛の「鑑定士」の姿だけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵家の養女

透明
恋愛
リーナ・フォン・ヴァンディリア 彼女はヴァンディリア公爵家の養女である。 見目麗しいその姿を見て、人々は〝公爵家に咲く一輪の白薔薇〟と評した。 彼女は良くも悪くも常に社交界の中心にいた。 そんな彼女ももう時期、結婚をする。 数多の名家の若い男が彼女に思いを寄せている中、選ばれたのはとある伯爵家の息子だった。 美しき公爵家の白薔薇も、いよいよ人の者になる。 国中ではその話題で持ちきり、彼女に思いを寄せていた男たちは皆、胸を痛める中「リーナ・フォン・ヴァンディリア公女が、盗賊に襲われ逝去された」と伝令が響き渡る。 リーナの死は、貴族たちの関係を大いに揺るがし、一日にして国中を混乱と悲しみに包み込んだ。 そんな事も知らず何故か森で殺された彼女は、自身の寝室のベッドの上で目を覚ましたのだった。 愛に憎悪、帝国の闇 回帰した直後のリーナは、それらが自身の運命に絡んでくると言うことは、この時はまだ、夢にも思っていなかったのだった―― ※月曜にから毎週、月、水曜日の朝8:10、金曜日の夜22:00投稿です。 小説家になろう様でも掲載しております。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

逃げた先で見つけた幸せはずっと一緒に。

しゃーりん
恋愛
侯爵家の跡継ぎにも関わらず幼いころから虐げられてきたローレンス。 父の望む相手と結婚したものの妻は義弟の恋人で、妻に子供ができればローレンスは用済みになると知り、家出をする。 旅先で出会ったメロディーナ。嫁ぎ先に向かっているという彼女と一晩を過ごした。 陰からメロディーナを見守ろうと、彼女の嫁ぎ先の近くに住むことにする。 やがて夫を亡くした彼女が嫁ぎ先から追い出された。近くに住んでいたことを気持ち悪く思われることを恐れて記憶喪失と偽って彼女と結婚する。 平民として幸せに暮らしていたが貴族の知り合いに見つかり、妻だった義弟の恋人が子供を産んでいたと知る。 その子供は誰の子か。ローレンスの子でなければ乗っ取りなのではないかと言われたが、ローレンスは乗っ取りを承知で家出したため戻る気はない。 しかし、乗っ取りが暴かれて侯爵家に戻るように言われるお話です。

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

婚約破棄を申し込むも、殿下の説得がガチすぎて詰む?

ちゅんりー
恋愛
公爵令嬢リペは、厳しい王妃教育と窮屈な未来から逃れるため、ある画期的な計画を思いつく。それは、世にも恐ろしい「悪役令嬢」になりきって、完璧な第一王子カイルに婚約破棄を叩きつけること! さっそくリペは、高笑いと共に「不敬な態度」「無駄遣い」「嫌がらせ」といった悪行の数々を繰り出すが……。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

処理中です...